日本の経済は、30年間の停滞がありました。これを打破するためには、いろいろな工夫が、必要のようです。その一つに、個人消費の領域を拡大することがあります。たとえば、今年は、開襟シャツが人気になりました。このシャツは、社外の仕事相手にも、ギリギリ失礼に当たらない使い勝手の良さが支持されました。開襟シャツは、ジャケットとシャツの中間のような存在になります。2024年の働く人々(労働力人口)は、6957万人と過去最多を記録しまいした。もし、この6957万人のうちの何パーセントかが、ワイシャツに加えて、この開襟シャツを購入すれば、衣料業界の活性化に繋がるかもしれません。新しいライフスタイルの確立は、投資も買い物も活発になります。若い世代では、イヤリングや香水などを身につけるのも珍しい行動ではなくなりました。以前、ゴルフ焼けは、一つの自慢になっていました。でも今は、嫌われるケースになりつつあります。ゴルフのプレー前に日焼け止めを塗っている光景も当たり前になりました。ここにも、ビジネスチャンスが生まれています。子どもの肌は、ケアは不要というイメージがりました。でも、子どもの日焼け止めは、今や当たり前になってきました。若い世代では、用途に合わせて、日常的に化粧なども珍しい行動ではなくなりました。新しいライフスタイルの確立や消費行動の多様化から、新たな市場が生まれています。この流れを素早く作り出し、その商品やサービスを世の中におくりだしたいものです。
昔の日本の化粧品メーカーは、高校卒業時期に美容講習会を開いていました。それが、固定客づくりに貢献していたわけです。でも、現在は美容講習会を開くことはありません。高校卒業時に化粧方法を教えるのでは、遅すぎるからです。現在は、美容院やデパート、そしてネットでいつでも化粧の仕方を学ぶ場が用意されています。でも、この初期の段階で、インプリンティング(刷り込み)ができれば、固定客を確実に囲い込むことができます。化粧品は収入が減ったからといって、急に使わなくなることはありません。この商品は、食料品のように女性にとって必需品です。収入に関係なく、売上げは一定のペースで確保できるのです。ある面で、タバコと同じような側面を持っています。もっとも、タバコは身体的にも精神的にも有害になりますが、化粧品は心身ともに明るさをつくり出します。この女性化粧品の領域に、男性も入るようになりました。欧米の化粧品は、香水を基本としたフレグランスが中心です。ただ、欧米の場合、ここにファッションが融合していました。欧米では、化粧品とファッションを基本として、表現する文化を築いてきたのです。その文化が、今までのファッションや化粧の分野を牽引してきました。白人の築いてきたファッション文化には、「美白」という概念が欠如していました。アジアの人々は、この美白を追い求めているのです。日本の男女も、この「美白」を求めるようになりました。
市場調査をすると、5歳までの幼児期は親がまめにスキケアをするケースが増えました。でも、思春期前の小学生の時期になると、大人も子どもも意識が低く、「空白地帯」が生まれました。自然体が良いように思えるし、「変に塗って周囲から浮かないか」など気になってしまう年頃でもあります。「いつやっていいのか」などの壁で、一般的に知られていないのが子どものスキンケアになるようです。マーケティングの格言の1つに、「みんなが欲しがるものが欲しい」というものがあります。このニーズを先取りし、手を打てるかがビジネスチャンスをものにできる契機になります。このニーズに先手を打ったのが、化粧品メーカーのファンケルになります。ファンケルは、小学生のためのスキンケアシリーズ「クリアアップ」を発売しました。「にきび」のできにくい肌に整える泡洗顔料や皮脂のバランスを整えるジェルミルクを投入したのです。さらに、泡洗顔料などに加え、今年2月には日焼け止めを投入しました。見通しは当たり、売れ行きは計画の2.5倍にもなったようです。
この夏、面白い現象が見られました。夏の猛暑で、じわりと増えてきたのが日傘を差す多数の男性たちでした。以前は、日傘を差す男性は、女性比べるとごくわずかでした。猛暑はここ数年来続いていたのですが、男性の日常的な日傘使用にはそれほど広がりは見られなかったのです。もっとも、潜在的には紫外線かち肌を守りたいという気持ち(ニーズ)はあったようです。男性の日傘への敬遠は、男性の特有の習慣や文化があったようです。青白い顔は、日焼けした顔に引け目を感じる流れがあったのです。三陽商会は、今年の春夏シーズンから、晴雨兼用の折りたたみ傘の販売を始めました。三陽商会は、日傘の潜在需要は大きいとみていました。ただ、男性の様々な壁もさることながら、欲しくてもなかなか買うきっかけがつかめない情況もありました。日傘は、女性の販売コーナーに置かれることが多かったのです。そこであえてメンズ売り場で展関することで、男性の背中を押そうという工夫をしました。すると、想像以上の売り上げを実現しています。ダムにたまった水が、一気に送水される「緊急放流」のように普及し始めています。関西では実際に万博需要があり、全体でも予想以上の売れ行きになっています。
