はじめに
スターバックスという世界的なコーヒーメーカーは、面白い側面を持っています。アメリカの大学スポーツクラブは、慈善事業を積極的に行っています。アメリカの有名大学であるワシントン大学のスポーツ選手は、地域小学校の読書プログラム活動を行っています。この活動に必要な費用を、スクーバックスが支援しているのです。この企業の面白い点は、慈善事業を援助するけど、税金を国にできるだけ納めない姿勢を取っていることです。税金を払わずに、社会貢献に力をつくしているわけです。日本でも、新しい潮流が出てきています。ワシントン大学の読書プログラムではありませんが、体育大学が中学校の部活動の支援をしているのです。部活動の指導者不足に悩む自治体は多くあり、その不足している面を支援しています。運動の経験がない顧問もおり、中学校の部活動を十分に指導できない顧問もいます。指導者の指導不足を乗り越えて、練習環境を改善していくことを目指しています。ソフトバンクから貸与されたタブレットで練習の様子を撮影し、仙台大学に送信します。大学の専門教員が、フォームなどで改善点を指摘します。動画に矢印を書き込んだり、音声を取り込んだりして中学側に送り返す仕組みです。ソフトバンクは、仙台大学と協力し遠隔地の気仙沼市の中学生を指導する取り組みを始めたのです。企業が大学と協力しながら、ボランティア活動をする姿が世界各地で見られるようになります。
1,シニアを豊かにする社会参加
さまざまな福祉サービスが、行政からに提供されるようになりました。その提供により、自治体の財政的負担が増えています。この負担が、重荷になっている自治体も多くなりました。そこで、財政的負担を減らし、なおかつ住民の満足度を高める仕組みが求められているわけです。満足の一つに、健康寿命を伸ばすことがあります。高齢者の社会参加が、健康寿命を延ばすことを明らかにする研究が増えてきています。食事・運動・社会参加の三つの要素を考慮しない高齢者の死亡率を100とします。食事・運動に気をつけて、よい習慣を持っている高齢者の死亡率は68に減るというのです。この食事と運動に社会参加を加えると、死亡率は49にまで低下するのです。この死亡率低下の数字は、社会参加の意義がいかに高いかを示す数字になります。社会参加という行為は、人から認められているという強い肯定感をもたらすことが分かってきました。この肯定感は、コミュニティにおいて生まれるものです。いざ介護が必要となり、初期の段階であれば、人々がコミュニティで助けあう姿もあります。この姿や行為を通して、財政的負担が軽減するケースが生まれます。21世紀における福祉のスキルは、他者と協働して新しい仕組みをつくりだすことが基本になるようです。
他者との協働には、良いモデルケースがあります。農村には、工夫をしながら豊かさを求める人々がいます。愛知県豊田市の中山間地に、全国公募した若者たち10名を住まわせるプロジェクトがあります。ここでの生活は、協働しあうことで、200万円以下の収入でも成り立ってしまうのです。このプロジェクトのリーダーは、56の仕事をやっていいます。以前、農業を行う人をお百姓さんと言いました。農業には、100の仕事があるという例えから生まれた呼び名のようです。その56の仕事うち、おカネになる仕事は17ほどだということです。おカネにならない39の仕事があることで、10名の若者の生活は安定しています。何かもらったら、他のものでお返しをするとか、何か手伝ってあげればそれですんでしまうのです。助け合うことで、基本的な生活費もすごく安く済んでいます。子どもたちも、地域の誰彼となく面倒を見てくれるので、保育所がなくても大丈夫です。子どもの面倒を見てもらえるので保育園に行かなくてもすみます。保育園に行かないので、保育料費はかかりません。ほとんどがサービスの提供のしあいや労力を出しあってお互いに助けあっているので、200万円でも豊かな生活を享受しているというわけです。行政の力を借りなくとも、住民のお互いの助け合いを受けることで、生活ができるわけです。
2,流動性を生かせる立地の良さ
多くの仕事が出来ることは、優れたビジネスチャンスを産むことになります。ヤブサキ産業は、千葉県市川市で出光興産のガソリンスタンドを17カ所運営しています。この会社は2022年、地域の高齢者の生活を支援するサービスを始めました。ヤブサキ産業のサービスは、車を持たない70~90代の高齢者を中心に400人が利用しています。高齢者が、「新しく買ったスマホの設定を手伝ってほしい」と要望すれば、それに対応する社員を派遣し解決します。「足に不安があるので孫の結婚式に付き添って」との要望があれば、車を出して式場内までの雑用を引き受けるものです。ヤブサキ産業は、専門スタッフ16人が本社から3~4キロメートル圏内の依頼に対応しています。このサービスは、料金は1時間あたり3000円からになるようです。また、コスモも、新しいサービスを始めています。2021年から、自治体向けに、再生エネと太陽光パネルそして、EVを一体で売り込むサービスを始めたのです。コスモで手掛ける風力発電を生かし、自治体に脱炭素を提案しています。EVなどの車内清掃や整備は、コスモのガソリンスタンドの職員が行っています。面白いサービスは、自治体の職員が車を使わない土曜日や日曜日には、その車を地域住民に貸し出すサービスのお手伝いまでしています。
