時代の先端技術者を獲得し、栄えた現在・過去・未来 アイデア広場 その1554

 現在、日本の弱点は、人手不足になっています。働く場所は、たくさんあるのです。でも、人がいないために、スムーズに社会や経済が回らない状況が続いています。その中でも、日本の経済成長のけん引役になるIT技術者の不足が深刻な問題になっています。日本は、ITに関連したSTEM (科学、技術、工学、数学)分野を学ぶ学生の割合が低いという現実があります。STEM分野の卒業生数も減少傾向で、2030年までに79万人のIT人材が不足するとされています。この不足を補うように、現在日本で働いているITの専門的技術者は、イギリス人とアメリカ人の次にインド人が多いのです。インド人は、プロジェクトごとに日本に派遣されてきます。インド人の多くは、東京の日本橋の金融系企業などで働いていいます。日本での起きている特徴的なことは、外国人の高度IT人材の採用が増えていることです。外国人技術者は、2017年に44%だったものが、2018年には57% に上昇しているのです。IT技術者の仕事は、日本語の重要性が他職種より低いことが、採用急増の理由の一つになっています。もう一つの特徴は、IT部門の役割がシステム運用から、ビジネスのけん引役に変わりつつあることです。IT人材の募集は、IT業界だけではなく、幅広い業種から採用ニーズがでているのです。IT人材の確保が、企業の生命線になりつつあります。今回は、このIT技術者の確保について考えてみました。

 IT人材の豊富さで、注目を集めている国はインドです。イギリスからの独立に際して、インドは1つの戦略を立てました。財政的に苦しい中で、教育における重点を、数学と英語に集中したのです。数学の能力向上を目指した結果、豊富なIT人材を抱える国になりました。その中で、インドの理系の最高峰とされるインド工科大学の優秀さは、世界が注目しているところです。インド工科大学は、インドに23校あります。ITに特化した高度な外国人材の採用は、全世界的な広がりをみせています。世界の企業の目は、この大学に注がれます。毎年12月に行われる企業の採用活動には、多くの有名企業がインドにやってきます。日本の企業では、ヤフー,楽天、日立製作所などが採用に動いています。インドの工科系の人材は、アメリカIT大手を目指す一部の高度人材でなくとも、平均的な理系学生の技術スキルは非常に高いレベルになります。アダッシュさん(23)は、そんな大学で育ち、プログラミグなどを習得した方です。日本は他の先進国より賃金の上昇幅が薄いのですが、それでもインドに比べ収入は高いものがあります。アダッシュさんは、2022年に紀州技研工業(和歌山市) に、新卒の新入社員として働き始めました。国内の理系学生は、大半が大手企業を選びます。地方企業や中小企業ほど、IT技術者不足は深刻になります。紀州技研工業の社長さんは「日本人の応募が減る中で貴重な高度人材だ」と話しています。アダッシュさんのような方が増えれば、日本の中小企業にとって福音になります。

 IT技術者不足の中、インドの優秀な人材獲得に活躍している日本企業があります。その企業は、Zenken株式会社になります。この会社は、採用支援を行うWEBマーケティング事業や、「IT」事業、そして「介護」や教育の領域におけるサービスを幅広く行っている企業になります。Zenkenは2018年からインドの工科系の大学と提携し、「ジャパンキャリアセンター」を設置しました。提携する大学数は40校で、その大学内に「ジャパンキヤリアセンター」を設置しています。「ジャパンキヤリアセンター」では、日本での就職支援や日本語教育に注力してきました。ここに来て、神風が吹いてきています。インドの工科系の大学生が多くなり、IT企業が求める技術者よりも増えて、学生の供給過剰になってしまったのです。このために、優秀な工科大生でも望まぬ職種に就かざるを得ない状況が生まれつつあるのです。地道な活動をしていたZenkenに、インドの大学生が親近感を持つようになったようです。インドの大学では、日本での就職を志す優秀な学生は年々増加しているのです。アダッシュさんのような人材が、日本各地に定住するようになれば、日本の地方も元気になるかもしれません。

 日本には、海外の人材が日本を豊かにした歴史的事実があります。その時期は、大和政権がようやく統一され、機能しはじめたのは6世紀以降になります。国家の確立過程において重要な事業は、国の歴史を記録する歴史書を編さんでした。歴史書の編さんには、文字の使用、暦の採用、時計の導入、干支年号の使用が必要になります。欽明天皇は、553年に日本から朝鮮半島の百済国に暦博士の指導を要請しました。554年に、百済国から暦博士が派遣されてきたと日本書紀に記されています。歴史書を編さんしたことで、大和朝廷は国家としての外観を整えたわけです。統一され、国内統治機構と地方制度がつくられ、機能しはじめました。この過程で、朝鮮半島西南部を出自とする渡来系集団が飛鳥の開発を主導し、氏族へと成長していきます。その代表は、蘇我氏になります。同じく渡来系の秦氏は、現在の京都を地盤として平安京などの開拓に尽力しています。京都の太秦は、新羅系渡来人の秦氏一族の本拠地でした。秦氏は、養蚕、機織を主に農耕、酒造、金工、木工などの技術を持った集団でした。これと同じように、東漢(やまとのあや)氏は、朝鮮系渡来人氏族の最大勢力になっていました。