今年の夏は群馬県伊勢崎市で41.8度を観測し、国内最高記録を更新するなど全国的に猛暑になりました。記録的猛暑となった今夏、男性の44%が日傘を利用していることが分かりました。東京都によると、男性は20代以下と30代でそれぞれ50%以上が日傘を利用していました。最も少なかった50代の男性でも、39%が日傘を使用していたのです。44%は、女性の利用率91%には及びませんが、猛暑をきっかけに男性も日傘を手に取る流れが生まれてきたわけです。この調査は、9月10~23日に実施しました。調査には、公式アプリを利用する男女それぞれ約4千人が回答しています。日傘は、どこかに「女性が使うもの」との意識が残っていました。化粧品と同様に、この意識も薄れているようです。日傘の使用について、周りの視線が気になったかどうかの質問には、気に「ならなかった」の回答が多くなっています。男性の61%が「気にならなかった」と答え、34%が「思っていたより気にならなかった」と答えています。日傘を使っている男女の97%が「暑さが和らいだ」とその効果を認めています。
余談になりますが、人類を含めた動植物は紫外線との戦いを勝ち抜いてきた勝者とも言えるようです。地上への適応した生物にとって、紫外線との闘いはサバイバルの歴史ともいえます。5億年ほど前、動物は爆発的な進化をとげ、さまざまな姿の生きものが誕生しました。でも、それは海の中だけの爆発だったのです。太陽の強い紫外線に耐える生き物は、いなかったといえます。でも、約4億年前頃に、生きものたちは陸上に進出を始めます。紫外線に対する適応力を徐々に高めて、地上に進出してきたわけです。紫外線を防ぐ仕組みは、生物が地上に進出した4億年前からの適応戦略ともいえるものでした。紫外線には、細胞のタンパク質を変性させる作用があります。人間の皮膚は、タンパク質でできています。強い紫外線は、皮膚に対して有害な作用をもたらすわけです。この紫外線との戦いが、人類の祖先を含んだ生物の最初のサバイバルになりました。紫外線から身を守る解決法は、紫外線を通さない黒い皮膚をもつことでした。人類が獲得した黒い皮膚は、現在のアフリカ人に引き継がれています。メラニン色素の密度が高いほど、皮膚は濃色になり、紫外線から身を守るわけです。5~7万年前に、人類(ホモサピエンス)はアフリカを出て世界に拡散していったのです。拡散していった人類の中には、ヨーロッパを目指した集団もしました。彼らは、白い肌を持つようになりました。白人と言われる人種は、アフリカで進化したメラニン色素生成能力を失っていったのです。そして、この美白を求めるニーズの中に、ビジネスチャンスが生まれています。
最後になりますが、以前は保養地に北欧の人々が長期滞在し、日光浴を楽しんでいました。そんな中で、紫外線は嫌われる存在になってきました。でも、歴史は繰り返すと言う言葉あります。再度、日光の効果が見直される状況が生まれつつあります。ここで注目される物質が、ビタミンDです。ビタミンDが「一種のホルモン」として、世界中のアンチエイジング研究者の注目を集めています。「ビタミンD」の摂取は、うつ病をはじめとした精神疾患の予防・改善に有効という事実が報告されるようになりました。うつ病を引き起こす主な原因は、脳内の神経伝達物が不活性化することにあります。ビタミンDの受容体が、脳内の前頭前皮質や海馬、視床などの部位を活発にする知見が蓄積されてきています。ビタミンDがドーパミンやノルアドレナリンの神経伝達物質の作用を改善させる働きがあります。結果として、ビタミンDが脳を酸化ストレスから保護しているのです。ビタミンDは、食事からの補給も可能で、特に鮭や青魚に豊富にあります。ただ、加齢に伴い食事の全体量も減ってくるため、必然的にビタミンDの血中濃度は低下する傾向があります。また、ビタミンDは日光に当たることで、皮膚で生成されます。これも年齢とともに、皮膚で作られるビタミンDの量は減っていく傾向があります。もっとも、この知見を知っていれば、高齢者でも魚を多く食べ、朝日に当たる時間を増やすことに心掛ければ、問題は解決に向かいます。適度な日光浴は、いつの時代も必要になるようです。
