ロボットの活用に、熱い視線が注がれるようになりました。オーストラリア看護連盟は、看護師に「持ち上げない」ということを義務付けたのです。看護師が重いものを持たないために、さまざまな機器開発か進みました。介護現場で聞かれるのは、「気兼ね」です。人が人を運ぶことには、遠慮があったようです。介護において、ロボットが手助けをし、運ぶのであれば、気兼ねがいりません。現場が介護ロボットを欲しいと思って、開発の機運が高まったわけではないようです。「持ち上げない」という課題をスムーズに行うものが、ロボットだったということです。この副作用というか思わぬ効果は、ロボットを導入したことで看護師の腰痛が激減したことです。また、最近の災害の多発で、レスキューロボットの導入が叫ばれています。今までは、地震等で倒壊した建物の中に救助犬が潜っていって、倒壊家屋内に人がいるかどうかなど調べることが一般的でした。救助作業が行われるごとに、救助犬の行動記録が、蓄積されてきました。救助犬のデータとレスキューロボットを比較すると、軍配は救助犬に上がるようです。でも、これからは、救助犬のデータと最新のロボット技術、そして現場技術とを融合させて、実用性が高い技術に進化させている流れが出てきています。
余談ですが、人類の戦争の歴史の中で、馬や象、ラクダ、ハトなど、戦争に動員された動物は数多くあります。イルカや犬の聴覚や臭覚を上回るセンサーを持った無人機は、まだ開発されていません。ソ連軍は第2次大戦中、ドイツ軍の戦車の下に飛び込んで自爆する軍用犬を使いました。イルカやアザラシなどの高い知能や聴覚能力を使った捜索力を、軍事利用し始めたのは第2次世界大戦です。中立国スウェーデンが、ドイツの潜水艦に、磁気反応機雷を取り付けたアザラシを接近させて、自爆させようとしました。同様のことは、イルカにも適用されました。動物の軍事利用から、別の利用に変わりつつあるようです。期待された用途は、災害現場などでの捜索活動でした。いち早く被災者を見つけて、位置を救助隊に知らせる役割を担っていたわけです。この役割に、ロボットが導入されるのが、最近の流れになっています。進化する人工知能(AI) の災害対応ロボットへの応用が期待されています。でも、なかなか生身の動物にはかなわないようです。がれきが多く、平らではない災害現場では、制御が難しい場合もあるようです。災害救助では小型ロボットもありますが、電池が動力源のため長時間使えない欠点も出てきています。さらに、災害時にしか使わないのでは維持コストの負担が大きいというデメリットも指摘されるようになりました。
最近は、このようなデメリットを克服するロボットの開発も進んでいるのです。昆虫の神経系に電気信号を送り込み、昆虫の動きを自由にコントロールする研究があります。特に、ゴキブリは神経系の加工がしやすく、さらに入手も容易な昆虫です。ゴキブリの身体にコンピュータチップを貼り付け、ゴキブリをラジコンのように操作する技術です。昆虫特有の羽による飛行を行なえば、まるでドローンのように扱えます。地上では細いパイプの中や部屋の隙間などに入り込み、様々な調査がゴキブリで可能となります。この昆虫ドローン(ロボット)の行動は、一匹に限定される訳ではありません。多くのゴキブリサイボーグを、集団として一度に大量に放つことも可能です。集団のドローンを使えば、橋脚のいくつかある老化箇所や補修部分を1匹の目ではなく、数十匹の目で、同時に調査することも可能になります。さらに、一度の調査で、すべての老巧化した場所や補修箇所を調べることが可能になります。もちろん、救助の場合でも、1匹で調べるよりも、数十匹のロボットゴキブリを放ったほうが発見をしやすくなります。このような昆虫ロボットの知見が、蓄積されるようになってきました。
近年、サイボーグ昆虫の研究は国の内外で盛んになっています。日本とシンガポールの研究チームは群れでり、目的地に誘導することに成功しています。荒れ地を模した砂場で荷物を背負った20匹のマダガスカルゴキブリの集団がゆっくり歩いています。集団がゆっくり歩く光景は、ゴキブリが賢いからできたわけではありません。止まったり、ゆっくり歩いたりするのは、お尻にある感覚器を刺激することによって、コントロールしているのです。前進を促された集団は、器用に山やがれきの障害物を避け、1匹も脱落することなく目的地にたどり着きました。まずリーダーとなる1匹を決め、そのゴキブリを目的地に着くように制御するのです。