高卒者の離職を減らす仕組み  アイデア広場 その1531

 厚労省によると、2021年に就職した高校卒業者(高卒)は1年目に16.7%、3年以内に38.4% 離職しました。大学卒業者(大卒)の1年目が12.3%で、3年以内34.9%に比べて高いという見解です。厚生労働省と文部科学省は、2025年度に離職状況の改善策について検討を始めるようです。高卒者の就職者のおよそ4割が、3年以内に離職する現状の改善をはかるわけです。深刻な人手不足を踏まえ、生徒が企業の研究などに割く時間を増やす改善策をひねり出すことになります。高卒の新卒採用は、9年連続で上昇し、内定率は男女とも90%を超えています。人手不足が年々深刻になる産業界では、金の卵とされてきた高卒への期待は一段と高まる状況が続いています。でも、離職の高さが問題になっているのです。就職後3年以内の離職率を産業別にみると、「宿泊業・飲食サービス業」が63.2%と突出しています。ちなみにこの職種において、3年後の大学生の内離職率は49.7%となっています。今回は、特に高卒の離職率を減らす仕組みを考えてみました。

 現在は、企業が6月1日以降に高卒対象者への求人票をハローワークに提出するのが慣例となっています。ハローワークは各学校に求人票を提示し、生徒側は7月1日以降に見られるようになるのが実情です。高校で就職を希望する生徒は求人票を見て、夏休み中に自分の希望する会社を学校側に伝えます。学校は成績や適正を考慮して校内選考を行うわけです。9月になると、選考の済んだ生徒は願書を書いて、会社に提出します。それから選考解禁以降に面接を受けると、大半のケースで合格となる流れになります。就職を希望する高校生は企業に直接応募せず、学校を介して志望届を提出する方式が一般的です。この応募先を1社に絞る「1人1社制」は、高度経済成長期からの慣行的に行われてきたものです。この方式は、人材を安定して確保したい企業、生徒を円滑に就職させたい高校を満足させる仕組みになっていたわけです。でも、時代の急変は、この制度の欠点を表面化させてきています。求人票の公開から採用選考まで、生徒の選択期間は2カ月半ほどしかありません。この方式には、入社後のミスマッチが起こりやすいという欠点もあるのです。大卒の就職のように、自ら複数企業に接触して就職先を決めることはできません。高卒就職の応募は、原則1人1社までという独自のルールの存在があります。ある意味で、大学生より企業を調べる必要があります、自分の適性との企業の仕事内容を理解しないまま就職すれば、ミスマッチが起きる可能性が増えることは自然の理です。政府や企業の対策の一つは、現行で7月1日としている求人票の公開時期を早めることです。この対策は、企業理解を深める時間を確保することになります。

 フィンランドの教育が、注目されています。高い学力に注目が集まりがちですが、それだけではないのです。少ない教育予算で、高い学力を実現していることと同時に、その学力が実社会の生産性向上に貢献していることに注目が集まっているのです。フィンランドの教育が、一朝一夕にできたわけではありません。長期にわたる教育改革の成果ともいえます。その中で、重視されたことが、学校と社会を結びつけることでした。フィンランドの行政や民間は、あの手この手で若者を現実の生活と何とか結びつけようと葛藤しています。フィンランドの教育は、学びが学校に閉じ込もることを避けます。学校と社会を関連づけて、教育を進めています。他のヨーロッパ諸国と同じく資格制度社会であり、資格があって初めて就職ができる仕組みです。子ども自らが、知識や技能を獲得していくという学習に原点をおいています。最初が基礎就職資格、次が上級職業資格、次が専門職業でこの順で給料や資格が上がる社会背景があります。就職希望者は学校に在学している間に、職業意識を高めて必要な技能の修得に努めています。例えば、フィンランドの高校の建築科では、家を1軒建てる実習があります。高校在学中に、家を生徒が1軒建てることだけでも驚きですが、その家を売るところまで、生徒が行うのです。さらに驚くことは、市民がそれを購入するという点です。学校が生徒を育て、その生徒を支援する社会の存在が、離職率を低く抑えている要因になるようです。

