年をとっても、頭や体力の衰えを「楽しく防ぐ」にはどうすべきか。これは、これからのシニアの大きな課題になります。この課題を解くヒントが、ある介護施設とスーパーの協力にありました。一般に介護施設に閉じこもっているだけでは、広い意味での脳の老化が加速していくことになります。この試みは、買い物をする中で、運動と計算、そして店の空間認知機能の維持と向上を要介護に促すものでした。スーパー内を高齢者用の専用カートを使って、自由に買い物をするというシンプルなものでした。すると、施設内での要介護の方の行動が積極的になったのです。介護施設内のリハビリには消極的な高齢者も、スーパーの専用カートを使った施設内の練習には積極的に取り組むようになりました。もう一つのヒントは、楽しいリハビリテーション施設になります。この施設は、お笑いタレントに作業療法士の資格を取ってもらい、リハビリや介護施設で働いてもらっています。リハビリに取り組む患者をまず笑わせて、楽しい雰囲気にしてから始めます。巧みな話術で、和ませて紙風船や新聞紙などの小道具を使った遊びで体を動かしてもらいます。楽しみながら身体運動や歩行訓練をすることで、より身体機能を高めているのです。スーパーやお笑いタレントの介護施設の試みから見えてくることは、一つの活動の中に、「体を動かす」、「頭を使う」「人とふれあう」の3つの要素が含まれていることがわかります。「体を動かす」、「頭を使う」「人とふれあい」を含む活動を、お金をかけずに行う仕組みが地域あれば、地域の人々の健康水準が向上することになります。健康水準が向上すれば、医療費や介護費が節約できます。節約した資金を、地域の活性化に使えば、さらに地域は住みやすい場所になります。今回は、このような課題に挑戦してみました。
介護認定区分は、要支援と要介護があります。そして、要介護は5つに区分されます。この5つに区分の中でも、要介護2と要介護3に大きな壁があるようです。要介護3の方は、自分で排泄ができない状態です。自分でトイレに行けるか行けないかが、介護では重要な分かれ目になります。トイレに自力で行けなくなったりすると、介護棟を移らなければならない施設も多いのです。トイレに自力で行けない方が、別の介護棟に移る時には、ほとんどの方が泣くといいます。それだけに、要介護2と要介護3の境には厳しさがあるようです。この境を超えないような介護の在り方が、重要になるわけです。有料老人ホームには入居時に自立の状態で入居しても、年を取る毎に介護状態が重くなっていくものです。要介護2と要介護3に大きな壁なども、多くの施設で直面する課題になっています。この課題克服には、体をよく動かすことも大切ですが、頭を使うことも必要なことのようです。要介護の方は、店内を専用カートで動き回り、欲しいものを手に入れようとしました。そこには、強い意欲が現れたのです。要介護の方は、自由に買い物ができるスーパーの楽しさを覚えてしまつたのです。体の動きも脳の活力も、良い方向に向かう流れができたのです。
赤ちゃんの発達と「老いの進行」に関して、「頭部尾部法則」があります。子どもは頭から発達し、次に末端の足に発達していく法則です。老人の場合は、足から衰えが始まります。衰えてくると、例外なく、まず歩けなくなります。お年寄りも、末期がん患者さんも同じですが、必ず足から始まります。ウオーキングは、軽い有酸素運動になります。このウオーキングは、末梢で循環する血液の量が増加し、疾患予防の効果があります。確かに、血液には、各器官に酸素や各種栄養素を運び供給する働きがあります。ウオーキングでは、1日7000~8000歩の歩行が有効とされています。欲をいえば、1日8千歩程度の運動で、その運動の中に中強度の運動5分程度入れるとより効果があがります。この中強度の運動を5分間以上すると、うつ病の発症率は10分の1以下になるという報告もあります。ちなみに、中程度の運動とは、歩きながら仲間と話がちょっときついかなという程度の運動になります。筋力トレーニングも、有酸素運と同じように大切な運動になります。筋力運動はウエイトトレーニングのような高強度のものをイメージしがちです。でも、筋力運動には、低強度のものでも有用であると考えられていいます。この筋力トレーニングは、週3日で十分です。筋肉トレーニングによる骨格筋の増加そのものが、生活習慣病の予防や改善に効果があります。筋肉が増えれば、代謝が増え、脂肪の燃焼効率を高めます。肥満を防ぎ、生活習慣病を予防することになります。筋力トレーニングは、なかでも「老化は足からくる」として、スクワットが推奨されています。足が丈夫になれば、ウオーキングが自由にできます。有酸素運動が、いつでもできる体になるわけです。低強度で、短い時間でも運動の効果を得るために積極的に日常生活に取り入れる姿勢が大切になります。
