生命の起源とレアメタルの知見を獲得する アイデア広場 その1581

 人類誕生の秘密を探る好奇心は、どなたでもお持ちのことでしょう。今回は、その秘密に接近することを試みてみました。でみれば、その過程で、人類の資産を豊かにするものが見つかれば、さらに良い試みなるかもしれません。地球には、約27億年前に光合成生物が誕生し、CO 2を吸収して酸素が大量に供給されるようになりました。約15億年~10億年前に、多細胞生物が海で誕生します。その後、生命が進化の大躍進を始める6億5000万年前ごろは、地球は北極から南極、そして赤道周辺まで含めてあらゆる場所が氷河に覆われた時代がありました。それは、スノーボールアースの時代ともいわれています。さらに時代が進み、5億年頃になると、海の中では有名な三葉虫やアノマロカリス等が繁栄するようになります。この時代になると、光合成から生成されたオゾン層が厚くなり、紫外線から生物を守る環境が地球にでき始めます。海の生物たちの陸上への進出する環境が整い始めるわけです。生命誕生の一つのヒントが、氷河におおわれたスノーボールアースの海底にあると言う説もあります。

  この説を最初に唱えたのは、アメリカの研究チームでした。深海の熱水活動域を発見し、そこに生命誕生の可能性を抱いたようです。米国の研究グループは、1976年に有人潜水調査船「アルビン」で水深2000mを超える深海を調査しました。ガラパゴス諸島の沖、水深2000mを超える深海で、熱水噴出孔を発見しました。熱水噴出孔の一種であるブラックスモーカーを、発見したわけです。このスモーカーでは、300℃を超える熱水がチムニー(煙突状のもの)から勢いよくはき出されます。水深1000mを超える深海には、まさに漆黒と呼ぶべき世界が広がっています。この熱水活動域には、光合成が支える地上の生態系とは異なる生態系が存在していたのです。300℃を超える湧水の中で、生活できる微生物の存在が確認されました。湧水が湧き出している岩の周りには、バクテリアが住み着いて白い絨毯のように広がっています。バクテリアを餌とするゴカイなどの小さな生物が、この湧水を中心に大きなコロニーを形作っていたのです。熱水噴出孔には管状無脊椎動物やエビ、二枚貝などの生物がひしめき合っていました。このような知見を、アメリカの海洋地質学者の研究グループは世界に報告したわけです。

 研究の糸口が開かれれば、そこから次々に多くの発見や仮説が出てきます。深海に関する知見が、蓄積されえ行くわけです。熱水噴出孔の発見から、熱水に含まれる金属、コロニーの生態系などが、より詳細に調査されるようになりました。熱水の中には、金属(硫黄と化合した鉄・亜鉛・鉄など)が豊富に含まれていました。噴出する熱水に含まれる硫化水素やメタンなどの化学物質は化学反応を起こし、有機物を合成していたのです。水素と酸素を混ぜただけでは、何も起こりません。でも、触媒として銅を加えると水素と酸素両方のガスは化学反応を起こし「水」になります。熱水噴出孔を調べたところ、100m四方の広い範囲にわたって電気が流れていたのです。熱水噴出孔では、化学エネルギー以外のエネルギー源である電気も存在していたわけです。この噴出孔の電気エネルギーを使って、二酸化炭素から一酸化炭素もつくられました。さらに、熱水噴出孔の電気エネルギーを使って、硝酸イオンからアンモニアがつくられていたのです。生命は、DNAの情報をRNAにコピーし、たんぱく質合成のような複雑なシスムを持っています。この複雑なシステムを、海底のコロニーでは、作り出すことが可能ではないかという仮説が生まれてきたわけです。生命の誕生までは早急な考えとしても、熱水活動域には化学合成を中心とした生態系が存在することが明らかになったわけです。化学合成細菌や微生物からエネルギーや栄養を得ている生物たちの独自の生態系が、深海の熱水活動域に存在することが明らかになったわけです。

