IMF(国際通貨基金)のデータで全世界のGDPを見ると、世界の経済は拡大を続けていることがわかります。1980年のGDP は、11.1兆ドルでした。この世界のGDP が、1990年には23.4兆ドルとなり、2000年には33.8兆ドルとなります。さらに、2022年における世界のGDPは95.8兆ドルになっています。この40年ほどで9倍の成長を示しているのです。全世界のGDPの年平均増加率は、5%強にもなっています。それでは、世界の中で日本の位置づけはどうなっているのでしょうか。2023年12月25日に内閣府が発表した2022年の1人当たりの名目GDPは、ドル換算で3.4万ドルとなっています。さらに円安の影響で前年の4.0万ドルから大きく減らし、G7で最下位になっています。日本は、比較可能な1980年以降で最も低い数値となりました。スイス8万ドル、ルクセンブルク10.5万ドル、アイルラン7万ドルなどと比較すると、厳しい状況にあります。経済を成長には、労働力が増えること、資本の蓄積が進むこと、技術が進歩することが必要になります。日本は、労働力が不足している以外は、資本も技術も一定程度持っています。この資本と技術を海外で活用すれば、復活の可能性を持っています。生産活動を海外移転すれば、そこで生じる収益は、配当として日本に環流します。そこで、海外で企業が収益を上げ、配当を日本に還流する仕組みを、探ってみました。
今回の円安を上手に乗り切った企業が、キッコーマンになります。日本企業は、欧米企業と比べて為替に悩まされやすい体質にありました。キッコーマンも、輸入では円高や円安の為替変動に悩まされた企業の一つでした。キッコーマンは、原料をドル建てで輸入するために、円安局面では輸入コストが高まります。そのようなリスクを軽減するために、原材料を世界各地で調達して製造し販売する仕組みを作りました。いわゆる、事業体制のグローバル化を推進したわけです。キッコーマンは、しょうゆを国内から海外に輸出しません。しょうゆは、液体でかさばり、輸送コスト高いという理由です。現地で大豆などの原料を調達し、工場を作ってそこで日本の麹を使ってしょうゆを作れば良いわけです。地産地消は、最も優れた為替リスク対策になります。さらにグローバルの手法は、磨きがかけられていきます。キッコーマンは、米国で肉の照り焼きを普及させるなど、現地の食文化にしょうゆを浸透させていきます。現地に根ざし、現地のニーズをくみ取ることも効果的です。キッコーマンは、世界で需要を掘り起こし、海外の利益をこの10年で4倍弱にしています。
日本の少子化から波及する人手不足は、現在だけでなく、将来にわたる不安をもたらしています。このような状況を回避するために、内需産業の外食が、成長のために海外シフトを急ぐ状況が生まれています。ある調査によると、2024年度以降に海外出店を拡大する意向を示す外食企業が44.3%になっています。今後、海外出店を「積極化する」と答えた企業は44.3%と前回調査から16.7ポイ上昇しているのです。業態別に見ると、ファストフードでは、61.5%が海外出店を増やす考えを示しています。今後出店を予定する地域では、米国が48.7%と最も多く、ベトナムが35.9%で続いいます。ベトナムは、今後も経済成長が続くと期待されています。日本の店舗でアルバイトなどとして働くべトナム人が多いことから、人材を確保しやすいと言う目論見があるようです。米国は、世界で最も消費の盛んな国になります。そこで、成功を収めれば、世界の企業の成長することも夢ではなくなります。くら寿司は、30年までに海外店舗数を2023年度の約4倍となる400店にする目標を掲げています。業態別に見ると、回転ずしでは海外展開している4社全てが、増やす考えを示しています。吉野家ホールディングスは、前期比9%増の125店の海外出店を計画しています。草木も、海外へ、海外へとなびく流れができてきました。
外食産業が、外国の消費者に上手に切り込む手法を考えてみました。そのヒントは、フードデザートになります。このフードデザートは、英国政府が名付けたものです。都心部の一部地域で、食料品店が廃業している現象をいいます。このフードデザートは、生鮮食品が入手困難な地域を指します。この地域の住民は栄養状態が悪化し、健康を損ねるリスクを抱えるようになります。英国だけでなく、米国政府もフードデザート地区へのスーパー誘致の支援に取り組んできました。都心部のファストフード店での食事も多く、肥満が問題になっていました。アフリカ系黒人層やシングルマザーなどは、都心部のファストフード店での食事が多くなりがちです。大都会には、手ごろな食品店がないためです。移民や単純労働者などの社会的弱者は、雑貨店などでの買い物を余儀なくされています。米国では、2019年の調査によると、人口の17%に相当する5300万人以上が食料品店から離れた地域に住むと分析されています。もし、日本の外食産業がフードデザート地区の救世主になれたならば、これらの人々や政府から歓迎される企業になります。栄養バランスの良い日本のファストフードを提供できれば、これらの地域で歓迎されることでしょう。