 蛇足ですが、稲穂の国の農耕社会を支えた鉄と鉄器は、5世紀まで、朝鮮半島からの移入に頼っていました。農耕社会を支えた鉄は、その素材も加工術も大部分を朝鮮半島からの移入に頼っていました。弥生期以来の鉄の供給地は、朝鮮の加耶南部地域でした。この加耶地域は、稲作のできる平野部が少なかったのです。この鉄の交易で倭(日本)が用いた交換財に、コメが含まれていたという指摘もあります。4世紀後半以降の倭(日本)は、朝鮮諸国から人・モノ・文化の贈与を受けていました。その大きな理由に、4世紀後半以降の朝鮮半島では、北の高句麗が南の百済や加耶に対し攻勢を強めていたことがあります。この時期、列島における渡来人の増加が顕著になります。これらの渡来人の多くは、新羅と百済に挟まれた朝鮮半島南部の加耶からの移動者でした。当時の倭の政情は、渡来人が増えたというだけではありませんでした。倭は、朝鮮諸国から人・モノ・文化の贈与を受けたその見返りに軍事的支援を行ったのです。倭が同盟国百済に送ったものとして、兵に加え、軍船・武器・武具・馬、麦種や稲種などの穀物、糸・綿・布などの繊維類がありました。古代においても、お互いに助け合う仕組みが存在していたようです。

 現代においても、日本と朝鮮半島の協力の条件が整いつつあります。以前は、高句麗による圧力が、倭と百済などの協力関係をもたらしました。現在は、IT革命による人材のマッチングよる協力関係の萌芽です。韓国においては大学を卒業しても就職ができない状況が続いているのです。反日的文在寅政権においても、その初期において、日本への就職を奨励してきました。韓国政府高官が来日し、たびたび日本政府に協力と支援を訴えていたのです。政府機関である大韓貿易投資振興公社、通称「KOTRA」が中心となり、外国企業への就職の事業が運営されていますKOTRAの年度別就業統計によると、2018年の海外就業者数は5783人になります。5783人の就業者うち、実に1828人が日本の企業でした。もちろん、この事業で日本企業が、最も多くの人材を獲得してきたのです。この事業は2014年から始まり、総計2万294人の人材が外国企業に就職しています。日本への就職者数は、2万294人の中でも5328人を占めているのです。過去にアマゾン、東芝、ソフトバンク、楽天、住友商事、デンソーなどの有名企業も就職しています。韓国の優秀な若い人材が、日本企業で力をつけて故国に帰り、企業を起こすことも選択肢になります。苦しい時に日本を助けながらで力を蓄えることも、歴史が教えることなのかもしれません。

 最後になりますが、現在、日本と韓国では、お互いを必要とする状況が生まれています。日韓における協力や相互依存の可能性が存在しています。日本は、若者が働ける環境が整っています。韓国は、若者、特に大学卒業の就職が課題になっています。相互補完という意味では、お互いに協力できる素地があるわけです。韓国においては、若年層(15 ~29歳)の失業率は昨年9.8%と過去最悪の水準を記録しています。韓国の4年大学に通う新卒学生の就職率は、過去5年60%~65%の間で推移しているのです。日本の新卒学生と比較すると30%も低い値となっています。韓国の雇用労働部の統計によると、大学在学年数は男性が平均7年、女性も平均5年になるようです。これはある意味で、若者の能力を無駄にしているようにみえます。大学を卒業して、実社会に早く溶け込み、知的生産活動に取り組み、自分の能力を若いうちから高めていくことが求められる時代になっています。若い力を無駄にしないためにも、日本と韓国の人材交流は有意義なものになります。蛇足ですが、日韓両国は、資源を他国に依存し、産業構造も似ています。このような中で、原材料の共同調達を探る企業の動きもでてきています。韓国ガス公社は、日本の中部電力と折半出資する発電会社を設立しました。韓国ガス公社が、中部電力などが折半出資する発電会社とLNGの安定調達で連携するのです。また、LGグループは、ホンダと44億ドルかけて米国で車載電池の合弁工場を建設しています。このLGグループは、韓国で4番目に大きい多国籍財閥企業になります。車載電池分野では、中国企業の存在感が高まっています。そのような状況の中で、日韓の企業が車載電池の共同調達を進めるメリットは大きいものになります。人材交流の面でも、実りある仕組みを作っていきたいものです。

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