日本の林業には、強みと弱点があります。強みは、伐採できる森林を豊富に抱えていることです。我が国の人工林の蓄積量は、戦後の17億㎥から49億㎥に増えているのです。日本の森林面積は、2500万haで、年間成長量は約1億㎥になります。弱みは、その成長量を、十分に利用できていない点にあります。1億㎥の中で生産している木材は、3400万㎥に過ぎません。一方、木材使用量は8200万㎥なのです。この8200万㎥の木材使用のうち、4800万㎥は輸入材を使っています。使用量をはるかに上回る森林の増加量があるにも関わらず、日本の林業はそれを生かし切れていません。一方、森林面積1000万haのドイツは、年間6000万㎥の木材を安定的に生産しています。日本の半分以下の森林面積でいながら、2倍以上の国産木材を伐採し、市場に供給しているのです。輸出も多く、多額の外貨を稼いでいるのです。ドイツの林業の雇用数は100万人であり、自動車産業の70万人を上回っています。蛇足ですが、木材生産を目指す森林を健全に維持するためには成長量の7~8割を伐採することが必要だといわれています。この必要の意味するところは、雇用創出の可能性、多額の外貨獲得の可能性、そして自然災害の減少ということになります。近年温暖化により土砂災害などにより、森林の荒廃が目につくようになりました。今回は、林業の復興と自然災害の減少という課題に取り組んでみました。
ドイツや北欧の林業を見ると森を守りながら、利益を上げています。この理由の一つは、ドイツの森林法にあります。この森林法では、すべての森林所有者に対し「持統可能で適切な管理義務」を課しているのです。この法律のおかげで、ドイツの先進的林業が成立しています。ドイツの森林法では、森林官は、国有林や私有林を問わず、適切な管理義務の履行をチェックする責務も負っています。この森林官は、経済合理性と持続可能性とのバランスを保つ「森の守人」の役割を担っています。森林官は担当区域の私有林や民有林についても助言や支援、行政指導を行っています。現場で木々をチェックし、どの程度までなら森林の成長を阻害せずに伐採可能かを計算するのです。日本でも、林野庁の出先機関である森林事務所に、約850人の森林官を置いています。この森林官は、国有林のみの管理になります。ドイツの場合、連邦政府と州政府が保有する国有林は、日本と同じく3割程度になります。でも、ドイツには約5000人の森林官がおり、その権限は国有林だけでなく、民有林にまで及んでいます。ドイツの森林官は、20~30年以上にわたって、同じ森林を担当し続けるのに対して、日本の森林官は2~3年で定期異動をしてしまいます。地域の森を深く知らないままに、次に異動することになります。この短い期間の異動は、地域の宝が生かされないケースも増えるようです。
もう一つの日本の弱点は、木材1㎥の価格が高いことです。伐採して、市場に出すには7000円かかっています。ドイツやオーストリア、そして北欧では、が2500円で、市場に出荷できるのです。豊かにある木材資源を安価に切り出す工夫も、日本の課題になります。ヨーロッパの林業機械は、大型で効率的な作業を行います。性能の高いハーベスタのような林業機械を入れれば、定性間伐もでき、生産性も10倍以上になります。日本も、生産性の低い林業に甘んじるつもりはないようです。建設機械のコマツは林業を中核事業と位置づけて、スウェーデンやカナダ、アメリカの林業関連企業を買収してきました。面白い買収では、スウェーデンで林業機械のトレーニングシミュレーターの開発企業を買収したことです。ハーベスタなどの林業機械は操作が非常に複雑であることから、トレーニング用のシミュレータの活用が欠かせないのです。コマツの狙いは、機械だけでなく、機械を操作する人材の育成にまで視野を広げていることです。コマツ伐採機は、木を伐採し枝葉をそぎ落とし運びやすい大きさに切断の作業を1台でできるのです。複数の木材を同時に処理し、短時間で大量伐採するため効率が向上します。さらに、この会社が得意としているIoTは、伐採機と連動して、より高い収益を上げることになります。コマツは、価格の課題を克服しようとしているようです。
国土の約7割を占める森林にビジネスチャンスを見いだそうと、日本の林業関係者や大学、そして企業が知恵を絞っています。生産性を高めるには、生産の適地を選ぶことが大切になります。ドイツや北欧の森林は、木材生産を対象にした森林とそうでない環境保全の森林を区別しています。これらの国では、機械化を進め効率を上げるとともに、作業を安全にするスマート林業が進んでいるのです。木材の生産に適した森林を集約して、林道を整備し、大型機械を使用できる環境を整えています。ドイツでは、「林業専用道」と呼ばれる散歩道が縦横に整備されています。その結果、機械化が進み、さらに木材生産に適した適地を森林として育てているわけです。要は、日本の人工林の中には、木材生産に適さない場所もあります。逆に、自然林の中にも天然林でも木材の蓄積が多い所もあるのです。木材生産に適さない所に、大型機械を入れても無駄になります。