自然災害に備える市町村の知恵  アイデア広場 その 1465  

 今まで経験したことのない気象災害が、毎年頻発するようになりました。気象庁は、9月2日は西〜北日本にかけての広い地域で、3日も関東甲信や北海道で警報級の大雨となる可能性があると警戒を呼び掛けていました。この台風の移動速度が遅かったため、各地で記録的な雨が降りました。8月27日から9月1日までの降水量は静岡県伊豆市で960ミリを超え、平年の8月1カ月分の降水量の2倍以上になりました。宮崎県えびの市でも900ミリ以上となったのです。気象庁は「これまで降った雨で土砂災害の危険度が高まっている」と警戒を呼びかけたわけです。大雨が降ると、各地に土砂災害起きるようになりました。たとえば、2014年8月20日、広島市安佐南区と安佐北区の山裾や谷間で土石流や崖崩れが起きました。積乱雲が連なる線状降水帯により断続的に激しい雨が降ったことが原因でした。断続的に激しい雨が降り、1時間の雨量が100ミリを超えた地点が複数あったのです。安佐北区の山裾や谷間で土石流や崖崩れで、災害関連死などを含む77人が亡くなった悲しいし災害でした。結果的に住民に危険が十分に周知されず、災害関連死などを含む77人の犠牲者を出したのです。この広島市で起きた土砂災害は、丘陵地で開発された宅地の防災対策に課題を残しました。行政は、あらかじめ指定した土砂災害警戒区域における安全確保を想定しています。でも、指定区域以外での被害も頻繁に起きているのです。2019年の台風19号(東日本台風)とその後の大雨でも、土砂災害が起きました。東日本台風は、一部損壊以上の住宅被害を伴う土砂災害が259カ所で発生したのです。この土砂災害が259カ所で発生したのですが、その全体の4割強に当たる112カ所が区域外で発生したのです。

 毎年起きる土砂災害に対して、国や自治体は区域指定の拡充に動き、区域指定完了を目指すようになります。リスクを伝える情報は住民の注意を促し、避難準備などを充実させるために、必要な情報を出しています。全国の自治体は、土砂災害リスクの点検を進めています。2024年6月末時点で全国の区域指定は約69万4千カ所に上るまでになりました。でも、区域指定完了までには、さらに人手や予算が求められています。予算の限られる自治体からは、さらに10年近くかかるとの声もあるのです。今後の進捗は現地調査の予算確保の状況次第で、指定完了時期は見通せないという自治体も多いのです。土地の評価を巡る現実的な問題も、地域によっては起きているようです。一般的には、岩手県のように、「住民が早めにリスクを知り、災害に備えてもらうために区域指定を公開する」とする流れが自然です。一方で、住民には災害リスクの公表が不動産価格低下につながるとの声もあるのです。警戒区域の指定候補地については、正式指定前の公表が過剰な不安をあおるとの懸念もあります。現行法では、現地調査が終わる前の段階で公表する法的義務はないことも混乱の一因のようです。

 余談になりますが、自然災害が頻発するのは、都市政策の貧困化によるものです。成長ばかりを考えてきた今までの都市政策は、限界を露呈してきています。旧市街から、郊外に発展してきたスプロール現象は、道路や下水道の公共投資の効率を悪化させてきています。スプロール現象は、環境保護の視点からも問題で、都市の持続可能性に赤信号をともしています。災害に弱い地域に新興住宅が建設され、地震や台風による被害が頻繁に発生しているのです。広範囲に広がった水道や道路のインフラの維持や補修にかかる費用が財政を圧迫しているうえに、災害による出費も増えています。地方都市の衰退が、目につくようになりました。地方都市の衰退は、無秩序な都市の拡散にあります。「拡大」が悪ければ、「縮小」ではどうかという発想になります。コンパクトシティ政策は、都市を健康にしようという体質改善の試みです。今の自治体は、人口が減少する中で、広げた水道や道路のインフラの維持に苦労し、さらに、災害の受けやすい地区を作り出しています。コンパクトシティは、都市の公共インフラを中心に適正な規模に誘導するものです。この縮小した地域が安全であれば、よりハッピーになります。

