進化したコンビニが地域の食生活を豊かにする アイデア広場 その1570

 最近、地方でも都会でも、肉や魚、野菜など生鮮食品が入手困難になる「フードデザート(食の砂漠)」が、地方にも都会にも押し寄せてきています。地方では、コンビニエンスストア(コンビニ)がこの不足を補う役割を果たしていました。でも、地方の減少人口の減少が、このコンビニの運営を困難にしています。日本全国には、約5万6千店のコンビニがあります。このコンビニの一般的な商圏人口は、3000人とされています。5.6万店の立地条件の分析では、コンビニの9割で、商圏人口が標準とされる3000人を下回っています。北海道や福島県、宮城県などは2000人を割る店も多いのです。加盟店の利益確保が、人件費の高騰により年々困難になってきています。でも、悪い状況にあるコンビニの潜在力は、まだまだ侮れないものがあります。この立て直しのヒントは、北海道の大手コンビニセイコーマートに見ることができます。セイコーマートは、ここ10年あまりで店舗運営を大きく改善してきています。フランチャイズ店を減らして、直営店の比率を8割まで高めているのです。地区の要望を、直接に本部が把握できる仕組みにしています。セイコーマートは、営業時間や人員配置を柔軟にできるようにして、業績を上げています。たとえば、人口763人の北海道のある町に、一軒のコンビニがあります。この来客数は、1日200~300人程度といいます。普通であれば、なかなか苦しい状況になります。ここでの工夫は、コンビニ専門の輸送トラックに加え、宅配便や郵便などの輸送手段を使っています。物流にたずさわる業者が、商品の輸送情報を共有できるシステムを構築しています。町民のニーズと輸送状況がわかれば、最も効率的な物流が実現します。業者の車両稼働率を平準化させることで、物流の無駄を改善し、収入を増やすことになるわけです。

 苦しい状況は地方だけでなく、都会に及び始めました。東京都の麻布地区では、開発地点から500メートル圏内に高級スーパーの開店が相次いでいます。その一方では、手ごろな価格で買えるスーパーや個人商店が、撤退しているのです。昔は近所に安い個人商店もあったのですが、今では高級スーパーばかりで買い物がしづらいと嘆くシニアも多くなりました。庶民的スーパーなどの撤退から、麻布地区以外の都心にも、フードデザートの状況が見られるようになりました。肉や魚、野菜など生鮮食品が入手困難になる「フードデザート(食の砂漠)」が、都市部にも押し寄せてきているのです。日本の都市部では、富裕層を対象にした高価格帯のスーパーが進出し、低価格のスーパーや個人商店が撤退し、高齢者を中心に「買い物難民」が発生する構図が生まれているのです。不都合な真実があれば、その解決に向かう人々と組織があります。ある自治体では、スーパーと提携して、人口が減少した地域を対象に移動販売を行っています。移動販売の店主が、客の好みや最近買った商品を念頭に置きながら次々と声をかける光景もあります。好みの商品や食材の販売に加え、栄養のバランスを配慮した販売が可能になれば面白いことになります。もちろん、東京都なども対策として都内各地で移動販売を展開しています。渋谷区広尾にある都営住宅のエレベーターホールには、移動販売が週2回訪れます。都営住宅の客は、杖や手押し車、車いすを使うなど不自由な高齢者が多いようです。中には、ヘルパーさんに付き添われて買い物を姿も見られます。

 農林水産省によると、2015年における食料品アクセス困難人口は、全国で825万人と推計されています。この困難人口のうち、地方圏は447万人で5割強を占めています。買い物難民の高齢者は、店舗が少なく公共交通綱が不十分な地方に多いのです。フードデザートが地方だけでなく、東京都心にも広がっています。東京でも買い物難民が拡大しており、2015年時点で、買い物難民が東京圏は198万人です。東京圏の買い物難民は、2005年に比べて1.6倍で、他地域よりも増加率が顕著になっています。東京を含めた三大都市圏の増加が顕著で、44.1%の増加が見られます。地方では、7.4%の増加にとどまっています。さらに、事態は悪化しています。東京都は高齢者人口が、2020年時点で319万人と総人口の2割となりました。単身世帯も、363万世帯と全体の5割を占めるまでになっています。今後、この数字は右肩上がりで増えていくことが予想されます。その対策は、地方と都市部の状況に合った手法が用いられることになります。都市や地方のそれぞれの地域にあったオーダーメードの対策を創出することが必要になるようです。

