少し前、米国政府がフードデザート地区へのスーパー誘致の支援に取り組んできたことが話題になりました。このフードデザートは、英国政府が名付けたものです。都心部の一部地域で、食料品店が廃業している現象をいいます。この地域の住民は栄養状態が悪化し、健康を損ねるリスクを抱えるようになります。この地区はファストフード店での食事も多くなり、肥満が問題になっていました。アフリカ系黒人層やシングルマザーなどは、都心部のファストフード店での食事が多くなりがちです。大都会には、手ごろな食品店がないためです。近年、糖尿病や肥満症に悩む国は、多いようです。こんな米国で、面白い現象が起きています。日本より大きいサイズが好まれる米国ですが、食べ残す消費者も増えているというのです。この顧客の食べ残す背景にあるのが、減量薬の普及になるようです。その薬は、「GLP-1受容体作動薬」になります。GLP-1受容体作動薬は、もともと糖尿病や肥満症の治療薬として開発されました。ところが、食欲を減らす効果があることから、ダイエットに使う人が増えている状況が生まれているのです。この薬の米国の成人に占める使用率は、2024年の13%から2034年には21%に増加すると予想されています。スナック菓子の売上高が最大3%減少し、市場規模は120億ドル縮小する可能性までささやかされています。
米国や欧州では、ウゴービなどの肥満症薬の利用が富裕層の中で広がっているようです。ウゴービは、「GLP-1受容体作動薬」というタイプの薬になります。米国のワシントンDCに住む59歳の女性は、肥満症薬の効果に喜びの声をあげています。この女性は、毎週0.5キログラムのべースで減量でき、約16キログラムも痩せたのです。もう以前のように甘いお菓子を食べたいとは思わないと話しています。また、マサチューセッツ州に住む40代女性は、肥満症治療薬の効果を述べています。ノボノルディスクの「ウゴービ」を、2月中旬から飲んでいる女性になります。医師の処方を受け注射薬を使い始めると食欲が減退し、速いペースで20kg近く痩せたのです。「昔着ていた服が着られるようになってうれしい」と喜びをあらわにしています。テスラのイーロン・マスク氏も、ウゴービを使っていることを当時のツイッターで明かしています。研究によると、利用者の3割は体重が20%減ったとのことです。
肥満に悩む方には、夢のような薬ではありますが、難点もあります。このGLP-1にも副作用はあり、吐き気や嘔吐、下痢などに加え、低血糖や急性すい炎が起こりうることも指摘されています。今問題になっていることは、肥満症の治療だけでなくダイエット目的で入手する人もいることです。この肥満症薬を、美容など治療目的外での使用が後を絶たない困った状況が生まれています。日本肥満学会は、ウゴービを美容やダイエットなどの目的で用いる薬剤ではないと強調しています。この薬を使用して、減量に成功したとしても問題が残るのです。減量後の体重を維持するためには、長期的に薬を服用し続ける必要があることも分かってきました。高価な薬剤ですから、長期の服用には多額のお金が必要になります。さらに、使用には運動や食事療法の継続を前提とした上での投与など適切な方法が求められるようです。最大の問題は、リバウンドになります。服用を中止すると、体重が再び増加するリバウンドにつながる可能性が指摘されています。ノボノルディスクの広報担当者は、ウゴービのリバウンドの影響を認めています。面白いことに、この担当者は、肥満症については高血圧や高コレステロールと同様に、長期服用の必要性を強調したのです。年間、148万円の薬を長期服用すれば、リバウンドが少なくなると言うわけです。GLP-1の使用は、長く投薬を続ければ費用も高額になります。
食べなくなった消費者に、喜んで食べてもらう工夫をするお店や企業が現れるのは自然な流れになります。米国にある高級イタリア料理店では、4つ入りのミートボールを3口食べただけで満足しまう顧客が増えたことに気づきました。シェフは、顧客が小食になったのではないかと考えるようになりました。そこで、その店の看板メニューである4つ入りミーボールを、1つだけでも頼めるようにしたのです。ミーボールは4つ入りの27ドル(約4100円)になります。それに対して、1つだと10ドルという具合です。すると、ミートボールを1つ食べると同時に、別の野菜系の料理を頼むお客が増えたそうです。もちろん、売り上げは増え、利益も増えたようです。また、米国のレストランでは、小食の人向けのメニューを導入する動きが広がっているようです。大手外食チェーンにも、スモールサイズメニューを拡充する動きが出てきています。イタリアンチェーン「オリープ・ガーデン」は、「軽めの食事」を低価格で提供するようになりました。6~8月期に、7つの主菜を小さくした「軽めの食事」にしたのです。このスペシャルメニューは19ドルと、通常サイズより約10ドル安く設定しました。少量で安いため、他の料理を楽しめるメリットもあり人気商品となったそうです。この工夫で、来店客数を3%伸ばし、顧客の満足度も15%上がったのです。米国おいて、外食産業には長引くインフレの影響で、消費者が財布のひもを固くしていることに対応する狙いもあるようです。
