理数系の能力を維持向上させる仕組み  アイデア広場 その1523

 PISAの数学の成績と国の経済成長や生産性は、正の相関性があるとされてきました。高校1年生まで日本の高校生は、数学リテラシーにおいてOECD加盟国でトップクラスにあります。この説から引き出される結論は、経済成長や生産性が高いと言うことになります。でも日本の場合、この関係が成り立たないのです。日本の1人当たりのGDPは、OECD加盟国38ヵ国中21位というものです。日本のPISA数学スコアと労働生産性成長率の関係は、正の相関関係から逸脱しているというわけです。その理由は、高校教育と大学の文学系優位という構造の中にあります。1つは、高校2~3年で数学の学習を辞める生徒が多いために、経済成長の正の関係が成り立たないということになるようです。高校2~3年で文系選択の生徒が数学の授業を減らすために、子ども達の数学リテラシーが衰退しているのです。応用数学やコンピユーターサイエンスに必要な数学Ⅲを履修している生徒の割合は、21.6%にすぎません。つまり、日本の子ども達は、高校の1年までは世界的な数学の頭脳を持っています。でも、生かし切れていないのです。この頭脳を生かせば、経済成長や生産性を高める可能性を持っているわけです。

 もう一つの大学側の理由は、第1次ベビープームにありました。1960年代、第1次ベビーブームの影響で大学進学者が急増しました。大学進学者が急増による文系の増加が、今に続く人材編成の偏りを生んだともいえます。設置費用が少なくて済む私立大学の文系学部を受け皿にしたことが、理系の少ない原因になります。日本は2022年度で学部生の45%、私大に限れば、51%が人文や社会科学に集中する文系の大国になってしまいました。学部入学者に占める理工系の割合は、19%程度とOECD加盟国平均の27%を下回り、ほぼ最下位になっています。もっとも国も、この不均衡に対する対策を怠っているわけではありません。文科省は、3000億円の基金を設け理系学部の新増設を促す施策を行っています。でも残念なことですが、この施策がスムーズに運営されていないのです。文科省が支援先に選んだ私大109校の中には、早くも計画を断念する大学が現れています。大学関係者からは、「そもそも理系を目指す高校生が増えないと厳しい」との悲観的声が聞こえてきます。高校での理系を希望する生徒の減少により、大学側も理系を増やす対策に苦慮しているわけです。文科省の要請を受け入れて、理系の学部を増やしても、学生が集まらないと危惧しているわけです。高校には、文系志望者が多くいます。文系の志願者の減少を恐れて入試に数学の出題を避ける大学も多いのです。この改革は、高校の側と受け入れる大学が理数系の授業をいかに上手に行うかにかかっているようです。

 社会の要請があれば、それに応える大学や高校が現れるものです。中央大学の前身は、明治18年(1885年)創設の法律学校になります。中央大学は、法曹界に多数の人材を輩出し文系イメージの強い大学になります。その中でも、食やビジネスに関する法律や社会科学的な知識を持つことでも知られています。この中央大が、理系の要素を強めようとしています。その目玉が、2027年開設を予定する農業情報学部(仮称) になります。この学部は、農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)にも貢献できる人材を育てることを目的にしたものです。さらに、工夫を加える大学もあります。早い段階で文系と理系を分ける教育をやめないと、デジタル社会の人材需要に対応できないと危機感を持つ大学もあります。北海道大学は、2020年からプログラミング言語「Python(パイソン)」の学習を1年生の必修にしました。パイソンは、高度なデータ分析やAI開発など幅広い分野で利用できる言語になります。これからのデータは、世界の人々と課題の解決策を考える際の共通語になり得るものです。北海道大学の必修化の影響なのか、最近は文系学部出身の学生が大学院で情報科学を学ぶケースが増えています。いくつかの大学では、文理融合の研究と教育で次世代人材を育てる方針を取るようになりつつあります。

