日本と韓国が協力し、成果を上げる仕組みを作る  アイデア広場 その1402

 韓国社会は、この数十年間で日本よりもずっと速く様々な発展を成し遂げてきました。2020年の一人あたりGDPは、購買力平価換算で、日本が4.2万ドル、韓国が4.4万ドルでした。フロー次元でいえば、もはや日本と韓国には差はないか、韓国が上回る状態にまでなっているのです。この経済成長の中で、儒教の国と言われる韓国にも状況が変転します。経済成長の1960年代においては、儒教による従属性、非主体性、空理空論、両班支配層の腐敗が徹底的に批判されました。朝鮮王朝の儒教的統治が、徹底的に批判されたわけです。その一方で、サムソンなどが牽引してきた韓国経済の成長にともない、合理精神や効率性追求と同時に、儒教の正統性の否定の上に成立したとする経済成長の担い手が台頭します。でも、経済成長が軌道に乗ると、儒教精神に基づいて行動をする人たちが力を取り戻します。経済成長が順調に発展してきた1990年ごろから、儒教否定の風向きが変わってきます。韓国では一転して、朝鮮王朝肯定の論調が優位に立ち始めてくるのです。ご存じのように、韓国の政治は、保守派と左派(民主派)、そして中間層から成立しています。その中でも、左派の勢いが強まっていると言われています。その左派の行動には、北朝鮮への負い目があるのです。左派は北朝鮮が一切、妥協せずに民族の主体性を固く守ってきたことに負い目を持っています。この左派は、韓国が日本やアメリカに譲歩してきた政治に負い目を感じているわけです。左派の方は、北朝鮮の民衆が飢えているという事実よりも、北朝鮮が帝国主義と闘っている道徳性に共感するわけです。韓国の左派は、動機の純粋性のみを評価する傾向があります。

 今年の韓国の議会選挙では、この野党である左派が大勝しました。最大野党の共に民主党は、選挙戦で日韓関係をおびやかすスローガンを掲げました。しかし、有権者は呼応せず、「日本」が争点にならなりませんでした。今回の争点は、尹大統領が国民との対話が不十分という点になったようです。日韓問題争点にならない「静けさ」の背景を、ある韓国外交は、「文前政権のおかげだ」と答えています。文大統領は、安倍晋三政権と対立して日韓関係が最悪と呼ばれた時期の大統領です。最悪の時期を通して、韓国の人々は日本の見方を変えたと言うのです。以前は、「日本はけしからん」と拳を振り上げれば、日本は妥協する姿勢を示しました。でも、阿部元首相の発言以来、無理押しすれば、日韓関係が再び壊れることになります。日本は、かつての日本ではないという認識を持つようになったようです。以前の日本は、韓国に譲歩を重ねてきた時代があります。今の日本は、歴史問題などで自ら打開案を示さないどころか、逆に解決策を追ってくるようにもなりました。日韓関係が再び壊れれば、結局は自分たちが得をしないと多くの韓国人が考えだしました。日韓関係が悪化すれば、自分たちが得をしないことが分かったとある外交官が話していました。

 今まで、歴代の保守大統領は任期末が近づくと、支持率が上がりやすいとみて反日に走るケースがみられました。島根県・竹島(韓国名・独島)に上陸した李明博氏が、その一つの典型になります。今回の選挙は、韓国政治を象徴するような政権与党の大敗でした。今までのパターンでは、大統領が反日の政策や行動をとることになります。でも、日本が選挙の争点になることもなく、その後の反日の行動も起きない状況が生まれています。保守系の尹大統領は、反日に走るということは全くないようです。そこには、今までとは違う韓国社会の変化が見られます。いまの韓国は、保守と革新が激突する社会にあっても中道層が4割を占めています。この4割の中道層に、今までにない行動様式が見られます。選挙の初期において、野党は東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を容認した韓国政府への抗議を呼びかけました。でも、これは大きな争点にはならず、処理水放出の抗議集会も現在はごく小規模なものにとどまっています。保守と革新が拮抗する時代においては、親の世代が日本に対する情報をメディアから読み取っていました。でも、中道層の主流を占める若者は、情報をSNSから取捨選択していきます。SNS時代に生きる若者は党派色が薄く、投票先も個別の論点や候補者で決める傾向が強いのです。若者に造詣の深いある教授によると、最近になって韓国の大学生が、原発事故のあった福島を訪れるようになっていると言います。彼らは、放射性物質について国際原子力機関(IAEA)の報告書を読んでいます。IAEAの報告書を読んで、自分でデータを確かめて安全性を判断しています。彼らはグローバル志向で合理的に物事をとらえる半面、人権やジェンダーへの意識が高いものがあります。選挙に影響を与える若者たちは、極端なメディアの情報を鵜のみにしない傾向があるのです。

 韓国の尹 錫悦大統領が就任してから、日韓の関係が急展開しています。そんな中で、韓国サムスン電子が横浜市に半導体開発拠点を設けるというニュースがありました。長らく、韓国の基幹産業である半導体産業を日本の装置メーカーや材料メーカーが支える構図ができていました。半導体産業では、装置や材料に強い日本と、製造に強い韓国は相互補完の関係にあったわけです。その日本が、2019年に半導体素材3品目の対韓輸出管理を厳しくしました。するとそれに反発した文在寅政権は、対抗姿勢を強めました。日本依存度の高い素材や装置分野で、韓国の国産化を推し進めたのです。国産化を推し進めた結果、一部の汎用素材で代替は進みました。でも、国産化を推し進めたのですが、最先端半導体に不可欠な素材や装置の開発や量産には至らなかったという現実が残りました。数百にのぼる半導体製造工程において、1種類でも材料の調達できなければ生産が止まることもあるのです。時の政権によって揺れ動く日韓関係の中にあっても、サムスン電子は日本との相乗効果を模索し続けてきました。この努力により、2019年の日本政府による対韓輸出管理の厳格化でも、日韓の半導体供給網は命脈を保つことができました。

