2024年3月28日、環境省が「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和4年度、2022年度)」を発表しました。これによると、 ごみの総排出量は4,034万トンで、2021年度(4,095万トン)と比べて1.5%減ってはいます。2018年における日本国民のごみ総排出量は4,300万トンでしたから、ごみ排出量は減少しつつあることが分かります。最終処分量は、年々減少し、リサイクル率が増加していることが分かります。環境意識の高まりや人口減少にともなって、排出量は、2030年度に3700万トンと2015年度比16%減る見込みになっています。その減少するゴミの中で、確実に増えるものが紙おむつといわれています。2021年の乳幼児用の紙おむつの生産量は、110億枚になります。出生率の急激な低下で、乳幼児用の紙おむつは減少していきます。大人用の国内生産量は、2021年で88億になりました。こちらは、高齢者の増加にともない増加することが確実になります。乳児用と大人用を合わせた国内生産枚数は、2011年から2019年かけて6割も増えています。使用済み紙おむつは水分が多く、焼却に使うエネルギーが多くなります。この紙おむつ焼却処理される際に、二酸化炭素の排出や焼却コストが高齢者施設や自治体の新たな課題となってきました。2022年にごみ処理にかかった事業経費は2兆1,519億円で、前年度の2兆1,449億円から70億円増えています。ゴミの排出量が減っているにもかかわらず、その処理にかかる費用は増加しているのです。その原因に、紙おむつがあるのかもしれません。今回は、この紙おむつの有効リサイクルを考えてみました。
2020年度の国内の一般廃棄物は4167万トンで、紙おむつは 216万トンの5.2%になります。この5.2%が、2030年度に238万トンと6.4%にまでに達するとみられています。この問題に、挑戦する企業も現れています。住友精化は、2022年ごろからこれまでの知見を生かし、使用済み紙おむつの問題解決に取り組んでいました。解決の手法は、「水平リサイクル」になります。水平リサイクルとは、使用済みの製品を原料として、同じ製品を再び製造するリサイクルの手法になります。住友精化は、紙おむつの回収量を2030年までに年間5000トン(約4700万枚)を目指ししています。紙おむつは、綿状パルプとパルプ内でし尿を保持する高吸水性樹脂(SAP)から構成されています。このSAPは、ひものような形をしたポリマーのポリアクリル酸が綱のように結合しています。ポリアクリル酸を綱のように結合して、その間にし尿などの不純物を閉じ込める仕組みになります。SAPは数十倍に相当するし尿を吸収できる分、使用後は重量がかさむことになります。水分を多く含むために、焼却には多くの問題が生じます。また、別の手法でも、一度吸収すると分離も難しく、リサイクルの障壁となっていました。従来の技術では、SAPからし尿を取り出す過程で品質が下がり、紙おむつとして再生できなかったという事情がありました。住友精化は、使用済み紙おむつの吸水材を再生する新たに技術を開発したのです。この技術を使って、ささやかな実証実験設備を姫路工場の敷地内に作りました。実証実験設備の稼働開始は2026年5月を予定しているようです。この設備では1日当たり10キログラムの再生SAPを生産できるということです。「千里の道も一歩より」という流れになるようです。ちなみに、10キログラムの再生SAPは、大人用紙おむつ1000枚分のSAP量に相当します。
企業だけでなく、地方自治体でもゴミの減量に取り組む市町村も増えています。名古屋市は、基本計画で人口減とともにゴミの発生が減ると予想しています。この予想では、段ボールと紙おむつは増えるとみているのですが、おむつはリサイクルが進んでいない実情がありました。名古屋市でも、廃棄物に占める使用済みおむつの割合は増加傾向にあるのです。今は、おむつの大部分が焼却処分されています。おむつは、水分を含むために燃えにくく、燃料を追加する必要もあり、ある意味、厄介なゴミになります。名古屋市内では、一般廃棄物や産業廃棄物を回収し、リサイクルする事業者など12社でBEaR (べアー)という会社を設立しました。BEaRによると、大都市圏でおむつのリサイクル事業で実施するのは初めてということです。