地球温暖化が、現実の脅威になり始めています。そんな中で、再生可能エネルギーの必要性が、ますます叫ばれるようになりました。そのような環境において、米国では次世代の地熱発電技術に注目が集まっています。従来の地熱発電は、垂直に1000~1500メートル掘っていました。地下深く掘削するために、地下に眠る熱の貯留層にたどり着きやすいのです。高温の岩盤の地熱を利用して蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回して発電する方式でした。この方式に、新しい技術を付け加えたのです。この技術は、次世代の地熱発電「地熱増産システム(EGS)」と言われています。EGSは、従来の方式より、2~3倍深い地層の高温の岩盤を水圧破砕して水を注入します。垂直に約3000メートル地中深く掘り下げ、さらに、水平に約1500メートル掘削するものです。この新技術で、米国の地熱発電の開発余地は100倍になると言われています。従来型の地熱発電は現在、米国で約400万kwになります。これが、新技術を使えば約3億キロワットの開発が可能になるというわけです。
この新技術を開発したのは、ファーボ・エナジー社です。ファーボはシェール開発の掘削技術を応用し、従来は開発できなかった地域で地熱発電を手掛けています。この会社は、社長であるラティマ―氏をはじめファーボの社員の半分以上はシェール業界の出身になります。シェールの掘削技術を駆使して、新しい技術の開発とその利用方法を身に付けている人たちとも言えます。このファーボには、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏などが4億ドルを出資しています。米西部ユタ州では、大型原子力発電1機の4割に相当する出カ40万キロワットの発電所を開発中です。この事業には、日本の企業も出資し、さらに機材の供給も行っています。三菱重工業は、地熱発電開発所興企業に出資しすると同時に、発電用のタービンを供給しています。大同特殊鋼は、シェール用の鋼管部品を供給してきた実績があります。この企業も、ファーボに出資と機材の供給を行うことになりました。問題は、深さが倍にもなる地下の熱や金属を腐食させる環境に耐える素材を作れるかどうかになります。深い地層を掘る場合、硫化水素の濃度が高くなり、金属が腐食しやすくなります。大同特殊鋼は、新素材の合金を開発し耐食性と強度を高め研究を行っています。まず10万キロワット分を2026年に稼働させ、三菱重工グループの発電タービン3基を導入予定になっています。ファーボの想定発電コストは、1キロワット時あたり10セントという状況です。米国政府は、EGSの発電コストを35年までに4.5セントに低下させることを目標に掲げています。
再生可能エネルギーの普及は、石油危機から始まったと言ってもよいかもしれません。1973年秋、 第4次中東戦争 の勃発に伴うアラブ産油国の石油戦略により、石油価格が高騰し、世界経済に大きな衝撃を与えました。日本もこの影響で、経済不況に陥りました。いわゆるこのオイルショックを契機に,原子力発電や再生可能エネルギーの利用促進が急がれたのです。この時期、日本は世界に先駆けて原子力や再生可能エネルギーの技術開発を進めました。次第に、大量の電力生産に適する原子力発電が中心となっていきました。でも、2011年3月の原発事故で、原子力発電のリスクが現実となりました。一方、全発電量の20数%を賄う原発がなくなれば、大変なことになるという建前論は現在でも説得力があります。原発の稼働する周辺地域も、原発がなければ生活が成り立たないほどに依存度が高まっています。チェルノブイリや福島の原発事故は、世界に原発離れに拍車をかけました。日本の原発は、停止する事態になりつつあります。当時は日本政府も、2030年代に「原発稼働ゼロ」を目指してエネルギー政策を提示するようになりました。日本は化石燃料を、高い水準で輸入しています。毎年10兆円を超えるお金が、産油国に流出しているわけです。日本は今まで、原発の建設に多くの資金を投じてきました。原発に投資してきた費用の半分でも、この事業に注ぎ込めば、既存の技術と技術者が一定の成果をあげることができます。もしできたならば、毎年10兆円の石油の輸入を大幅に減少させることができます。化石燃料の使用を減らせば、環境に優しい日本を作ることができます。さらに、国産エネルギーの大部分を未来永劫に確保できるという希望が出てくるのです。