 貿易統計を見る限り、サムスンなど韓国企業は日本製の素材や装置を使い続けたことが分かります。サムスン電子などの半導体メーカーは、日本の製造装置や精密材料を購入し、半導体を量産することができました。でも、進化を続ける半導体産業においては、世界との競争に直面しています。最先端半導体の開発や量産技術の確立のためには、外部企業との密接な研究活動が必要不可欠になっています。ソウル郊外のサムスン華城キャンパスは、半導体部門の頭脳といえる研究施設になります。華城キャンパスには、日本の製造装置メーカーや材料メーカーの技術担当者の姿が頻繁に見られます。東京エレクトロンやキャノン、村田製作所といった技術者が、次世代の半導体の開発に知恵を絞っています。サムスン電子は、各工程の製造装置メーカーや精密化学原料メーカーと細かな改善策を積み上げているのです。今後は、次世代半導体の共同開発などで、以前より協業関係を深める見通しになるようです。

 日本と韓国には、懸案が存在しています。でも、利害が一致していることも多いのです。民主主義や自由市場の価値観は、一致しています。グローバル経済での戦略的利益も、一致しています。日本と韓国は、国連の決議案で賛否の98%も重なっているのです。国連では、ほぼ同一歩調をとっているわけです。日本と韓国は、資源を海外からの輸入に頼っています。蛇足ですが、日韓は資源を海外からの輸入に頼るためドル高や自国通貨安が進むと輸入物価が上がります。現在、日本も韓国も円安、ウォン安で、困った状況になります。2008年のリーマン危機時のウォン安と同水準で、金融市場では懸念が強まっています。このようなときのために、リスク回避の仕組みも構築しています。緊急支援などの場合に、米ドルを支援要請した国の通貨と一時的に交換する仕組みになります。例えば、日本と韓国は最大192億ドル(約3兆円)の方向で調整しています。民主主義や自由市場の価値「近さ」に関しては、すでに日本と韓国の両国民が共有しているとも言えます。

 日韓両国は、資源を他国に依存し、産業構造も似ています。このような中で、原材料の共同調達を探る企業の動きもでてきています。韓国ガス公社は、日本の中部電力と折半出資する発電会社を設立しました。韓国ガス公社が、中部電力などが折半出資する発電会社とLNGの安定調達で連携するのです。また、LGグループは、ホンダと44億ドルかけて米国で車載電池の合弁工場を建設しています。このLGグループは、韓国で4番目に大きい多国籍財閥企業になります。車載電池分野では、中国企業の存在感が高まっています。そのような状況の中で、日韓の企業が車載電池の共同調達を進めるメリットは大きいものになります。さらに、韓国電力公社は、日本の出光興産と次世代燃料アンモニアのサプライチェーンを共同構築する計画も進めています。産業界だけでなく、政治の面からの支援もあります。伊大統領は、宇宙開発や人工知能(AI)、バイオ医療など先端分野での共同研究推進を議論しています。

 韓国には、歴史認識や領土問題を巡って日本に抵抗感を持つ市民が一定数いるのは事実です。慰安婦問題や徴用工問題の火種がくすぶっており、いつ燃え出すかわかりません。でも、協力できる時、協力して、お互いの交流を深めていくことが、長い目でみれば、必要なことになります。現在、日本と韓国では、お互いを必要とする状況が生まれています。日韓における協力や相互依存の可能性が存在しています。日本は、若者が働ける環境が整っています。韓国は、若者、特に大学卒業の就職が課題になっています。相互補完という意味では、お互いに協力できる素地があるわけです。韓国においては、若年層(15 ~29歳)の失業率は昨年9.8%と過去最悪の水準を記録しています。韓国の4年大学に通う新卒学生の就職率は、過去5年60%~65%の間で推移しているのです。日本の新卒学生と比較すると30%も低い値となっています。韓国の雇用労働部の統計によると、大学在学年数は男性が平均7年、女性も平均5年になるようです。これはある意味で、若者の能力を無駄にしているようにみえます。大学を卒業して、実社会に早く溶け込み、知的生産活動に取り組み、自分の能力を若いうちから高めていくことが求められる時代になっています。          

 最後になりますが、日本と韓国の大学と企業でインターン制度の構築を提案してみます。日本の経済同友会は2016年度から、授業として単位を認定する原則4週間の長期のインターンの支援を始めました。北海道大学は、この経済同友会が進める企業と大学とをマッチングさせる仕組みを活用しています。この大学は従来のインターンに加え、1~2年生を対象にした産学連携のプログラムを導入したのです。学生には、多くの労力を要するプログラムのようです。でも、受け入れ枠の4~5倍の学生が希望するほどの人気のあるプログラムになっています。参加者からは、「何を勉強すべきか明確になった」などの肯定的な意見が相次いでいるようです。協力企業が、積極的に大学3年生や4年生向けにインターンシップの場を提供しているのです。日本の企業は、優秀な人材を採用しようとしています。その意味で、インターン制度は、学生が企業を理解する場になり、企業は学生の可能性を見極める場にもなります。もし、この制度が韓国の大学に導入されれば、韓国の学生にも日本の企業にもウインインになります。現在は、オンライン教育は普通に行われています。韓国の大学と日本の企業がこのインターン制度を導入すれば、韓国の若者の失業率は低下します。一方、日本の企業は優秀な人材を獲得できるわけです。このような関係を、日本と韓国の間で構築していきたいものです。

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