温暖化防止と食糧安保を同時に解決する昆虫 アイデア広場 その1490

 国連によると、世界の人口は2050年段階で97億人と2021年に比べ23%増えると予測されています。人々が増えると、食の満足を第一に求めるようになります。炭水化物はもちろん、特にタンパク質に対する要求が強くなります。牧畜や漁業だけでは、このタンパク質の供給が心配されています。現在、増え続ける人々へのタンパク質を供給する資源として、昆虫に注目が集まっています。世界の国々の中には、この昆虫の利用へ着手している企業が現れています。フランスのインセクトは、2011年創業で、「ミールワーム」という昆虫の幼虫を大量に飼育の技術を持つ企業になります。この企業は、2023年には世界最大となる年10万トン規模の新工場を仏で稼働し始めています。インセクトは、メキシコなどでの大規模工場建設の検討も始めています。このインセクトと日本の丸紅が、日本市場への展開で協業する基本合意を結びました。丸紅はインセクトと共同で、マダイやブリといった養殖魚の飼料の開発にも共同で進めことになります。日本国内にも、この種のスタートアップがあります。長崎大学発のスタートアップ、「ブーン」は昆虫の幼虫を育成する研究を始めました。このブーンは、独自の方法で「ミールワーム」の幼虫を育成する仕組みを開発しています。ブーンは、コンテナ型の装置を使う点が特徴で、環境負荷やコストを抑えることができます。現在は、ミールワームの加工工程を改良することで、日本で養殖する魚種に合った餌の開発を進めています。今回は、昆虫の新しい利用方法を、少しだけ深めてみまいした。

 昆虫に注目する起業が、次々に現れているようです。ススタートアップのスーパーワームは、畜産飼料の原料となる「甲虫の幼虫」の量産に乗り出しています。甲虫の幼虫は、大豆やトウモロコシに代わるたんぱく源となるのです。スタートアップのスーパーワームは、西都古墳群で有目な宮崎県西都市にあります。宮崎県内に新設する延べ床面積600㎡の工場で、「スーパーワーム」と呼ぶ幼虫を量産します。大豆やトウモロコシと比較すると1万㎡あたりの生産量は1万倍にできるという触れ込みです。スーパーワームは、小動物のペットの生き餌などとなる「ミールワーム」」の近縁種になります、これの特徴は、生育の早さと個体の大きさになります。一般的に、ミールワームが商品化できるまで育つのに6カ月ほどかかります。でも、この「甲虫の幼虫」は、商品化できるまでに育つのに、6週間ですむのです。さらに、ミールワームの10倍程度のサイズになり、その体長6センチメートルまで成長します。スーパーワームの生産量は、年間100トン規模となるようです。まず、宮崎県や鹿児島県内の養豚業者向けに供給し、その後は、水産養殖の飼料としての用途も開拓することになります。

 昆虫は、ミールワームだけでなく、ハエの種類にまで及んでいます。福岡市で2016年創業したムスカが、ハエの一種である「イエバエ」を使った魚の飼料を開発しました。これは、植物工場と同じように工場で育てられます。ムスカは、畜産農家から出る家畜の糞や食品工場から出る残りカスを利用して、飼料や肥料を作る仕組みを開発しました。ムスカのイエバエを活用すれば、家畜の糞などが1週間程度で飼料や肥料になります。有機廃棄物1トンに対して、300gのイエバエの卵で、飼料や肥料を生産することができるのです。イエバエの卵で作った飼料や肥料は、畜産農家や魚の養殖業者に供給されています。この幼虫を乾燥させた商品を養殖飼料に5%を混ぜると、養殖魚のサイズが大きくなるということです。一般的にマイワシやカタクチイワシの餌魚の価格は、変動が激しいのです。変動の激しい飼料は、養殖経営にはマイナス要因になります。イエバエの飼料は、安定供給できる強みがあります。イエバエの排せつ物は、有機肥料として利用できるのです。家畜の排せつ物は、全国で大量に発生し、その量は毎年8000万トンに上ります。養魚場で使う飼料の材料は、ほぼ無限にあると考えても良いのです。もちろん、畑に必要な肥料も、ムスカを媒介とすることで無限に供給が可能になります。このことから、面白いクローズドシステムが考え出されます。養殖場と植物工場、そしてイエバエの繁殖施設を隣接に作り、養殖場の汚染水とイエバエの排泄物を植物工場で使用します。排出される汚染物質は、植物工場の肥料として利用するわけです。養殖漁は大きく育ち、農作物は豊富に収穫され、外部には汚染物質を出すことのないクローズとシステムが、完成することになります。ムスカのイエバエは、夢のある昆虫になるかもしれません。

