過疎の医療が医療人材の成長を促す仕組み  アイデア広場 その1500

 地方では、医師や看護師の不足に悩まされています。国も、この対策に本腰を入れるようになりました。地域ごとの基幹病院に機能を集約して、医師や看護師を確保する対策を考えているようです。施設整備費や医師などの人員派遣に対し、病院事業債や特別交付税による財政措置を拡充する案もあります。手術のような急性期対応は中核的な病院が担当し、回復期は周辺病院が担うなど役割分担を促しています。コロナ禍の医療逼迫の教訓から、地域の病院間で人員を柔軟に派遣しやすい仕組みの構築を目指しているわけです。総務省は、病院間の機能分担の見直しに着手しはめたともいえます。でも、各病院の経営状況は、決して良いとは言えないようです。4割以上の公立病院が経常赤字になり、経営環境が年々厳しさを増しているのです。医療過疎地も増えて、地域医療に不都合が生じている姿が浮き彫りになっています。そんな中で、若いお医者さんを確保した町のお話しから、日本の医療を考えてみました。

 新潟県津南町は、町長の努力と前向きな若いお医者さんの心意気で地域医療が安定しています。津南町は、東京駅から新幹線とバスで2時間余り距離になります。この町立津南病院には、20代の医師の木村真依さんと宮城禎弥さんが勤務しています。彼らは、経営学修士号や公衆衛生学修士号を取得した医師で、2年間、県内の病院で臨床研修をしていました。お二人は、今春から津南病院で,地域医療の最前線に立ったのです。でも、面白い勤務形態をとっています。木村さんは月~水、宮城さんは水~金、残りはともに東京で経営コンサルタントとして働くのです。医師とコンサルタントのダブルワークと二拠点生活をセットにしたスタイルで、1人の常勤医を置くのと同等の効果があるのです。このスタイルに関心のある医師がおり、来年も津南病院への希望者がおり、若い医師が来るサイクルが回りつつあります。近年、医師に限らず、ダブルワークや副業で社会貢献を志す若者は多いようです。このスタイルは、成長志向の強い若い世代に響く手法になっています。木村さんと宮城さんは、経営やマネジメント、そして起業について学びました。お二人とも、これからの医師は、ビジネスを学ぶ必要があると話します。木村さんは、「病院経営や行政のプロセスがよく見て、その意思決定に関わる現場の醍味を実感したい」としています。宮城さんは、医療現場にデジタル技術を取り入れるのに意欲的です。例えばオンライン診療は住民の意識や習熟度、予算の壁があります。このような壁のあるオンライン診療をこじ開けて、医療技術が入る場をつくりたいと使命感を燃やしています。そのためには、医療だけでなく、他の専門的知識も必要になると話しています。

 木村さんは「他の業界を知る医師がいると病院改革が進みやすい」とします。町が関わる病院経営では、予算が課題になります。この予算化に向けて、議員や役場職員とも協議することになります。協議する場では、専門的な知見や技術を必要とする他の行政分野の知見を得ることが大事になります。このような病院の経営会議では、様々な議論や提案を行いました。その中で、これから地域医療に必要になる電子カルテの導入も決まってきました。若いうちに、病院経営や行政に関われることは、今後の飛躍に繋がるようです。町が開放的で寛容なら外から、医師に限らず多様な人材の流入を可能にします。地域に役立つ技術や知的財産を吸収しやすくなり、新たな価値を生む土壌が生まれます。一方で、地域医療の難しさもあります。今は、地域の方に快く受け入れられているが、そのうち、なぜ週の半分しかいないのかとなるかもしれないと不安を持つケースも出てきます。でも、地方にとって望ましい二拠点生活は、都市の人々が目的を持って来てくれることになります。都市から、知識や技術が地域に流入してきます。この流入は、地域経済を活性化します。意欲的な医師の流入は、地域と医師にウインウインの関係をもたらします。ここで大切になるのが、二拠点生活の持つ「適度な距離感」を、地域の方が認める雰囲気になるようです。

