小学生や中学生が減少する中で、不登校の子ども達が増加するという現象が起きています。2023年度に不登校だった小中学生が、前年度と比較して16%増の34万6482人になりました。この数字は、過去最多を更新不登校の増加は11年連続で、30万人を超えるのは初めてのことになります。小学生の不登校は、13万370人で、前年度比24%増になりました。中学生は、21万6112人で前年度比11%増になったのです。2023年度は、コロナ禍前の2019年度が18万1272人でしたので、約2倍の増加になりました。不登校の小中学生の数は、過去5年で約2倍に膨らんだことになります。不登校は、病気や経済的理由などを除き、年間30日以上登校していない状態と定義されています。厳しい状況は、年間の欠席日数が90日以上の児童生徒が不登校全体の55%を占める19万392人だったことにも現れています。不登校の増加は11年連続で、不登校の低年齢化と長期化が進んでいます。今回は、不登校の子ども達の学力の支援という視点から考えてみました。
不登校の子ども達には、支援がなかったわけではありません。彼らに休養の必要性を認め、不登校の支援を進める教育機会確保法が2017年に施行されました。不登校の子ども達を、無理に通学させる必要はないとする支援策でした。でも、現状は学校に無理して来なくてよいといいながら、学びの継続は自己責任になっていました。経済的に不利なひとり親の子どもが、不登校になるケースも多くあります。他にも、いろいろな事情で登校が難しい子ども達も増えてきました。学校や教育委員会、そして自治体も手をこまねいていたわけではありません。学校の空き教室などを居場所として利用する「校内教育支援センター」」の設置を促進したところもあります。自治体の中には、民間のフリースクールを財政的に支援する形で、子どもの学びの場を用意するところも出てきています。学校内外で安心して過ごせる場所のほかに、学校以外でも学べる選択肢を用意する動きもあります。心理的ケアの強化や学校,内外の「居場所」つくりにも取り掛かっている所もあります。不登校は、学校の内外に多様な居場所がないと今後も増加傾向が続くと考えられています。さらに進んで、良質な学びを保障するうえで、デジタル技術の活用も考えられています。
今の日本では、少子化が加速しー人ひとりの能力向上が喫緊の課題になっています。不登校の増加が続くなかでも、子どもの学ぶ権利を保障し、将来の日本を支える人材を養成することが求められています。学校教育には、この課題が重くのしかかっています。学校は、理解度に応じた宿題や補習を提供することで授業が分からず取り残される子どもをなくすことも行っています。教え方を工夫し、理解度に応じた宿題や補習を提供することで授業の理解を支援しているわけです。これらの支援は、普通の小中学校では行われていることになっています。現在の学校で行われている各教科や科目の授業には、到達目標があります。目標を達成するために、授業があります。授業には、子ども達が授業を理解し、学習進度の目標に到達しているかどうかを調べる評価の過程があります。一般的に、授業が理解できたかどうかを調べるには、3段階の評価過程があります。最初は、診断的評価のテストで、単元前の学力を調べることになります。次に、授業や宿題などの学習活動の後で、子ども達一人一人の習得の度合を形成評価する段階になります。この授業における形成評価は、遅れている子どもには補習的指導を繰り返すような支援することになります。最後が、総括評価が子ども達の学習進度や学力を把握するテストになります。診断、形成、総括の流れが把握できれば、学習目標との関連で、子ども達の学力形成が逐一把握されるわけです。残念なことですが、この当たり前のことが十分でないことに、不登校の1つの原因があるようです。
世界の流れとして、子どもの学習履歴を用いて、生徒個々人に最適化された学びを提供するための実践が始まりつつあります。デンマークでは、国の統計省が、国内の公立学校についての授業を公開しています。この国は、どの先生にどの授業を何時に受けたかがわかるパネルデータを公開し始めたのです。どのクラスでどの先生にどの授業を何時に受けたかがすべてわかる仕組みです。この中から、子ども達の最適化された授業を探る試みを行っているようです。もちろん、日本でも、生徒個々人に最適化された学びを提供するための準備が始まっています。鹿児島市は、タブレット端末を使って生徒ごとの学習データをクラウドに集めて分析することを行います。