 昆虫食や昆虫飼料は、地球温暖化の軽減にも貢献する可能性があります。二酸化炭素(CO2)は、地球を暖かくするという理由で、嫌われる気体になっています。脱炭素の流の中、CO2を排出するタンパク源には逆風も吹き始めています。地球温暖化を促進しているのは、工場や自動車から排出される二酸化酸素だけではないのです。メタンガスはCO2の約25倍の温室効果があり、近年その影響の大きさが指摘されるようになりました。牛がゲップする光景は、愛嬌があるものです。この牛のゲップに、メタンが多く含まれることは畜産を学ぶ学生なら誰でも知っていました。驚くことに、世界の温暖化ガス排出量の3割を農業分野が占め、うち8割近くが牛のゲップに由来するといわれるようになったのです。このような情況の中で、昆虫タンパクは生産段階でのCO2排出量を抑えられるため、持続可能な飼料として注目されるようになりました。昆虫からタンパク質1キログラムを得る場合、排出される二酸化炭素量はほぼゼロとされています。牛を育てる場合、メタンを排出します。温暖化を阻止するタンパク源として、昆虫の活用が進んでいるのです。昆虫の活用には、食用と飼料があります。EUでは、ミールワームやトノサマバッタ、コオロギが食品としての域内販売が認可されています。デンマークでは、バッファロービートルという昆虫の幼虫の粉末を活用した菓子などを販売しています。もっとも、主力は養殖などの飼料に利用されることが多いようです。

 余談になりますが、お話は中国の豚に関することになります。中国で、豚の飼育頭数と豚肉価格が周期的に上下するピッグサイクルが繰り返されてきました。現在、中国の食卓に欠かせない豚の価格低迷が続いているのです。豚肉価格は、直近ピークだった2022年10月には26元前後の高値を付けていました。その豚肉価格が、2022年末には15元近くになり、4割も下落したのです。当然、生産者は困りました。2023年以降は20元を下回って推移しているのです。大連商品取引所の豚肉先物の価格は、1キロ 14元半ば(約310円)になっています。この低迷で、大手養豚企業の体力もそがれています。年間6000万頭以上を出荷する最大手の牧原食品は、1月、2023年の業績が赤字になったと発表しています。中国の飼育頭数削減は、飼料向けの大豆などの輸入需要が減ることに繋がります。この削減は、世界の穀物市場にも波及をもたらします。現在は、豚肉の過剰供給になっているわけです。中国政府も、供給過剰の解消策を立てています。供給過剰の解消が着実に進めば豚肉価格の押し上げ要因になります。現在の中国は、ピッグサイクルが繰り返される環境にあるわけです。ここからが、余談の核心になります。飼育頭数削減は、飼料用のトウモロコシや大豆などの国際相場に価格下押し圧力がかかります。大半を輸入に頼る日本が、より安価に品質の高い穀物を入手しやすくなる可能性が出てくるわけです。この時、安い穀物を安易に買い入れて、昆虫生産インフラへの資金投入を怠れば、食物や飼料の安全保障が構築できないことになります。日本の企業は、昆虫生産の国内改革を停滞させないことが大切になります。

