選挙の季節がやってきました。東京都の議会選挙は6月に第27回参議院議員通常選挙は、7月までに行われます。各党の選挙公約が、発表されつつあります。消費税の廃止や2万円の配布など、有権者を喜ばす公約が与党や野党から出ています。もっとも、消費税をなくしたら、年金はどうなるかなどの議論は後回しになっているようです。現実問題として、与党も野党も参院選を前に家計の負担軽減を競い合う状況に陥っているようです。賢い政策立案者は、有権者に新たな負担を求めない財源確保策を掲げます。有権者に負担をかけない財源に、訪日外国人から徴収する国際観光旅客税があります。幸いにして、日本への訪日外国人数は、過去最高になっています。日本の人気は、今が旬ともいえる状況です。人気のある観光地は、オーバーツーリズム(観光公害)になりながらも、利益を上げています。人気があれば、ある程度の負担が容認されると考えるものです。そのヒントは、ディズニーランドにあります。ディズニーは、収入が上位40%の米国人世帯を対象に価格設定やマーケティングを行っていたと言われていました。でも実際には、上位20%に重点を置いているともいわれています。上位20%の人々が毎年旅行に費やす金額は、下位80%の合計とほぼ同じことになります。節約する下位の80%の人達よりも、上位20%の人達を対象にしたほうが、ビジネスとしては有利という計算になります。たとえば、ディズニーは1人100ドルの入園料で100人を入れて1万ドルの収益を得ることができます。さらに進めると、1人120ドルで90人の1万800ドルを稼ぐことができます。これは、来場者数よりも収益を優先する戦略になります。ディズニー戦略のような国際観光旅客税の増額は、有権者の負担増にならない財源確保策になります。
現在の国際観光旅客税は、1人1000円になります。この税は、観光の基盤を拡充と強化をするため、恒久財源を確保することを目的に2019年に創設したものです。各国のこの種の税は、どうなっているのでしょうか。JTBの資料によると、米国は4月時点で22.2米ドル(約3100円)になります。エジプトは 約3500円で、オーストラリアは約6500円と日本よりは高くなっています。日本の国際観光旅客税の税収は、急伸ししています。財務省は、2024年度の国際観光旅客税が過去最高を更新したと発表しています。訪日外国人は、世界で最も安全な治安や日本のインフラ、そして公共サービスの恩恵をうけているとされています。自民党の税調幹部の方は、外国の水準も踏まえ、「1000円以上引き上げの理由は理解される」と考えているようです。もっとも、訪日外国人らの消費税免税の廃止や国際観光旅客税の引き上げには慎重論もあります。税の負担が重いとみられれば、日本を訪問先に選ぶ動機が弱くなるかもしれません。訪日外国人が減少し、国際観光旅客税が目減りしては困ったことになります。この困ったことが、有名観光地に起きています。
日本一高い山は、富士山です。富士山には、年間約20万人が登ります。事故も多く起きているようです。訪日外国人 の登山者が、急増している現象がありますが。特に、日本のシンボルでもある富士山に人気が集まっているのです。外国人の方も多く登るようになり、この名峰での遭難事故も多くなっています。事故が起これば、本人がまず困り、そして家族も困ります。もちろん、遭難者を救助する人達も困ります。ご存じのように登山における事故には、多くの捜索費用や救助費用がかかります。登山に、絶対の安全はありません。富士山の登山口は、静岡県と山梨県になります。この両県は、任意で集めていた富士山保全協力金(1000円)を入山料(4000円)にする条例を可決しました。日本のシンボルである富士山では、全国でもまれな登山者への料金徴収のモデルになるのです。有料化には、伏線がありました。今夏に静岡側からの登山者に、死亡事故が相次いだことが一つです。もう一つは、オーバーツーリズムになります。静岡県の条例を見ると、環境保全や混雑緩和、そして事故防止などを目指しています。条例では、午後2時から翌午前3時まで山小屋の宿泊なければ登山を認めない項目あります。徴収総額は、インバウンドへの多言語案内、安全・環境対策に充てる方針になっています。蛇足ですが、静岡側からの昨年夏の富士登山者は約9万人でした。入山料が4000円となれば、徴収総額は4億円弱になります。このお金を、有効に使って、富士山の自然を守ってほしいものです。
