日本の障害者の方が欧米に行くと、バリアフリーが整っていることに驚くそうです。車いすの障害者の方が、健常者と同じように生活できるように都市構造が整っていることのことです。単に生活が便利というだけでなく、障害者の働く環境にも配慮が行き届いているようです。このような流れは、日本の企業にも取り入れられるようになりつつあります。たとえば、その企業の1つに、「太陽の家」があります。太陽の家は、制御機器用のソケットやスイッチを製造するオムロンの特例子会社です。この会社は、雇用率の義務化以前から障害者雇用に向き合ってきたフロントランナーになります。「太陽の家」は、73人の社員のうち、障害のある人が34人と半分ほどを占める会社です。オムロングループの工場と同じように、きちんとコストや納期と戦っています。リーマン・ショック時などわずかな例外を除き、黒字経営を続けている優良企業でもあります。設立当初から、健常者も障害者も同じ土俵で仕事をできるように工夫されています。ハンディがあっても、その人の特性にあわせた工夫でカバーしているのです。障害者の方を、戦力として活用する企業が少しずつ増えてきています。
障害者の生産性を向上させるために必要な知識やノウハウは、個人や企業の頭脳のなかにすべてあるわけではありません。そこから解決策を導き出すことも、工夫の一つになります。この工夫を、先取りしている企業もあります。それが、株式会社LITALICOになります。LITALICOは、障害者向け就労支援事業や子どもの可能性を拡げる教育事業等で、障害福祉領域において複数の事業を展開している会社です。このLITALICOは、職場体験などを提供しながら障害者の就職活動も支援しています。一人ひとりの障害者について、何が苦手で何が得意を企業に説明します。どのような配慮があれば、個々の障害者が力を発揮できるかを企業に説明するわけです。どの配慮があれば力を発揮できるかを企業が説明し、職場環境の調整や業務設計を提案します。多くの企業には、障害者雇用のノウハウが蓄積されていません。ある仕事をする場合、障害者は会社が決めたやり方やルールだとできないこともでてきます。「この人はこういう制約が あるから働けない」と決めつけるのではなく、この障害を持つ人の苦手なことを強調するより、強みは何かを重視する姿勢が求められます。どんな状況なら障害者の方が、利益を出すように働けるのかを考えるわけです。健常者も障害者も、一人でも多くの方が働き続けられる環境を、社会仝体でつくっていくことが大事になります。障害者と企業をマッチングするサービスは、これからますます必要なことになるようです。
障害者の生産性の向上が強調されてきた面がありますが、一方で、障害者の視点を取り入れた商品や製品開発を行うことが,より良い製品づくにつながるという認識が広がってきました。障害者の視点に基づく商品開発の先には、これから増える認知症、高齢者の人々の類似性に着目した製品開発が、付加価値を高めるという認識があります。その先には、より多様な人材の受容性を高めた企業が、より進化できるという発想が出てきます。企業は多様な人材を育成し、戦力に育て、継続雇用することで付加価値の向上を実現していきます。誰もが作業しやすい環境をつくる過程で、健常者だけの職場では生まれないという発想が出てきます。障害者雇用をうまく活用できる企業は、未開拓の分野に進出が可能になります。障害者自身にとっても、新しい分野で働き続けることで得る達成感を得て、仕事への新たな意欲を高めます。高齢者は、彼らの五感の低下や健康の低下を考慮した場合、障害者の予備軍とも考えられます。「耳が聞こえにくくなった」、「新聞の字が見えにくくなった」などに悩む高齢者が増加します。これらの高齢者の増加は、新しい市場を作り出します。そこで、障害者は自分の持っている障害を緩和する方法を提示すれば、そこに新しいビジネスチャンスが生まれることになります。
世界の総人口に占める65歳以上の割合は、2060年に18.5%と2020年の9.4%から倍近くになります。65歳以上になると、健常者であっても老化に伴い聴覚や視覚の機能が衰えてきます。WHOは2050年までに世界人口の4分の1にあたる約25億人が難聴を抱えて生活すると推定しています。人類は不便さが生じた場合、それを解消しようと新たなテクノロジーを生み出してきました。あらゆる国や地域でこれらの事業を展開しており、誰もが使いやす製品開発は競争力の源泉になってきました。誰もが使いやすい製品開発は、新たなビジネスチャンスになります。こんな製品開発の企業に、ソニーがあります、ソニーは、障害のある消費者の生の声を聞く取り組みを続けてきました。この企業が、製品の使いやすさの向上に取り組む背景には世界で進む高齢化があります。2022年度には、商品企画や開発段階で障害者の社員に参加してもらい、彼らの意見を取り入れています。特筆すべきことは、意見を取り入れることを社内規則化したことでした。
耳が聞こえなくなる年齢になると、駅ホームでの到着メロディーや電車のモーター音へ話し声など複数の音が入り交じる場合、よく聞き取れないことが多くなります。このような場合に備えて、騒音除去機能のあるヘッドホンを使用する方もいます。このヘッドホンには、使用者が除去する音と除去しない音を調整できるようにする機能があります。でも、障害者にとって、なかなか調整できないケースもでてきます。このヘッドホンの開発者は、往々にして健常者が行っています。ソニーは、このような齟齬をきたさないように、開発の初期から障害者自身がアドバイスする仕組みを取り入れたわけです。まず、聴覚や視覚に障害のある4人が、アドバイザーに任命されました。障害を持つ社員が製品や技術の開発初期段階から関与する専門職を新設した。ここでは、健常者が気づきにくい「開こえ方」や「見え方」の改善点を助言します。開こえ方や見え方に障害がある4人の社員が、ブースを訪れた技術者に特有の症状を説明する光景があります。健聴者が何か音が鳴っていると認識するくらいの環境でも、障害者はかなり敏感に音を拾っています。これは、聴覚過敏という現象です。会場に来た技術者は「聴覚過敏にフォーカスするという視点がなかった」と聞き入っていました。もちろん、ここから技術者たちは、次の便利さを求めて、技術の改良をしていくことになるようです。
最後になりますが、障害者に対する見方が変わってきているようです。その分かりやすい事例が、リハビリテーション(リハビリ)に見られます。理学療法や作業療法、言語聴覚療法のみが、「リハビリテーション」との認識がありました。その認識は、リハビリテーションが機能回復だけ目指せば良いという考え方です。リハビリの対象は、単に身体的な障害に限定しているわけではないのです。世界の流れは、機能回復だけでなく、人の人生全体の回復にかかわることを目指しています。これは、障害者を身体的、精神的、社会的、職業的、経済的にその有用性を回復させることになります。さらにリハビリは、本人と医療者、ときには家族との協働作業で実践していくことになります。リハビリは本人の心理と意向を大切にして、本人の強みを伸ばせるようなプログラムを提案することになります。障害のある人と実務者、研究者が討議し、意見を集約する形が、リハビリの世界基準になりつつあります。ある意味で、障害の討議をするときには障害のある人と実務者、研究者の3者の知恵を出し合うわけです。リハビリにおいて、本人を無視したプログラムは、評価されなくなっているのです。この評価の仕方は、障害者の生産現場にも取り入れられつつあります。障害者は、単なる補助的な仕事に甘んじることなく、生産現場で中心的な位置を確保し、会社の黒字化に貢献する役割が求められる時代になってきているようです。もちろん、企業も障害者(健常者を含む)の能力を発揮できる環境整備を整えることは言を俟たないことです。