 昆虫の研究や生産に、資金を投入する機運が出てきています。昆虫に関して、日本には強力な資源が存在しています。日本の林業は、伐採できる森林を豊富に抱えていることが強みになります。日本の人工林の蓄積量が、戦後の17億㎥から現在は49億㎥に増えているのです。日本の森林面積は、2500万haで、年間成長量は約1億㎥になります。その中で生産している木材は、3400万㎥に過ぎません。使用量をはるかに上回る森林の増加量があるにも関わらず、日本の林業はそれを生かし切れていません。ここに来て、面白い飼料の開発が見られます。京都大の研究グループは、シロアリに間伐材を与えて養鶏用飼料をつくろうとしています。京都大の松浦健二教授は、2020年1月、鹿児島県の山林でオオシロアリの巣を採集して持ち帰りました。体長1センチほどのオオシロアリ数百万匹が、木の葉の中で動き回っています。シロアリは巣から逃げることなく生活し、飼育に手間がかからないのです。1キロの間伐材を餌にして、約45グラムのオオシロアリが育つのです。このシロアリには、高タンパクで脂肪分や繊維質も多く含まれています。シロアリは、養鶏用飼料として一般的な大豆かすや魚粉と比べて栄養分の遜色はありません。このシロアリはそのまま鶏に食べさせたり、冷凍乾燥により粉末にして他の飼料と混ぜて利用ができるのです。森林は、日本では数少ない自給できる資源になります。余剰資源を利用できる地方で、シロアリの生産と林業を融合することも可能になります。山林に放置されている間伐材を有効活用し、鶏肉と鶏卵の生産に結び付ける発想は楽しいものです。

 最後になりますが、食用や飼料としてのシロアリの利用も面白いのですが、燃料の地産地消としてのシロアリ利用も面白いようです。間伐材を放置しておくと、森の生態系を崩すという指摘がされるようになりました。そこで、間伐材の有効利用が考えられたわけです。間伐材の伐採から運搬まで、いかに効率的に行うかが課題になってきたわけです。バイオマス発電の場合、1キロワット時当たり30円になります。間伐材や未利用木材は、2000万立方メートル(約400万トン)が毎年発生しているのです。間伐材4万トンで、1億5千万円の売電利益を得ることができます。理論的には、400万トンの間伐材で、150億円の売電利益を得ることができます。でも、運搬する距離が100㎞を超えると輸送費の関係で不利になります。バイオマス発電より有利な案はないかと考えてみました。シロアリと間伐材の融合が、その一つになります。間伐材をシロアリのエサにして、そこから鶏のエサを作り出す仕組みになります。さらにそこに、エネルギー資源の獲得という要素を加味したら、面白いことになります。シロアリの消化官は、植物の木質分解速度が猛烈に速いという特徴があります。高等植物を構成している植物の3分の1は、セルロースからできています。木材には、セルロースが50%以上含まれています。このセルロースを分解できる動物が、シロアリなのです。多くのシロアリの消化管には、原生動物が共生しています。この消化管の中には、原生動物やバクテリアなどの菌類が数百種類以上共生しているのです。この菌類の中には、空気中の窒素を固定化できるバクテリアも住んでいます。この窒素をアミノ酸にして、シロアリに提供しているのです。また、セルロースを原生動物に分解してもらいながら、それをブドウ糖に変えてもらってもいるのです。もちろん、そのブドウ糖はシロアリに提供されていきます。そして、最後の知見になりますが、その微生物の中には、セルロースを食べながら水素を発生させる菌がいるのです。シロアリの中に住むこの微生物の発酵能力は、A4一枚の紙から、水素2㍑生み出すことができます。シロアリを育てる中で、この微生物を培養し、その過程で水素を生産していけば、ニワトリの肉という食物の獲得と水素エネルギーの獲得の両面から、温暖化と食用の獲得という人類の課題が少し解決できるかもしれません。

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