脱中国と親中国で利益を上げ、二股で利益を上げる アイデア広場 その1527

 経済のかじ取りをする中国人民銀行は、中国経済の実力を示す足元の潜在成長率を5%台前半と推計しています。この潜在成長率が、今後は緩やかに低下していく公算が大きいことも認識しているようです。中国の経済成長に群がってきた外国企業が、中国事業の縮小の方向に転換しつつあります。さらには、撤退する企業も目立つようになりました。実際、外資による中国投資の減少は止まらない状況になっています。このような状況の中で、2023年10月、中国「ユニクロ」は、賃金を4割引き上げる発表しました。ユニクロの給与は、それまで大都市での外資系の給与と同程度だったようです。ユニクロは、同業者の賃金を超える値上げをしたわけです。ユニクロの社員にとって、年間給与の平均増加率が28%になり、最大で44%になる社員もいました。この賃上げによる待遇改善で、顧客対応の最前線を担う従業員の就業意欲を高めことも狙います。さらに、店舗で働く優秀な人材を確保する狙いがあります。優秀な人材を確保し、今後の中国における出店戦略を支える狙いも見え隠れします。ユニクロの海外の主力市場である中国では、2022年にも賃上げを実施しています。今回の賃上げは、企業ブランド向上にもつながるとみられています。リスクを背負っている中国市場に、果敢に挑戦する企業もあるわけです。

 ユニクロと反対の事業戦略を取った起業もありました。上場企業の2024年3月期の予想配当利回りで優秀な企業に、シチズン時計が入っていました。シチズン時計は、今期に最終減益を見込む中、配当を最高の40円に増やすようです。腕時計の販売が欧米で堅調に推移するほか、国内インバウンド需要の回復で増収を確保しています。このシチズンは、2015年2月に思い切ったことをしました。中国広州の時計部品工場を突然閉鎖し、約1000人の従業員全員を一斉に解雇したのです。シチズンは、5日の閉鎖発表から1週間で抜き打ち閉鎖を完了させました。この処置に、中国世論は即座に反応しました。こんな無責任な日本企業は許せないなどの誹謗中傷が、ネットにはあふれました。全国放送のテレビでも、シチズン批判の特集が放映したのです。工場の閉鎖理由のひとつは、人件費の高騰になります。近隣のアジア諸国と比べ、時計部品のような労働集約産業の立地優位性はどんどん薄れていました。結果として、荒療治になったようです。もっとも、荒療治を行った8年後には、優良な企業として存続しています。

 最近では、東芝やパナソニックなど電機大手が中国での生産撤退や工場閉鎖を相次ぎ発表しています。日本の企業も、「脱中国」の動きが目立つようになりました。脱中国を考えていた企業は、数年以上前から準備をしているのです。以前から準備をしていて、ようやく最近になって金銭面で納得してもらい公表できたという実情があります。撤退する企業も、シチズンとは違うソフト路線で中国から撤退しようとしています。当時の企業は、シチズンのやり方は本当に勘弁してほしいと本音を漏らしています。これまでのソフト路線の努力が、無駄になることを心配していました。中国の賃金は、5年前に比べて中国の最低賃金はおおむね2倍に跳ね上がりました。そして、年々、最低賃金を政府や地方政府の意向で値上げする仕組みができつつあります。進出企業のメリットが、なくなりつつあるわけです。一方で、中国経済が停滞しているとは言え、中国は14億人を抱える消費の大国という現実があります。多く日本企業が中国に進出し、その中で明暗を分けている企業もというわけです。明るい企業の一つに、サイゼリアがあります。サイゼリアの純利益が、過去最高となったけん引役は中国になります。停滞している中国で、自社の強みを生かして業績を伸ばそうとしていいます。

 明暗が分かれる状況の中で、メイコーが注目を浴びています。2024年は、プリント基板を製造するメイコーの株価が快走しています。このメイコーの株価は、2023年末比で2倍超となりました。村田製作所や太陽誘電などの電子部品の大手が、2~4割の安に沈む中で堅調ぶりが際立つ企業になりました。メイコーが製造する基板は、コンデンサー、コネクター、半導体などの電子部品をのせて信号をやり取りするものです。これらの部品は、自動車やスマートフォン、家電などで使われるあらゆる電子機器に組み込まれています。2024年3月期で、同じくプリント基板を手がける日本CMKやNOKの倍以上になっています。メイコーは日系プリント基板メーカーで、中国や台湾以外に大きな生産拠点を持っています。このメイコーの株価が快走の背景にあるのが、「脱中国」需要の取り込みになります。この企業は、日本の6カ所と中国2カ所に加え、ベトナムに3カ所の製造拠点を構えています。メイコーは米中対立の動きを嗅ぎ取り、2010年代前半からベトナムで製造体制を整えてきました。プリント基板業界は、中国生産への依存度が高い傾向がありました。中国が大量生産して、米国に輸出する流れができていました。その米国が中国製品の関税を引き上げればコストが重くなると予測し、調達先の脱中国を進めてきたのです。それが、ベトナムでの生産になります。再登板のトランプ大統領は、中国製品への関税引き上げを行うことを公約に掲げました。予測が、現実味を増しつつあります。プリント基板を短納期で、大量生産が可能な拠点をベトナムに持つメイコーは非常に優位な立場になり、それが株価に反映しているわけです。

