政治をゆがめる既得権を穏やかになくしていく知恵  アイデア広場 その1631

 日本は敗戦後、平和憲法のもとで勤労にいそしんできました。その結果として、GDPで世界3位の国に成長しました。この成長をさせた政党が、自民党になります。この政党を岸信介氏が、1955年に結成しています。岸氏は、戦前から戦中にかけて国家主導の経済体制の構築を主導した方になります。自民党政権下の日本社会は、戦前の国家指導体制と戦後の自由民主主義体制がうまく融合させた政権運営をしてきました。自民党を結成して以来、多少の曲折はあったか、自民党政権が日本をリードしてきたと言えます。基本的に自由な市場経済を政策理念とする自民党政権が、日本の経済社会をリードしてきたわけです。このうまい融合の結果、世界に類の見ない70年間にわたる長期安定体制を享受してきました。でも、ここに来て、自民党に異変が起きています。今回は、その異変の理由を探ってみました。

 日本は敗戦後、平和憲法のもとで勤労にいそしんできました。世界で、労働や就労を義務として憲法に書きこんでいる国はめずらしくありません。でも、先進国の憲法で、「勤労」を国民の義務として掲げている国は、日本と韓国くらいになります。日本の国民は、勤労と倹約によってつくりあげた貯蓄を、政府をつうじて道路や鉄道の建設資金に投資しました。道路や鉄道の建設資金が成長と税収を生み、所得減税や公共事業のための財源を用意されたのです。この財源を効果的に使用して、世界が驚くような高度成長を実現しました。その流れを受けて、所得減税と公共事業をつうじて、都市と農村のバランスのとれた利益分配も実現していきました。所得減税や公共事業で豊かな者とそうでない者のあいだでは、適度な利益分配が実現されました。その蜜月は、バブル崩壊とともに消滅していきます。その後、短期間ではありますが、政権の交代がありました。でも、以前のような利益配分が、上手くいかなくなっています。

 このところの国政選挙(衆議院選挙と参議院選挙)では、自民党はじめ既成政党が票を伸ばせず、新興政党が躍進しました。新興政党の躍進の背景には、3つの要因がありました。1つは、30年間、賃金の上昇がなかった勤労世代の声を吸い上げたことです。2つは、バブル崩壊後ほぼ10年にわたって職探しに苦しんだ、就職氷河期世代の声を吸いあげたことです。3つは、SNSに親しむ若者世代の声を吸いあげたことでした。なぜこれらの人々が、声をあげたのでしょうか。70年にわたる長期安定政権のもとで、利益を得る集団や個人とそうで、人々が生まれています。3つのグループは、この利益を得ることのできないことに気が付いたのです。これらのグループは、既得権を持つグループを保護する政党に反発し始めたともいえます。長期にわたる自民党政権下で、安住の保証を得ていた既得権層への反発が起きているのです。繁栄する国は、国家の力と個人の自由を保障する社会の力が調和しています。戦後の初期や中期は、この調和が働いていました。でも、ここに来て、調和が崩れてきているようです。選挙の結果が、それを示しているようです。

 今回の衆議院選挙で、既得権のない国民が理解したことがあります。長期間、自民党が政権を担っている間に、税の仕組みが複雑になり、分かりにくい制度になっていたことでした。この点の改善に気が付いたことが、今回の選挙の成果と言っても良いかもしれません。たとえば、奥さんの年収が103万円を超えると、納税者である夫などの配偶者控除がなくなり、一気に税負担が増える仕組みになっていました。いわゆる年収が増えたのに、世帯の手取りが減るという「壁」があったのです。1987年に、この壁である「配偶者特別控除」という制度が導入されました。さらに、「106万円の壁」というものも続いて話題になりました。これは、1985年に基礎年金の改正で導入されたものです。基礎年金の改正は、本格的な高齢社会の到来に備え、公的年金制度を長期にわたり健全で安定的に運営していくためのものです。具体的には、「106万円の壁」とは、パートやアルバイトなどの従業員が、週20時間以上勤務している場合に生じる壁になります。この壁は、年収が106万円を超えると、厚生年金保険や健康保険に加入する必要があることを指します。このため、パートの方が社会保険料を負担する必要が出てきて、手取りが減ってしまうという壁になります。このようなことを、一般の国民の方は余り考えずにパートやバイトをしていました。もしくは、このような制度があるから、奥さんは103万円以上の働きをしないという流れができたともいえます。このことが、人手不足に陥っている日本の労働市場において、働きたくとも働くことができない人がいるという理不尽さを生み出しています。