富士山では、面白い実験が続けられています。たとえば、2019年の実験は8月17~18日と24~25日の2回、富士山の登山者向けに行われました。1日、6000人の方に、ビーコン(電波発信機)を貸し出し、リックなどに着けてもらうのです。ビーコンは縦横約3c mで登山用具などに付けてもらうわけです。山小屋や登山道沿いの50カ所に、電波を受信する受信機を設置します。登山者が受信機近くを通ると、近距離無線で送受信された情報がサーバーに集まります。ビーコンから出される電波を、山小屋などに設置した受信機がキャッチして、移動している情報をリアルタイムで収集することが可能になります。「どの登山者がいつどこを通ったか」「登山者が集中している場所や山小屋はどこか」「どのルートが混雑しているか」などの情報が一目瞭然になります。このような実験を、富士山の登山者を対象に行ったのです。もし、このような整備が可能になれば、山の遭難は劇的に減少するでしょう。もっとも、ビーコンの配布や受信局の設置にはコストがかかります。これが、ネックになるわけです。政府は、2019年2月「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律案」を閣議決定しました。この環境税は、国内に住所を有する個人に対して年額1000円を課税する国税になります。もし、この税金の一部が、登山の安全対策に回すことができれば、面白いことになるかもしれません。
余談になりますが、選挙で少しでも優位になるための戦略を練る政治家はいつでもいるものです。自民党の麻生太郎最高顧問は、消費税の免税を原則廃止するよう求める提言をまとめました。国際観光旅客税に関して、提言を小野寺五典政調会長や宮沢洋税制調査会長に手渡しました。この提言は、訪日外国人による家電や医薬品の大量購入について見解も示されていました。いわゆる免税品の不法転売を、取り上げているのです。免税品の目的は、地方の経済に利するために制度設計されたものです。自民党の方は、大量購入について「われわれが目指す観光立国の姿とは異なる」との見解を示しています。「地方経済の活性化や雇用機会の増大などに寄与しているとは言えない」と強調しました。確かに、免税品を日本国内での転売などを目的にする不正も多いとみられていたのです。免税品を、購入する場所も大都市圏に集中する傾向にありました。免税品の制度が、地方に生かされていない現実がありました。2026年11月から、政府は転売などの防止策として、「リファンド方式」に移行する方針です。出国時に購入品の国外持ち出しを確認してから払い戻すリファンド方式に移行することになります。「リファンド方式」は、韓国やシンガポールでも取り入れられるようです。税を巡る駆け引きは、世界各国で知恵を絞っているようです。
お話は、山の遭難が増えて、地方自治体の予算や人手が奪われることに戻ります。山の遭難は、7~8月は600人ですが、年間を通すと3000人程度の山の遭難が起きています。遭難が起これば、人命尊重という大義名分が重視されます。捜索に従事する人的経費などが、自治体の財政に負担にかける状況が生まれます。捜索のたびに、救助隊員には2次災害の危険を冒しながら救助に赴いているわけです。ここでは、捜索の負担を軽くする仕組みが求められています。解決のヒントは、富士山の実験にあります。ビーコンの配布や受信局の設置が、一つの解決策になります。さらに、ビーコンはスマホで代用できる可能性があります。50ヵ所の受信機の設置は、ドローンを飛ばして代用可能です。常時飛ばすのではなく、受信機を設置する場所に着陸させておきます。そこで、受信機を装着したドローンを定位置において設置場所を兼ねるわけです。スマホは、5G対応になっていきます。個人用のスマホは、安上がりになります。受信機の設置も、ドローンで行えば、安上がりになります。5Gが実用化するようになれば、スマホや受信機の情報がサーバーに素早く集約されるようになります。
最後になりますが、2024年の国内旅行消費額は、前年比14.6%増の25兆1175億円と過去最高値を記録しました。そして、外国人旅行消費額総額は、前年より53.4%増の8兆1395億円と過去最高を更新しています。観光立国としての日本は、日本人はもちろん外国人観光客に喜んでもらうサービスを用意することになります。この数年、富士登山を目指す外国人も増加しています。それに伴い、外国人の山の事故も増えています。事故だけに注目があつまりますが、意外だったのは、途中で登頂を諦めて引き返す人が30%以上もいたことでした。山の美しさにあこがれて、登ってみたものの、意外に厳しい山だったことを体験したのでしょう。体力を過信して、登ったのは良いが、高山病にかかった方も多かったということです。静岡県や山梨県が提供している登山情報は、富士登山を目指す外人も含めて、役立っているようです。実際、自分の症状を理解して、下山を選択した方は立派です。中には、来たからには頂上を目指したいと無理押しした方もいるかもしれません。山登りでは、これが最も危険な行動になります。ビーコンの流れを見ていれば、要注意者を把握できます。行動が遅滞し、動きが不規則になる方は、要注意です。ビーコンに音声機能が付いていれば、注意を喚起できます。設置場所に監視員が配置されていれば、そこからでも注意指導が可能になります。そんな体制ができれば、安全で楽しい富士登山を体験できるようになります。これが、末永い日本の観光行政を支えることになれば幸いです。