BEaRは、おむつ処理の実証実験を始めました。まず、ゴミ袋にはいったおむつを機械に入れ、内部の刃が袋を破いておむつを細かくします。洗濯機のような専用の機械で、紙とプラスチックに分けます。この実証実験では、1回250キログラムのおむつを60分で紙とプラスチックに分けことができます。その後、洗浄剤で滅菌し、すすぎと乾燥をほどこす工程になります。ここで回収したプラスチックは、セメントの原料に変え、建材などにリサイクルする見通しになっています。現在は1日6回ほど機械を稼働し、計1.5トンのおむつを処理しています。ここでの課題は、使用済み紙おむつの回収方法になります。おむつのリサイクルでは、安定性を担保にする必要があります。一度リサイクルのために回収を始めると、途中でやめることはできません。さらに、安定した回収とリサイクルを確保した上で、採算がとれるようにする仕組みの構築が必要になります。
見方を変えると、プラスチックとパルプなどから構成されている紙おむつの素材は、リサイクルに向いているのです。おむつ素材がリサイクルに適しているという利点を生かせば、大幅にコストの削減が可能になります。回収のサイクルがスムーズになれば、資源としての活用が有望になります。高齢者数から試算すると、発生する使用済み紙おむつの6~7割を回収できるようです。その課題に、挑戦する企業もあります。ユニ・チャームは、使用済み紙を再び紙おむつをつくる水平リサイクルに取り組んでいます。SAPの再生技術を、ユニ・チャームは保有しており、再生SAPを利用した商品の開発にも取り組んでいるのです。他社に先駆けて、リサイクル素材を使う紙おむつを発売しました。再生パルプを使用した紙おむつは、同社ブランド製品として九州を中心に販売しています。ユニ・チャームは、家庭からの回収で先行しています。住民の使用済み紙おむつを、分別・回収しているのです。
各企業には、強みと弱みがあります。ユニ・チャームや花王も、紙おむつの再利用に着手しています。日本国内の紙おむつのシェアは、この3社で7割を占めています。もし、すべての使用済み紙おむつを回収できれば、メーカーには再利用で材料費を減らすことができます。これらのメーカーが想定していることは、おむつから材料の5割を占めるパルプを取り出し、オゾンで滅菌して再利用することになります。ユニ・チャームでも、オゾン処理技術を開発していました。でも、ユニ・チャームの技術では、処理に時間がかかり消費電力量が多くなる点が課題でした。そこで、メタウォーターとタッグを組んで、メタウォーターが取り出したパルプや樹脂を再利用する仕組みにしました。おむつメーカーは、殺菌や漂白処理して、パルプなどの素材別に分けた後、紙おむつに再生する道を選んだわけです。蛇足ですが、メタウォーターは、水道向けのオゾン処理設備で約3割の国内シェアを握る企業でもあります。狙いは、浄水場で使うオゾン処理により使用済み紙おむつの汚れや臭いをとる仕組みを作ることです。浄水場で使うオゾン処理を活用し、使用済み紙おむつのパルプから汚れや臭いを取り除く研究を行っています。砕いた使用済みの紙おむつを、水に入れてオゾンを吹きかける手法を取ります。オゾン処理は、強い酸化力を持つオゾンを当てて、臭いや色のもとになる有機物を分解するわけです。
おむつビジネスは、日本では斜陽産業になります。新生児は年間70万人を下回り、高齢者は150万人以上が死亡する現在の日本の姿があります。日本以外の別天地が、これらの企業のターゲットになります。そのターゲット地域は、中国や東南アジアになります。 中国国内には、30年後シルバー市場は360兆円になるという中国の試算があります。国連では、東南アジアの高齢者医療費が、2030年には現在の6.5倍になるという試算をしています。今後シルバービジネスとか介護事業は、成長産業として発展していくことになるようです。大王製紙が中国に紙オムツ工場を増設して、月2億枚以上(年間24億枚以上)のオムツを生産する体制を整えています。日本の強みは、要介護認定者数を600万人抱えていることです。日本は、質の高い介護のノウハウを世界のどの国より持っているのです。そこに、品質の良い紙おむつを使用し、そのリサイクルが可能になれば、中国や東南アジアは、有望な市場になります。日本の優れたおむつリサイクルシステムも、中国に輸出し、日本も中国も豊かな老後を迎えたいものです。