世界的に顕著になっている気温の上昇が、大きな問題を内包していることが明らかになりつつあります。WHOは、19世紀後半と比べて2023年の世界の平均気温は約1.4度上昇すると見通していました。さらに、この報告書では、予測死亡率も掲げています。悲しいことですが、予測死亡率が2013~2022年には、1991~2000年より85%も増加しているのです。この85%増えているとしたデータをもとに、気温が2度上昇したときを推定しています。その推定によると、2041~60年には65歳を超す高齢者の熱に関連した死亡率は、2014年の4.7倍になるとしています。温暖化が、体だけでなく心の健康に影響するかもしれないという統計報告も次々に出てきています。中国の復旦大学の発表の論文が、注目されています。この論文は、熱帯や亜熱帯地域で年平均気温が1度上がると暴力が4.5%増えるとしているのです。この研究対象は、インドなどになります。2010~2018年に、インド、ネパール、パキスタンなどの約19万人について体や精神、性的な暴力の頻度を調べました。これらの19万人の人々は、ほとんどが年平均で25度を超える場所に住んでいます。この地域で、年平均気温が1度上がると、妻などパートナーの女性への暴力が生5%ずつ増える状況が生まれたのです。21世紀末に世界の平均温が3.3~5.7度上がると,この地域での暴力は21%増えるというショッキングものでした。この報告を裏付けるように、ハーバード大学のクラス・リンマン博士は暑さが短絡的な問題解決に走りやすくなると付け加えています。温暖化を止める環境対策が、まず必要です。同時に、暑さ(温暖化)から個人を守る対策も大切になります。今回は、この2つの対策に取り組む国や地域を探ってみました。
東京都は断熱材を使うことにより、この2つの対策を同時に解決する工夫をしています。住宅の断熱性を上げることで、冷房に使うエネルギーの削減が見込まれます。東京の住宅の半分は、集合住宅になります。この集合住宅への断熱対策が、温暖化ガスの削減に大きな効果をもたらします。東京都は2025年度から、賃貸住宅の断熱改修を2030年までに約100万戸を目指す事業を始めました。この100万戸を目指す事業で、2025年度の予算199億円を計上しています。たとえば断熱窓の場合、3万戸を対象に経費の3分の2まで助成します。上限は、1戸あたり30万円になります。都は、断熱改修に詳しい民間業者を「コンシェルジュ」に任命する制度も取り入れました。このコンシェルジュは、改修前に相談に乗ったり、建物の断熱性能の資料を基に解説を行ったりします。「コンシェルジュ」に任命して、賃貸住宅オーナーを伴走支援する体制を整えました。東京都は、賃貸住宅のオーナーに断熱改修に関する説明会を開いています。断熱化の取り組みを拡大していく中で、温暖化ガスの削減と個人の健康を守る対策になるようです。
日本政府は、2050年を目標に温暖化ガス排出の実質ゼロに取り組んでいます。この目標に近づく自治体もあるのですが、難しい自治体もあります。特に、工業地帯といわれる地域では、難しい面があります。その1つに、京浜工業地帯の心臓部を抱える川崎市は、温暖化ガス排出量が政令市でワーストの記録になっています。2019年度の温暖化ガス排出量は、2139万トンになり、人口が2倍以上の横浜市も上回っています。この川崎市は、同じレベルの人口規模である福岡市や京都市の約3.3倍の温室効果ガスを排出しているのです。川崎市は、2030年度の温暖化ガス排出量を2013年度比で,50%以上削滅する目標を掲げています。様々な脱炭素の取り組みを進める中で注目される点は、電力の地産地消を目指した取り組みになります。そのーつが、地域エネルギー会社の設立し、その運営に参加することです。川崎市でも、民間企業と連携して脱炭素の取り組みが始めています。川崎市は、NTTアノードエナジーや川崎未来エナジーと共同で、24年4月から電力供給を始めました。主に、川崎市内3カ所のごみ.焼却施設で生んだ電力を調達する方式です。ごみ処理施設で生まれた電力を、小学校などの教育施設や区へ役所、消防、保育施設など25年4月時点で251施設に供給するようになりました。