日本の自動車産業を側面から支えてきたガソリンスタンドが、急激に減少しています。資源エネルギー庁によると、2023年度末のガソリンスタンド数は2万7414カ所になります。この数字は、6万ヵ所以上あったピーク時の1994年度から比べると半数以下なのです。国内のガソリンスタンド数は、この10年で約7200カ所減少しました。国内のガソリンスタンド数は、特に都市部では急速に数を減らしています。各企業は、生き残りのために各社は変身を急いでいます。実は、ガソリンスタンドには変身の強みがあるのです。ガソリンスタンドの強みは、立地の良さなのです。ガソリンスタンドは、トラックなどの車両の出入りもしやすく、人々の流動性を生かすことができる立地にあるのです。ENEOSは、こうしたガソリンスタンドの強みを生かし、配送網の「一時保管場所」として活用する実証実験は行っています。預かるのは、GSから半径2キロメートルほどの住民に届ける荷物になります。東京都足立区でENEOSの看板を掲げる「Dr. Driveセブ保木間店」が、そのモデルの一つになります。保木間店には、1メートル四方で高さ2メートル弱の荷物保管ラックがあります。ラックには、段ボールが配置されています。この段ボールの中身は、大手通販のサイトの商品です。ギグワーカーが、荷物保管ラックから段ボールを取り出し、自転車や徒歩で宅配に向かいます。この方式を使うと、物流会社は、配送にかかる距離と時間を3~4割減らせるのです。ラストワンマイルの解決に、有効な手法になっています。
3,定年後の生きがい
ある年金生活者の方は、定年退職を迎えた当時、どうやって時間をつぶそうかと悩んでいたと言います。年金受給者であれば、経済的に基礎部分は保障され、ある程度余裕ある生活ができます。社会的に見て高度な仕事であっても、彼らの中には、低い賃金で働くことを厭わない方もいます。彼らの中には、社会的に見て高度な仕事であってもボランティアで行うこともあります。自分の知識と経験を活かし、誰かの役に立つことはシニアには、やりがいや楽しみの一つになります。
このやりがいの一つに、シニア世代が中心になって行う「おもちゃドクター」がありました。大事なオモチャが壊れてしまい、メーカーにも修理を断られてしまい、子どもが困っています。そんな不運に見舞われた子どもたちを救うボランティア活動をしている人達が、おもちゃドクターです。オモチャが直ったときの子どもの笑顔が見たい一心で、日々の研さんを積んでいるといいます。壊れた宝物を直したとき、子どもの笑顔で感謝されることが本当の楽しみだということです。オモチャに限らず、絵画、陶芸、園芸、茶道、生け花、書道、パソコン、川柳、短歌、墨絵、人形造りなど多くの趣味があります。これらの活動の中で、形になるような作品ができたとき、さらに充実感が得られるようです。
作品を作る作業も楽しいものですが、社会に貢献することも、シニアにとって最高の楽しみになります。他人と喜びを分かち合うことは、とても心地がよいものです。公民館などでは、数多くの教室が開催されています。作品を作る喜びを作る場を用意することは、思った以上に有意義なことになるようです。その中に作品を作ると同時に、作り出す仲間が増やせるような仕掛けができれば、素晴らしい活動になります。これらの活動の場を用意することが、市町村の重要な役割になるかもしれません。
生きがいの解決策には、ソウルの宅配事業団も参考になります。このソウルの宅配事業団では朝から高齢者が、宅配依頼が入るのを待機室で待ちかまえています。軽量の荷物や書類を届ける宅配事業団では、朝から高齢者が宅配依頼の入るのを待っているのです。65歳以上の高齢者は、ソウルの地下鉄が無料で利用できます。地下鉄を利用できるために、宅配を安く請け負うことができるわけです。安くて、確実であれば、依頼は多くなります。宅配歴6年の73歳の老人は、スマホの地図アプリを使いこなして配達しています。1日の稼ぎはおよそ2万ウォン(約1700円)で、月に50万~60万ウオンを稼ぐといいます。年金制度が十分に確立していない韓国では、月に50万~60万ウオンは年金を上回る収入だと言うことです。彼は、歩くのは健康に良いし、毎日決まって出かけるところがあって幸せだといっています。別の同僚は、「顔見知りと昼から安酒でだけで満足で幸せな気持ちになる」と話しています。ガソリンインスタンドから半径2キロメートルほどの住民に、地域のシニアが届ける発想も面白いものです。シニアが、ギグワーカーの代用として働くわけです。社会参加と小遣い稼ぎ、そしてガソリンインスタンドが仲間との憩いの場所になるかもしれません。
4,子ども食堂の存在
