2024年4月から、トラック運転手に時間外労働の上限規制が適用されることになりました。働き方改革の流れを受け、ドライバーの労働時間という制約がかかりました。具体的には、ドライバーの時間外労働が年960時間に制限されたのです。この規制が適応されると、輸送能力の縮小は避けられなくなります。日本の物流のサービスは、高い水準を維持してきました。翌日配達やさらに即日配達のサービスが、転機を迎えています。この規制の影響を考慮すると、2025年に全国の荷物の28%、2030年には35%を運べなくなるという試算があります。具体的な影響も、現れつつあります。セブンイレブンは、今秋から全国の約2万店超を対象に、商品配送を抜本的に見直すと発表しました。弁当など日配品の店舗への配送回数は、順次1日4回から3回に減らすことにしました。さらに、店舗への加工食品の当日配送を取りやめます。店舗から発注のあったカップ麺や菓子類など加工食品が、当日中の配送をから翌日に変更しています。このような方向転換は、セブンイレブンだけではありません。ローソンも、弁当などの1日の配送回数を3回から2回に減らすことにしました。一度にまとめて配送すれば、運転手や仕分けを担う従業員の労働時間を削減できるわけです。また、ドライバー不足で代わりが見つからず、配送ができない状況も広がりつつあります。たとえば、書店と読者を結ぶ出版流通行うトーハンは、ローソンやファミリーマートなどコンビニ1万店への雑誌配送を中止しています。もっとも、ピンチはチャンスに変わるとポジティブな企業もあるわけです。今回は、ドライバー不足の問題のポジティブな解決方法を考えてみました。
ドライバー不足を加速させる要因が、実はドライバーの本来の仕事以外にあるのです。この不足の原因が、荷物の積み下ろしになります。ドライバーが効率的に配送できない原因は、集配先に着いても積み下ろしなどをすぐに始められないことなのです。物流センターでトラックが接車し、荷物積み降ろしに使用するスペースをバースといいます。ある調査によると、1回の運行で平均1時間45分も待ち時間があるのです。スバルは、この問題解決に着手しました。スバルは秋から、配送トラックの荷降ろし作業を、自社スタッフが行う体制に切り替えたのです。複数人のスバルのスタッフが手分けして、部品を降ろし所定の場房に保管する作業を行うのです。スバルがドライバーの作業時間の削減と向きあう背景には、働き方改革関連法があります。自社での荷降ろし実施から1年後には、運送トラックの一部を自社運行する計画もあります。スバルの狙いは、トラック確保が難しいサプライヤーを助けてスバル全体の物流網の維持につなげることにあるようです。「ラストワンマイル」の輸送を、自ら担う会社はスバルだけではありません。コマツは全工場で、荷降ろし後の工場内の運び込み作業を、自社スタッフが行うようにしました。コマツは、24年問題に向けた政府ガイドラインをほぼ達成したと言っています。荷降ろし作業がなくなれば、新たなドライバーの確保にもつながる可能性がでてきます。肉体労働である部品の荷降ろしがなくなれば、シニアや女性のドライバーにも働ける領域が広がります。ドライバー不足問題も、少し解決に向かいます。
ドライバーの作業を、過密にしているもう一つの原因があります。国内の営業用トラックの積載率は、4割を切りました。これは、4割の積み荷と6割の空間で輸送と行っていることを意味します。6割の無駄の理由は、早く届けるために荷台が埋っていなくても走らせるために起きています。以前、工場や倉庫などから1回で出荷される貨物の重さは、1990年が2.45トンでした。それが、2021年には0.70トンに下がりました。この理由は、小口と多頻度配送によるものです。ある意味、以前は1度で配送が済んでいたものが、今は3度になったわけです。その負担は、ドライバーに過重労働という形で覆いかぶさっているのです。ある物流大手の幹部はこのままでは、運び切れなくなると苦境を語っています。もちろん、打開策もあります。配達日程に幅があれば、空きスペースを埋められます。配送時期を遅らせられれば、荷物が集中した日の分を翌日に移すなど業務を平準化できるのです。ゆっくり宅配ができれば、荷物で空きスペースを埋めることができます。必要なトラックの数の数も、ドライバーの負担も、大幅に減らすことができるのです。ゆっくり宅配ができれば、荷物で空きスペースを埋めることができて、温暖化ガスによる環境負荷も引き下げられるわけです。物流は速さだけでなく、環境や福祉の観点からもビジネスに繋がると時代になってきています。
