日本政府は、旅行産業に期待を寄せています。日本の旅行消費額は、2019年には28兆円になりました。このうちインバウンド(訪日外国人)の旅行は、4.8兆円でした。2020年から2022年にかけて、日本の旅行消費額は、コロナの影響で減少しました。でも、2023年度は、インバウンド(訪日外国人) が新型コロナ前の水準を超えて過去最高を更新しました。観光庁資料では、主要9力国中7カ国がアドベンチャーツーリズムで一番訪れたい国のトップに日本が挙げられているのです。日本には、知られていない自然や文化の資源が豊富にあります。国内の自然体験型コンテンツは、登録されたものだけで約7700にも及んでいます。インバウンドを受け入れる下地は、揃っているわけです。このインバウンドが好調なために、日本の旅行収支が大幅な黒字しなっています。本当に喜ばしいことだと思っていたら、不安な面もあると言う専門家もいたのです。今回は、日本人の旅行について考えてみました。
専門家の不安は、旅行市場が順調に伸びてきたとはいえず、海外旅行者は1996年ごろから頭打ち状態になっている点でした。さらに、インバウンドが好調な半面、日本人の旅行がさえないというのです。実は、1996年頃から、日本人の海外旅行が頭打ちになっていたのです。また、コロナ明けの海外渡航者はコロナ前の6割程度にとどまり、国内の宿泊旅行も前年割れが続いているのです。国内旅行は2泊から伸びず、海外渡航のゴールデンウイークなどの時期は集中する傾向があります。観光政策は、特に航空便を巡る交渉は互恵主義が基本になります。相互に客を送り合う見通しがあってこそ、航空会社は増便に踏み切る決断ができます。外国人が増えて日本人が減れば、航空代や旅先の消費が偏ったものになります。日本人の海外旅行不振は、いずれ訪日客誘致にマイナス要因になっていくわけです。現在の状況は、円安がインバウンドを好調にしている一方、日本人の海外旅行を控えさせているという見方ができます。でも、専門家に言わせると、最大の理由は休暇取得の難しさになるようです。日本の短期的休暇は、長期分散型の休暇が定着する欧州とは対照的ということになります。休暇の長期化や休暇の分散が進めば、旅行者の満足度も観光業界の生産性も上がるとしています。
コロナのパンデミック後、今まで抑えられていた旅行熱が一気に噴き出すという現象が起きています。欧米では、顕著にこの傾向が現れました。その中でも、注目されているものが、アドベンチャーツーリズム(AT)になります。このアドベンチャーツーリズムは、欧米で1990年代以降に拡大し、世界で70兆円を超える市場を形成しているのです。以前の試算になりますが、コロナ前には2023年に130兆円に伸びるとされていました。アドベンチャーツーリズムは、1980年代に自然の豊かなニュージーランドで発達し、欧米で拡大してきました。その定義は、①自然、②アクティビティー、③文化の要素のうち2つ以上で構成される旅行や観光ということになります。ここに流れる思想は、他国を理解したいと言うものになります。以前、西欧と東洋の違いを比較する研究することが行われていました。初期の研究には,ロールシャッハ・テストを使った文化比較がありました。ヨーロッパ系と中国系アメリカ人の比較が、検査図版に対する報告という形式で行われたわけです。ヨーロッパ系は、インク図版の中でも細部に焦点を当て,局所的な箇所に絞って言及する傾向がありました。中国系アメリカ人は、インク図版の全体像について言及することが多かったのです。この傾向は、ロールシャッハ・テスト以外にも見られたのです。たとえば、15~19世紀のアジア圏とヨーロッパ圏の風景画を比べたものがあります。東洋の絵画では,西洋の風景画と比べると地平線の位置が高く、立体感に欠ける絵が多いのです。風景画の比較はアメリカの小,中,高校生、大学生の描画を分析対象とした研究でも報告されています。ロールシャッハ検査や絵画、そして子ども達の比較から、アメリカ文化圏で暮らす子どもは,日本で暮らす子どもと比べ,分析的思考が多いということが分かるのです。外国で暮らすとか外国を旅行するということは、他国を理解し、自国の特徴を知る良い機会になります。
欧米やオーストラリアには、ギャップイヤーという制度があります。この制度は、大学入学前などの若者が留学や長旅で視野を広げることを支援するものです。日本の内閣府が、若者の意識を調査したことがあります。2018年に行われたこの調査では、若者層(13~29歳)の53%が「留学したいと思わない」と答えています。また、2023年に5~24歳を対象に行われた調査では、海外に行きたくない理由の上位の3つが経済、治安、語学力になっていました。韓国や欧米では、20%から30%が留学したくないと答えています。日本の若者の内向き志向が目に見えるようです。海外体験は、異文化への理解力や人脈作りにつながります。留学などの海外体験に乏しい若者の増加は、将来の国力も左右しかねない不安をもたらします。留学や旅行は、国策としても推し進めることが求められます。ドイツやフランス、そして北欧などの政府は、国民の旅を支援しています。その制度的支援は、長期で複数回の有給休暇の取得や学校休暇の分散で国民の旅を後押しているのです。日本も、このことを座視しているわけではありません。パスポート保有率は、2019年の23.8%から2023年は17.0%に低下しています。その処方箋として、自治体などがパスポートの発行費を負担する支援も行っています。また、公立学校の修学旅行費に関する上限規制を見直して、海外に行けるよう検討もしています。日本でも、若者の旅の後押しが始まったように見えます。
