生産性を上げ、働きやすさ実現する知恵  アイデア広場 その1467

 昭和の東京オリンピックや大阪の万博の時代は、人々に希望と勢いがありました。「豊かになれる」との希望が、モーレツ企業で昼夜問わず働く社員の「働きがい」を高めていました。でも、時代が平成と令和になるにつれて、頑張れば豊かになれるという昭和的モーレツの発想は変質してきました。モーレツ企業に対して、「働きやすさ」を尊重するホワイト企業に脚光が当たるようになったのです。働き方改革関連法施行から、すでに5年が経ちました。残業が減少し、日本企業の働きやすさは高まっています。蛇足ですが、働きやすさは高いのですが、働きがいが低い企業を「ホワイト」とします。逆に、働きやすさは低いが、働きがいは高い企業をモーレツとします。両方とも低い企業は、ブラックに分類します。そして、やりがいも働きやすさも優れた企業は、プラチナ企業と分類することにします。ホワイト企業には、リコーやカゴメ、そしてモーレツ企業には、ニデックや王将フードサービスが入っているようです。

 時代の流れは、多くの日本企業が働きがいや社会貢献を中心に据えて発展することに重心を移しています。そんな流れの中で、ホワイト企業の弱点が指摘されるようになってきました。この副作用の一つに、企業と社員の関係は淡泊になってきた点が挙げられています。もちろん、行政では、ホワイト企業を応援する施策を用意しています。行政は、社員の幸せと働きがいや社会貢献を大切にしている企業を表彰しています。問題は、もう一つあるようです。10年間の売上高の増加(スコア上位100社)は、モーレツ企業が年平均でホワト企業を上回っているのです。2022年度までの売上高の増加は、モーレツ企業が年平均6.6%とホワイト企業を2ポイント上回っていたのです。さらに、市場の評価も、この状況を支持しているようです。それは、PBR (株価純資産倍率)もモーレツが2.5倍とホワイトの2.3倍より高かったことからも明らかなようです。ニデックの代表の方は、「ハードワークで勝つまでやる。ワ一クライフバランスなんて言っていると戦いに負ける」と意気軒昂です。「ホワイト企業は、モーレツ企業に勝てるのか」との命題に、今回は挑戦してみました。

 国土交通省が23日発表した2023年度の宅配便取扱個数は、50億個で、9年連続で過去最多でした。2016年度の宅配便取扱個数は40億個でしたので、7年で10億個増えたことになります。取扱個数は増え続けているのですが、ドライバーは増えていないのです。日本のドライバーは、84万人を横ばいで推移いています。労働条件が、厳しくなっている状況を越えて悪化が続いています。輸送量は増え続け、納入の時間厳守や効率化が求められています。金属疲労を起こしても、不思議ではない労働環境なのです。モーレツを越えてブラックな状況になっているともいえます。もちろん、ブラックのままでは、ドライバーも消費者もそして企業も困ります。現状は、運送会社もドライバーの意向を無視して無理な勤務をさせることができない状況にまで追い込まれているのです。トラック運送業界の内部に、変化の兆しが出ています。物流の拡大で深刻化する運転手不足問題を、逆手にとる運送会社が出てきています。運送会社に不利な契約を求める「わがまま荷主」を、はねつける動きが広がり始めたのです。運送会社が、荷主を選別する時代になっているのです。もちろん、荷主の要望を聞き入れながら、ドライバーの負担を減らす取り組みも必要です。荷主に値上げを受け入れてもらうためには、運送会社の体制づくりも必要になります。単に値上げを要求するだけではなく、相手事業者にとっても値上げが可能なだけの理由をつくることが必要です。納得出来る条件を、提示することになります。配送の時間を厳守し、荷の積み下ろしの時間を効率化するなど、運転手の教育に力を入れることになります。複数の会社に、荷下ろしや積み込みをする場合は、手順を明確化し、荷下ろしを荷主側にもしてもらう条件をつけて、それを守ってもらうことにします。ブラックからモーレツに、そしてホワイトへ、できればプラチナへの道をたどってほしいものです。

