逞しい自治体や企業は、過疎化や人口減少を商機にする  アイデア広場 その1412

 バスや鉄道といった公共交通の利用者は、減少傾向にあります。過疎地では、この先も多くの利用客を見込めない現実があります。お客がいなければ、交通機関は存続できません。事実、鉄道は2000年度以降、計1193キロに相当する46路線を廃線に追い込まれています。路線バスに至っては、2021年度までの10年間で、全国でおよそ1万3600kmが廃止されているのです。タクシーの運転手さんは、2012年の33万人から2022年には23万人に減少しています。一方で、地方自治体では、人口が減少しています。子ども達の人口が減少すれば、小中学校の統廃合が進み、遠方の学校に通わざるを得ない生徒が増えます。鉄道やバスなどの公共交通は、利用客の減少から廃止が加速しています。各自治体は、地域の足の再構築に知恵を絞っています。

 問題は、子ども達の通学だけではありません。公共交通機関の縮小で、高齢者の移動手段の確保が難しくなっていることです。市町村が交通会社に補助金を交付して交通網を維持している現状があります。でも、バス会社は、運転手の高齢化や運転手不足の問題を抱えています。いつまでも、不採算路線を維持することはできないのです。困ったことがあれば、解決の道を見出してきたのが地域住民の知恵があります。富山県朝日町は、新しい試みを行っています。町内の各地区と中心街を行き来する運転手の車に、移動したい乗客が乗る仕組みを構築しました。町の職員が、スズキの軽自動車を運転して住民を送迎するのです。朝日町は、次の段階では自家用車を保有する地域住民から運転手を募っています。すでに、住民ドライバーには7人が応募しており、さらに増える見通しになっています。朝日町は、運転手や乗客の受け付けはアプリを使います。スマホやパソコンに不慣れな人も活用できるよう電話でも受け付けています。2020年が週10~20人ほどの利用があり、年間運行コストは500万円ということでした。

 余談になりますが、500万円の運航コストを町が稼ぐことは、意外と容易にできるのです。核の最終処分場に名乗りを上げる自治体が3つほど出てきました。その一つに、北海道の寿都町があります。この町は、日本海側の漁業が主産業で、人口は3000人を割り込む過疎の町になります。町長は、風力発電推進市町村全国協議会の会長を務めています。この町では、風力発電が稼ぎ頭で、年間の売電収入は平均7.5億円になります。町税収入が2億円ですから、それをはるかに上回る稼ぎ頭になっています。もう少し、風力発電を増やせば、500万円程度の運航コストは、問題なく稼げるでしょう。地域の資源を利用して、少子高齢化に対処する知恵を各市町村もつけてほしいものです。

 資源のない過疎地では、バスや鉄道の維持、新規路線の開設は難しいことになります。財政難も考慮すると、今ある交通手段の有効活用は、以前にも増して重要になります。その対策に、国の制度を利用することがあります。文科省には、学校の統廃合でスクールバスを導入する際、購入や運用にかかる経費を補助する支援策があります。生徒の登下校のためのスクールバスは、無償です。一般の利用客については、有償で乗せて運べるのです。過疎地域では、スクールバスに一般客を乗せるといった工夫を取り入れることは歓迎されることでしょう。要介護の方のデイサービスの事業所は、利用者の送迎をしなければ介護報酬が減額される仕組みになっています。スクールバスが使われない時間帯に、介護施設への送迎バスとして有効活用を促すことは可能です。現在は、大きなバスでの送迎も、必要のないほどの人数(小中学生や要介護の方が少ない)になってきています。いずれ、電気自動車や自動運転技術が向上すれば、運転手の数も少なくて済むようになるかもしれません。さらに、地元で発電した再生エネルギーを使用するようになれば、地産地消のサイクルができます。

 衰退する地域の救世主は、日本郵便になります。この企業の苦しさだけが語られていますが、その潜在力に大きな期待がかかります。2011年度に191億通あった郵便物の取扱数量は、22年度には25%程度少ない144億通になりました。過疎地域では、ゆうパックの宅配需要も低下しています。運ぶ荷物が減れば、不採算ルートが増えます。その足元では、燃料代や人件費の上昇も経営を圧迫している状況があります。さらに、日本郵便を苦しめている法律があります。郵政民営化法は、日本郵便にユニバーサルサービスを義務付けているのです。日本郵便は日々の荷量にかかわらず、常に決まった配達ルートを走らせる必要があります。苦しいことばかり続けば、そこに打開策を考える人たちが現れます。日本郵便は「空き」や「困難」を逆手にとって、商機をつかもうとしているのです。郵便局は、全国2万3000カ所を上回り、数百人規模の自治体から大都市中心部まで網羅しています。この資源を活用しながら、知恵を絞って地域に役に立つサービスを展開しつつあります。全国津々浦々に張り巡らされた独自のネットワークの価値は、人口減少社会で高まっています。新しいサービスは既存の配達ルートを使えば、運転手の増員を必要とせずに各地へと広げられるのです。

