海中のマイクロプラスチック問題を解決する  アイデア広場 その1461

 プラスチックは、自然界の中ではなかなか分解されないという難点があります。この難点が徐々に明らかになり、人類の心配の種になりつつあります。オーストリアのウィーン医科大学のチームは、海洋におけるマイクロプラスチックについて発表しました。日本とオーストリア、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランド、ロシア、英国の8か国の人が、この調査の対象になりました。33~65歳の計8人の便を分析した結果、微小な「マイクロプラスチック」が、日本を含む8カ国の人全員に含まれていたのです。国に関係なく、全員の体から大きさが0.05~0.5ミリのマイクロプラスチックが見つかったというわけです。日本人の摂取量は推定で13万個とされ、世界平均を上回っています。人間1人が摂取する量の世界平均は年間最大約5万4千個に上ると推定されています。食べ物や飲み物を通じて、マイクロプラスチックを取り込んだとみられています。動物での研究によると、消化器で吸収されて血管やリンパ管に入り込む可能性があるのです。どれだけ摂取すれば健康に影響が及ぶのかに関して研究は十分進んでおらず、さらなる調査が必要であるとしています。分かった時には、手遅れになるという失態は許されないことになります。今回が、このプラスチック問題の解決策を考えてみました。

 19世紀半ば、漆や琥珀 (こはく)といった天然樹脂に代わり、夢のような素材が誕生しました。それが、プラスチックでした。丈夫で軽く、食品の保存容器や衣服などに利用が広がりました。プラスチックは、大量生産と大量消費の文化を生んだ立役者の1人でした。この材質は、衣食住のあらゆる領域で使われています。このプラスチックは、幅広く使われているだけに廃棄量も多いのです。国連環境計画(UNEP)によると、毎年約4億3000トンのプラスチックが生産されています。そのうち、約3億5300万卜ンがゴミになっています。世界で使用済みプラスチックは、その処分が問題になっているわけです。特に、細かく砕けたプラスチック片が海洋汚染を引き起こしていることが問題になっています。プラスチックは、丈夫という特性から、時間がたっても消えてなくなりません。この問題の解決策は、原料からプラスチック製品が廃棄されるまでのライフサイクルに視点をあたえることになるようです。

 実は、この海洋プラスチックゴミに関しては、心強い研究があるのです。それは、東京大学と日本財団の研究になります。この研究は、海洋プラスチックごみについての3年間調べたものです。この研究は、「海洋マイクロプラスチックに関する実態把握」、「生体への影響」などになります。このテーマ1は、日本周辺から北太平洋における過去約70年分(1949年から2016年)の微細プラを分析しています。過去約70年分の海水サンプル7,000本を分析し、海水の中に含まれていた微細プラスチックの傾向を調べました。1950年~1980年代までは10年で10倍というペースで海洋プラスチックごみが増えていることが分かりました。長期の継続的な取り込みによる組織の炎症等については、今後のモニタリングが必要ということになっています。この研究成果を踏まえ、さらに実態や影響について解明し、効果的な対策に結び付けていくことになります。そして、2022年度からさらに3年間、海洋プラの事業を継続することとなりました。

 この報告を詳しく見ていくと、1950年代から最近まで、小型のプラスチック(大きさ5mm以下)の割合が増えています。多摩川河口の水棲生物には、マイクロプラスチックが蓄積していることが確認されています。多摩川河口の魚や貝類には、10μm~300μmのプラが蓄積していることも確認されています。報告には、マイクロプラスチックによる生体への影響の項目もありました。これに使われたのは、海洋生物(ムラサキイガイ)でした。ムラサキイガイに、微小なプラスチック粒子を曝露する実験を行いました。ムラサキイガイの場合、粒子が1μ~90μmによって海洋生物体内の滞留時間が異なることが分かりました。小さい粒子(1μm)は、初期の排出は速い一方、一定量は長くとどまります。大きめの粒子(90μm)は初期の排出は緩やかながら、いずれすべて排出されることがわかりました。プラスチック粒子が体内に取り込まれた後は、免疫系細胞にも取り込まれるようになります。これが取り込まれた後は、免疫系細胞の活性化を引き起こします。でも、プラスチック粒子が分解されないため、抗原提示を介した獲得免疫反応には至りません。細菌やウイルスであれば、生体は異物に対して反応し、免疫を獲得できます。でも、マイクロプラスチックの場合は、難しいようです。海水におけるプラスチックの粒子濃度の増加が、生物に炎症などの悪影響を及ぼすレベルに近くなっているとこの報告では述べています。

