社員の非認知能力を生かす企業が業績を上げる  アイデア広場 その1409

 良い幼児教育が、長期にわたって効果があることを証明した研究が数多く報告されるようになりました。特に、良い幼児教育が、非認知能力の改善につながることが指摘されています。忍耐力、協調性、意欲、自制力といった非認知能力が、社会的な成功に繋がるというデータが蓄積されてきています。非認知能力を高める教育を受けた子ども達は、学力検査の成績が良く、学歴が高く、収入が多かったのです。さらに、一定の社会的地位を持ち、所得が多く、持ち家率が高く、健康意識が高い人間に成長していました。これらの子ども達への投資が、租税負担能力を高め、健康状態を向上させ、社会保障費の軽減を実現させていたというわけです。一方で、学力テストなどで計測される認知能力の育成は、プラスの効果が持続しないことも明らかになってきました。1970年代半ばにニュージーランドで生まれた約1000人を追跡調査した研究があります。この国でも、幼児期に自制心が高いと判定された子どもが大人になった後、所得や健康も安定していると報告されています。幼児期に自制心が高いと判定された子どもは、大人になった後、社会生活面でも安定しているようです。たとえば、幼児に「今食べれば1個のケーキですが、2時間後には2つ食べられますよ」という課題を与えます。この2時間を待てる子どもは、我慢できるという非認知能力が高い傾向があるということになります。良い幼児教育は、この資質を向上させているようです。

 学力テストなどに代表される認知能力を高めるためには、学力として把握されていない潜在能力が大切になります。それは、学力を上げるために、非認知能力が大切にあるということになります。生徒の中で、自分の学力を上げるためには何をすればよいかを知っている子どもは成績が良い傾向があります。学力を高めるためには、直接勉強とは離れている我慢強さや協調性、そしてコミュニケーション能力が大切ということです。友達をつくり、難解な宿題コツコツと解き続ける学習から総合的な学力が開花します。潜在能力を別の言葉に変えれば非認知スキルになり、これが人的資本、無形資産、生産性、競争力を高める要素になります。潜在能力には、ストレスへの耐性、道徳心、自己肯定、行動力などがあります。できる子は、自分が何をすべきかを知っています。何をすれば成績を高められるかを知らない子どもは、なかなか成果を得られません。勉強が本当にできる子は、学校生活で数多くの非認知スキルを獲得しているという説が有力になりつつあります。

 おさらいになりますが、非認知教育の重要性を世に知らしめた事例は、ペリー就学前プロジェクトになります。このプロジェクトは、1962年から1967年の間、アメリカのミシガン州で行われました。この地域に住む低所得者層家庭の3〜4歳児が、教育の対象になりました。このプロジェクトは、非認知能力の教育に力を入れたものでした。この能力は、一般的な知能指数や受験学力とは異なる 意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーションなどの測定しにくいものになります。ペリーの就学前教育は、30週間続けられ、その後、当時の子どもが50歳になるまで追跡調査が行われているのです。その結果が、驚くべきものだったのです。ノーベル経済学賞のジェームズ・ヘックマン氏も、高く評価する結果をもたらしたのです。この非認知能力を対象にした教育を受けた子ども達は、持ち家率が高く、学歴が高く、収入が多いという成果を作り出したのです。貧しい家庭に生まれながらも、老後は良い生活を送れる状況になっているわけです。それでは、ペリープロジェクトの具体的な内容はどのようなものだったのでしょうか。これは、低所得で就学前の幼児に対して、午前中に毎日2時間半ずつ、教室での授業を受けさせるものでした。週一度は教師が各家庭を訪問して、90分間の指導をしたのです。指導方法は、子どもの自発性を大切にする活動を中心とするものでした。教師は、子どもが自分で考え、遊びを実践するように仕向けて、毎日それを復習するように促しました。復習は集団で行い、子どもたちに重要な社会的スキルを教えることになりました。指導内容は、子どもの年齢と能力に応じ調整され非認知的特質を育てることに重点を置いています。ここで身に付けた非認知能力は、賃金や就労、労働経験年数、大学進学に良い影響を及ぼしたのです。このプロジェクトの利益の率は、6~10%と米国の好調時の株式配当5.8%より高いとヘックマン氏に言わしめるほどに評価されたわけです。

