閉鎖的日本医療にペット愛好家が風穴を開ける アイデア広場 その1552

 高額医療費の問題を抱える日本の医療制度も、改革が徐々に進んでいるようです。政府は規制改革の中に、初診からのオンライン診療を2022年度から恒久的に認めることにしました。オンライン診療は2018年度から再診に限って解禁しました。残念なことは、実施計画においてオンライン診療の報酬基準を示さなかったことです。中央社会保険医療協議会で検討していくことになるようです。お隣の韓国は、日本より進んだ医療インフラを確立しています。韓国国民は、生まれたときから住民登録番号で管理されているのです。国民健康保険公団の個人疾病情報データベースは、住民登録番号と紐づけられています。これまでの特定検診データ、既往歴や現病歴、通院記録、受診内容、検査結果、投薬履歴、治療費の医療データが経年的に蓄積されていたのです。薬局に出す処方箋もアプリで届くので、何を処方されたかスマホに記録が残っています。この特定検診データは、通院するごとに最新情報に更新されるという優れたシステムです。日本よりはるかに、スムーズにオンライン医療が導入されるインフラが整っているようです。オンライン医療にも、問題点があることが徐々に分かってきました。オンライン医療に舵を切っても、現場がすぐに対応できるわけではないことが分かってきたのです。デジタル医療を加味したオンライン診療における医師のハードやソフトに関するスキルの習熟には、バラツキがあるのです。医師により、そのスキルの習熟には大きな差があるということです。この問題を解決することが求められます。つまり、お医者さんのITスキル向上とマイナンバー制度の確立を同時に行う仕組みを作ってしまうことが必要になるようです。

  日本がオンライン医療で苦労している中で、インドやタイのインドのオンライン医療が注目を集めています。インドでは、医師や病院が圧倒的に不足しています。その不足を補うように、スタートアップの企業がAIを使った診療システムを開発しています。利用者は、「喉が痛い」「熱がある」「おなかが痛い」など体調や症状を選択肢から選びます。病状の選択肢を記入する段階から、人工知能(A I) は症状から病気を推定していきます。さらに進んでいることは、医師を指定できることです。いろいろな症状に対応できる医師の一覧から、患者は診断してもらう医師を選びます。医師の一覧から、診断してもらう医師を選び、電話やビデオチャットで症状を詳しく話していくことになります。AIが専門医を選定し、選ばれた医師が最終的な病気の判断をします。たとえば、首都デリーの患者が、1000km以上離れた産業都市ムンバイのお医者さんを指定することもできるのです。A Iの活用で、医師が診る患者数は飛躍的に多くすることができています。このAIを運営している企業は、病院から一定の手数料を得て、利益を上げています。また、タイのオンライン医療を手掛けるバーチャルホスピタル病院は、利用する患者が急増しています。バーチャルホスピタルでは、患者がスマホのビデオ通話で看護師に症状を伝えます。利用者が専用サイトで、「お腹が痛い」とか「熱がある」といった数十項目から、自分の症状を入力します。病院の看護師に症状を伝えた後、担当医師が細く聞きとる仕組みになっています。診察結果もオンラインで診療報告書が出され、早ければ1時間半以内に自宅に薬が届く仕組みです。タイのこの種の病院では、診療から薬の配送まで一括したサービスを提供しているのです。このようなオンライン医療が、日本の医療過疎地帯に導入されれば、一つの光明になります。

 高齢化社会は、シニア向けという新たな市場を生みだしました。人間に限らず、ペット市場においても、ペットの老後が長くなる状況になってきました。その老後を支える一因に、動物医療があります。ペット市場の拡大の背景には、動物医療の発達などによるペットの長寿命化があるわけです。長寿命化を受けて、ペットの健康に着目した商品やサービスが注目を集めることになります。あるペット企業は、人が多く集まる地下街に、「ペットのケアができるアンテナショップ」を開店しました。ペットの食欲不振を心配した飼い主が、駆け込んで来る光景があります。「うちの子がペットフードを食べてくれないんですよ」と不安な表情。それに対して、「10~15分ほど食べない場合はいったん下げて、時間を置いてから出してあげるといいですよ。」とベテラン店員の冷静な対応で応えます。相談に随時応じることで、信頼を得て、さらにサービスを強化する良いサイクルを作っています。このベテランの方に言わせると、「高齢になったペットの健康に気を遣う飼い主が増えている」ということになるようです。ペット市場では、健康や介護に着目した商品やービスが続々と誕生しています。

