離職率を少しだけ下げる仕組み  アイデア広場 その1657

 日本では、多くの企業が人手不足で悩んでいます。特に、若い新入社員の退職に悩む人事担当者も多いようです。2000年代の大学卒の離職率は、36%を上回る年もありました。今は当時より少子化が進み、新卒採用のハードルは上がっています。その新入社員の退職率が高止まりしているのです。厚生労働省は、令和3年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況を公表しています。それによると、 就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(前年度と比較して1.4ポイント上昇)になりました。新規大学卒就職者は、34.9%(同2.6ポイント上昇)となっています。さらに、詳しく見ていくと、従業員1000人以上の企業では、3年以内に大学卒の28.2%が辞めています。従業員30~99人の企業では、大企業より多く、42.4%が辞めているのです。規模の小さい企業ほど、離職率は高い実情があります。人手不足の中で、若手の離職に困っている企業が多いのです。困難があれば、それを乗り越える企業もあります。今回は、その乗り越える企業の知恵を探ってみました。

  小さな企業の離職率が高い傾向がある中で、離職を少なくしている企業があります。一部の中小企業では、独自の工夫で社員の離職を防いでいます。この企業の1つに「陽和」が」ありま。この会社は、半導体、医療、精密機器などの分野で使われるフッ素樹脂製品を製造しています。陽和は、離職率が単純計算で6.9%になります。 従業員130人の企業で、止めない企業を実践して、成功をおさめています。樹脂部品を開発する陽和は、過去26年間で、新卒採用で入った社員の離職を2人に抑えています。この企業は、1999~2025年に大学卒や高卒を中心に29人を新卒採用しました。そのうち、現在も27人が働いているのです。他の企業に見られないこの成果には、ひとつのきっかけがありありました。それは、「1人のベテラン社員が1週間休んだとき、生産ラインを止めたことでした。」熟練者に一部の業務を頼っていたため、その作業の代役を果たす社員がいなかったのです。その反省を踏まえて、数年かけて業務別の手順書を一つずつ作成し、生産などの現場作業は動画を共有しました。作業におけるカンやコツと呼ばれるポイントを、なるべく数値化してみんなが分かるようにしたのです。陽和は、社員が互いの仕事をカバーしあえる職場に改めたわけです。すると、会社は良い方向に向かうようになりました。誰かが休んでも、みんが代役を行うことで、作業工程がスムーズに回るようになったのです。この会社の社員は、社員が自分の望む時期に気兼ねなく休めるようになりました。有給休暇や育児休暇の取得率は90%を超えています。

 これからの経営資源は、人間、データ、キカイと言われています。人間の評価は、人間にしかできない主体的に自ら解決していく能力によって決まっていくようです。人間が学ぶべきものは、何かを生み出すクリエイティブな能力になります。この人間の能力をスムーズに出すためには、心理的な安全が前提になるようです。職場で働く中で、以前にはできなかった仕事ができるようになり、自分が成長したことを認識できる場合、よりポジティブに作業に向かうことができます。このような状態を、ワーク・エンゲージメントという言葉で言い換えることもできます。仕事に熱心に取り組み、やりがいや誇りを持ち、仕事から活力を導き出しているような状態とも言えます。ワーク・エンゲージメントが高まると、仕事の生産性が向上することが知られています。この高まりは、働く人の健康や幸福にも良い影響を与えることがいろいろな場面で見ることができます。最近は、職場だけの充実だけでなく、家庭の充実も、幸福の要素になるようです。幸福や幸せは、華々しいものでも晴れがましいものでもなく、必死になって求めるものではないという説が主流のようです。幸福の条件は、悩みのないこと、感情が穏やかなこと、心身が自然な状態であるというものです。一方、幸福の要素には、ポジティブや感謝の要素も含まれているという説もあります。幸福な人たちは、友人、同億家族との人間関係を大事にし、それを推進力としている光景があります。幸福には、面白い性質があります。周りの人達を、快と幸せという状況に引きこむ誘因性があるのです。こんな会社と家庭を往復していれば、充実した生活をおくれるのかもしれません。

