近年のクラウド化などで、高効率的な大規模データセンターへの集約が進んでいます。これからの情報化社会の拡大を見越して、この施設建設には投資マネーが入る環境ができています。デジタル経済を支えるデータセンターでは、環境対応に向けた取り組みも加速しています。IT大手が、相次いで脱炭素化の目標を掲げる流れになってきました。効率化と合わせて、データセンターでの再生可能エネルギーの活用が、求められる時代になってきたのです。日本では、この受け皿になっている地域が、北海道になります。北海道には、まだまだ開発されていない再生可能エネルギー(再生エネ)の資源があります。そんな資源を求めて、風力発電国内最大手のユーラスエナジーホールデングス(ユーラス・東京港区)は、北海道北部で国内最大級の陸上風力発電事業に乗り出すことになりました。ユーラスは、豊田通商の子会社になります。北海道北部では広い土地を確保しやすい上、風車などの発電設備もスムーズに輸送できる利点があります。この事業では、稚内市などの宗谷地域と、天塩町などの留萌地域に、最大で計260基の風車を建設します。その総出力は165万キロワットになり、早ければ2031年ごろから稼働させることになっています。ユーラスは、大量に電力を消費するデータセンター(DC)を誘致し、再生エネ電力を供給することを狙っています。生成AIの普及で、DC増設が喫緊の課題になっています。マイクロソフトなどの企業は、日本でDC増設を表明しています。
データセンターの建設は、北の地に移動を始めているようです。データセンターのコンピュータを作動させる場合は、多くの電力を消費します。と同時に、コンピュータを冷却させるために同量の電力を消費します。データの量が、加速度的に増えています。北への移動は、データセンターを冷やすために、自然冷却を使用し、電力の消費量を抑えたいという狙いがあります。コンピュータが50℃になるとサーバーはダウンします。そこで、20℃程度に保つことが必要になります。冷たい外気を求めて、北の大地に移動している理由になります。蛇足ですが、逆の動きもあります。日本に先立って、欧州では、昆虫が食用のほかに、豚や鳥などの畜産用の飼料やエビの養殖用飼料としての市場が広がりつつあります。その中でも、オランダのプロディックスやフランスのイノーバフィードは、生産量で先行しています。これらの企業には、弱点もあります。イノーバフィードは気温の低い欧州に工場があるため、暖房設備に電力を使っているのです。同じように、プロディックスは気温の低い欧州に工場があるため、暖房設備に電力を使っています。温暖化に、逆行する工場になります。住友商事は、昆虫事業に出資するシンガポールのスタートアップから日本での独占販売権を取得しました。気候が温暖なアジア地域に工場を持っているため、昆虫育成時に暖房設備を必要としないという特徴があります。世の中には、寒さを求めるデータセンターと暑さを求める昆虫の飼育業があります。もし、この寒さと暑さ、そして、電力の問題を同時に解決できれば、ビジネスとしてはハッピーなものになります。
このハッピーの一つの切り口が、久米島の海洋温度差発電になります。久米島は、沖縄本島から西に約100 km、沖縄諸島に属する島になります。久米島の海洋温度差発電能力は、数百kW以下の規模になります。この発電能力のみでは、経済性を成立させることが困難です。でも、海洋深層水は、電力のみでなく他の広い用途が期待されているのです。久米島の海洋深層水の取水量は日量13000トンと国内最大規模です。この8~9℃の深層水が沸点の低い媒体を冷やし、を21~30℃となる表層水の熱で蒸発させて、タービンを回転させて電気を発電させているわけです。結論から述べると、実用化の点では,海洋温度差発電より海洋深層水利用が先行しています。海洋深層水の主な特徴は,低温安定性,富栄養性,清浄性です。発想は、海洋深層水を利用し、世界のデータセンターが求める冷却のシステムの構築です。8~9℃の深層水が常にくみ上げられる仕組みがあれば、環境に優しいデータセンターが建設できます。海洋深層水の再循環を利用すれば、年間を通して休むことなく、サーバーを冷却できるのです。この仕組みは、海水の温度差を利用した発電とサーバーの冷却を両立させるものになります。