 社会の進展は、新しい課題を高卒者に突き付けています。高卒時期に身に付けたスキルだけで、長く職場で活躍することは難しい時代になっています。各企業の事業環境や技術の変化が、急展開するようになりました。企業は、社員のリスキリングやキャリアアップを支援せざるを得ない状況に追い込まれてきているのです。社員の能力を上げるためには、学習する時間を、確保しなければなりません。1年間の総時間は、24時間×365日の計算で8760時間になります。人の生活時間は、睡眠などの生理的時間が8時間、労働時間が8時間、余暇時間が8時間という3区分法が成立するようです。労働時間は、週休二日制で2080時間になります。それに対して、余暇時間は、約3000時聞になります。専門的スキルや知識を身に付けるには、1000時間が必要とされます。つまり、仕事に2000時間打ち込み、余暇時間の3000時間を使えば、2年間でいくつかの専門的スキルや知識が獲得できるわけです。高卒者も、時代の変化に応じた学習やスキルアップを継続していくことが求められています。

 余談ですが、日本の企業は、本業がおろそかになるといった理由から副業解禁に慎重でした。でも、風向きが変わり始めています。2018年に厚生労働省が「モデル就業規則」において、副業を原則禁止から認める内容に改定しました。パーソル総合研究所の調査では、副業を容認する企業の割合は2023年に61%にもなっています。副業を行った理由では、副収入を挙げる人が多かったのですが、これにも変化が出てきています。副収入だけでなく、リスキリングに副業を活用したいと考える人が増えているのです。面白いことに、企業にも社員がリスキングで新たなスキルを身に付けることを奨励しているのです。副業の成果を本業に生かすことができれば、企業側にもメリットがあると考える流れが出てきているようです。副業をしながら、新しい職種のスキルをマスターする人たちも増えているようです。新しいスキルをマスターしようと思えば、今が獲得のチャンスになるかもしれません。この意味では、高卒の離職は一定の評価に値するものになるのかもしれません。もっとも、条件があります。その条件を満たしている国の一つに、デンマークがあります。

 デンマークは、国民に年金や医療介護、失業した場合の福祉サービスを手厚く提供しています。失業しても、次の職業にすぐにつけるような支援体制があるのです。デンマークの国民は、人間の生き方として「平等」が重要な価値であるとの理念があります。この理念と政策が一貫しており、国民も満足度の高い生活をしています。国民の中に大きな格差があると、居心地の良い場所にはなりません。デンマークは、居心地の良い国のようです。

 再度、副業のお話しになります。副業に関しては、リクルートが有名です。このリクルートは、2016年度の新卒Web系職種採用の1つに「入社後の副業可」という条件を掲げました。副業生活を可能とする生産性の高い優秀な人材を、社内に確保しようという試みでした。リクルートの社員には独立する人が多く、退社後もそのネットワークが活きていることが知られています。副業の経験が、独立後のスタートアップの助けにもなっているようです。日本には300万社以上の会社があり、3万の職種があります。300万の会社と3万の職種を組み合わせれば、無限のマッチングが可能になります。副業の中で好きで楽しい仕事に出会ったら、苦労を知らずに生活ができる環境になるかもしれません。日本政府も、このような民間企業のシステムを推奨しています。政府が副業を後押しする真意は、少子高齢化による労働力不足を補うことにあります。特定企業のみで通用する能力ではなく、労働移動しても通用する能力を多くの人に持ってもらいたいわけです。時代が変わり、自らの人生を自らデザインする時代になってきたようです。これからは、自分にあったキャリアを選択していく中で、充実感を得る時代でもあるようです。副業を通じて作り上げてきたネットワークを、本業で活用する事例も増えています。働く立ち位置からすると、この会社からは「お金」を得て、あちらの会社では「やりがい」や「スキル」を獲得するという働き方もこれからは選択肢の一つになるのかもしれません。

 最後になりますが、日本でも、社会と高校の接近は加速しているようです。農業高校では、栽培した花や農産物を販売する催しを行うことが増えています。その販売する商品にも、農業の6次化産業の手法を取り入れている姿が見られるようになっています。IT関係の高校生は、クラウド会計ソフトの会社などで、エンジニアのアルバイトを行う姿も増えています。大卒を中心に採用を続けてきた金融やIT業界も、高校生の技術に注目する企業もあるようです。一定の技術を持つ高校生を対象に、長期インターンとして受け入れる企業も出てきています。技術持ち、会社に適応できる人材であれば、企業は早めに採用を決めたいようです。蛇足ですが、これから高校の教師は、生徒達に変化の激しい社会で学ぶ力とか学び続ける力を付けることが求められます。その上で、企業の社員教育や技術伝達などをよく観察し、生徒の能力が生かせる会社を推薦していくことも求められます。企業も高卒の従業員を優秀な人材に育てる育成方法を開発していってほしいものです。

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