人工林として育ててきた森でも生産性の低い森は、天然要素の強い森林に方向転換することも求められます。逆に、天然林でも生産が適している場所は、人工林に変えていくことが効率的になります「木材の生産に適した森林を集約して、林道を整備し、大型機械を使用できる環境を整えれば良いということになります。ここまでは、普通に考えれば、誰でも理解できることになります。日本にはもう一つ、難問があります。日本の林業は、山が分割相続などで所有者不明の私有林が点在している点です。私有林は、人手がないために山は荒れ放題になるケースが増えています。木材として伐採時期になっても、伐採することも困難になります。伐採したとしても、木材搬出ルートの確保が難しいという情況があるのです。この所有者不明の問題を解決するヒントが、北朝鮮にありました。
北朝鮮では、台風や豪雨で甚大な被害が出ることは珍しくありません。中国と北朝鮮の国境付近で、7月下旬に豪雨が発生し両国の間を流れる鴨緑江が氾濫しました。北朝鮮北部の新義州市や義州郡で家屋およそ4100軒、農地3000へタタールが水没しました。被災者およそ1万3000人が首都平壌に避難したのです。問題は、この復興計画でした。現地当局が集落を洪水前の状態に戻す「復旧」を断念したのです。この再建に向けた最大の課題は、物資不足でした。復興に従事した男性らはシャベルを抱え、歩いて作業場所に向かっていきました。農村集落の周辺では、ショベルカーなどの重機は見当たりませんでした。機械がない、資金がない状況が見て取れます。核やミサイル開発に数十年にわたり、多くの資源を投入してきました。資源配分が偏り、インフラが整備されず、自然災害のたびに多くの被災者が出ている現状がります。蛇足ですが、被害が出るたびに、金正恩総書記は被災民を自ら見舞ったり、現地幹部の責任だとして叱責する光景が報道されます。現地幹部の責任だとして叱責は、自らへの批判をそらし、市民の不満をやわらげるためだとも言われています。さらに、リップサービスとして、新しい再建計画を述べています。復旧を断念した代わりに、新しい住宅を建設するというものです。この機会に、都市経営に関する要素を備えた「農村文化都市」を建設すると報道されています。都市経営に関する要素を完璧に備えた農村文化都市を建設しなければならないと話されています。さらに、新しい住宅を建設するこの機会に、電気・飲料水・汚/水処理に至るまで備えると添えています。被害地域を復旧するのではなく、農村の都市化、現代化、文明化実現の見本にするというものです。
北朝鮮の復興を断念し、新しい事業を立ち上げる点に、日本林業の復興のヒントを見出しました。毎年、雨風により川の氾濫が相次いでします。温暖化により、洪水の危険がますます増大していることを実感しつつあります。これらは、温暖化で気候が変わりこれまで想定外だったような天候が生じていることに原因があります。温暖化に加えて、都市化に伴う人口移動があり、かつての里山が急激に荒れ果てている実情があります。かつての里山が急激に荒れ果てて、森林の保水力がなくなっているという人的要因もあります。全国の自治体は、土砂災害リスクの点検を進めています。2024年6月末時点で全国の区域指定は約69万4千カ所に上るまでになりました。でも、区域指定完了までには、さらに人手や予算が求められています。予算の限られる自治体からは、さらに10年近くかかるとの声もあるのです。このような状況を考慮した場合、69万4千カ所の危険地帯の改修は、200兆円の借金のある自治体レベルでは無理ということになります。もちろん、1000兆円の借金のある国のレベルでも無理になります。自然の力が強すぎて、道路や崩れ落ちた山肌を、もとの状態に戻し続けることは現実的ではありません。道路や崩れ落ちた山肌をもとの状態に戻し続けることは、いくら税金を投入しても足りません。人間にできる対策は、都市化を前提に、人がいなくなった地方の山を、安定した自然林に返すことが一つの選択肢になります。地方の山を、安定した自然林に返す国家的なプロジェトを受け入れることのようです。北朝鮮のように、復興をあきらめる選択肢も、今の日本では現実味を帯びてきています。
最後になりますが、日本の林業を嘆いていても解決になりません。一つの極端な解決策は、林業改革です。戦後GHQの指令で、農地改革が強制的に行われました。結果として、農村の近代化を促す優れた政策になりました。このような農地改革と類似した政策の導入を考えてみました。その一つは、時限立法になります。所有者不明の私有林は、国が強制的に50年間、借用すると言うものです。もちろん、利益を上げて、事業を展開している私有林は対象外になります。この50年間で、生産性の低い森は、天然要素の強い森林に方向転換していきます。天然林でも生産が適している場所は、人工林に変えていく政策を行います。50年間で、木材の生産に適した森林を集約して、林道を整備し、大型機械を使用できる環境を整えることになります。そして、50年後に生産性の高くなった私有林を、50年前の所有者にお返しすることになります。利益の上げない私有林が、利益の上げる私有林になって戻ってくることを、期待したいものです。