川崎市の努力は、産業関連の排出量が26%の減になり、運輸関係も29%の減になるという形で成果を上げつつあります。川崎市は産業分野への対策にはかねて力を入れて、その成果を確実に上げてきています。でも、家庭の努力が今一つということになるようです。そこで、家庭からの排出削減に踏み込むことになりました。そこで、川崎市は2025年度から、戸建て住宅に太陽光発電設備の設置を義務付ける方針を決めました。戸建て住宅などには、太陽光発電設備の設置を義務付ける条例改正案を市議会で採決したのです。もっとも、すべての電力を再エネでまかなうのは厳しいことです。でも、地域内でできることはやるのが責任だという問題意識を持ったわけです。2020年の市内の戸建て住宅は、建築受注件数が3400件になります。太陽光発電を導入するためには、ソーラーパネル以外にもさまざまな設備を組み合わせる必要があります。2021年における住宅用の太陽光発電システムの設置費用は、3kWが 84万円で、5kW が140万円になります。川崎市の他にも、義務化をする自治体が出てきています。たとえば、京都府は2022年4月から延べ床面積300㎡以上の新築・増築時に、再エネ設備の設置を義務づけています。これからは、環境を重視する自治体が家庭の排出量削減に相次いでカジを切っていくことが予想されます。蛇足ですが、川崎市は環境省が選定する「脱炭素先行地域」にも選ばれており、モデル事業となる政策を進めているところです。
都市部以外にも、いろいろな形で、温暖化ガス排出削減に取り組んでいる自治体があります。その一つである群馬県も、脱炭素に向け様々な手を打っています。「地産地消型PPA (群馬モデル)」は、県内事業者の脱炭素化を後押ししています。それは、県営の水力発電所から県内事業者に電力を供給する群馬モデルになります。県企業局は33の水力発電所を持ち、年約8億キロワット時(再生可能エネ)を発電しています。これを、県内の事業者に提供する施策です。2026年度には、この供給量が第1弾、第2弾と合わせ最大で年4意キロワット時となります。さらに、PPA第3弾では、1事業者あたり最大で年5000万キロワット時を供給する予定もあるようです。さらに工夫をすれば、供給量を上げる仕組みも、可能になるようです。現在ある33あるダムを嵩上げすることで、貯められる水量が増え、発電能力も増大します。北海道の夕張シューパロダムは、高さが67mでした。ここに43mの嵩上げし、110mにした事例があります。このシューパロダムの嵩上げにより、貯水容量は、8700万㎥から4億3000万㎥に増えたのです。一般的に、100mのダムの嵩上げを10mすると、発電能力はほぼ倍増することになります。10%の嵩上げは、ダムをも一つ造るのと同じ効果があるのです。ダムの高さを約1.5倍にすることで、貯められる水が5倍近くにまで増えるわけです。その嵩上げの費用は、初期のダム建設費用の3分の1以下で完成するのです。全国のダムの試算では、運用の改善と嵩上げだけで、343億kwhの電力量を増やせるとの数字がでています。
群馬県では、再生エネの試みは、次々に出てきます。群馬県上野村も2023年度に脱炭素先行地域として組みを開始しています。省エネルギー化の組み合わせで、村内の民生部門の電力をすべて再生エネに置き換える試みをしました。その結果、公共施設への太陽光パネル設置は一巡し、今は村営住宅など住宅への設置を進めています。上野村は、面積の95%を森林が占めています。2026年度以降は、この豊富な森林資源を生かす計画です。豊富な木材を活用し、木質バイオマスコージェネレーション(熱電併給) の導入です。未利用材のチップを燃料とする木質バイオマス熱電併給の設備を5台導入する予定です。この設備が導入されれば、発電量が一気に増えることになります。太陽光は、夜間は発電できないが、コージエネ設備が稼働すれば、昼夜を通して発電が可能になります。群馬県東部の板倉町でも、面白い試みをしています。板倉ニュータウンでは、太陽光発電できた電力で、水を電気分解して水素を作ります。この水素を貯蔵して、需要に応じて水素燃料電池で電力を作って、住宅に供給しようとしているのです。
最後になりますが、78年間にわたり平和を享受してきた日本が、戦争のリスクに目覚めたのはロシアのウクライナ侵攻でした。ロシアの2年にわたる攻撃で、平和憲法を享受してきた日本の人々も、現代における戦争の姿がおぼろげながら理解できるようになってきました。これからの戦争は、武力戦と非武力戦をミックスしたカクテル式の戦争になるということを理解しました。カクテル式の戦争には、貿易戦、金融戦、新テロ戦、生態戦、心理戦、密輸戦、メデイア戦、麻薬戦、ハッカー戦、技術戦、資源戦、経済援助戦、国際法戦などがあります。私たちは、あらゆるものが戦争の武器になるという認識を持つことが求められます。ロシアはウクライナ侵略戦争で、石油と穀物、そして肥料を武器として使用しています。穀物の自給やエネルギーの自給は、必要不可欠であり、それを確保することが求められます。各地域内に、穀物やエネルギーが自給の仕組みであれば、心強いものになります。