日本は、ドライバー不足に悩んでいます。この悩みを解決するヒントが、中国のフードデリバリー(料理宅配)業界に見ることができます。中国の料理宅配は、アプリ注文できる手軽さなどが人気を集めて急成長しました。このフードデリバリー業界は、2010年代半ばから急速に伸びたのです。ところが、ここ数年はスマホの普及が一巡し、伸びが鈍っている状況があります。その中で、先行する美団は2024年4~6月期の宅配売上高が前年同期比13%増を記録しています。主力の宅配サービス事業の売上高は230億元(約4700億円)と13%の伸びを示しています。美団が突破口として注力するのが。2022年から始めた「好飯(ピンノハオファン)」になります。この好飯は、低価格を売り物にする共同購入サービスになります。美団のサービスは、注文から30分ほどで届く利便性が売り物になっています。美団の配達員は、2023年で745万人にもなります。この配達員を有効活用し、かつ彼らが満足する給料を保証する仕組みが求められます。その実現のために、最適な配送ルートや配送員の割り当てを実現するためアルゴリズムの開発に力を入れてきました。
中国の料理宅配が、新たな局面に入っているようです。中国も、以前のような消費行動に勢いがなくなりました。最近の景気低迷で、割安に注文や宅配してもらえる「共同購入サービス」が支持を広げています。試しに、記者が調理宅配のアプリを開くと、まず飲食店が提供する対象メニューの一覧が表れます。頼んだチャーハンのセットは16元(約320円) で、普通に注文した場合の半額でした。この安くできる理由は2つあります。飲食店は1回の注文で2人以上に売れるので「薄利多売」が可能になります。1回で2人以上に宅配できるので、注文ごとに別々の利用者に届けるより配送効率が高くなります。「薄利多売」で、販売価格を下げられることが、1つの理由になります。もう一つは、配達員も1回の注文で2人以上の利用者に宅西配でき、収入が増えます。料理を選んで注文ボタンを押すと、同じメニューを注文したい他の利用者の募集が始まります。共同購入を早く成立させるために、近隣の利用者同士を素早いチングが必要になります。驚くことに、マッチングは約10秒で完了し注文が成立したのです。アプリ上で配達員の動きを観察すると、最初に店で料理を受け取ります。次に、まず別の注文者に届けて、その後で記者が指定した場所に届けたことになりました。
蛇足ですが、マッチングによる問題を解決する人たちは、日本にも現れています。不便を感じるところには、ビジネスチャンスが生まれます。ある起業が、バースの待ち時間を減少させる予約サービスの仕組みを作りました。この予約サービスは、運送会社が入場希望の時間を予約すると場所が割り当てられるのです。入場希望の時間を予約すると場所が割り当てられ、運転手のスマホ端末に伝達されます。入場車両の情報が可視化され、平均1時間前後に及んでいた待機時間は7分に減ったという事例もあります。この仕組みを、花王など180社以上が約250拠点で導入し、運送会社など4千社以上が利用しています。
国土交通省が23日発表した2023年度の宅配便取扱個数は、50億個で、9年連続で過去最多でした。2016年度の宅配便取扱個数は40億個でしたので、7年で10億個増えたことになります。取扱個数は増え続けているのですが、ドライバーは増えていないのです。日本のドライバーは、84万人を横ばいで推移いています。労働条件が、厳しくなっている状況を越えて悪化している状況が続いています。さらに、ドライバーには、物を運ぶ仕事以外の仕事もあることが最近問題になってきました。たとえば、スーパーなど小売店に納品する際、荷物の積み下ろしだけでなく、商品の値付けまで行うケースもあるのです。さらに、店頭での商品陳列といった付帯業務が課せられることが少なくないと言います。ドライバーを抱える搬入企業から、スーパーなどへ対応を要請するケースも出てきています。日本ハムなど食肉大手4社は共同で、作業負担を軽減してもらえるよう求めています。ドライバーの負荷の軽減が対処できない企業は、今後、運送会社から忌避されるケースも出てくる状況になりつつあるようです。
最後になりますが、ドライバー不足の問題解決は、誰でもができる作業にすることが核心になるようです。ドライバーの運ぶ仕事に、集中できる環境を整備することにあるようです。その上で、給料を高くする仕組みも工夫することになります。中国のフードデリバリーのように、マッチングアプリを使えば、1回で複数の商品を、複数の相手に運べるような工夫も求められます。また、バースの待ち時間を減少させる予約サービスの工夫なども、ドライバーの負担軽減になります。さらに、荷物の積み下ろしがなくなれば、シニアや女性のドライバーの確保も視野に入ってきます。この何年かは、84万人のドライバーで、増え続ける荷物をさばいてきました。でも、若い新規参入者が期待できない現状では、シニアや女性ドライバーが働ける環境を準備することになります。さらに、消費者には、スローな配達を許容することも求められます。それができれば、積載率の問題も解決し、環境に優しい、持続可能な輸送体制ができるかもしれません。