 「ぽすちょこ便」は、日本郵便が2023年9月に始めた農産物の配送サービスになります。地元農家などの生産者が、ウェブサイトで配送日時とニーズを予約する仕組みです。これは、「ゆうパック」といった他の荷物を運ぶ郵便車の空きスペースに、野菜や果物を積み込むのです。配達員の方は、「荷物が少し増えるだけなので負担感はない。」と楽観的です。農産品は、市街地向け荷物を集める別の郵便局に送ります。夕方までには、車で1時間ほど離れた市街地にある奈良中央郵便局に到着します。町の郵便局にワラビを取りに来たのは、近くで日本料理店「園通」を営む方になります。彼は、週3回ほどのペースで注文しては、夜の営業前に郵便局に立ち寄るのです。農産品の配送料、ゆうパックに比べ約4分の1と手ごろです。配送料は、1ケース(25k g以下)あたり300円程度になります。村から町へだけでは、片手落ちになります。もちろん、村から市街地に届けるサービスを上り便とするならば下り便もあります。人口1200人の月ケ瀬地区は、奈良市の山間部にあります。ここでは、郵便局とイオンリテールの協力が見られます。これは、「おたがいマーケット」という仕組みです。月ケ瀬に住む男性は、週1~2回の頻度で肉や魚を注文しています。「おたがいマーケット」では、午後4時までに注文すれば、翌日に月ケ瀬にある市の交流施設まで届く仕組みです。ネットで購入した商品を村に届ける「おたがいマート」は、イオンリテールと取り組んでいます。近所にコンビニエンスストアがないため、アイスクリームなどもよく頼む方もいるようです。この地区は、自家用車を持たない世帯や高齢者にとっては不便な地域でした。でも、注文すれば届くので、その不便さが解消されています。月額制なので、気が向いたときに何度でも注文できるようになりました。買い物の選択肢が増えれば、地域の利便性や魅力は高まります。田舎暮らしでも、我慢や制限せずに生活できる地域になりつつあります。

 郵便局の挑戦は、さらに続きます。郵便局員がチェックする「空き家のみまもりサービス」も、話題になっています。各地で増え続ける空き家の状態を、郵便局員がチェックするサービスになります。ある対象物件は、家主の高齢女性が介護施設に入った後、空き家になっていたものになります。現地までの移動に手間がかかることから、3カ月に1度の見守りを郵便局に頼みました。依頼を受けた郵便局員は、カバンからタブレット端末を取り出し、外壁や玄関、室外の状況を写真に手早く収めます。「ひび割れから雑草が生えているのが気になりました」のコメントを、メールで依頼者に報告します。この空き家の確認作業時間は、わずか10分程度で終了します。依頼した女性は、木々や雑草が伸びれば業者に伐採を頼むことになります。庭の映像を見て、自分の手に追えそうなら除草剤の散布に来て行うという判断をしています。彼女は、無駄に確認に行く作業が省けて助かると感謝しています。この空き家の確認は、試行期間のサービス料金が1回980円になります。これを似たような他の業者によるサービスはありますが、「郵便局なら安心して任せられる」と信頼を得ているようです。

 最後になりますが、赤字続きで、廃止になる鉄道や路線バスの現実を直視しなければならない時期にきています。地方の鉄道存続問題の本質は、地域住民の減少に伴う利用者不足にあります。地域の商圏人口(周辺人口)が、 鉄道やバス路線の存続可能な必要利用者に届かなくなっています。鉄道の存続でも、路線バスなどへの転換でも、需要不足を起こしている状況があります。すでに、鉄道廃線に伴う代替バス路線までもが赤字続きで廃止になるケースがあります。乗客が増えなければ、鉄道かバスかにかかわらず結局は廃止の道が待っている状況なのです。鉄道の赤字ローカル線が突き付けている問題の本質は、急速に人口が減少する日本の現実にあります。商圏人口が縮むと、生活インフラの経営に即座に影響するわけです。鉄道やバス路線の存続に必要な利用者を確保しなければ、公共交通機関は維持できません。今日の鉄道は、「明日の水道」、「明日のガソリンスタンド・LPガス」、そして「医療・福祉」などの姿になります。郵便局は、国内に1700以上ある全ての市町村に広がる配達網を生かすことができます。たとえば、JR東日本と組み、ゆうパックの荷物を駅のロッカーで受け取れるサービスを始めています。さらに、JR東が手がけるオンライン診療サービスでも、処方薬の集荷や配送で協力する体制を築きつつあります。全国の配送網を持つ日本郵便は、ある意味、これからその潜在的能力を生かすチャンスが訪れるのかもしれません。

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