冷却を強調した視点からは、北国の雪の利用が頭に浮かびます。札幌の雪まつり後の雪像の雪を地下に保管すれば、強力な冷却効果をもたらすことができます。日本には、北国の各地に雪室という文化が残っています。IT社会では、クラウドなどのデータを蓄える施設が加速度的に増えていきます。クラウドの施設は、温度管理が重要になります。サーバーを冷却させるために、多くの電力を消費するのです。コンピュータの消費電力は、世界の電力消費量の10%になります。この電力量は、日本とドイツの電力量を合計した量に匹敵するのです。今クラウドのデータセンターの建設は、北の地に移動を始めています。データセンターを冷やすために、自然冷却を使用し電力の消費量を抑える狙いがあるのです。日本のある大手企業は、5年間で2000億円をかけてこの適地を探しています。冷たい外気を求めて、北の大地に移動しているわけです。もし、巨大な雪室を作ることができれば、わざわざ北の大地に行かなくとも、山形の豪雪地帯が適地になるのではないかという発想が出てきます。その候補が、山形県になります。山形は先進技術を開発する県としても、知られています。山形のホテルで地方紙を見ていると、山形県の朝日町のリンゴの記事がありました。秋にリンゴを収穫した後に雪室に保存し、付加価値を高めて販売しているというものでした。雪の中で保存して、数ヶ月後に取り出すと、収穫直後のような食感と食味が楽しめるのです。小国の見た雪の風景と朝日町の雪室のリンゴが、雪の利用法が頭に浮かんできました。
電力消費の視点からは、地産地消という切り口が出てきます。究極の地産地消は、宇宙での生活になるかもしれません。月や火星を目指す宇宙船では、水や食料をリサイクルで使うようになります。そして、植物の栽培なども、特殊な環境で行うようになるかもしれません。宇宙に近い環境での地産地消には、南極越冬隊員の生活にあるようです。南極地域観測事業で、2007年の2月1日から翌年の1月31日まで越冬任務に当たった調理担当の方がいます。南極において、研究テーマを黙々と挑戦し、成果を上げる隊員を食事面で支援する人になります。48次の越冬隊員は35人で、これを2人の調理担当隊員が朝昼晩の食事と夜食を作りの仕事を行ってきたそうです。隊員は、極寒の地で娯楽もない場所に1年間いることになります。食事担当が用意した食材は、1人当たり年間目安1トン+予備食300kgキロになります。種類にして1580品目です。食料の調達は一度きり。前年の7月から仕入れ準備を行ない、12月下旬には昭和基地に持ち運びを完了することになります。持ち込んだ食材で、35隊員の1年の食事をまかなうわけです。新鮮な野菜は、基地内で水耕栽培もしているので、以前よりは食事環境は良くなっているようです。
ユーラスは、再生可能エネルギー電力の地産地消する体制を築く狙いがあります。問題もあります。発電する電力は、165万キロワットと膨大なため、全てを北海道北部の地域で地産地消することは難しいのです。北海道北部は、人口密度が低く、送電線の容量が小さく、その潜在能力を生かし切れないという問題です。この地域は、日本一安い再生エネ電力を供給できる潜在力があります。もちろん、対策も考えています。ユーラスは、水素製造拠点を設けることも計画しています。トヨタ自動車と千代田化工建設とも、共同開発中の水素製造システムを導入することも検討していいます。再生エネ電力で水を電気解し、「グリーン水素」をつくる試みです。この水素をタンクローリーで札幌市や苫小牧市周辺に運び、製造業やエネルギー関係企業に供給することになります。北海道では、ユーラスのように電力を地産地消する体制を構築することが求められています。
最後は、利益の上げたいという自治体の希望を実現する仕組みのお話しになります。たとえば、北海道の自治体が、データセンターを作る企業に土地を無料で提供します。10年間は使用料や税金を免除します。代わりに、廃熱を植物工場に供給するという条件をつけるわけです。10年経てば、使用料や税金を取ることにします。北海道で20℃の温水を自由に使うことができれば、かなりの作物が作ることができます。鉄道やフェリーを使い首都圏にレタスやトマト、そしてイチゴなどの作物を、供給出来れば良いビジネスになります。特に、本州の主要産地と時期をずらせば、かなりの市場競争力を持つ作物になるでしょう。もっと利益を上げたいという自治体には、植物工場に養魚場を併設すると良いでしょう。アマエビなどを育てるわけです。エビを育てた温水を植物工場で利用することになります。エビの汚物が肥料になる仕組みにしておくわけです。生態系を乱さないクローズとシステムが完成です。もし、10年後にデータセンターが撤退する時には、データセンターの建物を譲り受けることにします。その建物を植物工場にして、付加価値の高いキノコやレタスなどを供給することにします。北海道の厳しい寒さが、IT関係と農業、そして自治体に利益を生み出すことになります。このような発想を持つ市町村は、裕福な地域になるかもしれません。