 海洋国家の日本も、深海の調査が行われるようになりました。その秘密兵器が、「しんかい6500」になります。「しんかい6500」は、水深6500mまで先行できるようです。この深さまで潜水すると、潜水船にはすごい水圧がかかります。ちなみに、水深6500mでは、潜水船に1㎠あたり約680kgの水圧がかかります。これは、約650気圧に相当する水圧になります。その水圧に耐える構造が、潜水船には求められるわけです。蛇足ですが、「しんかい6500」では、「完備予備品」と「実装機」とをローテーションして運行しています。完備予備品と実装機とを、ローテーションすることで部品の集中的な劣化、消耗を防いで潜航を繰り返しているのです。深海での利用には、戦闘機やジャンボジェット機以上の保守点検が求められるようです。1991年に「しんかい6500」が、三陸沖にある日本海溝に潜航しました。そこには、アメリカの研究チームと同じような海底の風景がありました。この熱水活動域には、光合成が支える地上の生態系とは異なる生態系が存在していたのです。300度を超える湧水の中で、生活できる微生物の存在が確認されました。その後、この「しんかい6500」は、水深1700m~5400mの5ヵ所を調べました。驚くべきことに、その5ヵ所のすべてで、マンガンを含む厚さ数cmの岩石層を確認したのです。バクテリアを餌とするゴカイなどの小さな生物が、この湧水を中心に大きなコロニーを形作っているわけです。熱水が湧き出る場所には、鉱物資源が蓄積されている可能性が高いのです。

  日本の海底には、有望な資源があることが分かってきました。わかれば、運用効率の悪い有人式の「しんかい6500」にだけ頼っていては、遅れをとることになります。日本の排他的経済水域(EEZ)を調査し、有望な海底鉱床を把握することが課題になります。この課題を解決する強力な潜水船が、深海巡航探査機「うらしま8000」になります。海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、深海巡航探査機「うらしま8000」を報道陣に公開しました。「うらしま8000」は、自律型無人探査機(AUV)と呼ばれる水中ドローンになります。「うらしま8000」は、大きさは全長10.7m、幅1.3m、高さ1.5mの自律型無人探査機になります。うらしま8000は、日本海溝の最深部にあたる水深8000mまで潜航できるように設計されています。これまで使われてきた自律型無人探査機は、「うらしま」です。「うらしま」は水深3500mまでの運用が限界で、EEZの約45%しか調査する能力がありませんでした。うらしま8000は、水深8000mまで潜水可能な無人機で、日本の排他的経済水域(EEZ)の98%が探索できるのです。このうらしまは、JAMSTECがこれまで運用されてきたAUV「うらしま」を改造し耐水圧性能を向上させたものです。深海巡航探査機「うらしま」の改造費は、約9億円でした。この新しい自律型無人探査機は、海底調査による地震の研究や資源探査などへの活用が想定されています。特に、うらしま8000は、泥状のレアアース(希土類)の調査への活躍が期待されているようです。

 余談ですが、日本は、石油依存が高まり95%を中東へのから輸入しています。海外から輸入は、LNG(天然ガス)も97.7%(2019年)、石炭も99.5%(2019年)になります。資源に乏しいと、ほとんどの日本人認識をしています。でも、日本には、一気に中東並みの産油国になれるだけの石油資源が眠っているのです。この中東並の超巨大海底油田があるのは、「第7鉱区」と呼ばれる場所になります。「第7鉱区」は、沖縄県の北、九州南西の東シナ海にある海底油田です。第7鉱区の原油埋蔵量は、1000億バレルと推定されています。1000億バレルは。世界第2位のサウジアラビアの3分の1に相当する埋蔵量です。さらに驚くべきことは、第7鉱区のある大陸棚全体で天然ガスの埋蔵量は、約175兆~210兆立方フィートになります。この175兆~210兆立方フィートは、サウジアラビアの10倍の埋蔵量なのです。日本の海には、サウジアラビえる超巨大海底油田があるというわけです。海底資源は、未開拓の分野になります。もし、この資源が開発されることになれば、資源大国になることも夢ではなくなります。

 最後になりますが、日本の海洋研究開発機構は、レアメタルを多く含んだ岩石層が深海底に広がっているのを見つけたと発表しています。場所は福島県沖350kmにある日本の排他的経済水域内の海底火山磐城海山(36°53′N、144°46′E、水深1,700m)付近です。電池に使われるレアメタルのマンガンを多く含んだ岩石層が、福島県沖の深海底に広がっているというものです。マンガンを含んだ岩石層には、他のレアメタルも付着しやすいことが知られています。この発見には、日本の誇る潜水船「しんかい6500」が活躍しています。レアメタルは、自動車産業やIT産業でも不可欠な金属です。日本は、マンガンも他のレアメタルもほとんど輸入に頼っています。中国は、このレアメタルを経済制裁にも活用しています。もし、これらのレアメタルが自給自足できるようになれば、自由貿易を安心して行うことが可能になります。「しんかい6500」と「うらしま8000」を上手に使いながら、海底資源の捜索を進めてほしいものです。最後には、有望な海底鉱床からレアメタルを回収する仕組みを開発し、豊かな日本にして頂きたいものです。

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