肥満の問題は、各国が悩んでいる所です。肥満は、WHO(世界保健機関)の国際的な定義で、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った「体格指数(BMI)」30以上を指し、25以上は過体重となります。世界の肥満人口は、増加を続けています。WHOによると、1975年から約3倍増え、現在は10億人を超えるまでになっています。BMI25以上の人は、世界で19億人以上に上ります。その中で、BMI 30以上の肥満の大人は6億5000万人以上になり、青少年や子どもは3億4000万人以上になります。中でも米国では成人の4割が、BMI 30以上とされ、肥満症治療への需要は大きくなっています。肥満症治療薬服用基準について、ウゴービの利用者は、BMIが35以上という規定があります。また、利用者はBMIが27以上、かつ高血圧など2つ以上の肥満に関連する健康障害があることが使用の条件になっています。さらに「高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかがあり、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない患者」が対象になります。このような条件をクリアできる患者は、かなり範囲は絞られるようです。でも、この薬をダイエットに使用している人々が増えているのです。
余談ですが、薬によらないダイエット方法もあります。これは、無菌状態の妊娠マウスに食物繊維を多く与えたえる実験からのアイデアになります。妊娠したマウスを、2グループに分けます。一方のグループには、食物繊維の少ないエサ与えて飼育します。もう一方には、食物繊維の多いエサを与えて飼育したのです。この2つのグループから生まれた子どものマウスを高脂肪食で飼育しました。食物繊維の多いエサを与えた母親マウスの腸内では、短鎖脂肪酸という物質が多く作られていました。食物繊維の多いエサをとっていた母親から生まれたマウスは、明らかに肥満が抑えられるという結果が出たのです。一方、食物繊維の少ないエサを与えた母親から生まれたマウスは、成長するにつれて肥満になっていったのです。子どもの成長の仕方や将来の体形に、母親の腸内細菌が関与することが分かりました。ネズミの子の肥満抑制のキーワードは、母体の腸内細菌が作る短鎖脂肪酸ということでした。人間の子どもにおいても、食物繊維の多い食材を使うことが、わが子を肥満にしないことに繋がることを示唆しています。このような理性による肥満防止対策を、個人も、家族も、企業も、そして国家も考えるようになりつつあります。
最後になりますが、「あまりお金のない人々は、どのように肥満を避ければよいのでしょうか」という課題解決になります。最近の知見では、肥満の方の腸内フローラでは、短鎖脂肪酸の生産力が落ちていることがわかってきました。この短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が作る酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸のことです。短鎖脂肪酸は、他の栄養分とともに腸から吸収され、血液中に入って全身へ運ばれます。短鎖脂肪酸には、腸の細胞を刺激してインクレチンのホルモンを分泌させる力があります。インクレチンにはすい臓に働きかけてインスリンの分泌を促す効果があります。ある意味で、血糖を調節し、糖尿病にならないということになります。短鎖脂肪酸は脂肪の蓄積を抑え、消費を増やすという両面から、肥満を防ぐ働きをするわけです。この短鎖脂肪酸を作る細菌が、バクテロイデスになります。バクテロイデスは、食物繊維をエサとして生きています。この細菌に好まれる食材は、海藻、キノコ、野菜、豆類、こんにゃく、雑穀、玄米などになります。バクテロイデスの菌はもともと私たちを肥満から守る働きをしているのです。ある研究グループは、12人の肥満者を対象に1年間にわたって食事療法を行う実験をしました。野菜を多めに食べれば、肥満フローラをやせフローラに変えていけることを明らかにしました。彼らは、肥満フローラが徐々にやせフローラに近づいていくことを確かめたわけです。野菜を多く摂取する迂回効果により、徐々に肥満体質を改善することが、弱者の賢い選択になるようです。この選択には、親の理解と知識が求められます。