 余談になりますが、なぜ中国を去る企業が増加しているのでしょうか。その一つに日本の企業関係者が、中国でスパイの疑いで摘発される例が相次いでいることがあります。日本のアステラス製薬の中国法人幹部の日本人男性がスパイ容疑で逮捕されました。この他にも、少なくとも17人の日本人がスパイ行為の疑いで拘束され、その中で逮捕された方は12人になります。中国でビジネスに従事する日本人は、どんな行為が違法とされるか明確には分からず「漠然とした不安がある」といいます。中国ではスパイ行為の定義が暖昧なまま、当局の姿勢が厳しくなっている現実があります。厳しくなっているという状況においても、中国の市場は魅力的です。リスクの中に、ビジネスチャンスあるという経験則は、今も生きています。リスクを避けて、安全な場所でビジネスに従事する生き方もあります。一方、リスクとチャンスのトレードオフを乗り越えれば、一つのビジネスチャンスが生まれるとあえて、挑戦するビジネスパーソンもいます。中国の事情を考慮すれば、リスクを冒す場合でも、以下の点は留意していくことになるようです。①軍事など敏感な場所に近寄らない、②写真は原則撮らない、そしてカメラを持たない、③現地人と政治など敏感な会話は避ける、④取引相手や買収対象などの調査を行う場合は外部に委託する、⑥不要不急の外出を避けるなどの点を留意しながら、ビジネスを行うことになるようです。

 最後になりますが、親中国でもあり、脱中国でもある企業の成功例のお話しになります。その会社は、ロレアルになります。ロレアル(L’Oreal)は、フランスに本社を置く世界最大の化粧品メーカーになります。化粧品やヘアカラー、へアケア、香水などを、世界150カ国以上で展開しています。ロレアルは、消費が低調な中国でも増収でした。中国景気減速で各社が苦戦する中でも、3期連続の最終増益だったのです。稼ぐ力を示す売上高営業利益率は、同業の米エスティ・ローダーの約3倍になります。このエスティ・ローダーは、2024年6月期まで2期連続の減益でした。一方、ロレアルは、2024年12月期は市場予想ベースで4期連続増益の見通しになります。2024年12月期は中国景気が減速する中でも、増収増益の見通しになっていました。日本勢では、資生堂が今期に会社予想で7割減、コーセーが同3割減を見込んでいます。中国景気や金利の動向、地政学リスクなど事業環境の不透明さが増しています。そのような状況の中で、中国で利益を上げているわけです。ロレアルの時価総額は、1778億ユーロ(約28兆円)なります。

 蛇足ですが、ロレアルが中国に頼らなくとも強い秘訣は、「科学」化粧品になるようです。その化粧品は、ダーマコスメです。ダーマコスメとは、特定の肌悩みを解決するために、厳選された成分を配合した化粧品ということになります。この化粧品が消費者の心をつかむのは、皮膚科学に基づき肌の健康に着目したことになります。世界のダーマ化粧品市場は、2022年に約357億ドル. (約5.3兆円)になります。2030年までには、2倍以上の775億ドルになるとの予測があるのです。日本の市場には、外国企業が入りにくいと言われています。日本の消費者は、品質やサービスをきめ細かく評価していきます。このレベルに、外国の製品やサービスが追い付かないという事情があるようです。日本の20~40代の女性は、自分の肌にどれだけ適しているかなどで選ぶ傾向があります。この女性を捉えたロレアルの化粧品が、が日本で販売を始めたダーマコスメ「スキンシューティカルズ」になるようです。世界の化粧品業界は、ダーマコスメに焦点を絞り始めました。DDGスキンケアホールデインダスは、米国でダーマコスメなどスキンケア化粧品を手掛ける企業です。資生堂は今年2月、DDGスキンケアホールディングスを約4.5億ドルで買収しました。「美容先進国」韓国の化粧品大手アモーレパシフィックグループも、「エストラ」というブランドで攻勢をかけています。健康や美肌は、これからの化粧品のトレンドになるようです。

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