小中学校に配布したタブレット端末から、学習データを集めるわけです。たとえば、授業での演習や宿題で間違った問題を把握します。間違った問題を把握し、子どもやクラス全体で理解度を把握し、学習の改善に導くという仕組みです。子どもが自宅での学習に割いている教科の時間を把握し、これをもとに興味や関心がある分野も把握することになります。子どもの学習状況を、タブレットというツールを使って把握する試みが行われつつあるわけです。タブレットの使い方を工夫すれば、いつでも、どこでも学校の授業が受けられるという環境が可能になります。これができれば、学ぶ意欲のある不登校の子どもには、福音になるかもしれません。
学ぶ権利を保障するためには、不安や悩みに対応できる体制を整えることも大切です。不登校になった子どもの3割が、「学校生活に対してやる気が出ない」と述べているようです。他にも、「不安・抑うつ」や「生活リズムの不調」などに関する悩みを2割の子ども達が述べています。これらに対しては、心理や福祉、そして医療の専門機関などと連携し、チームで解決する体制づくりが求められます。文科省はスクールカウンセーやスクールソーシャルーワーカーを増員する方針を立てています。一部では、早期の発見とその対処に成果を上げている面もあります。でも、まだまだ誰もが安心して過ごせる学校づくりは道半ばのようです。専門家の人員不足が、大きく横たわっています。問題があれば、それを解決する方策を工夫することになります。画像認識、音声認識、翻訳など、認識型タスクの性能が急速に向上しています。技術には進むべき方向が決まれば、その後は急速に進歩するという面があります。たとえば、エイベックスでは日本マイクロソフトと協力して、ライブなどで観客の満足度を数値化する試みを行っています。カメラで顔を撮って、AIがその表情や向き、体の動きなどからその人の集中度を評価する仕組みです。ライブでの瞬間の観客の様子から満足度を自動で数値化できれば、良いデータが得られます。この満足度を自動で数値化するソフトは、塾や語学学校などで導入することが検討されています。学習に対する集中度を把握し、子どもの学習成就度を把握することができるというわけです。満足度を自動で数値化の技術を使うと、うつ状態や自殺願望を持っていることが検出可能という報告もあります。もし、子どもの表情で、学習の満足度や不登校の兆候がわかれば、解決に向かって新しい局面が生まれるかもしれません。
日本では、タブレットがデジタル教科書のツールとして配布されています。でも、このツールには別の利用方法もあることが分かってきました。こどもに配布したこのツールを活用して、心身の変調を把握するなどの不登校対策を行う教育委員会も出てきました。ある教育委員会は、子どもに日々の気分や睡眠時間の情報を端末に入力するよう指示しています。この教育委員会は、子どもに日々の気分や睡眠時間の情報をデータ化しています。気分や睡眠時間に異変があれば、教員やスクールカウンセラーが相談に乗る仕組みになります。画像・音声・言語などのビッグデータを活用する技術は、社会へ急速に浸透しています。センサーを配置し、そのデータを分析することで、工場設備の様子も自動的に把握できるシステムができています。教育の分野でも、この流れを利用して、学習意欲の把握や心身の変調をデータ化し、教員や保護者がいつでも見ることができるようになれば、少しは不登校を減らすことができるかもしれません。
最後になりますが、リーズナブルにいじめや不登校を軽減する仕組みのお話しになります。クラスの朝の挨拶をタブレットに向かって行うとこにします。その子どもの顔と声を、データとして収集します。顔や声から、集中度や満足度、風邪などの体調把握を行うことは可能になっています。もし、このような体調把握ができれば、元気な子には元気な子のやり方で、不安や不満がある子には、それを軽減する仕方で接することが可能になります。日本の小学生と中学生は、1000万人弱になります。この1000万人の子ども達の顔と声が、データとして収集します。この顔や声を機械学習モデルに入力し、学習させることになります。1000万人の子ども達に配られたタブレットは、データ収集に役立ちます。このデータを適切な学習データに加工できれば、AIが日本中の子ども達の心身の状態を「見える化」してくれる可能性がでてきます。「見える化」ができれば、61万件のいじめと34万人の不登校の軽減につながる仕組みを見つけることができるかもしれません。