街路樹の役割の評価が、分かれてきています。近年はカーボンニュートラルの観点からも、緑化の推進は欠かせません。その一翼を担っているのが、街路樹になります。夏の強い日差しを遮る街路樹は、熱中症予防やヒートアイランドを緩和する役割がありました。国交省国土技術政策総合研究所の資料によると、全国の街路樹が1987年には371万本になりました。その街路樹は、2002年に8割増加の679万本となりました。2002年以後の10年間は、横ばい状態が続いています。でも、ここで困ったことが起き始めました。高度経済成長期の1950~70年代に植樹された街路樹が、半世紀以上を経て現在、老木化していきたのです。木の寿命は種類によって異なりますが、ソメイヨシノは一般的に50~60年程度で老齢期を迎えます。この老木が倒れ、いろいろな問題を起こしているのです。2018~2022年は、毎年平均で約5200本が倒れているのです。この原因は、強風や木の老朽化、根腐れなどが主な原因になります。2022年は街路樹が629万本となり、ピーク時から約50万本減少しました。この減少は、樹木の衰えや景観悪化、事故などの理由で伐採・撤去が進んだことによるものです。樹木の管理体制が、社会の変化や気候変動の視点から見直される時期にきているようです。今回は、街路樹について考えてみました。
街路樹の事故を受け、国土交通省は倒木や枝の落下による被害について、公園や道路を管理する自治体を対象に初めての全国調査を実施しました。人的・物的被害が2021年4月〜24年11月の約3年半で、計1732件になっていました。このうち人的被害は計110件あり、全治30日以上が8件、死亡が日野市の1件でした。日野市では2024年9月、緑地内の遊歩道でイチョの枝約10本が落下しました。この落下で、下敷きとなった男性(当時36)が命を落としたのです。それ以前にも、広島県三原市の倒木で亡くなった方がいました。三原市では、2014年の倒木事故で2人が死傷しています。そこで、スマホで写真や位置情報を市に連絡できるシステムを導入しました。三原市は、倒れそうな木を見つけた場合スマホで市に連絡できる仕組みを作りました。住民からの通報はこれまで19件あり、市の職員が迅速に現場に向かって処理をしています。
公園や道路の樹木が倒れたり枝が落下したりする事故が後を絶たない状況が生まれています。高度成長期に街の緑を取り戻す施策が、良い意味で行われました。でも、時が立つにつれて、その良い面が樹木の老化という悪い面を出し始めたのです。たとえば、名古屋市は植栽から40年以上の街路樹が、2021年4月時点で4万2千本ほどあります。この40年以上たった老木の倒木が相次いでいるのです。台風や豪雨災害の激甚化も重なり、管理する自治体は対応に苦慮しています。倒木による電線の被害や街路樹の倒木による交通遮断などが頻発するようになりました。樹木の状態を見極めるのは難しく、専門性の高い人材の確保が欠かせません。名古屋市などは、年1回以上の点検業務について、2025年度から半数程度を造園業者などに委託することになりました。他の自治体も、樹木医や造園業者といった外部の知見を取り入れる動きが出てきています。問題は、予算や人手不足になります。人手や予算が限られ、手が回っていない自治体も少なからずあるのです。
財政力指数という言葉があります。これは、行政サービスの提供に必要な費用に対して、その町の税収入の割合をいうものです。この指数が高いほど、健全な自治体といえます。生産労働人口の多かった時代は、無秩序な都市の郊外拡散が続いていました。街路樹も、この流れにのって拡散していきました。このような拡散が、近年に見られるような、災害に弱い地域を作り出してきています。たとえば、上下水道は、地域の発展と共に拡散していきました。でも、地域の人口が減少し予算が減少すると、その維持や修理の費用をカバーできなくなっています。多くの自治体の水道事業は赤字経営になっています。高度成長期には、予算が毎年増加した経緯から、水道事業も交通インフラも、そして街路樹も拡張が可能でした。でも、その流れは抑止の方向に向かっています。成長ばかりを考えてきた今までの都市政策は、限界を露呈してきたわけです。多くの地方自治体が、高度成長時代のような右肩上がりの予算編成を組んでいます。でも、利益を産まないところに、予算を投資しても、見返りがなければ、無駄になります。人口が増加している都市は、郊外への開発が必然化し、バス路線の拡充が求められました。いま人口減少する環境では、多くのバス路線が赤字の路線をたどっています。収支悪化した路線を維持するために、国や自治体による補助金で維持している実態があります。縮小する自治体の葛藤が、街路樹の取り扱いに縮図の様に見て取れるようです。