 日本には、戦後の高度成長を支える独特の仕組みがありました。それは、夫が会社で一生懸命働き多くの収入を得る一方で、奥さんは家を守り、子育てを立派に行い、老後の祖父母を介護する仕事を受け持つ仕事分担でした。日本企業は正規社員の夫に精一杯働いてもらうために、家のことは奥さんに丸投げする仕組みを推し進めていきました。このような夫が働き、妻が家を守る仕組みは、1985年の国民年金法改正の前には、日本の家庭では当たり前の状況だったのです。この仕組みで、日本の高度成長が実現していました。このような成功を見て、政府は奥さんの年金を、任意加入の国民年金から、強制加入で無償支給の国民年金へと切り替えました。それが、「106万円の壁」ということになります。正社員の夫に扶養されている奥さんが、一定以上の給与を得ると扶養から外れる制度になったわけです。一定以上の給与を得ると、扶養から外れるわけです。それは、奥さんが年金などの保険料を負担する義務を負うことを意味するわけです。無償の国民年金という特権が、貴重な奥さんという女性労働者の就業抑制を生む要因となっているわけです。無償の国民年金の不公平な制度が、人手不足の常態化する現在では非効率な制度になってしまいました。以前は良い制度だったが、現在は貴重な労働力の損失をもたらし、男女の経済力格差をもたらす悪い制度になってしまったともいえます。

 余談になりますが、世界の企業では、女性の能力を生かそうする流れがでてきています。グーグルは、社員に無償で炊事や洗濯代行のサービスをオフィスで提供しました。グーグルは、最大の価値を発揮する資源は、優秀な社員だと見極めています。優秀な社員の時間は、無駄にしてはいけないという哲学があるようです。日本は長らく、男性優位の職場環境を形成してきました。でも、最近は女性の購買力も急速に向上してきています。女性のことは、女性がよく分かります。女性の提案から男性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造、そして販売という流れが多いようです。これを、女性の提案から女性上司を経て、女性の求める製品の開発・製造・販売という流れを構築した方が合理的です。日本の企業にも、女性の能力を評価する企業も現れ始めました。積水ハウスが2023年、「幸せ度」調査を、慶応義塾大学大学の前野隆司教授の監修で実施されました。この調査が、これからの日本企業に一つのヒント与えています。この「幸せ度」調査では、女性管理職のスコアが、男性の管理職、男性のー般社員、そして一般の女性社員を上回っていたのです。女性管理職が、職場で最も「幸せ度」が高いという結果になりました。もちろん、幸せの中には、仕事の成就度の高さも含まれているようです。女性が高い能力を発揮する場が、管理職のレベルで発揮されるケースも増えているのです。戦後70年にわたり、男子の持つ既得権が、女性の既得権を凌駕していきました。これは、世界のジェンダーギャップの調査を見れば明らかです。世代における既得権、男女の既得権など戦後の初期においては良いとされてきたものが、現在は世界的基準から見ると時代にそぐわないものになってきました。時代に適合した制度を、日本の優れた政党が構築してほしいものです。

 最後になりますが、世界は冷戦後の経済のグローバル化と技術革新産業構造が急速に変化しました。そのような中で、ポピュリズム政党が急速に台頭してきています。これらの政党の主張に、エリート攻撃があります。ポピュリズム政党は、国家を運営してきたエリートへの反乱という側面が強く表れています。たとえば、トランプ大統領のMAGA (米国を再び偉大な国に) 運動を強力に支えている人々がいます。産業構造が急速に変化し、取り残された人々がトランプ大統領を支えています。政府機関の職員を大量に解雇する政策に、彼は喝さいを送ります。エリートを言われた役人が、解雇されつつあります。これを似た状況は、ヨーロッパの国々でも起きています。移民問題も抱える欧米では、ポピュリズム政党が急速に台頭してきているのです。欧米ほどではありませんが、日本でもポピュリズムの方向性が出てきているようです。そのポピュリズム方向は、手取りの増加、ジェンダーギャップ、社会保障、政治献金や団体献金、ガソリン暫定税率、復興税など不都合な事例に向かうことになるようです。そこには、既得権を享受する側と理不尽さに目覚めた既得権廃止派の衝突が出てきます。穏やかな、解決を望みたいものです。

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