 日本の産業界において、不正が問題になりました。性能データの改ざん、巨額の不正会計、個人情報の漏洩などが取り上げられることが多くなっています。企業の不正や不祥事が世間を騒がせています。なぜ、この暴走を止められなかったのでしょうか。あるメディアが、問題が起きた企業に勤める社員を招いて座談会を行いました。この座談会には、不正が起きた有名企業の社員が参加しました。不正問題が相次いだ企業の従業員が、当時の社内の雰囲気を赤裸々に語りました。その内容は、「恐怖の左遷人事に萎縮したこと」や「不正企業社員の内向きの状況など」になります。問題を指摘した人は目を付けられて、あからさまな人事で報復を受ける状況があったそうです。この恐怖人事の効果は絶大で、みなが萎縮してしまったのです。同僚はみな、製造部や開発部出身の所長の顔色を見ながら仕事をしていたと語り始めた。そこには、製品が消費者にわたり、どのように評価されるのよりも、現場の所長に忖度した内向きの流れがあった状況が語られたのでした。働き甲斐のない職場での生産活動が、性能データの改ざんなどの不正を産んでいたようです。

 問題は、流通や製造の現場だけなく、教育の現場でも起きていました。日本の教育は、海外から高く評価されてきた歴史があります。その日本の教育に、異変が起きています。特に、良質な人材が多かった日本の教師集団に、異変が起きているのです。2023年度に実施された小学校の採用試験受験者は、4万人弱と10年前より3割も減少しています。2023年度の採用試験倍率は、過去最低の2.3倍になりました。この激減の背景には、教職の魅力低下による志願者の認識があります。教員採用は、民間との人材争奪戦にさらされています。結果として、民間より魅力がなく、ブラックとされる先生の仕事に見切りをつける志願者も多いのです。2022年度において、小学校、中学校、高等学校、そして、特別支援学校を合わせて、2778人の先生が足りない状況があります。先生の欠員が生じている学校は、2092の学校になります。前の2021年度は、2065人が欠員になり、1591校が先生の足りない状況で、学校運営を行っていたことになります。欠員の生じた学校では、1人の先生が、2つのクラスを受け持つことになります。また、複数の先生で、先生の数を超えるクラスの授業を行うことになるわけです。当然、授業の質低下に目をつぶることになります。もちろん、病気や出産で休暇に入る教員の代替の確保は、非常に厳しい状況も生まれています。ブラックな状況が、教育現場で起きているわけです。

 ブラックな業界をホワイトな業界に変えるヒントが、アメリカのトラック業界にあります。アメリカのトラック業界は、定期的に運賃を値上げしています。この値上げが、物流の急拡大を抑える働きをしています。さらに運賃の引き上げで収益率を高め、ドライバーの待遇改善を行ってきたのです。一方、日本のトラック業界は、貨物の増加を長時間労働と低賃金で乗り切ってきました。でも、増え続ける物流に、各トラック業者は押しつぶされる状態になりつつあります。そのため、ヤマトなどの大手は、値上げをしてドライバーへの給与の増加と休暇の確保に踏み切ったわけです。本来なら、中小のトラック業界も値上げをして、経営の正常化を図るところです。この正常化を図る追い風が、人手不足という状況が後押しをしています。中小のトラック業者も、配送センターの整備し、各拠点に毎日定時配送のできる体制を整えることです。原価計算などの収益分析に加えて、安定して車両を手配できる業者は、「わがまま荷主」に対する交渉力も強くなります。当然、運転手の信頼も出てきます。事故防止や法令順守する物流企業に、運転手や荷主が集まる傾向が強まっているのです。ブラックなトラック業者は、淘汰されていく流れが出てきました。経済原理を踏まえながら、流通問題を解決して、ホワイトな業界に変換してほしいものです。

 最後になりますが、日本企業も守りから攻めに転じ始めています。たとえば、再び日本の産業を先導するかのように、日本製鉄はモードチェンジを進めています。このチェンジは、米政権を揺るがす2兆円を投じるUSスチールの買収計画だけではありません。この日本製鉄は、2024年春季労使交渉では業界横並びの慣習を捨てました。業界横並びの慣習を捨てて、組合要求を上回る14.2%の賃上げ率を提示したのです。また、ルネサスエレニクスの柴田英利社長は、賭けに出たと言われています。基板設計のソフトウェアを手掛ける米アルティウムの買収に、約9000億円の巨費を使う決定をしました。この米アルティウムの買収は、伝統的な半導体メーカーにとって異質と言われています。でも、社長は「伝統的な半導体メーカーでいる限り、危機に追いやられる」と買収を決定したそうです。狙いは、設計ソフトという目に見えない無形資産に着目しているのです。日本には、停滞の30年で蓄えた人材や資金、そして技術を武器に世界で再び勝負する企業が続々現れているようです。この30年で、企業に眠る140兆円を超えるまでになりました。この使い道は、もの作りから無形の富へ向かうようです。無形の富の形成には、ブラックを排除し、モーレツにホワイトを加えたプラチナ的な働きが重要になるようです。

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