さらに、位置情報やガス検知など個体ごとに違うセンサーを付けておきます。個体ごとに違うセンサーを付ければ、1匹に複数のセンサーを付けるよりも素早く動けるようになります。リーダーの動きを重視しつつ、他の仲間からも離れないように誘導する刺激を与えるわけです。制御のカギは、昆虫の本能を重視しつつ、「自由」を与えることになります。多発する災害救助で、昆虫を使うアプローチはこれからの選択肢になります。センサーや機械を身につけた「サイボーグ昆虫」が、被災地の人命救助などで活躍する未来が近づいています。昆虫ならば、垂直の壁でも登ってどこにでも入っていけます。昆虫の本能を生かし、群れで操る「サイボーグ昆虫」の開発は、探索活動に利用することが可能です。
バラバラに昆虫が動くと、探索範囲などを取りこぼすことが生じます。それが、群れならば効率的に探索できます。日本は、ゴキブリでしたが、オーストラリア・クイーズランド大学の研究チームでは、ゴミムシダマシに目を付けました。ゴミムシダマシは、体重の。10倍の重さの荷物を背負えると言います。多くのセンサーや機械を積んで、探索活動が可能になると言うものです。一方、オーストラリアの研究チームには、環境に対する配慮もあります。オーストラリアでは、外来昆虫の輸入が激しく制限されています。外来種が増えれば、国内の生態系が乱されるからです。そこで、オスだけを使うといった工夫をしています。外来種の繁殖を防ぎ、周辺環境への影響を残さない方法 を採用しているのです。昆虫ロボットの利用は、自然環境のモニタリングや動物の生態調査などにも使えると期待を高めています。ロボットへの熱い視線は、ロボットの性能が急速に向上している時代背景があります。たとえば、産業用ロボットは地味ではありますが、最先端の技術が導入されてきました。産業用ロボットのロボットアームの関節部は、アクチュエータとセンサーから構成されています。アクチュエータの性能は、発生させられる回転力や速度、そして精度などになります。この性能は、加速度的に向上しています。センサーは、ロボットの関節の角度などを計測します。センサーで計測された情報から、コンピュータのプログラミングを作動させることになります。アクチュエータ、センサー、コンピュータ、プログラミングがロボットアームの性能を高めることになります。プログラミングによって、アクチュエータをコントロールすることでアームを駆動させるわけです。高性能のアクチュエータ、センサー、プログラミングも、安価に手に入るようになり、ロボットの性能が急速に向上しているのです。このロボットと昆虫の融合が、新たな局面を開発する可能性が高まっています。
最後になりますが、日本のインフラの老巧化が、先日の下水道の陥没で現実になりつつあります。日本の高度成長を支えた道路橋や水道は、いずれも建設後50年を過ぎるようになりました。インフラの崩壊は、大きな社会問題を引き起こすことになります。日本全体では2033年に道路橋では63%、河川管理施設では62%が、建設後50年を超えます。道路の橋梁に限っても、70万超え点検を行わなければならないのです。行政はこれらのインフラを維持したり、更新したりする費用を予算化しなければなりません。道路分野だけでも毎年2.5兆円程度が必要となるようです。日本の道路や道路橋、そしてトンネルなどの保守管理は、今後半永久的に続くわけです。これを新設という手法で乗り切るとは、現在の日本の国力ではできません。多くが補修という形で、延命を図ることになります。延命の一つのツールが、Low Power Wide Area (LPWA)です。LPWAは低速ですが、一般的な電池で数年から数十年も持つ、省電力性が特徴になっています。さらにこの特徴は、数kmから数十kmもの広域な通信も可能なのです。たとえば、70万の橋梁を点検・補修をしていくことになります。この場合、どの橋梁を点検するとか補修をするかの優先順位が分かれば、点検人員の配置がやりやすくなります。橋梁に劣化を測定するセンサーを埋めておき、LPWAで1週間とか1ヶ月に1度40km離れた建設事務所に、データを送れば良いわけです。これをAIが分析して、全国の70万ヵ所の検査順序を決めていくわけです。これらの技術は、水道管や電柱などにも利用できます。そして、より確実に調べるためには、昆虫ロボットの出番があるかもしれません。低コストで確実な仕事をこなす昆虫ロボットの出現を楽しみにしています。