日本の消費者は、「モノの価格は下がるもの」と思っていた方が多かったので、値上げをする環境にありませんでした。でも、米国や欧州では数年に1度,価格改定することが普通のようです。米国などでは、原材料価格が上がると比較的日本と比べて価格転嫁がしやすい環境あります。そんな日本でも、値上がりが当たり前のように続いています。一方、値上げをしないで頑張る企業もあるようです。このがんばる企業に、サイゼリヤがあります。今回の物価高の局面では、国内の小売りや外食の多くが値上げに動きました。すかいらーくHDや日本マクドナルドHDなど競合大手が、値上げを急いだ経過がありました。消費者には、ファストフードの安さを求める層とファミレスの昧や接客を求める層があります。サイゼリヤは、客単価が約820円とファミレスの価格帯から外れてファストフードに近づいています。この企業は、価格転嫁は粉チーズの無料提供中止など一部にとどめ、国内メニューの価格を原則維持したのです。サイゼリヤが我慢して逆張り戦略を続けたことで、新たなビジネス機会が生まれました。この機会は、ファミレスとファストフード利用層をつかむことができたことです。同業他社の外食チェーンに比べると低価格を維持しており、客数増につながっているのです。工場で仕込み作業をすることで、店の生産性が上がっているとのことです。好調な事業を背景に、約95億円を投じて岐阜県神戸町にサラダやピザなどを製造する新工場を建設することになりました。
サイゼリヤの純利益が、過去最高となったけん引役は中国になります。稼ぎ頑として、存在感を高めているのが中国というわけです。中国では、一部の地域で日本のバブル崩壊後のような状況がみられています。中国では、倹約志向が強まり、低価格メニューが人気になっています。サイゼリヤは、バブル後の景気悪化のなか低価格を売りに日本で急成長した経緯があります。この成功体験を、中国でも再現しているようです。地域別売上高では、上海や北哀などの都市部で売り上げが2~3割伸びています。広州の店では「ミラノ風ドリア」は、18元(約380円) と低価格を維持しています。18元と地場をはじめとする同業他社の外食チェーンに比べると、低価格を維持しているのです。広州サイゼリヤ食品が、約3000万ドル(40億円強) を投じて広州に新工場を建設に着手しています。この工場では、ソースやパスタ、ピザなどを製造することになります。広州新工場を通じて、商品を安定供給しながら原価も下げる考えのようです。
海外の売り上げで、好調を維持している企業にキッコーマンがあります。キッコーマンの成功のシナリオは、海外の事情に精通していることにあるようです。この企業は、国内しょうゆ市場の3割、米国で6割のシェアを持っています。キッコーマンは、現地の材料で作り、それぞれの国で事業をしています。日本の国内企業が苦労している為替の影響が、基本的ないことが一つの強みになります。しょうゆには、安定的に増えていくという特徴があります。しょうゆなどの日用品は、景気全体の影響をあまり受けません。日用品からみると、米国景気は全体として堅調のようです。もっとも米国では、レストランの価格は相当上がっています。そのために、最近では外食から自宅で調理する「内食」へという傾向が若干でています。消費者は、余裕のある人となるべく安いものを求める人とで二極化しています。納得感ある高付加価値の商品であれば、消費者は買う傾向があるようです。
海外では、堅調なキッコーマンも国内では苦労したようです。しょうゆの原材料は、大豆になります。国内は大豆と小麦を北米から、エネルギーを中東から輸入するために、為替の影響がボディブローのように効いてきます。大豆や石油も上がりに加えて、円安もありました。この環境では、価格転嫁しないと事業継続ができないレベルになっていたのです。企業努力で吸収できるところは吸収し、できないところは価格の転嫁で、苦境を乗り切ることが基本的な考え方です。でも、容器代や輸送費も上がり、キッコーマンは2022年に14年ぶりとなる値上げに踏み切ったわけです。しょうゆ市場は、不況期でも販売が落ちにくいことが特徴になります。2023年ごろから、実質賃金がやっと上がってきて、全体としては明るい方向になってきているようです。蛇足ですが、キッコーマンは、原料をドル建てで輸入するために、円安局面では輸入コストが高まります。そのようなリスクを軽減するために、原材料を世界各地で調達して製造し販売する仕組みを作りました。いわゆる、事業体制のグローバル化を推進したわけです。キッコーマンは、しょうゆを国内から海外に輸出しません。しょうゆは、液体でかさばり、輸送コスト高いという理由です。現地で大豆などの原料を調達し、工場を作ってそこで日本の麹を使ってしょうゆを作れば良いわけです。地産地消は、最も優れた為替リスク対策になります。さらにグローバル化の手法は、磨きがかけられていきます。キッコーマンは、米国で肉の照り焼きを普及させるなど、現地の食文化にしょうゆを浸透させていきます。現地に根ざし、現地のニーズをくみ取ることも効果的です。キッコーマンは、世界で需要を掘り起こし、海外の利益をこの10年で4倍弱にしています。
