今回のウクライナ戦争で、いくつかの明らかになったことがあります。その中でドローンの防御と攻撃に関するものがあります。2025年9月には、ロシアのドローンがポーランドやルーマニアの領空を侵犯しています。ロシアのドローンがポーランドに侵入した際には、北大西洋条約機構(NATO)が素早く動きました。ポーランドの戦闘機とともにオランダの戦闘機が緊急発進し、侵入したドローンを撃墜し、NATOの即応能力を示しました。でも、この撃墜という成果には、課題もあるのです。戦闘機のスクランブルにかかる費用は、1回のスクランブルあたり約800万円になります。ロシア製ドローンは約10万円の撃墜に、800万円を使っていては、防御側の負担が多すぎるのです。軍事費の賢い使い方が、軍事専門家はもちろん国民の目線で語られるようになりつつあります。さらに、核の脅し対する備えも現実味を帯びてきました。いわゆる弱者の備えである抑止力を、いかに低コストで備えるかという課題になります。今回は、禁じ手を使った抑止力を考えてみました。
NBC兵器は、禁じ手の最たるものです。核(Nuclear)、生物(Biological)、化学(Chemical)の3種類の物質を用いた兵器は、大量殺傷能力と破壊能力を持っています。この兵器を持っていることにより、相手が攻撃してきた場合、報復が可能になります。いわゆる恐怖の均衡という状態を作り出します。一般に、核兵器の製造は非常に高価な事業となり、国の防衛予算の相当部分を占めることになります。核兵器の維持費にもかなりの費用と人員が必要とされます。一方、核兵器の数十分の1程度で、サリンなどの化学兵器が作られます。さらに、その化学兵器600分の1の費用で生物兵器を作ることが可能です。細菌やウイルスを、戦いに使った悲しい歴史も数多くあります。たとえば、1346~47年モンゴル軍は、ヨーロッパを蹂躙しました。そのモンゴル軍が、カファ(クリミア)の要塞に苦戦していました。攻撃側が考えた手法は、カファの要塞内にペスト感染者の死体をカタパルトで投げ入れるものでした。ペストの恐ろしさを知っていた守備兵は、要塞を捨てて逃げ去りさったのです。さらに1767年、フレンチ・インディアン戦争後のイギリス軍の手法です。イギリス軍は、敵対するアメリカ先住民の部族にイギリス人の天然痘患者をくるんでいた毛布を送りつけました。天然痘に免疫のない先住民は、天然痘に感染し、戦闘能力を失いました。その後の戦闘は、イギリス軍の勝利に終わります。そして、現代の悲劇が起こります。1995年3月、カルト集団オウム真理教は、東京の地下欽で神経ガス散布して一般人を殺傷しました。地下鉄サリン事件後の捜査により、オウム真理教は、生物兵器の実験をおこなっていたことが判明します。この生物兵器としてボツリヌス毒素および炭疽菌の使用を意図した実験をおこなっていたのです。これの意味することは、病原菌や毒素といった生体物質が、軍事関係者だけでなく、民間団体でも簡単につくれるようになったことでした。
オウム真理教が研究していたボツリヌス毒素および炭疽菌は、有力な生物兵器になります。一般に、生物兵器としてはいポツリヌス毒素、炭痕菌、ペスト天然痘ウイルスなどがあります。ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌が生成するタンパク質になります。この毒素は、きわめて致死性の高い神経毒になります。ボツリヌス毒素を摂取すると、神経の電気信号が筋肉細に伝わらなくなるのです。このボツリヌス毒素28gで、アメリカの全人口を殺せるほどの強力なものです。また、炭疽はヒトも動物もかかる病気です。炭疽菌は、ヒトまたは動物に感染してから猛毒を生成する特徴があります。炭疽菌が侵入し増殖する部位によって、3つの症状に分かれます。その中で、もっとも恐ろしいのが、肺炭疽になります。これを吸入した患者のおよそ90%が、死亡するのです。肺炭疽がテロ攻撃に利用されうるのは、芽胞が無色、無無味で空中や水中に散布しやすい点にあります。生物兵器の開発と抑止の研究を各国で進めていると考えることは常識のようです。軍事の世界では、感染症の予防と治療、そして生物兵器の開発はメダルの表と裏といわれています。今回の新型コロナウイルスは、テロの武器になる要素が十分にあります。軍事関係者は、ワクチンを政治と経済と関連づけて考えます。今回の新型コロナウイルスによって生じた損失は、500兆円とも1千兆円とも言われています。この損失を、生物兵器は3か月程度で与えることができるのです。
