本屋さんが、全国で減ってきています。全国の書店数は、2003年には20880店ほどありました。それが、2023年には10918店に減り、この20年間で約半分にまで減少しているのです。特に、人口減少の激しい町や村から、本屋さんがなくなっています。すでに、360の町と村から本屋さんが撤退しているのです。このまま進めば、地域の文化レベルの低下が心配されます。地域には、蓄積された文化が存在します。本屋さんは、その地域文化の底辺を支えるという役割を持っていました。その支えが、消えつつあるのです。もちろん、本が売れなければ本屋さんは経営を続けられません。今回は、地域の文化を支えている本屋さんの存続と地域の人々の文化的豊かさをいかに高めていくかを考えてみました。
まず、本屋さんの存続についての成功事例を見てみました。千葉県習志野市の「noma books」は、2022年、高齢の店主がいったん閉めた老舗書店を居抜きで借りました。「noma books」は、ブックカフェとして再出発したのです。このチャレンジャーは、以前の店主から、書店はもうからないと開業を止められたと言います。でも、彼は飲食店への経営支援の経験を生かし、収益改善を工夫していました。その現われが、カフェを併設した書店でした。粗利が約2割の書籍スペースは半分に減らし、利益率が高いカフェを増やす工夫でした。もちろん、本好きの人達が新たな本と出会えるように、取次を通じて扱う本は頻繁に入れ替えることも行います。この方式は、仕入れ値がかさみます。これを、カフェの収益で補い客層も広げているのです。「noma books」は、子どもの本を旧書店の数倍に増やしています。子連れでも、カフェでくつろぎ時間を過ごせる憩いの場として地域に根付きつつあるようです。一方では損をしながら、片方で利益を上げる方式は、ファーストフードや大衆酒場で見られる手法です。ハンバーガーや飲み放題で損をしても、他の商品で利益を上げる仕組みがあります。スーパーなどでも、目玉商品で損をしても、他の商品で利益を上げる方式です。本を愛する優れた経営者が、地域の文化を支える存在になるかもしれません。蛇足ですが、地域の文化は、個々人が支える部分もあります。この部分は、アマゾンなどから購入でも支えることができます。でも、町の本屋さんには、ECサイトにないリアル書店の良さがあります。試し読みをしながら本を見つけ、自分の興味関心のままに知らない本と出会える楽しみがあります。「活字離れ」といわれていますが、若い世代も本は読んでいるのです。
本屋さんが、日本では地方を中心に激減しつつあります。このような状況を憂いて、新しい試みをする本屋さんも現れました。東京郊外の「街の本屋さん」が、公共図書館の本を貸し出すサービスを始めたのです。図書館と本屋さんの垣根を越えた連携強化が、街の本屋さんから始まっているのです。久美堂は、町田市立図書館全8館の書籍を対象に、店頭で受け渡しするサービスを始めました。この久美堂は1945年創業で、町田市内を中心に6店舗を展関する地域密着型の書店になります。受取場所に同店を指定すると、約3日後から、店内レジカウンターで借りられます。利用者は事前にネットなどで予約し、返却は専用ポストに入れるだけになります。手に取って見ることができる本屋さんの強みを生かしたうえで、全国でも珍しい「書店での公共図書館本の受け渡し」を実現したわけです。紙の出版市場が縮小する中、地域の読書文化維持への危機感がご主人にはありました。そして、「地域の読書文化を守りたい」との思いが強かったようです。この新しい試みは、順調に流れているようです。6月の貸し出し利用者数は、約200人、8月は約300人と順調に増加しています。このサービス導入は、市民の皆さんへの利便性の向上だけでなく、書店経営にもメリットが生じています。久美堂はでは6月以降、学習参考書や児童書などの売り上げが前年同月比1~ 2割増えています。図書館では扱わない小学生の勉強ドリルを、「ついで買い」している親子が増えているのです。子どもが何度でも読みたがる名作の読み物を、「ついで買い」しているようです。本屋さんと図書館には「複本問題」があり、良好な関係がなかなか築かれませんでした。これからは、この障害を除く知恵や工夫をひねり出したいものです。