 人類も、プラスチックの海洋汚染を座視しているわけではありません。植物由来のプラスチックは、「バイオマスプラスチック(植物樹脂)」と呼ばれています。バイオマスプラスチックは、環境負荷が軽い点が注目されています。石油からつくられるプラスチックと違い、時が立てば分解していくからです。問題は、価格になります。種類により異なりますが、石油均来と比べて1.5~5倍ほど高いことが難点になります。一般的な植物樹脂は食料や飼料のトウモロコシやサトウキビなどのでんぷんからつくります。ポリ乳酸(PLA )1トンあたり推計で約1.5トンのでんぷんを必要とし、とうもろこし4万7000本に相当するものです。脱炭素にむけ原油にかわる原料には、大豆などが使われてきた経緯があります。食料確保の立場からは、食糧となる穀物を工業原料に使う乏とを批判する声も出ています。国連の調査では、2020年は7億2000万~8億1100万人が飢餓に直面しています。この数字は、2019年から約1億6000万人増えているのです。人口増加にあわせ、農林水産省によれば世界の食料需要は58億トンと2010年の1.7倍に増えています。気候変動などで、食料不足が深刻になる状況も生まれています。批判する声を意識し、食用に適さない植物素材をプラスチックに使う動きが広がっているのです。

  植物素材の使用では、オランダ化学大手のDSMが工業用途に使うヒマシ油の利用があります。ヒマシ油と、木くずを原料とするトール油を混ぜた原料から植物樹脂をつくっています。日本も、負けてはいないようです。製紙工業の大手である王子HDは、木材チップからプラスチックの一種「ポリ乳酸」の量産を行おうとしています。中間原料を反応させプラスチックとすることで、コストも含め発酵の最適な条件をみつけたのです。原料を木材に置き換え、食糧不足と温暖化対策の両立につなげる一石二鳥の戦略です。木材から、「ポリ乳酸(PLA)」を量産するのは世界初ということです。王子は、紙生産用の設備を一部使える点を生かし、従来のPLAと同程度か、それ以下を目指しています。持続可能性に配慮し、森林の木材を使うという新しい発想です。「ポリ乳酸(PLA)」は、すでに包装資材メーカーからの引き合いがあります。食品包装フィルムなどでの利用を見込み、2023年にサンプル出荷を始めています。国内では、紙需要は減っています。木材チップには余裕が出ており、大豆などと比べ価格は安定して使いやすい仕組みになります。木材を使った持続可能な生産が、植物樹脂を使ったプラスチックにも波及する期待が持たれています。