Whimは、フィンランド開発された旅行アプリです。Whim は、列車、ホテル、バス、タクシー、自転車シェア、カーシェアなど様々な交通手段を組み合わせて、最適な移動体験を提供する世界初の交通アプリになります。日本は、外国人観光客に人気のある国なっています。これらの観光客は、東京や大阪、京都や富士山といったパターン化した観光地だけを巡るだけでは満足しない傾向が出てきています。個々人が、SNS等で目的地や体験すべきことを事前に学習してから、来日する方も増えています。旅行者が何を望んでいるかが分かれば、そのメニューを提供することは容易になりました。サンフランシスコで、ランチボックスのデリバリーサービスをやり始めた方がいます。普通は、弁当といえば数パターンの中から選んでもらうものが一般的です。彼のランチボックスの中には、ひとつひとつみんな違う具材、各自の好みに合った具材が入っていました。ひとつひとつ違う弁当を作っていたら、コストがかかりすぎて採算がとれないのが普通です。これを可能にしたのは、コンピユータとクラウドソーシングの利用でした。このITツール利用が、ひとつひとつ違う弁当を可能にしたのです。顧客に関するデータを集め、集めたビッグデータを分析すると、多種多様なランチボックスを無駄なく作る食材が分かります。無駄なく作る食材が分かるために、何をどれぐらい仕入れればよいのか計算できます。彼は、これを実践したわけです。旅行客が何を望んでいるかを把握できれば、その交通手段やホテル、それにかかる時間や費用を提示することが可能になっているようです。
さらに、利便性は向上しつつあります。ここにきて、旅行に利用するツールも増えつつあります。それは、マッチングサービスになります。中国の料理宅配では、割安に注文や宅配してもらえる「共同購入サービス」が支持を広げています。試しに、記者が調理宅配のアプリを開くと、まず飲食店が提供する対象メニューの一覧が表れます。頼んだチャーハンのセットは16元(約320円) で、普通に注文した場合の半額でした。この安くできる理由は2つあります。飲食店は1回の注文で2人以上に売れるので「薄利多売」が可能になります。1回で2人以上に宅配できるので、注文ごとに別々の利用者に届けるより配送効率が高くなります。「薄利多売」で、販売価格を下げられることが、1つの理由になります。もう一つは、配達員も1回の注文で2人以上の利用者に宅西配でき、収入が増えます。料理を選んで注文ボタンを押すと、同じメニューを注文したい他の利用者の募集が始まります。共同購入を早く成立させるために、近隣の利用者同士を素早いチングが必要になります。驚くことに、マッチングは約10秒で完了し注文が成立したのです。アプリ上で配達員の動きを観察すると、最初に店で料理を受け取ります。次に、まず別の注文者に届けて、その後で記者が指定した場所に届けたことになりました。このマッチングシステムを、旅行に応用できないものでしょうか。
最後になりますが、コロナのパンデミックは、学校教育にも大きな影響を与えました。小学校の授業時間数は、「小学校学習指導要領」で決められています。たとえば、小学校6年間に習う総授業時間数は5785コマ時間になります。コロナで、学級閉鎖や学校閉鎖により、この授業時間数が、今までになく削られたのです。結果として、学習の遅れた学校やクラスがあった一方で、遅れることなく学習能力を高めた子ども達もいました。ある意味で、個人の努力や工夫で、学習を効果的に進めることができれば、学校の学習に遅れは生じないということが分かったわけです。愛知県や大分県別府市で、2023年度の2学期から導入されたラーケーョンは面白い制度になります。ラーケーションは、自宅で勉強しても良く、目的があれば自由に過ごすことができる制度です。この制度は学校を休んで、家族や友人とテーマパークに行っても良いというものです。この制度が全国的に導入されれば、面白いことになります。ゴールデンウイークにのみ、海外旅行が行われていた流れが変わる要因になります。家族が休暇を取れた時、いつでも学校を休んで海外旅行ができる環境が整うからです。さらに、旅行プランは、Whimのようなアプリを使えば、自由にプランを決められます。そして、プランを決めてマッチングサイトに共同旅行者を募集すれば、すぐに旅に出られる環境が整いつつあるのです。もちろん、航空便を巡る関係は、互恵主義が基本になります。相互に客を送り合う見通しがあってこそ、お互いに利益を上げることができます。一方の国だけが、黒字ではいずれ衰退していきます。このマッチングサービスは、お互いの国が利益を上げられるような配慮が求められます。この配慮は、技術が解決してくれると信じています。