先進国を中心に、情報通信技術(ICT)を活用した教育が進んでいます。日本は、この流れから少し、出遅れているようです。そこで、今回はこの遅れを取り戻し、世界のトップに近づく仕組みを考えてみました。文部科学省は、2019年末に全国の小中学校などの教現場のデジタル化を目指した「GIGAスクール構想」提唱しました。このGIGAスクール構想の予算は、 8000億円を超えるものでした。文科省は、この構想を5カ年計画で段階的に進める予定でした。でも、世界との比較でICT教育が遅れている点などを考慮して、計画を早めたのです。2022年には、児童生徒1人に1台のデジタル端末整備がほぼ完了しました。ここまでは、異例の速さでした。端末は行き渡ったのですが、GIGAスクール構想の見切り発車の代償は大きいとささやかれるようになりました。特に、教員の方からは、「GIGAスタール構想」の負担の大きさを嘆く声が上がり続けています。たとえば、タブレット端末を活用した授業中に、クラスのあちらこちらから「画面が止まった!」の声が上がる状況があります。タブレットは個々人が持っているが、そのタブレットのネット環境が十分でないケースも生じています。また、教員の側にも、ICTを使った授業に不慣れなために、スムーズな授業ができないケースもあるのです。文科省は、保守管理費用や個別の課題への対応は自治体の負担だと主張します。タブレットは配布したので、あとは自治体でやってくださいという姿勢です。自治体には、財政力に差があり、支援員の派遣もままならないケースも生まれています。嘆いていても、問題は解決しません。それでは、ICT教育を上手にやっている国や地域はどこなのでしょうか。
日本が目指す教育のデジタル化は、韓国の事例が参考になります。韓国は、教員用のデジタルコンテンツを無償で大量に提供しています。ICT機器だけ装備しても、有効活用ができなければ、無用の長物であるとの現実的な判断の上でこの事業を進めたのです。ICTを現場で使いこなすためには、教員への支援員が欠かせないのです。韓国の教育現場には、デジタル機器の操作やデジタル教材の利活用を支援する常勤の支援員が配置されています。教員へのサポートに、手厚い支援策にも予算を惜しまない姿勢が見られます。教員には定期的に、ICT活用のための研修が行われています。韓国は2019年2月までに、教員の4割弱がこの研修を受講して、ITスキルを磨いています。デジタル機材の活用方法を、全国の教員が互いに共有できる専用サイトも開設されているのです。このような流れが、1999年から計画に進められてきたわけです。20数年をかけて、ICT活用の活用を進めてきたわけです。日本のGIGAスクール構想の見切り発車の代償は大きいという意味は、韓国の事例から理解されるところです。
コロナの流行期には、オンライン授業のニーズが高まりました。紙文化が中心だった学校の授業は、生徒も教員も劇的な変化への対応が求められました。文科省は、デジタル機器を「文房具のように自由に活用し積極的に利用してほしいと要望するだけでした。積極的に利用すると、先生、画面が止まった!」の声が上がるようになります。特に、大規模校において、一斉にネットを使うと、このような現象が現れました。タブレット端末を活用した業中に、クラスのあちこちか「画面が止まった!」の声が上がるケースが起きたわけです。これは、コロナ禍を機に急速に端末を導入したことが大きな原因になっています。もっとも、国も無策ではありませんでした。ネットワークにつながりにくい状況の改善のため、2023年度補正予算では23億円が計上しています。この国の補助金だけでは、十分でない情況があります。OECDの生徒は、月に1回以上コンピュータを使って宿題をする割合が66.1%になります。日本の生徒は、コンピュータを使って宿題をする割合が18.4%に過ぎませんでした。日本の教育の場合、コンピュータに、不慣れという理由に正当性がでるもの当然かもしれません。韓国は、コンピュータを使って宿題をする割合80.6%にもなっていました。コンピュータを利用して宿題を出すことが、韓国の教員にとって日常化しているのです。韓国の教育界は、ICT機器だけ装備しても、有効活用ができなければ、無用の長物であると主張します。先進国で最下位レベルになる日本は、教員のICT活用能力が課題になるようです。ICTスキルの高い教員を、どのように育成するかが課題になっているのです。
教育デジタル化への対応は、今後の国際競争力を左右することになります。日本の学校は、デジタル機器の活用がOECD加盟国の中で際立って低い位置にいます。アメリカは、2016年に教員研修や大学の教員養成課程で、デジタル技術を活用する内容を取り入れています。フランスも2018年に、デジタル技能を自己診断できるサイトに教員専用ページを設けました。韓国は、さらに早い段階の1999年に、情報教育を推進する専門機関を設けています。情報社会のインフラとして重要なネット回線速度は、リトアニアは91.3%。韓国は83.4%、アメリカは82.4%でした。日本は36.5%で、OECD加盟国の平均67.2%を下回わっています。OECD諸国の中では、デジタル端末を授業に取り入れるために必要なIT技術やその指導力、そしてインフラに関して、残念ながら日本は底辺に位置している実態が見えてきます。