余談になりますが、そもそもまったくなにもないところから新しいものが生まれることはありません。知識を増やし、経験を増やし、意欲高めようと努めれば、新しいもの創る能力が鍛えられます。私たちが生きていく中で得た知識や経験は、脳の中の側頭葉に蓄積されます。脳の前頭葉では、意欲や目標意識、やる気がつくられます。前頭葉と側頭葉がうまく結びついたときに、新しいものを創る創造性やひらめきが生まれます。創造性は、どんな人にとっても必要で大切なものになります。特に、現代ではこの創造性やアイデア産生能力が求められています。創造性は、経験と意欲が合わさって生まれるものです。多くのことを機械にまかせることができる現代社会でこそ、創造性は大きな価値を持つようになりました。創造性を高めたければ、意欲と経験を結ぶ回路がうまく一つながるようにすれば良いわけです。この創造性の脳の回路は、トレーニングで強化することができます。その第一の要素が、読書になるのです。読書を支える地域の環境は、町の本屋さん、公立の図書館、学校図書、そして個人の本棚ということになります。読書や本屋さんに関心を持つとき、いろいろなアイデアが出てくる流れが生ずるのかもしれません。
いま本をネットで買う人が、非常に増えています。書店にはほとんど行かず、アマゾンで本を購入するという人も少なくありません。アマゾンのべストセラーは、全世界の人が見ていますから世界の集合知という考え方もあります。でも、みんなと同じ情報や知識しかなければ、みんなと同じ判断を下し行動を起こすことになりかねません。自分の課題を解決する場合、その課題解決に関与する情報や知識をインプットすることになります。課題に向き合っている人たちは、一般の人と違う判断をするケースが増えます。行動を起こすためには、人とは違う判断材料が必要です。課題解決を求める向上心や意欲がある限り、本屋に行けば、読みたい本を見つける可能性が高くなります。この目的や課題解決、そして知識や経験の蓄積と意欲の観点から、通販による本の購入は書店巡りに比べ、ECによる本の購入は費用対効果が落ちるようです。読書をすると自分のなかに引き出しがたくさんできて、問題意識が生まれます。書店において、本の目次に目を通し、大枠を把握し、自分の知識の引出しの中にある問題意識と運よく本の内容がマッチングした時に、楽しさが生まれます。そんな楽しみを与える本屋さんは、貴重な場所になります。
最後になりますが、本に書かれている内容を深く知るためには、参考文献で調べる知的検証が必要になります。知的検証をスムーズにできる仕組みが、図書館にはあります。参考文献が揃っているのです。ジャンルにかかわらず、多読すると本当に大切なことが見えてくるようです。一定の量を読めば、納得のいく「当たり」の本に出合うことがあります。1冊に向き合うよりは、乱読が推奨される理由になります。また乱読でも、2冊から3冊を併読すると、別々の本に書かれている内容が、干渉しあったり融合しあったりして、新しい理解が生まれます。この新しい理解が、読書の楽しみになります。一方、矛盾するようですが、読書で大事なことはダメな本を読まないことになります。乱読すればダメな本にぶつかることは、宿命のようなものです。その宿命を、少しでも減らそうとする工夫が求められます。その工夫の一つが、まず目次を見ることになります。目次を見れば、その本がどういう内容なのか、どういう構成で展開しているのかがほぼわかります。目次の大枠を押えておくと、理解も早く読むスピードも上がります。内容の大枠を最初の段階で頭に入れば、それに沿って重要な情報を選択し大意を把握することができるというわけです。このような環境が整っているのは、図書館や本屋さんになるわけです。人気の本がどのような参考文献を利用して書いていることを検証する資料が、図書館には揃っているともいえます。ネットによる本の取得は、この点でまだまだ図書館や本屋さんにかなわないようです。