 もっとも、この幸福を手に入れるには、困難な壁を乗り越えることも必要になります。「陽和」でも、葛藤の時代はあったようです。数年前、残業時間が月40時間を超える状況が続き、工場内の不満が高まりました。そこで、残業を減らすため、原因となる作業を機械で自動化することにしました。この企業が優れている点は、単に自動化の機械を導入する際、話し合い、作業のより良い工夫を加えていったことでした。自動化の際、生産と開発のチームが繰り返し話し合い装置の使用に反映させていきました。自動化の際、どんな自動化装置が使いやすいか生産と開発のチームが繰り返し話し合ったわけです。自動化の導入後、残業は月10時間に減りました。リーダーの方は、社員が一丸となり装置を完成させ、達成感が見られたと、社員の成長を実感していました。若い社員は、解決策を考えて正解に近づくと成長を実感するようです。陽和では若手が困難にぶっかると、先輩が解決策ではなく、うまくいかない原因を伝えます。その上で、答えを自分で考えるようにベテランが若手を導いている習慣がありました。複数の先輩が業務に通じているため、相談はしやすい環境ができています。特定の先輩が忙しいから相談できないといったストレスもありません。心理的な安全が確保された作業場は、のびのびと仕事が出来るようです。

 就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が38.4%(新規大学卒就職者は34.9%)となっています。でも、職種によっては、もっと高い離職率の職場もあります。「宿泊業や飲食サービス業」は、業種別でも最も人材の出入りが激しい職種になります。「宿泊業、飲食サービス業」は、入社3年以内に高卒の65.1%が辞めています。そんな中で、特筆する企業が、仙台市を地盤に飲食店を運営する「エムシス」になります。エムシスは「焼きとん」やギョーザが名物の飲食店を運営しています。2022年7月以降41人が入社し、退社は5人なのです。飲食業としては、非常に低い離職率になります。その工夫は、2つあるようです。エムシスは22年7月に初任給を27万円から30万円に引き上げた。仙台で30万円は、高い給料になります。そこにもう一つの工夫が付け加わります。エムシスは、社員から友人や知人を紹介してもらう「リファラル採用」を採用しています。この仕組みは、社員が社員の友達を積極的に勧誘することです。社員の友人を採用することで、人材会社に払う採用関連費用を抑え、初任給の原資を捻出しているのです。採用される新人も友達が一緒に働いているので、心理的安全が確保されると言うメリットが生じています。職場のルールは、金髪もOKで、きちんと仕事をすれば音楽を聴さながらの作業も可能というものです。

 余談ですが、良い人材を獲得し、離職率を低くするという課題にいくつかの組織が挑戦しています。経済同友会は2016年度から、授業として単位を認定する原則4週間の長期のインターンの支援を始めました。北海道大学は、この経済同友会が進める企業と大学とをマッチングさせる仕組みを活用しています。この大学は従来のインターンに加え、1~2年生を対象にした産学連携のプログラムを導入したのです。学生には、多くの労力を要するプログラムのようです。でも、受け入れ枠の4~5倍の学生が希望するほどの人気のあるプログラムになっています。参加者からは、「何を勉強すべきか明確になった」などの肯定的な意見が相次いでいるようです。協力企業が、積極的に大学3年生や4年生向けにインターンシップの場を提供しているのです。2019年夏の2年次に、JR東日本の新幹線の設備や実験施設などで研修をうけた学生の感想があります。「大学院でより多くの知識を習得しないと、この現場では太刀打ちできない」と痛感し、大学院に進学を決めた学生もいるようです。このような産学連携では、お隣の韓国が良い意味でも悪い意味でも先行しています。韓国は、企業と大学がより密接に結びついているのです。韓国の企業が大学のカリキュラム作成に参加し、教育内容に独自の要求をしています。ある企業は、独自にカリキユラムを作り、入社した時に役立つ学習を求めるケースもあります。入社時点で最低限の知識とスキル身に付けておくべきことを、大学の在学中に学ぶという仕組みです。入社後には、すぐに戦力になる人材を、大学に育成してもらうカリキュラム構成です。協力企業に合った人材を、入社前から育成するという仕組みでもあります。カリキュラムに係わる大学の教授と指導に当たる教授には、産学協力プロジェクトにも参加してもらうことになります。もちろん、大学には研究費を支援する見返りを用意しているのです。

 最後になりますが、新潟県三条市にある共栄鍛工所も、離職率の低い企業になります。2021年度以降に10~30代の正社員24人が入社し、退職は4人なのです。2024年9月期の売上高は43億円と、2020年9月期比6割増える業績を上げています。ここの社長さんは、毎日へ工場を回って社員一人ひとりと言葉を交わします。その回り方に面白さがあります。社長の回り時間やコースは、バラバラなのです。決まった時間だと「社長が来る」と分かってしまい社員の「素顔が見えないデメリットがあります。世間話をしながら話をすることで、社員の本音を引き出し、配属先の参考にするそうです。この社長さんは、人として会社員として許されないことをしない限り働き方は社員に任せています。3つの会社を見てきましたが、基本は心理的安全を確保した上で、社員の能力を高める仕組みができていることでした。このような企業が、これからも増えてくることが日本の経済を成長させるのかもしれません。

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