 特に、この傾向は欧米で顕著になっています。米ポープと米小売り大手ウォルマートが、提携したことが話題になりました。ウォルマートは、特別会員を対象にポープの遠隔診療サービスを提供するようになりました。ポープとウォルマートが提携は、ペットの遠隔診療が盛んになることを示唆しているようです。ウォルマートの他にも、診察と処方箋の発行、そしてペット保険とを、組み合わせたサービスを提供する企業も出ています。ペット関連市場の活況を受けて、犬や猫などのオンライン診療を手掛ける起業が増えているのです。台頭しつつある起業は、さらに広範なペット向け医療サービスを提供しようと事業を拡大しています。ペット用品のネット通販を手掛ける米チューイーは、オンライン薬局に進出しています。このチューイーは、独自の遠隔診療サービスやペット保険も手掛けています。遠隔診療サービスの出現には、理由があります。それは、家畜だけでなくペットの獣医が不足していることです。従来の動物病院が活発な需要についていけず、遠隔診療がその不足を埋めているためなのです。ペット関連の小売業は、事業を拡大するため、既存のペット向け遠隔診療プラットフォームとの提携や買収に目を向けています。遠隔診療プラットフォームから得られるデータを活用しながら、健康関連の商品やサービスを展開する構想のようです。人間に対しても、ペットに対しても、日本の場合、オンライン医療は少し遅れているようです。

 遅れを認めつつも、日本も安穏としているわけではありません。大阪府は、府民向け健康管理アプリ「アスマイル」を大阪大学と共同で開発しました。この「アスマイル」は、大阪府が提供する府民の健康をサポートするスマホアプリになります。大阪大学は、健康診断の結果から3年以内に生活習慣病になる確率を予測するAIを開発したのです。健診データは、個人が特定できないよう加工されています。「アスマイル」は、この20万人分のデータからつくられています。「あなたが、3年以内に糖尿病になる可能性は40%です。食事や運動に留意しましょう」などのメッセージがスマホで見られるということです。身長や体重、血液、尿などから、糖尿病、高血圧、脂質異常症の発症を予測するアプリになります。検証では、AIがはじき出した発症確率と、実際に発症した割合が同程度であることを確認されています。2年後に、発症確率を下げるための運動メニューや食事などの提案機能も付け加わることになっています。自治体が、住民の健康を見守るツールが出現始めているわけです。理由は、住民の皆さんに健康な生活をしていただきたいという狙いがあります。さらに、自治体の医療や介護の費用を節約したいという期待もあるわけです。ここに、生身のお医者さんがいれば、本当の安心感が生まれるようです。

 医療過疎地の現実に、風穴を開けるのではないかという企業が現れました。その企業の1つは、アマゾンになります。2019年からアマゾンで働く人と家族向けの遠隔医療「アマゾンケア」を手がけてきました。アメリカの5都市に住む従業員、12万人とその家族が対象になります。これらの人々は、スマホで医師に相談したり薬の処方を受けたりできるのです。かかりつけ医のような診療を提供しています。アマゾンには、患者データを分析するAIや薬を運ぶ物流インフラなどが揃っています。現在はアマゾンの従業員関係者に限定されていますが、いずれアマゾン病院になるとの観測が絶えません。この流れの上に、アマゾンは、ペット保険にも参入しています。2023年11月、アマゾンジヤパンがあいおいニッセイ同和損害保険と提携したのです。アマゾンは2020年から、ペットに合わせた商品情報を受け取れるサービスを提供していました。アマゾンは、業界最安クラスの生涯保険料と業界最高クラスの手厚い補償を打ち出しました。アマゾンは、ペット保険への加入が期待できる顧客層を最初から持っている点が強みになります。この強みの上に、さらなるサービスを加えているわけです。アマゾンのペット保険は、相乗効果は高く、売り上げを急速に伸ばしているようです。ここで、ペットのデータを蓄積し、ビッグデータとして利用する意図が明らかになっています。

 最後になりますが、日本のオンライン医療は、苦戦しています。ある面で、抵抗勢力というものが壁になっているのかもしれません。苦しい時があれば、それを乗り越える力が現れるものです。医師不足を解消すること、病状が出たらすぐに見てもらえること、病気にならないことを支援してもらうなどはオンラインを利用すれば、少ないコストで可能になっています。可能なことは、インドやタイ、そしてアメリカの事例で明らかになってきました。AIを利用すれば、症状をみれば、病名を判断し、治療を行うことが可能になってきました。もちろん、ペットにおいても可能になります。1600万人のペット愛好家が、ペットのオンライン医療を望み、その実践例が増えれば、おのずと人間の治療にも波及することになるでしょう。医師不足でも、病状が出たらすぐに見てもらえること、病気にならないことを支援してもらう仕組みが、実現していくインフラは整っています。残りは、抵抗勢力という存在を、少しずつなくしていくことだけです。もっとも、これがもっとも難しいかもしれません。

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