各国で、秘密裏に生物兵器開発が行われていた一端が明らかになったことがあります。ケン・アリベックは、旧ソ連の生物兵器製造組織の第一副局長になります。彼の証言から、遺伝子操作の兵器の存在が明らかになりました。ペスト菌は感染力が強いので、生物兵器として開発されてきた経緯があります。ペストに感染したときに治療をしなければ、ペストで死亡することになります。ペスト菌には抗生物質を投与すれば、治療効果が現れます。このままでは、有効な兵器にはなりません。一方、菌の中には、抗生物質を投与すると、活性化するものあるのです。ベネズエラ馬脳炎ウイルスは、抗生物質を投与すると活性化し、脳脊髄脳炎を進行させる特徴を持ちます。遺伝子操作の生物兵器は、この2つの全く異なる病原体を組みあわせて、より強力な病原体を作る研究が行われたのです。ペストの治療で抗生物質を使えば、馬脳炎ウイルスが活性化するのです。馬脳炎ウイルスが活性化すると、脳脊髄脳炎が悪化し、死亡にいたるという恐ろしい菌の開発です。この合体した菌に感染した人は死ぬという仮説ともとに、サルを使って実験したのです。ペストの治療を抗生物質で行っても、行わなかった場合も、サルたちは死亡していったのです。もちろん、このような病原体の開発や実験は、国際法や条約で禁止されています。問題は、禁止されているにも関わらず、開発の実態が存在することなのです。
今回の新型コロナウイルスを大量破壊兵器の類似したものとすると、日本はNBC兵器のすべての大量破壊兵器を経験したことになります。1945年8月の原爆投下に被害が一つです。次に、1995年3月に起きた地下鉄サリン事件です。そして、今回の新型コロナウイルス感染となります。近代国家は、これらの兵器に対する攻撃に対処する備えをしています。新型コロナウイルスが蔓延した初期において、ダイヤモンド号において、自衛隊の見事な処置は、備えの一端を示したものでしょう。地下鉄サリン事件においても、自衛隊は警察の化学防護装備などに支援をしていたことが伝えられています。自衛隊では、核兵器、生物兵器、そして化学兵器などのNBC兵器による攻撃への対処能力の向上を図っていることがわかります。兵器の開発は、盾と矛の拮抗が続く限り、なくなることがありません。今回のウクライナ戦争は、4年も継続しています。その間に兵器の進歩もさることながら、国民の防衛意識も多方面にわたり高まっています。必要な知識とスキルは、自然災害に対する備えと同じように高めていきたいものです。
余談になりますが、戦力は、武器の優劣だけでは測れないようです。その例として、スイスがあります。スイスは戦争に巻き込まれれば、国土の大部分は初日から戦場になるだろうと想定しています。空襲で多く国民に被害がでるが、被害者を救助することは困難だと割り切ります。同情だけでは、侵略の問題は解決しないという姿勢です。敵の使う手段としては、空爆の他に、陰険で巧妙な宣伝を通して、スイス国民の心の中に疑惑を植え付けようとします。また、生物兵器で攻撃された場合には、ワクチンが不足します。その場合、ワクチンの配布戦略は働き盛りの30代ぐらいのサラリーマンに優先的に与えることになっています。素朴な人道主義や偽物の寛容は、悲劇的な結末を招くとしているのです。非常時では、買い占めは全て処罰されます。スイスには、死刑制度がありません。でも、戦時において、国民の生命を危うくする者は全て死刑になるのです。どんな情報でも敵には有益であるので、沈黙は国家防衛に協力することになるとしています。新型コロナウイルス過に見舞われた日本にたとえると、「外出しない」、「不安をあおるSNSを発信しない」、「接触しない」などが、国家防衛に協力することになるということでしょうか。
最後は、細菌やウイルスと感染症の葛藤のお話しになります。1900年から1979年の間に、世界で5億人以上が天然痘で死したとされています。この天然痘で、年平均で600万人が死亡したのです。天然痘ウイルスが起こす天然痘の致死率は、40%にのぼります。死を免れたとしても激しい症状が続き、顔がみにくく崩れたり目が見えなくなったりする後遺症があります。この恐ろしい然痘ウイルスの恐怖から、1979年10月、人類は解放されたといわれています。WHOなどの国際機関のキャンペーンが功を奏し、世界はこのウイルスの恐怖から解放されました。天然痘の自然発生は、なくなったわけです。一方、将来これと闘う必要に迫られた場合に備えもあるのです。凍結させた天然痘の研究サンプルは、アメリカ疾病管理センターと、ロシアの研究所で厳重に管理保管されています。他にも、天然痘のウイルスを保管している施設がいくつかあるとされています。保管されていれば、それを遺伝子操作により、より強力な生物兵器にする可能性もでてきます。一方、完全に廃棄して、自然の天然痘が発生した場合、どのように対処するのか。現存する研究サンプルのウイルスを廃棄すべきかどうかが、世界じゅうの科学者のあいだで議論の的になっています。性善説に立てば、廃棄が正しいようですが、どうなのでしょうか。