 災害に対して、リスクゼロはありません。でも、リスクに備え、軽滅する対策を持つことは必要です。津波を完全に防ぐために、遠大な防潮堤を築いても、自然の力には勝てません。東日本大震災の津波で破壊された防潮堤に、1兆4千億円の建設費をかけて、再建することは無駄という人もいます。リスク軽減を低コストで行うことは、今の日本の経済状況を考慮すれば合理的な手法です。多くの費用をかけて完璧を求めるより、少ない費用でリスクをそれなりに避ける方法を模索することです。津波を早く察知して、高台に駆け上る体力を鍛えたほうが、安上がりであることは自明の理です。もっとも、高台に家があれば、それに越したことがありません。この課題解決を模索する場合、歴史を眺めるとそのヒントが出てきます。9世紀に東北は、肥沃な土地に恵まれ、さまざまな特産品がありました。中央の貴族の子弟が、名馬や鷹、そして黄金を求めて、東北に集まってきました。そのような時代の869年に、貞観地震が起こります。この地方に東日本大震災に匹敵する大地震と津波が、押し寄せて大きな被害をもたらしました。この貞観地震を期に、重要な施設は高台や内陸部に移動することになります。高台の居住地は、代々の有力者や豪農の資産価値の高い居住地になりました。ある意味で、高台に住むという知恵ある行動は、9世紀から現代まで受け継がれてきたわけです。今回の東日本大震災や川の氾濫が見られた地域において、昔からの有力者住んでいた場所は、被害がなかったか、もしくは軽微だったことが明らかになっています。このような安全な地域に、スマートシティを建設すれば、より安全ということになります。

 毎年、雨風により川の氾濫が相次いでします。温暖化により、洪水の危険がますます増大していることを実感しつつあります。低地は、水をかぶり危険な地域になりつつあります。海岸地域が浸食により、甚大な被害を受けやすくなっています。これらは、温暖化で気候が変わりこれまで想定外だったような天候が生じていることに原因があります。温暖化に加えて、都市化に伴う人口移動があり、かつての里山が急激に荒れ果てている実情があります。かつての里山が急激に荒れ果てて、森林の保水力がなくなっているという人的要因もあります。このような状況を考慮した場合、69万4千カ所の危険地帯の改修は、200兆円の借金のある自治体レベルでは無理ということになります。もちろん、1000兆円の借金のある国のレベルでも無理になります。自然の力が強すぎて、道路や崩れ落ちた山肌を、もとの状態に戻し続けることは現実的ではありません。道路や崩れ落ちた山肌をもとの状態に戻し続けることは、いくら税金を投入しても足りません。人間にできる対策は、都市化を前提に、人がいなくなった地方の山を、安定した自然林に返すことが一つの選択肢になります。地方の山を、安定した自然林に返す国家的なプロジェトを受け入れることです。

 この選択肢のヒントが、韓国の大学縮小対策に見ることができます。韓国の地方の大学では、志願者ゼロの学部学科が急増しました。韓国の地方の私立大の状況は特に厳しく、3分の1以上が定員割れしているのです。今の高校3年生全員が大学に進学するとしても、定員を埋めるには4万人以上足りない現状なのです。学齢人口の減少で、定員を確保できない大学の倒産が現実の問題になっていました。韓国では、歴代の大統領が、大学を巡る政策を重要テーマに掲げてきました。韓国には、国際的な競争激化といった大きな波が押し寄せてきています。その波を乗り切る人材育成は、国家事業として重要な政策になっていたのです。その政策が、地方の大学から崩れているわけです。韓国政府は、日本では考えられないような強権を発動しています。今までは、大学の定員に準じて補助金を支給していました。この補助金をやめ、大学が互いに競争して勝ち取る形に変えたのです。政府主導の大学評価に基づいて、差別的に補助金を支給する「大学構造調整政策」を導入しました。大学評価に基づいて、差別的に補助金を支給する「大学リストラ政策」を打ち出したわけです。この政策により、人気のない学部学科を整理し、過去10年で定員を約19万人減らすことに成功したのです。国家プロジェクトを受け入れ、成功した自治体に補助金を後出しする政策も必要になるかもしれません。

 最後になりますが、無秩序な都市の郊外拡散は、行政コストを高くしています。そして、近年に見られるように、災害に弱い地域を作り出してきています。拡散から縮小へ土地利用パターンを変えていくことが望まれます。この体質改善を実現するには、根気も時間もかかります。でも、この改善ができれば、都市、交通、福祉、財政などの問題をクロス縦断的にわたって解決できる可能性を持っています。財政力指数という言葉があります。これは、行政サービスの提供に必要な費用に対して、その町の税収入の割合をいうものです。この指数が高いほど、健全な自治体といえます。少ない予算で、住民の皆さんを健康にすることができれば、理想的な自治体ということができます。災害の復旧に多くの予算を使うことが、合理的な行政とは言えません。災害に合わない場所に人々を集める施策は、必要なことです。このような支援を自治体が住民に提供し、安全で効率的な地域を作り出すことは善政になります。大事なことは、その快適な環境に入って、人々がどれだけ生きがいを持って楽しめるのかという視点になります。本来の活動力は、経済活動や社会活動によって維持され、高められていくものです。地域の中に、自分の出番や役割があることが大切になります。そのやりがいのある仕事を日々行うことにより、小さな幸せを積み重ねていくわけです。安全安心が確保された場所や良好な環境とやりがいのある環境を用意している自治体が、これからのモデルケースになるのかもしれません。

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