日本の農業を豊かにする工夫 アイデア広場 その1543

 令和の米騒動には、農業政策の不備があるようです。コメが余るから、減らせばよいという政策を続けてきました。一方で、稲穂の国は、外国のコメに侵されてはならないという国策もありました。国内外の諸事情により、農業政策がゆがめられてきたこともあるようです。日本の農業における基本政策を示す事例は、2010年3月から行われたTPP交渉の過程の中にみることができます。特に、この交渉過程に、アメリカと日本の利害関係の機微が見え隠れしていました。コメや酪農に限らず、高い価格で農業を保護することが、我が国の農政の基本になりました。このTPP交渉で、日本の酪農について、アメリカは関税の削減を強く要求しなかったのです。アメリカは、バター等の乳製品への高い関税維持をあっさりと認めました。この時期、アメリカとニュージーランドの酪農における競争力は、アメリカが劣っていました。アメリカの意図は、日本の酪農を保護して、アメリカの大豆やトウモロコシの飼料を輸出することで利益を上げることでした。結果として、牧畜、豚肉、鶏肉、鶏卵などの畜産では、飼料を100%アメリカに依存する体制になっていきました。飼料用の穀物は、関税ゼロで輸入していたのです。アメリカは、飼料を輸出することで、利益を上げることができました。さらに、日本の畜産物が高い価格で維持され、畜産物に高い関税がかかっていれば、日本国内の酪農家の生産活動は確保され、アメリカの飼料は安全に確実に輸入されると考えたわけです。TPPが関税を下げる協定であるにも関わらず、アメリカは関税の高止まりを容認したわけです。それは、当時のアメリカに利する状況であったわけです。

 飼料用の穀物は、100%輸入に依存してきました。アメリカからトウモロコシを関税なしで輸入し、これを飼料として使用してきたわけです。でも、よく見ていくと、トウモロコシの輸入価格に対して、トウモロコシの国内の小売価格は2倍になってきたのです。さらに、配合飼料価格は、3倍にもなっているのです。飼料産業は、濃厚飼料を主体とした配合飼料を製造し、畜産農家に提供しています。この濃厚飼料は、乳量を増やす効果があります。酪農家にとっては、頼もしい飼料になります。でも、国際的に見れば、高すぎる価格です。日本の飼料産業は輸入し、農家に渡すだけで、100%の利益を得ていたこといなります。恒常的に、配合飼料価格と輸入とうもろこし価格の間には、大きな開きがあったのです。国民は、結果として高い肉や乳製品を購入する構造ができたわけです。状況が変われば、それに付けこむビジネスや国が出てきます。アメリカが、日本に加工型畜産を行わせる方が得だと考えた時期から、牛肉などの製品を輸出したほうが良いという方向に転換をし始めました。日本の高い牛肉より、安い米国産の肉には競争力があると考えたわけです。ウクライナ戦争で、飼料の価格が不安定になっています。その影響もあり、国内の酪農家は、飼料価格の高騰に苦しむようになりました。日本の酪農家戸数は、この50年間で40万戸から1万8千戸へ、20分の1以下に減少しています。酪農家の頑張りで、牛乳の生産量は、200万トンから800万トンへ4倍に増加しているのです。でも、飼料の高騰が、がんばる酪農家を苦しめることになっています。

 日本の農業就業人口は、どんどん減少していて歯止めがかからない状況になっています。2005年には335万人いた農業従事者が、2020年には152万人と、半分以下になってしまったのです。農業従事者の高齢化も、深刻な問題になっています。2005年での65歳以上の割合は57所%でしたが、2020年には70%となっているのです。これらの従事者の方で、「生計が成り立っている」と回答した人たちでも、農業所得の中央値は200万円なのです。サラリーマンの半分程度の収入に甘んじているわけです。作物別にみると、酪農だけが中央値475万円とサラリーマン並みです。でも、その労働条件は厳しいものがあるようです。農業収入で生計を維持するのか難しいという理由で、若者が農業に就業しない状況が続いています。このような状況の中で、令和の米騒動が起きています。その伏線は、すでに酪農に見るまでもありました。コメ農家には厳しい政策が、とられてきました。政府は米価格を維持するために、他の作物への転作に補助金を出すなどし、生産を減らしてきた経緯があります。結果として、コメの需要は減少傾向にありました。このしっぺ返しではないのでしょうが、困った現象が現れました。2024年9月23~29日に全国のスーパーで販売されたコメの量は、前年同期比で24%も減ったのです。2023年9月に1718円だったうるち米の平均価格は、2024年9月には2525円まで上昇しました。農林水産省は、新米の流通で品不足の減少が落ち着きつつあると国民に呼びかけています。でも、コメの価格は高止まりしており、消費者は購入を抑えている状況があります。