地下に眠る純国産のエネルギーを使う地熱発電は、エネルギー政策で重要な役割を担うことになります。火山国である日本の地熱資源の埋蔵量は、米国、インドネシアに続く世界3位に位置しています。火山列島の日本には、世界第3位の資源埋蔵量があるのです。この埋蔵量は、エネルギー換算で約2300万kwにのぼります。100万kwの原発に換算すると、23基に相当するエネルギーになります。もっとも、国内で稼働中の地熱発電の出力は、約60万kw(23年12月末時点)に過ぎません。地熱発電の出力は、約60万kwと埋蔵資源の3%弱しか活用できていない実情なのです。もし、次世代の地熱発電「地熱増産システム(EGS)」を導入すれば、この出力を100倍にすることも可能になるかもしれません。原子力発電が、60基に相当する電力が生まれる可能性が出てきます。地熱開発が盛んになれば、「資源小国」とも呼ばれる日本の立ち位置が変わるかもしれません。政府の現行のエネルギー基本計画は、2030年度に発電容量で150万キロワット分の稼働を目標としています。地熱発電は、天候や季節に左右されず、発電所を24時間安定稼働させられる強みがあります。さらに、地熱発電は、二酸化炭素(C02)を排出しない脱炭素電源としても期待されています。
エネルギー政策を司る経済産業省は、地熱発電の出力を2030年度に計150万Kwへ引き上げる目標を掲げています。経済産業省所管のエネルギー金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、資源調査を2025年度にも拡充する計画です。地熱開発事業は民間側の要望を受け、JOGMECが開発の初期段階の調査を代行しています。実は、地熱発電の掘削には、大きなリスクが伴います。地熱発電には、マグマに近い場所に存在する「超臨界水」を用います。この超臨界水を用いるために、蒸気が通常の地熱発電より高温となって発電効率の向上が見込めるわけです。安定した蒸気の噴出を確認するまでには、5年程度かかるのです。さらに、その先の商業運転開始までで見ると、合計15年程度かかります。地熱の開発において、大規模な施設では、建設に数百億円の資金を要するのです。地熱の開発において、開発事業者には経営上の様々なリスクがあることがわかります。JOGMECは開発コストやリスクを低減しようと事業者への助成や債務保証を実施しています。そして、その先の蒸気の噴出確認まで携わり、事業者のリスク低減に寄与しているわけです。
秋田県の最南東部にあり、山形県や宮城県に隣接する湯沢市は地熱発電の先進地域になります。湯沢市初となる上の岱地熱発電所は、東北電力とTOUSECが1994年に運転を始めました。また、山葵沢(わさびざわ)地熱発電所は、2019年に運転を始めました。この山葵沢地熱発電所は、運営会社の湯沢地熱にはJパワーなどが出資しています。湯沢市は次世代の地熱発電技術として注目される「超臨界地熱発電」の候補地でもあります。この市では、出光興産などが取り組む「かたつむり山発電所」も2027年の運転開始を控えています。地熱発電所の銀座の様相を呈しています。事業者が口をそろえて指摘するのは、湯沢市との連携のしやすさになります。地熱発電所の建設やその運営には、地下水や温泉、そして環境破壊の問題が生じやすいのです。湯沢の地熱発電所は、原則年1回開く協議会を通じ、事業計画について地元の合意を得る体制ができています。さらに、湯沢市内では地熱を農業に生かし、ミツバチやパクチーがハウスで通年栽培されています。特産のサクランボを使ったドライチェリーや乾燥野菜など加工品生産にも貢献しています。地熱発電が、発電だけでなく、地域の産業に貢献する仕組みも同時に構築している姿が見られます。
最後になりますが、再生可能エネルギーは,原子力の数十分の一にも満たない予算に終始してきました。その中でも、太陽光発電に集中的投資し,その他は軽視されてきた経緯もあります。ところが、企業の事業の選択と集中を迫られ、太陽光発電からも撤退する日本企業が増えているのです。世界的には、再生可能エネルギーの普及や拡大が進んでいます。世界の市場で伸びる分野であるにもかかわらず、日本では撤退の対象になっています。現在、世界市場では、風力発電や太陽光発電、そして地熱発電が一斉に開発を進めています。これらにも、日本は後塵を拝している現状です。地熱発電の分野で、日本企業は非常に高い技術力を持っています。やる気になれば、日本はエネルギー問題において、独自の地歩を築き上げる力も環境も整っているのです。それには、政府や自治体、そして民間の連携が大切になります。地熱発電には、ロードマップが求められます。以下の、ロードマップが計画され、実現していけば、日本のエネルギー事情は好転していくことになるかもしれません。
今後の地熱発電の開発と実用化に向けてのロードマップの1例です。
①発電装置の研究開発
②安定的な発展のための政策的体制
③適地選定と許認可のガイドライン
④環境影響評価研究
⑤関連産業と連携したマーケット開拓
⑥経済財政支援
⑦送電系統の統合化
⑧教育と労働者トレーニング