 コンパクトシティが話題になっています。でも、コンパクトの概念をもっとも実践しているのは、コンビニのようです。少ない敷地面積で最大の効果を上げています。仕事の範囲や量、そして質を毎年向上させているのです。消費者が求める商品やサービスを確実に実現しています。地域のニーズをコンビニが聞き取り、そのニーズを実現するサービスを実現しているわけです。蛇足になりますが、コンビニは全国を網羅し、国民の生活を支えるインフラになりました。コンビニ店を見るとわかりますが、商品の配置が合理的になされています。店の売り場は、商品カテゴリーによって4つの温度帯に分けられています。常温の棚には、日用雑貨、カップ麺などの加工品、菓子類などが置いてあります。20度の温度の棚には、おにぎりや弁当などです。次に、チルドがあり、サンドイッチ、惣菜、麺類になります。最後は、冷凍でアイスクリーム、冷凍食品という具合です。コンビニを利用する方たちのニーズは、店舗ごとにデータとして蓄積されています。ある意味、この店の商圏における人々のニーズを把握していることになります。フードデザートの解消に、このデータを利用しない手はありません。

 ある先進的な考えの持ち主は、中小企業の事務を集約する地域の「事務代行センター」を作ることを提唱しています。小さな会社が事務職を雇っていては、人件費の支払いが厳しくなっているのです。1社では成り立たない事務の合理化を、地域のいくつかの会社を集めて、事務だけを合同で行おうという発想が出てきました。中小企業が、請求・支払・給与や保険業務などをすべて「事務代行センター」に委託するわけです。もし、この事務代行センターを、コンビニに納入する業者のセントラルキッチンに置き換えたらどうなるでしょうか。一定の地域のコンビニの弁当を、一ヵ所で作り、配送していくことになるわけです。半径500m以内に数件のコンビニがあれば、競争も激しくなります。このコンビニに弁当を納入する業者も、生産と配送に苦労をしていることは目に見えています。セントラルキッチンが、一定の地域の各コンビニ店からの弁当発注をまとめて作り発送する仕組みをつくれば、過当競争も少しは緩和されます。過疎地であれば、村の支所単位に注文を受けることも可能でしょう。2つと3つの弁当を運ぶ方は、村の元気なシニアでも、新聞配達や郵便配達の方でも良いことになります。もちろん、食のニーズだけでなく、日用品の注文も大いに歓迎されることになります。

 余談ですが、弁当箱に具材を自動で並べるロボットは、すでにできています。人間の手の関節は限られており、その稼働範囲も限界があります。ロボットは、機能や目的に合わせて関節を自由に増やすことができます。目的達成をする費用対効果がリーズナブルであれば、弁当作成ロボットの採用がスムーズに行われます。ITの進化に伴い、モジュールに使用される部品は、極小化されています。それに平行するように、ロボットの動きは繊細になり、人間の手の動きより自由度が大きくなってきました。この進化したロボットが、弁当の具材を詰める作業をするようになれば、今よりも数倍のスピードで作業を行うことができるようになります。セントラルキッチンでは、注文に応じて、ロボットが個々の弁当を作ることになります。各コンビニ店からの注文は、代行センターに届けられ、注文の弁当のスタイル、数、時間を把握します。把握した弁当をロボットが、自動的に作っていくということになります。配送は、地域の流通を使い円滑にコンビニ店、もしくは、会社や個人宅に配送される日がくるかもしれません。

 最後になりますが、健康寿命が長い人が多い地域は、医療費や介護費が少なくても済みます。元気な高齢者をいつまでも元気になって貰うことが、これから地域行政や医療介護政策の核心になります。健康寿命を伸ばすことは、医療の分野だけではできません。生活を支える衣食住の要素がまず求められます。コンビニには、この食の要素において、大きな役割を果たすことができます。さらに、コンビニには、地域のニーズに関する膨大な情報が蓄積されています。この蓄積された情報を有効に使えば、健康の維持増進を図ることも可能です。そして、ここに、行政の支援があれば、より有効な対策が可能です。食事の取り方次第で、健康を維持できるということになります。その食事を、個々人に配慮した弁当や中食を提供できれば、地域の健康状況を向上させることに貢献できます。健康なシニアを、より健康にする地域の中核的役割を、進化したコンビニを通して、実現して頂きたいものです。

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