シニアのやりがいという点では、子ども食堂の運営があるようです。日本では、十分に食料の買えない家庭が一人親の世帯で32%にも及んでいます。経済的理由から、必要な食料を買えない家庭が増えているのです。経済的に、学習に従事できない子ども達もいます。でも嬉しいことに、日本にはその悲惨な実情を見過ごすことのできない人達もいるのです。彼らは民間団体を立ち上げて、無料で安価な食事を提供する「子ども食堂」の担い手になっています。子供の貧困問題への関心の高まりなどから、団体数は2017年の80から2019年には120に増加しています。日本の家庭には、食生活に困り、学習活動に悪影響を与えつつある負の要因が存在しています。これには、世論の後押しもあります。フードバンク発祥の地は、アメリカです。フードバンクに関しては、欧米は民間企業の取り組みや法整備が先行しています。フランスでは、2016年に食品廃棄禁止法が施行されました。この法律により、賞味期限切れによる食品廃棄を禁じたために、フードバンクの活用が促進されています。アメリカでは、2016年からスクーバックスが同国の全店舗で売れ残った食品をすべて寄付しています。
日本にも、この流れが押し寄せています。ローソンと三菱食品などの企業は、フ-ドバンクへの寄付を始めています。これらの企業が力を入れる理由は、企業の環境対策などを重視するESG投資が普及してきたためです。この投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことです。 ESG評価の高い企業は、事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業とされています。日本でもフードバンクへの食品寄付を巡り、法人税の控除対象になるようになりました。税務上、廃棄と同じように扱えるため「寄付のハードル」は下がっているのです。フードバンクは食品を無料で受け取り、食品を必要としている家庭や施設などに提供しています。ここで取り扱う食品量は、2015年時点で3800トンでしたが、2022年には、10,449トンにまで増えています。最も、企業が廃棄する食品は300万トンですので、0.1%強がフードバンクに回されていることになります。
4,子ども食堂の利用価値
子ども食堂が、食事をし、学習をする場として成立する環境は整いつつあります。環境や社会課題への取り組みを重視する投資の観点から、食糧を大量に廃棄する企業へは厳しい視線が注がれています。この食糧は、フードバンク通じて子ども食堂に提供されています。企業は、次世代の高度人材を求めています。工夫次第では、子ども食堂が知的訓練の場になります。2020年度から、小学校でプログラミング教育が必修化されます。福島のある英語学習塾は、コンピュータープログラミングの考え方を学ぶ講習会を開いています。講師が、英語を交えてプログラミングを指導しているのです。子どもたちは、ブロックを組み立てて作ったロボットの動きをタブレット画面で入力すます。どうすすれば自分の思い通りにロボットが動くかを、試行錯誤しながら入力を繰り返します。スピードや方向、強さを調整しプログラミングの流れや考え方を学ぶわけです。楽しみながら、プログラミングの基本的流れを身に付けてもらう企画です。
遠隔操作による教育とこれから必要になるプログラミング習熟を、子ども食堂で行うことが可能になれば、経済格差による教育格差は是正されるかもしれません。AIの人材が、渇望されています。AIの人材は、簡単にいえばデータティエンテイストです。データマイニングを自由に操れる人達と言っても良いでしょう。データマイニングの技術には、微分や統計学が必修です。微分や統計学を教科書どおりに学んでも、理解できない子ども達がいます。微分ができなくて学習の進度が伸び悩んでいる子どもは、数列の理解に戻って始めることが基本です。この学習には、エドテックが有効です。エドテックとは、教育とテクノロジーを組み合わせた造語です。この手法を利用したリクルートは、蓄積した140万人の学習履歴をデータ分析して、学習方法を助言しています。理解できない子ども達に、モデルを基づいて学習のやり方を助言しているのです。
これからの若者は、グローバルビジネスに要求される能力や,技術を磨くことが求められます。これらの能力や技術を身につけるためには、小さい頃からの積み重ねが必要になります。準備を継続的に行っていないと、その育成はかなり困難ということになります。国際化について、シニアは多くの知見を持っています。シニアが培ってきた経験や知識などの知的資産を、次世代の子どもたちに移転していくことは重要です。このことが、国の民度を高めて行くことになるからです。そして、シニアの中にはこの移転に熱意を持つ人達も多いのです。
おわりに
社会参加には、仲間がいると励みがでます。仲間と語らう場所があると、活動がスムーズに行くようです。その候補が、統廃合される小中学校になります。2022年度、福島県内における市町村立小中学校は595校になります。1969年度には1070校があり、2022年度の595校と比較すると6割ほどになっていることがわかります。使わなくなった校舎や体育館、給食施設などの活用が考えられます。2023年度末のガソリンスタンド数は2万7414カ所になります。この数字は、6万ヵ所以上あったピーク時の1994年度から比べると半数以下なのです。これらの施設も、利用の対象になるでしょう。さらに、日本には、800万件の空き家があります。これらの中で立地の良い案件は、利用の対象になります。これらの施設を上手に活用して、地域とそこに住む人々を豊かにしていきたいものです。