 日本は、21世紀に入り勢いが低下してきています。その低下を示す事例は、数多くあるようですが、一つの事例が、農業になります。もう一つの事例が、生活保護になります。2009年1月時点で、全国で生活保護費を受給している人162万人でした。バブル崩壊後の1999年は、63万人でしたので3倍に近い増加になります。2024年9月時点の生活保護受給者の数は約200万人になります。さらに、いつも指摘されるのは、ジェンダーギャップです。さらに、少子高齢化の先進国とまで言われるようになりました。これと対照的な国がデンマークになります。この国の女性が社会進出した1980年代は、出生率が1.4ぐらいまで下っていました。女性が社会進出すると家庭で子どもや障がいのある人高齢者の世話をする人がいなくなります。世話をする人がいなくなるので、保育園、幼稚園、障がい者施設、高齢者施設を整備することになります。保育園、幼稚園、障がい者施設などの施設などで働くのは女性が主体になります。これらの施設などで働くのは女性が主体ですから、女性の職場が増えてくるという好循環が生まれたのです。デンマーク経済が安定しているのは、女性の就業率の高さによるものです。女性議員が、産前産後休業(産休)や育児休業(育休)などをしっかりと制度化しました。女性議員が、子どもを産んでも仕事ができるように制度設計をしたわけです。デンマークの子育て支援が確立されてきたのは、1980代のことになります。デンマークの方に言わせると、「日本では自給率が低いにもかかわらず、休耕田がなぜたくさんあるのか」ということになります。デンマークの農業は、自給率が300%です。なぜ、分たちで食べ物をつくることを考えないのかと不思議な国と日本を眺めています。

 農業政策で成功している国が、オランダになります。小さなオランダが、世界第2位の農産物輸出国なのです。その立役者は、植物工場です。オランダの植物工場は、徹底的な合理化を行っています。耕作、追肥、種まき、収穫作業において完全自動化を行っているわけです。発芽から栄養配分、生育の監視や収穫まであらゆることに関連した機器が考案されています。植物工場では、雑菌や菌を入れない仕組みになっています。菌の少ない野菜は、長持ちするので、廃棄率も少なくなります。食の安全性も保障されています。オランダにできて、日本できない理由が、65年前にできた農地法の規制になります。オランダでは、植物工場が規制もなく自由に農作物を作り出しています。そして、農産物の輸出額は、10兆円を超えています。日本は、65年前にできた農地法の規制により、災害に強い植物工場を作れません。コンクリートを使用した植物工場は、農地と認められません。その工場には、高い税金がかかるのです。脆弱なビニールハウス農業は、豪雪や暴風により崩壊しやすいものです。65年前の国内農業を守ることに主眼を置いた農地法を改正すれば、オランダのように自由に植物工場を稼働させることができる環境が整います。規制改革ができれば、すぐにでも農業輸出大国になれるかもしれないのです。

 飛躍しますが、日本の農業を改革するには、「少子高齢化」を阻止しなくてはならないようです。「多産若年化」を推し進めることが一つの前提になります。そのヒントは、デンマークの事例にありました。フランスも、「多産若年化」のモデルになります。2020年の合計出生率はフランス1.79、日本1.33で差は0.46になります。フランスは、子育て支援先進国として注目されるスウェーデンを上回りヨーロッパでトップになります。フランスの女性の労働力率は、2022年時点で過去最高の68.1%に達しています。日本は、2023年の女性の労働力率が45.1%になります。ちなみに、労働力率は15歳以上の人口に占める労働力人口の割合です。100人のフランス女性がいたら、子どもがいない人が10人で、子ども1人が20人になります。さらに、子どもが2人は40人で、3人が20人になり、4人以上は10人になったそうです。このように子どもを産んでも、フランスの女性は、日本の女性より就業率が高いのです。働きながら、子育てができる環境が、フランスにもデンマークにもあるのです。農村にもこのような労働環境や子育て環境ができれば、農業の後継者は確保できます。そのためには、村の議会に女性議員を多数送り込むことです。高齢の男性議員だけでは、農村の停滞は止めることができないことが、ほぼ証明されています。

 最後は、農村に豊かさをもたらす工夫になります。まず、労働時間を減らすことです。1年間の総時間は、24時間×365日の計算で8760時間になります。サラリーマンの労働時間は、週休二日で2080時間になります。そして、余暇時間は、約3000時聞になります。一方、農業従事者は、かなりのオーバーワークになります。農林水産省の調査によると、畑作を行っている農業従事者が2700時間、果物に従事している方が3100時間となっています。酪農の個人経営体当たりの平均労働時間は6700時間になるというのです。酪農家の方はサラリーマンの3倍以上を働いて、ようやく所得が同じ程度になります。サラリーマンに比べ、労働時間が長く、所得が低いという現実が横たわっています。この解決のヒントは、オランダとドイツにあるようです。オランダは、全自動の植物工場で効率的に生産を上げています。ドイツでは、平均農家の耕作地は100㌶になります。ドイツのトラクターは、1日に10㌶以上を耕作する能力を持っています。このトラクターはコンビマシンを連結しており、播種と鍬入れの複数の工程を一気にやることができます。異なる作業を同時にこなすために、何度も同じところに農機を走らせる無駄がないのです。この農機は運転しながら、土壌水分データを記録整理できるセンサーも備えてあります。作物を刈り取りながら、測定した結果を地図に表示し送受信ができる優れものです。どこに肥料をいれれば良いかを、地図上に示してくれるのです。これは、肥料の節約に繋がります。100㌶の農地を耕し、収穫し、販売する作業を、1.5人で経営しているのです。日本の農業停滞をもたらす規制を取り払い、新しい技術とマインドを取り入れて、豊かな日本の農業をつくっていきたいものです。

タイトルとURLをコピーしました