 企業の側も、業績の向上に非認知能力が関連していることを理解し始めました。それでは、その成功事例をどのように、企業内に持ち込めば良いのでしょうか。その利用や応用も、徐々に採用され始めています。非認知能力が、経営や投資の成果を高めることが分かりました。その一つに、失敗などから学ぶ姿勢で、非認知スキルが徐々に身に付くことの理解があります。この徐々にという点に、ヒントがあるようです。自分なりの方法の処方箋は、ベストでなくともよいのです。時間をかけて、漸進的にベストに近づく姿勢が求められます。自分に合った方法を少しずつ研究して、改善していく試行錯誤が大切になります。ある意味、好奇心、探究心、我慢強さ、失敗を恐れずに失敗から学ぶ姿勢が求められます。成果は試行錯誤の中で、確率的に生まれてくるものです。成果を高めるという行為や姿勢は、必ずしもそこがゴールにはなりません。様々なところから、情報やアイデアを集めて、漸進的に解決に向かっていくしかありません。解決法らしきものを実行している間に、経験の中から実践的な方法論がでてくるというものです。以前の学力試験(認知能力が対象にしたもの)は、正解が1つという形式がありました。でも、非認知の立場は、正解に到達しても、次の正解を求め続ける姿勢が重要になるようです。このような試行錯誤の場を提供することが、一つのモデルになります。

 余談になりますが、インドの航空会社の飛行機が、インドのデリーからアメリカのサンフランシスコに行くお話になります。この航空会社は長い距離の航路に変更し、飛行時間を大幅に短縮することに成功しましたのです。以前は、飛行距離の短いヨーロッパ方面から大西洋を通過する西回りルート取っていました。それを新たに、中国を横断して日本上空を通過し、太平洋を横断ずる東回りのルートに変更しました。この東回りルートは、以前の飛行距離よりも1000kmも長くなりました。でも、コース変更で航路は約1000 kmも長くなったのですが、2時間以上も時間を短縮することになったのです。この新しい東回りのルートは、偏西風を追い風にすることができました。偏西風に逆らって飛行する以前の西回りルートに比べて、機体の空気抵抗が大幅に減りました。機体の空気抵抗が減った飛行機は、飛行速度が上昇し燃費も向上したのです2時間以上の時間短縮のロジックは、偏西風をうまく活用したことでした。解は一つではなく、複数あるものです。その中の最適解を求める能力も必要になるわけです。

 企業で成果を生み出すためには、ひとつの課題ごとに時間をかけて調べ上げることが必要になります。難しい課題が単純明快に解けないから、様々なところからアイデアを集めます。ところが、この課題解決に役立つものは、直接的に課題とは絡んでこないところから出てきたりします。異分野の友達との何気ない会話の中からとか、書店巡りの中で目にした本からなどから、課題解決のヒントがひょっこり顔を出してきます。課題を解決し、成果を高めるにはどうすればよいかを悩み抜いて、解決法らしきものを頭で考え付くようになります。経験の中から、実践的な課題解決の方法論が出てきて、自分好みの処方箋となっていきます。混んでいる近道より、空いている遠回りの道の方が結局早く目的地に着くなどは、経験的なものから出てくるものです。インドの航空会社が、西回りから東回りに変える事例なども、この経験的な試行錯誤の中で生まれてきたものでしょう。企業に勤める方は、さらに経験値を高めて、自分のアイデアを研さんしていく努力が求められます。経験を通じて、何がベターかを試し続けて、課題の解決を探っていくことになります。成功する方の姿を見ていると、何となく、答えがわかるようになるということが大事のようです。遠回りした方が早くなるということも、選択肢になっているようです。

 最後になりますが、機械の実稼働率で調べると、70%~90%の範囲が適切で、このときに生産性が最大になると言われています。企業は決った商品だけを生産しているわけではなく、新製品を一定の割合で市場に供給することになります。その試作品を作る時に、製品の加工だけで稼働率100%ならば、試作品を作ることができません。稼働率を少し下げ、時々点検をしたり、メンテナンスしながら、試作品を作るほうが持続可能な生産を可能にします。自動車のハンドルのように「遊び」のような余裕が、効率や生産性をあげることに繋がるわけです。会社で働く社員にも、機械の実稼働率を高めるような工夫が求められます。企業の利益を向上させるためには、持続的な成長の過程で、社員一人ひとりの生産性を高める必要があります。生産性をあげる場合、つねに余裕を持つことが大切になります。その一つの11時間のインターバル規制は、欧米などでは採用されているようです。たとえば、12時まで働いた社員は、翌日の午前11時まで勤務が免除されるというものです。現実の場面に直面する仕事には、どうしても長時間にわたって働く場合も出てきます。これが続けば、弊害をもたらします。長時間労働を止めるには、仕事量を一定にすることです。11時間のインターバル規制は、無制限の残業を防止する制度になります。稼働率100%にしないで、余裕を社員の持たせる配慮です。「どうすれば、生産性を高められるのか?」という問いに、何か自分なりの方法を身に付けるには、余裕が必要です。生産性を高めるという目的に対して、自分が「どうずれば生産性を高められるのか」そんな課題に応えられる時間と空間を用意する企業が、生き残るのかもしれません。良い社風の会社は生産性が高い。その逆は逆の結果になります。現在は、課題解決の経験を広く深く蓄積する社員を育てることが、企業に求められているようです。

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