近年、小売り・外食の多くが、消費者への価格転嫁を経営課題と捉えて値上げに動いたことをお話ししました。その中で、サイゼリヤは強みの低価格戦略を貫いて逆に磨きをかけたわけです。その結果、2024年8月期の売上高は23%増の2245億円、営業利益も2倍148億円と好調です。サイゼリヤは、中国を中心とするアジアで快走しています。この企業も、輸入食材が多く、足元で続く円安は逆風になっていました。この逆風を、工場で仕込み作業や絶えず行っている調達は見直し、そして加工を自ら手掛けてコストの圧縮で乗り切っています。サイゼリヤは、国内外食チェーンで伸びが際立っています。その好調さを受けて、国内における出店攻勢を強めています。国内では、今期に前期比2倍となる30店舗を出店する計画です。好調の中国を中心とする海外では、前期比6割増となる136店を開業予定になっています。国内の現状、約1000店強を、まず10年で1500店舗まで引き上げる強気の計画を練っています。
余談ですが、全人口の18%を占める中国のZ世代は消費行動の特徴は、節約志向が鮮明になりつつあります。中国へ上海の高齢者向け格安食堂では最近、20代前後の若者が利用客の3分の1を占めるまでになっています。よく訪れるという24歳の女性来店客は、「一日の食費を、100元(約2100円)以下に抑えられて助かる」と話しています。次は、旅行のケースです。あるホームシェアリング運営会社では、Z世代利用者による「寺院」の検索数が急増しています。この寺院のサービスを歓迎するのは、高い環境意識や強い自己肯定感のある若い世代になります。高価なホテル利用する代わりに、寺院滞在が低予算の選択肢として人気が高まっているのです。早朝の膜想(めいそう)体験も含めて、宿泊料は1泊わずか80元になります。春節期間中には、Z世代利用者による「寺院」の検索数が、過去の同シーズンに比べ24倍に急増したのです。SNS上では品質やコストパフォーマンス重視を意味する「反抗消費」といった言葉が流行しています。このように、外国製ならば良いとか、自国産が良いとかの選択ではなく、自分の立ち位置から判断する若者が増えているということになります。このような節約志向の中で、「ミラノ風ドリア」が18元(約380円) という低価格が評価されているわけです。
サイゼリヤを見るまでもなく、内需産業の外食が、成長のために海外シフトを急ぐ状況が生まれています。ある調査によると、2024年度以降に海外出店を拡大する意向を示す外食企業が44.3%になっています。今後、海外出店を「積極化する」と答えた企業は44.3%と前回調査から16.7ポイ上昇しているのです。業態別に見ると、ファストフードでは、61.5%が海外出店を増やす考えを示しています。今後出店を予定する地域では、米国が48.7%と最も多く、ベトナムが35.9%で続いいます。ベトナムは、今後も経済成長が続くと期待されています。成長が期待される国で暮らす人々と低成長になった国の人々は、消費行動に変化が生まれます。明日への不安があると節約しますが、賃金が上がるという期待が流れていれば、消費行動は大胆になります。これは、あるしょうゆ関係のお話しになります。低調な社会状況では、業務用のしょうゆはコクがあり、熟成感のある濃厚なものが求められています。人手不足で、2時間かけて昧をつくっていたものを今は30分で仕上げたいといったニーズから濃厚なものが求められているのです。チェーンの居酒屋は、焼き肉など他の業態に変えたところもあります。濃厚な味を、短時間で調理できる工夫が求められたようです。2次会、3次会に行く機会も減りました。一方、所得上昇の期待の高い地域では、薄味、調理の質を上げること、そして健康志向の料理が求められます。国内の地域の状況や他国の状況に適応できるフードビジネスが求められているようです。