戦争で、腕をなくした兵士が、戦争が終わっても、なくなった腕が痛むケースがあります。理不尽な戦争で、痛みが深く植え付けられた悲しい記憶ともいえます。この痛みに関する研究が、進んでいます。記憶された痛みや主観的痛みに関する症状が、もう少しで明らかになろうとしています。痛みの中枢が、中脳水道周囲灰白質であることが徐々に分かってきました。この灰白質の部分の活動の様子をfMRI(機能的磁気共鳴映像装置)で視覚化ができるようになりました。中脳水道周囲灰白質の仕組みがfMRIでとらえられ、主観的な痛みとの関係が明らかになりつつあるわけです。この灰白質の部分が、何の活動もしていないときには、痛みは生じないのです。灰白質の部分が活動しない時に痛みが生じないならば、灰白質の部分が活動しないような治療や薬があれば、主観的痛みを起こす患者には、福音になります。もっとも、動けば膝が痛いとか腰が痛いというシニアは、長寿になればなるほど、増えている現実があります。今回は、膝の痛みに焦点を当てて、その軽減する方法を探ってみました。
「膝の痛み」を伴う病気は、国民病ともいわれています。日本国内では、70代の男性の5割、女性の7割にみられる病状になります。膝の痛みを引き起こす代表的な病気には、「変形性膝関節症」などがあります。この変形性膝関節症の患者数は、痛みを伴わない人を含めると、約3000万人と推定されています。この数字は、予備軍を含めて推定約1800万人の糖尿病よりはるかに多い人数になります。さらに世界に目を向けると、変形性膝関節症を患う人は、2023年時点で世界に3.9億人と30年前の2.3倍に増えているのです。「変形擬膝関節症」は、肥満で膝関節の軟骨がすり減ることで多く起こります。加齢が進むにつれて、だれでもがなりやすい病状になります。この病状に対する治療法は、痛みを和らげる「ヒアルロン酸注射」や人工関節を埋め込む手術になります。でも、「ヒアルロン酸注射」や人工関節を埋め込む手術は、根本的な治療法はないとされています。人工関節は、10年程度たつと取り換えのための再術も必要になるケースもあります。膝の軟骨は、自然には再生できません。現在は、組織を復活させる再生医療に期待が集まっています。膝の痛みを伴う病気やけがを、細胞の働きを活用する再生医療技術で治療する動きが加速しているのです。
歩くことは、人間の基本動作です。直立歩行を無理なく行うためには、訓練や練習が必要です。森に残ったチンパンジーやゴリラは、偏平足です。チンパンジーやゴリラは歩くことはできますが、上手ではありません。上手でない歩き方で長い距離を歩けば、足腰や股関節に痛みが生じます。直立2足歩行は、動物が本来持っている4足歩行の摂理からは離れた動作になるのです。この直立2足歩行は、人間を人間にたらしめる動作です。ゴリラのように腰を落とし、膝を曲げながら歩くことは、痛みをもたらす原因になります。素足で地面を長目に歩くことが、自然な歩き方をつくりだすともいわれています。正しい歩き方を続けることが、これからの人生では重要になってくるわけです。理想や重要性は理解されていますが、膝や腰の痛みはなくなりません。痛いからといって、安静臥床にしていると、筋力低下が一気に病状が進行します。病状が進めば、心身の加齢が進み、楽しみのない老後を過ごすことになります。動いても痛くない生活を実現する方法として、再生医療技術が注目されているわけです。
再生医療が広がる背景には、膝などに痛みを感じる患者数の急増があります。特に、変形性膝関節症の患者が増加しているのです。この増加は、高齢化や肥満の増加が主な原因と指摘されています。重い変形性膝関節症の既存寮法には、人工関節を埋め込む手術があります。でも、この人工関節では正座をしにくくなるなど、生活に制限が生じるケースがでてきます。一方、新しい治療方法の再生医療は、これらの欠点を補うことができます。この膝向け再生医療の分野では、帝人子ム社のジヤパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)が先行しているようです。この再生医療は、患者自身の軟骨を培養するものになります。培養し加工した細胞製品を、膝の損傷した患者向けに、2013年からら販売しています。この会社は、2026年1月から変形性膝関節症向けにも発売すると発表しています。さらに、数年後をめどに年1000人への供給を目指す計画のようです。日本の企業だけでなく、外国の企業も開発を進めています。YiPSCELL (イプセル)は、韓国のソウル市に拠点を置く新興企業になります。この企業は、iPS細胞を使った変形性膝関節症の治療法を開発しています。iPS細胞からつくった軟骨細胞を、注射する療法を開発し、韓国で治験を始めています。イプセルは、2027年に日本でも治験を始める方向で準備を進めているようです。イプセルは、製薬企業が集まる施設「湘南へルスインパーク」研究拠点を構えています。
最後になりますが、痛みを止めるには、お金がかかるようです。人工関節手術は、入院費などを含め200万円程度の医療費がかかります。また、再生医療の細胞製品の薬価は300万円弱かかります。このお金を用意できない高齢者は、どうすれば良いのでしょうか。70代後半の後期高齢者になると、普通の人は歩行速度がより遅くなってきます。歩き方が衰えると、左右の安定性が最大のポイントになってくるようです。すると、身体を安定させようと歩幅を狭くし歩隔を開き、足も外向きになってきます。足が外向きになるとひざの内側に力がかかりやすくなり、ひざの痛みを訴える人が増える傾向があります。足の指をしっかり使かわなけれれば、アーチの崩れも加速されていくのです。足指から押し出す力が、ふくらはぎへ円滑に伝わらないと、正しい歩き方ができなくなります。再生医療で、膝の痛みがなくなっても、良い歩き方をしなれば、また痛い生活に逆戻りするかもしれません。再生医療も大切ですが、日頃の歩き方からの補強も大切になるのかもしれません。