 余談になりますが、生物の力を借りて汚染された環境を浄化する技術は、バイオレメディエーションといいます。土壌汚染の原因物質には、ダイオキシンやDDT、鉛やカドミウム、セシウムなどがあります。面白いことに、土壌汚染に関わる様々な有毒物質を無毒な物質に分解し、あるいは吸収してしまう菌類もいるのです。菌類の分解酵素には、汚染物質を分解する能力を持つものもあるのです。埋め立て地や自然環境中に廃棄されたプラスチックは、長期間分解されずに残存しています。そんな中に、わずかですがプラスチックを分解できる微生物が発見されています。特に、菌類を用いたバイオレメディエーションは、マイコレメアイエーションといいます。現在、その細菌の活用が求められているわけです。その先駆けとして、米カリフォルニア大学の自己分解を始めるプラスチックが注目を浴びています。この大学は、捨てられた後に自己分解を始めるプラスチックを開発しました。この自己分解プラスチックは、生分解性プラスチックでよく使うポリ乳酸が分解する条件に比べても効率的に分解をします。自己分解プラスチックには、プラスチックを餌とする微生物を練り込んであります。このプラスチックは、使い終わって土に捨てると微生物が目覚める仕掛けなのです。生きた微生物を練り込んでいて、使い終わると跡形もなく分解するわけです。微生物の力で、二酸化炭素(C02)と水にまでバラバラにしてしまいます。セ氏37度、湿度45~55%の条件の下、約5カ月で90%以上が分解したそうです。この話題は、今後の進展が期待されています。

 最後になりますが、プラスチック問題のサイクル視点から見てみると、生産の段階で生分解の仕組みを仕込んでおけば、一安心ということになります。次に、回収を確実に行えば良いことになります。ペットボトルの回収は、順調に行っているようです。他のプラスチックの回収率は、確実に向上しているようです。最後の問題は、今まで放置されていたマイクロプラスチックの回収になります。世界の海に流出したプラスチックごみのうち、約26%(660万トン)は目視できるサイズのプラスチックごみとして存在し、約7%(180万トン)はマイクロプラスチックとして、いまも漂流と漂着を繰り返していることがわかりました。そして、約67%(1,680万トン)は、マイクロプラスチックに破砕されていきます。破砕された後、海水より重い素材のため海底に沈んでいくケースと漂流中の生物付着で重くなって海底に沈んだものなどがあります。1,680万トンのプラスチックは、すでに海岸や海面近くから姿を消したと推計されています。この1,680万トンのプラスチックの処理のヒントが、海洋の植物プランクトンになります。

 海底堆積物には、2兆トン弱の炭素が沈んでいます。これは、植物プランクトンの「死がいの残存物」になります。海洋の植物プランクトンによる炭素固定量は、1年で500億トンといわれています。ここに、海洋マイクロプラスチックの解決するヒントがあります。マイクロプラスチックは破砕された後、海水より重い素材のため海底に沈んでいくケースと漂流中の生物付着で重くなって海底に沈んだものなどがあります。漂流しているマイクロプラスチックを速く海底に沈めれば、人間の食べる魚もプラスチックの摂取が減少する理屈になります。炭素固定500億トンの植物プランクトンに、マイクロプラスチックを付着してもらうのです。その仕掛けは、「レッドフィールド比」になります。

 植物プランクトンは光合成をし、生長と増加するためには必要な栄養塩が必要になります。光合成を行う上で必要とするものは、炭素(C)と窒素(N)、リン(P)の3元素です。3元素の組成(モル比)は、おおよそC―N―Pが106対16対1になります。この106対16対1の比率は、発見者にちなんで「レッドフィールド比」とよばれているのです。鉄は、植物プランクトンの同類である藻類が光合成をするのに必要な器官である葉緑体の形成などに不可欠な物質になります。海は、つねに鉄が不足している状態にあります。106対16対1対0.001の鉄が不足するために、植物プランクトンの繁殖が阻まれているともいえます。これを逆手にとり、高栄養塩・低クロロフィル海域」に鉄分を供給すれば、植物プランクトンが大発生することになるのです。植物プランクトンの発生と再生は、6日に1回というハイペースです。分裂したうちの半数は、死ぬか、あるいは他の生物に食べられます。そして、死んだプランクトンは、海底に沈んでいきます。マイクロプラスチックが多い海域に、植物プランクトンの大発生の仕組みを導入すれば、この厄介者を海底に速やかに進行させることができます。ゼロにできませんが、生物に炎症などの悪影響を及ぼさない程度まで、マイクロプラスチックの濃度を下げることができるようになるかもしれません。

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