イチョウの倒木により死亡があったが日野市は、二度と同じような事故が起きないように徹底的な点検や管理を進めています。高度経済成長期に植樹され、その木が老木化するケースが増えています。街路樹の点検を強化し、危険性があると判断すれば伐採するなどの対応をとっています。日野市で街路樹を管理する担当者は、倒木被害の抑止に力を込めています。でも、樹木の定期点検や巡回を実施している自治体は、公園樹木・街路樹ともに4割程度なのです。倒木の主な原因は、「腐朽・病害」が多くなります。街路樹は、道路の舗装や地下の水道管、ガス管の敷設などで根を張れないケースが増えます。根が広く張ることが出来なければ、これが倒木の要因となります。倒木は近年、年5200本に上ります。いくつかの自治体は、専門人材の確保やデジタル技術の導入でリスク回避を急いでいます。リスク回避は、樹木1本1本のこれまでの点検状況などを確認できるようにすることが重要になります。蛇足ですが、米ニューヨークなどでは樹木ごとにQRコードを付与して効率的に管理している都市もあるようです。効率的な樹木の管理が、予算の少ない自治体に求められているとも言えます。
余談ですが、「国土の均衡ある発展」という理念を実現するために、日本の高度成長を支えた首都高速道路、名神高速道路、東海道新幹線が建設されました。これらのインフラが、いずれも建設後50年を過ぎるようになりました。50年を超えたころから、施設の劣化が著しく進行する事例も増えています。道路の橋梁に限っても、老巧化したインフラは70万ヵ所を超え、その点検を行わなければならないのです。行政はこれらのインフラを維持したり、更新したりする費用を予算化しなければなりません。行政もこれらのインフラを維持したり更新したりする費用は、道路分野だけでも毎年2.5兆円程度が必要となると試算しています。日本の道路や道路橋、そしてトンネルなどの保守管理は、今後半永久的に続くわけです。街路樹も、自治体の予算を使い、それが永久に続くことを念頭に管理を進めていくことになります。
最後になりますが、老巧化が進む橋梁やトンネルをいかに使いこなすか、いつの時点で補修するかなどの課題が生じています。この課題は、街路樹にも当てはまります。老木化した街路樹は、伐採することになります。その跡に、お金と人手のかからない樹木を植えられることができればハッピーです。もっとも、その前に「どの程度腐朽」しているのか、それともどんな病害なのかなどを調べる過程があります。老巧化したインフラを調べることと同様な調査が必要になります。629万本の街路樹を、人の手で調べることは大変です。この大変なことをするツールが、話題に上がるようになりました。老巧化した橋梁が70万ヵ所を超え、その点検が課題になっているのです。現在、この点検を片側通行にして、人の力で行う光景が全国各地で見受けられます。昔は、3月にこの工事が多かったこともありました。予算を使い切る事業と揶揄されたこともありました。でも、現在はそんな余裕がなくなりました。効率的に行える仕組み、またはそのツールの開発になります。
「お金がない」、「人がいない」中で、インフラを維持する工夫も求められています。そんな中で、救世主になるツールがあります。5Gが、脚光をあびています。でも、便利で高速の5Gは毎日充電をする必要があります。一方、Low Power Wide Area(LPWA)と呼ばれる通信技術も、密かに注目されています。このLPWAは低い電力で、広いエリアカバーできる機能が評価されています。この特徴は低速ですが、一般的な電池で数年から数十年も持つ、省電力性が持ち味です。橋梁に劣化を測定するセンサーを埋めておきます。LPWAで、1週間とか1ケ月に1度40km離れた建設事務所にデータを送れば、この優先順序が分かる仕組みが作れるわけです。日本には、70万の橋梁を点検や補修の箇所があります。この優先順位が分かれば、点検人員の配置がやりやすくなります。米ニューヨークでは、樹木ごとにQRコードを付与して効率的に管理しています。日本ではLPWAを使って、600万本の街路樹を管理しているとなれば、自慢できることになるかもしれません。