 大学が変われば、高校も変わるものです。日本の受験は、小中高校の一貫教育を重視しがちでした。この受験対応に傾く教育が、子ども達の成長機会を狭めてきという現状もあります。改めるべきは、極端な文理分断や数学の楽しさを伝えられない小中高校の学校教育になります。改革の先頭に立つ高校が、私立女子校の洗足学園中学・高校(川崎市)になるようです。この洗足学園は、かつて1学年6クラス中5クスが文系でした。それが、今は理系志望が増え、ほぼ半々になり、数年後には文系を上回る勢いになっています。この4月には、生徒有志でつくる「数学研究会」が発足しました。国際数学オリンピック出場などを目指し、協力しながら難問に挑む光景があります。中学1年~高校1年の生徒が放課後集まり、国際数学オリンピック出場などを目指しているのです。洗足学園の校長は、「高校2年以降の文理分けもやめたい」と語るまでになっています。

 余談ですが、中高一貫校の中学入試で出題される内容は、小学生の公教育で太刀打ちできるレベルと範囲ではないと言われています。国公私立中学で行われる入試では、専用の勉強と対策が必要となります。この試験に合格する勉強手段としては、「集団塾」」「通信」「個別指導の家庭教師」「親塾(親が教える)」があります。入試対策の選択肢いくつかがあるが、やはり圧倒的に多いのは塾に通うケースになるようです。塾には、問題もあります。難関校を目指している塾は、もともと勉強のできる子たちをさらに伸ばすための場になっています。これらの大手塾に関しては、多くの子どもがついていけない場所だと割り切ることも必要のようです。最難関校の大手進学塾には、実際は多くの生徒がついていけないという現実もあります。もっとも、塾には、「仲間と切磋琢磨できる」場としてのメリットもあります。この切磋琢磨点は、ほぼ共通した特徴のようです。家庭では、この実情を理解することも必要です。中学受験では、家庭が果たす役割は非常に大きいものがあります。塾に任せっきりになることなく、親や子どもの判断も必要になると言うことです。

 世界との競争に直面している生産現場では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められています。生産性向上には、産業のあらゆる分野でDXが不可欠になっています。ダイキン工業は、成長著しい企業として知られています。このダイキン工業は、社内に「ダイキン情報技術大学」を設置し、DX人材を自前で育成を始めました。この企業が主力とする空調システムも、個別ニーズや環境に配慮した制御が求められています。顧客とデジタルでつながり、得たデータを製品やサースの向上に生かすDX社員が必要になっているのです。大学設置当時の2017年ごろ、情報系技術者は社員の1%にあたる93人しかいませんでした。1%にあたる93人しかいなかった情報技術者を、1500人まで育てたのです。素晴らしい点は、文系理系を問わず1500人を育てたことです。数学や統計学は、長い目でみれば経済成長の土台にもなります。数学が分かれば、今後現れる新技術にもついていけます。データを読み解き役立てるには、数学や統計学の知識が不可欠になる時代です。少子化が進む日本では、個々の潜在力を解き放たなければ、国力は保てません。幸いにも。日本は15歳時点の理数系学力は世界トップ級です。この若い人材の才能を、末永く伸ばしていく仕組みができれば、ハッピーです。そして、このハッピーを実現する高校、大学、そして企業が現れています。

 最後になりますが、コープさっぽろでは、札幌市と北海道江別市の2店舗に併設して2025年月から学童保育の運営を始めます。コープさっぽろには、200万人を超える組合員がいます。コープさっぽろの顧客戦略上に、学童保育への参入があります。共働き世帯の増加と賃上げの加速で、今後は子育て世帯の購買力が高まるとみられるのです。子育て世代が、次に困るのは「小1の壁」になります。子どもが小学校に進学すると預け先に困る「小1の壁」は、子育て世帯にとっては難題です。若年層が流入する地域では、この受け皿不足が顕在化しているのです。課題があり、これを解決する知恵があれば、そこにはビジネスチャンスが生まれます。コープさっぽろは、子どもを持つ職員誠にアンンケートなどを行いました。アンンケートでは、学童施設に求める要素として「質の向上」が目立ちました。この質の問題を解決すれば、ビジネスチャンスの到来です。教育の無償化は、学校教育以外の分野にも広がりつつあります。そして、無償化だけではなく、そこには質の保証が求められる時代になってきたようです。この保証の中に、社会が求める理数系の教育内容を入れていきたいものです。小学校に加えて学童保育でも、理数系の遊びを取り入れることなども面白い発想になります。つづいて、中学にも理数系の遊びや教材を取り入れることにします。高校大学は当然として、社会に出ても、継続的に企業や余暇においてリスキングを行う流れができれば、日本の経済成長は盤石になるかもしれません。

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