 お話は少し変わりますが、刑務所でも医療行為をする医師が不足しています。定員が328名のところ、充足されているのは254名のみです。法務省でも待遇改善を図りながら、定員確保の対策を進めています。刑務所の受刑者は、入れ墨や覚醒剤の注射など打った者が多くなります。入れ墨をした皮膚は、皮膚呼吸ができなくなります。若気の至りが高齢になると、徐々に肝臓に負担をかけるようになるのです。名古屋刑務所には、人口透析器が配備され、人工透析が必要な受刑者を受け入れています。透析器は、常時フル稼働の状態になっています。名古屋刑務所は、定員が2500名です。そのうち70歳以上の受刑者が、5%、60代が12%程度収容されています。所内でも高齢者医療が課題になっている実情があります。刑務所の受刑者には、糖尿病の方も多くなっています。彼らは糖尿病が初期の段階であれば、刑務所で劇的に改善していきます。刑務所の規則正しい生活とバランスの取れた食事が、良い結果をもたらしているようです。そんな医療行為を行っている刑務所の常勤医は、週3日の勤務で、年収1000万円ほどです。この環境で、お医者さんが刑務所に勤務することを嫌がる理由があります。高い医療技術を求める医師には、刑務所内の医療行為だけでは不満なのです。医療技術の向上という目的が、達成する環境にないのです。一般的な医師の年収が2000万円と比較すると少ないかもしれません。少ないことに不満を持つ方もいますが、多くの医師は専門分野の知識や技術を高めることができないことに不満があるのです。刑務所の側でも、残りの4日間は大学での研修に当てることを奨励しています。できるだけ、医師の要望をかなえようとはつとめているのです。このようなお医者さんに、年間1億円を支給して、高度な医療研究ができる環境を過疎地の市町村が整えれば、有能な医師を確保できるケースが増えることでしょう。刑務所としての医師の仕事と医療技術の研さんというダブルワークは、これからも求められることになるのかもしれません。

 宮城さんは、医療現場にデジタル技術を取り入れるのに意欲的でした。オンライン診療は、これからの地域医療に不可欠のツールになります。医療技術も、日進月歩を遂げています。糖尿病患者を対象にして、その血糖値データの医療機関への送信といったサービスも登場しています。生地に縫い込まれたセンサーが、生体信号を常時モニタリングすることができる技術も開発されています。ウェアラブルデバイスを装着すれば、体温、心拍数、呼吸数、不整脈、血圧を測定できるのです。さらに、このデータをウェアラブルデバイスは5Gで瞬時に医療機関に送信することも可能です。この情報のやり取りの遅延時間が、1000分の1秒という低遅延が5Gの特徴になります。生体信号を常時モニタリングすることができて、体温や血圧の信号の乱れの検知が可能となるわけです。

 日本の自治体も、安穏としているわけではありません。大阪府は、府民向け健康管理アプリ「アスマイル」を大阪大学と共同で開発しました。この「アスマイル」は、大阪府が提供する府民の健康をサポートするスマホアプリになります。大阪大学は、健康診断の結果から3年以内に生活習慣病になる確率を予測するAIを開発したのです。健診データは、個人が特定できないよう加工されています。「アスマイル」は、この20万人分のデータからつくられています。「あなたが、3年以内に糖尿病になる可能性は40%です。食事や運動に留意しましょう」などのメッセージがスマホで見られるということです。身長や体重、血液、尿などから、糖尿病、高血圧、脂質異常症の発症を予測するアプリになります。検証では、AIがはじき出した発症確率と、実際に発症した割合が同程度であることを確認されています。2年後に、発症確率を下げるための運動メニューや食事などの提案機能も付け加わることになっています。自治体が、住民の健康を見守るツールが出現始めているわけです。理由は、住民の皆さんに健康な生活をしていただきたいという狙いがあります。さらに、自治体の医療や介護の費用を節約したいという期待もあるわけです。ここに、生身のお医者さんがいれば、本当の安心感が生まれるようです。

 最後になりますが、医療過疎地の現実に、風穴を開けるのではないかという企業が現れました。その企業の1つは、アマゾンになります。2019年からアマゾンで働く人と家族向けの遠隔医療「アマゾンケア」を手がけてきました。アメリカの5都市に住む従業員、12万人とその家族が対象になります。これらの人々は、スマホで医師に相談したり薬の処方を受けたりできるのです。かかりつけ医のような診療を提供しています。アマゾンには、患者データを分析するAIや薬を運ぶ物流インフラなどが揃っています。現在はアマゾンの従業員関係者に限定されていますが、いずれアマゾン病院になるとの観測が絶えません。日本の若い優秀なお医者さんは、アマゾンのようなモデルを構築する能力があります。医療+ビジネスやIT技術を駆使して、日本の医療制度を良いものして頂きたいものです。その意味でも、津南町の実践の成功を期待しています。

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