他国の優位性を嘆いていても、問題は解決しません。教員が、デジタル端末を確実に使えるようスキルを高めることが必要です。日本では専門人材の育成や十分な待遇での配置が追いついていない現状があります。韓国や米国などICT活用が進んでいる国では、学校に常駐する人材がICT活用を支援しています。支援員について、日本は4校に1人を配置する目標に動き出しました。政府は、ICT教育をサポートする「ICT支援員」の配置を進めています。でも、「ICT支援員」の配置を4校あたり1人」の配置目標は、まだに達成できていません。ICT支援員の資格など採用条件を決めるのは、各自治体になります。支援員の人件費も、自治体が負担することになります。ICT支援員を時給は、1500円前後での求人が目立ちます。この金額では、人材の確保がとても難しいことが実情です。他の分野でも、ICT人材は不足しているのです。「ICT支援員」の配置が首都圏でも、ゼロの自治体が生じています。ネットワーク環境や教員のスキルなど、子どもを取り巻く環境の差が広がり続けている現状があるようです。紙教材を使っていたときよりも、先生による授業内容の差が大きくなっていると話す学校関係者も出てきています。
余談になりますが、日本は、授業時数を消化したかを重視する「履修主義」をとっています。世界では、学習内容が身についたかで進級を判断する「修得主義」が一般的になっています。日本の履修主義の弱点が、新型コロナ禍の中で明らかになりました。200時間のロスが、日本の子ども達の学力を低下させたと言う説が出ました。履修主義は、時として柔軟な授業計画づくりの足かせになったわけです。この点を危惧した中央教育審議会は、履修主義と修得主義を適切に組み合わせた制度の導入を文科省に求めています。「修得主義」のニューヨーク市では、授業計画を見直しながらオンライン教育を続けました。できない家庭、ある意味でネット環境が整わない世帯向けには、約25万台のiPadを貸し出しています。標準の知識を修得すること支援する施策は、子どもの学力を保障していると理解できます。海外各国は、オンライン教育を使ってでも、学習で学びを止めない仕組みを整えてきたわけです。一方日本は、対面授業で着実に授業時数をこなそうとする姿勢を貫いてきたともいえます。制度や仕組みの評価には、「効果が目に見えて高まる」こと、「子ども達が成長する」ことも重要になります。「効果」と「成長」の二つが表裏一体となって、学校教育の評価に繋がっていきます。教育現場では、常に全体を見る観点が求められます。一箇所でもボトルネック(制約旅分)があると、全体の能率がボトルネックの水準になります。子どもが、「デジタル機器の使い方が不慣れだ」とか、教員が、「ITC使用法に不慣れだ」とのボトルネックを持つならば、このボトルネックを無視して個々のラインや機械をフル稼働させてしまうと、全てがムダになります。黒板と紙の授業が、ITC使用法の授業より効果的になる現象が生まれます。効果的な授業をしようと思うなら、部分最適よりも全体最適を求めることになります。個々の能率よりも全体能率向上を考えることになるわけです。
最後になりますが、東京都立南平高校は、デジタル活用スキルを持つ教員数人が、コロナ禍の中、休校対策を検討していました。この学校は、同時双方向型のオンライン授業を本格的に始めたのです。全教員を対象とした講習会を開いて、オンライン授業の方法を学んでもらうことにしました。この高校では、教員同士で教え合う雰囲気が生まれました。先生方が懸命に取り組む姿は、生徒にもいい刺激になったようです。分散登校が始まってからも、オンラインと対面を組み合わせた授業を行うことができました。デジタル化は、オンライン授業だけでなく動画の活用などでメリットは多いのです。デジタル技術を使えば、抽象的な概念を動画で分かりやすく教えることも可能になることを示しています。
都会の学校だけでなく、デジタル機器に精通した地方の学校もありました。福島県新地町の新地小学校では、ネット端末の配備を完了していました。2020年春の休校時には、速やかに双方向授業を実施し、授業の遅れを最小限にとどめています。新地小学校では、児童が端末を持ち帰って事前に予習する「反転授業」をも行っていました。この流れで、スムーズにコロナ禍の休校に対応できたということです。この小学校では、民間のICT支援員の方に、デジタルの技術面を補ってもらっています。教員が授業内容に集中でき安心してICTを組み込める環境を整備していたわけです。新地小学校では、オンラインを活用した海外交流など活用の幅が広がっています。新地町には火力発電があり、そこからの税収が、豊かな学校教育を実現させているともいえます。自治体の特性を生かして、GIGAスクール構想を実現していきたいものです。