ウエラブルの健康機器を身に付けて、身体状況を把握するサービスが増えています。体重や運動の量や時間、栄養状態、そして睡眠などの情報が得やすくなっています。そこに、尿や大便のたまり具合を測る器具ができたということも報告されています。身に付けた器具で、尿や大便の蓄積を測定できる便利な時代です。デバイスに組み込まれたセンサーが、多種多様なデータを収集する仕組みができつつあります。おそらく、ウエラブルだけでなく、カメラによる動作や表情なども加味されて、より正確な排泄予測が可能になることでしょう。排泄などのプライバシーが守られ、自立心を促す高性能車いすが存在し、旅行にも自由に行けるとなれば、高齢者の行動範囲は広がります。今後は、車いす業者、医療・介護関係者、旅行業者、そして高齢者を融合する多様なサービスが生まれてくることになるでしょう。もっとも、この優れたサービスを受ける場合、足と頭の健康があれば、楽しさの中で受け入れることができます。
有酸素運動や筋肉運動には、メリットがあります。有酸素運動をすれば、心拍数が上がり、血液の流れは増加します。増加した血液は、各臓器や器官に酸素と栄養素を供給します。各臓器や器官は、これらを受け入れて活発な活動をすることになります。たとえば、有酸素運動をすると、HDLコレステロールの上昇のほか、安静時の血圧低下も認められています。HDLコレステロールは、余分なコレステロールを回収して動脈硬化を抑える善玉コレステロールです。このコレステロールは、増えすぎたコレステロールを回収し、さらに血管壁にたまったコレステロールを取り除いて、肝臓へもどす働きをします。有酸素運動は、心筋梗塞と関係がある動脈硬化のリスクを下げ、認知症を予防する因子としても期待されています。さらに、有酸素運動をすれば、脂肪燃焼によって中性脂肪が減り、血圧の改善にもつながる効果があります。筋肉運動も、効果の点では負けてはいません。筋肉には体を動かしたり支えたりする以外に、ホルモンを分泌する働きがあります。それが「マイオカイン」です。マイオカインは、現在30種類以上発見されています。骨格筋から分泌されるマイオカインは、様々な臓器に働きかけます。筋肉での糖の取り込みを増やし、血糖値を安定させ、蓄積した脂肪を燃焼させたりしているわけです。また、別のマイオカイン「SPARC」には大腸がんを抑制する働きがあると言われています。80歳、90歳になっても、トレーニングによりマイオカインを分泌する筋肉を増やすことは可能です。筋肉を使えば脳にも刺激を与え、全身の血流も改善することができます。
最後は、この体に良い運動をする人々を地域でどのように支援するかという課題になります。まず、運動する場所になります。小学生や中学生の減少にともなって、小中学校の統合も進んでいます。小学校が一つ廃校になれば、その土地や施設を利用できるようになります。小学校の面積は、約1㏊から2㏊です。かなり、まとまった土地が確保できるのです。小学校には、校庭も、体育館も、図書室も、そして給食施設もあります。これらの施設を有効活用できれば、新たな利益を生み出すビジネスの可能性がでてきます。食事を規則的に取り、運動をし、本を読み、趣味を持っている人は、健康寿命が長いことが報告されています。多様な活動を適度に行うことは、望ましいことです。家に閉じこもる高齢者は、認知症になる割合が高いということも分かっています。自治体によっては、積極的に外出を奨励しています。図書館に行くとポイント1、公民館の学習活動に参加するとポイント2、温水プールに行くとポイント3というようなポイント制の導入も選択肢になります。ポイントが100になれば、図書券2000円などの支援策も面白いものです。大変な出費のように見えますが、医療費+介護費と図書券の費用対効果、そして廃校の利用は、地域に健康寿命に良い流れをもたらしそうです。
蛇足ですが、温水プールや図書館を中心とした運営を民間に任せる発想もあります。民間が図書館を運営すると、困った問題がでてきます。図書館は無料ですので、人々が利用すればするほど図書員の方の負担や経費が増えるのです。新しい本の購入にも出費がかさみます。でも、図書館に多くの方が来るようになれば、ビジネスチャンスも生まれるのです。給食室からは、食事やコーヒーなどを提供できます。本を読む方に、食事を提供したり、談話室でくつろぐ場所を提供できるわけです。肩が凝れば、体育館で軽い汗を流して体調を整えることもできます。温水プールなどの施設があれば、マッサージ師の方の働き場になるかもしれません。高齢者の方は、花壇や家庭菜園などを好みます。校庭のまわりには、花壇などの区割りをして、ボランティアを募集することもできます。図書館で経費のマイナスを計上しても、飲食やその他の販売でプラスを狙うことが可能になります。経費だけでなく、図書館利用の利用により教養や知識が高まり、体育館利用により健康の維持増進し、花壇や家庭菜園の手入れによるストレス発散などの効果がみこまれます。医療費+介護費と廃校になった小学校施設利用の費用対効果は、時間がたつにつれて証明されることになるでしょう。