今では、高級料理の代表にまで登り詰めたお寿司ですが、普及時には粗末な料理という評価でした。江戸中期ごろ、定置網漁が発達し、マグロが本格的に漁獲されるようになります。天保の末期には、大漁にとれたマグロが売れ残ったので、捨て場に困る事態が持ち上がりました。現在、珍重されているトロのにぎりは、屋台すしから発達したものなので、上品とはとてもいえないモノでした。獲れ過ぎて困ったマグロを、馬喰町の恵比寿ずしが、すしネタに使ったところ、好評を得たということになっています。マグロが本格的に漁獲され、醤油産業が発達し、ここにワサビが加わり、江戸の町で握りずしはたちまち一世を風塵することになりました。近年では、回転ずしが「すし文化」の一翼を担いつつあります。少し前までは、「さび入り」「さび抜き」が皿で区別されるなどしていました。現在では、全ての店舗で最初からはワサビを加えない「さび抜き」が基本になってきています。高級料理の拡散と融合が、現代社会では進行中というわけです。和食が、世界的に受け入れられている状況があります。各国のお寿司を見ると、かなりアレンジされた大胆な寿司の姿が見られます。江戸時代のマグロずしができたころをほうふつさせます。高級食材を使った寿司もできるでしょうが、江戸時代のように捨てるマグロのような食材を使った寿司もできるかもしれません。
余談になりますが、お寿司に冷凍テイクアウトの手法を取り入れることはできないでしょうか。肥満を防ぎ、糖尿病などの予防には、バランスの取れた3度の食事が求められます。ある意味、自立心を持ってフードデザートに立ち向かう姿勢も必要になります。1日3回の食事を上手に作って、きちんと食べて体調を整えれば、社会は健全になります。肥満の理由は、食料品アクセス困難に加えて、「献立作り」や料理がめんどうになることが一つの原因のようです。この原因を取り除く工夫に、冷凍というワザをとり入れることがあります。冷凍の技術を取り入れれば、食材の大量保存が可能になり、食材のムダが省けて、段取り力はさらに高まります。食材は冷凍しても、栄養価の変化は少ないのです。一番調理に手間がかかるのは、野菜になります。ひと手間加えてフリーザーバッグに入れた冷凍野菜を、10種類ほど常備しておきます。常時、10種類程度の野菜を冷凍保存しておき、調理に1人分だけ使う料理法です。訪問販売などから、まとめて買い物をして、小分けして冷凍保存しておくのです。自分の健康のため、未来のために、そして社会のために、食材に向き合い、ムダなく使い切る料理を心がけるわけです。お寿司屋や牛丼にこのような冷凍の仕掛けをすれば、フードデザートの解消の一助になるかもしれません。
最後になりますが、再度為替リスクのお話しになります。為替リスク管理は、地産地消型のほかにもあります。日本には、世界から素晴らしいと認められている中小企業が数多くあります。先端技術に必要な部品を生産では、世界ナンバー1もあります。大企業でもまねをできない技術を、中小企業は持っているわけです。他社がまねをできない量産を安定的に行っている企業は、優良企業といえます。量産を安定的に、そして長期に行っている企業は、さらに優良企業でしょう。他社がまねの出来ない量産技術を、数多く蓄積しているからできることなのです。もっと優良な企業は、「我が社の言い値で買ってもらっています」という会社です。さらに、その言い値をドルではなく円建て行っている企業は、超優良です。たとえば、半導体製造装置のように日本から輸出しても、円建てで取引し為替リスクを負わない例もあるようです。しょうゆの国際化を見ると、キッコーマンは為替対策として円建て輸入おこなう改善の余地があるようです。米国は、輸出入ともにほぼ米ドル建てになります。欧州も、通貨ユーロがあるため各国の輸出入は7~8割がユーロ建てです。中国も、人民元建てのエネルギー輸入に動いています。日本企業は、アジアに供給綱を築くために米ドルに頼ってきた経緯があります。ここに来て、ドル建ての弱点も見えてきました。物価高への影響が大きい原油も、ドル建てでの輸入になります。中東側が原油輸出で円を受け取り、その円を支払いに回す仕組みができればハッピーです。円がもっと使われ、取引相手が円を受け取りやすくする必要もあるようです。