短鎖脂肪酸や腸内フローラからの明るい展望 アイデア広場 その1530

 近年、腸内フローラの話題が多くなりました。腸内フローラの多様性が高いほど、健康であるという説が流れています。一方で、国や人種により、腸内フローラに違いがあることも分かってきました。同じものを食べても、腸内フローラが違っていれば、違う結果が出てくるという報告があります。さらに、深く知ろうとすると短鎖脂肪酸とか食物繊維の用語とその関連に突き当たります。今回は、複雑な腸内フローラの概要に迫ってみました。

 まずは、短鎖脂肪酸と食物繊維の関連にについて調べてみました。短鎖脂肪酸とは、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの総称になります。この短鎖脂肪酸は、腸内細菌がつくり出す生理活性物質のひとつです。短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸など)は、腸内細菌がエサを食べて消化する過程でつくられます。エサとは炭水化物のことで、正確に言うと、このエサは食物繊維です。食物繊維は、食物中に含まれていますが、人の消化酵素で消化することのできない物質になります。腸内細菌(ビフィズス菌やブラウテイア菌など)が、人体の能力だけでは消化できない食物繊維の分解を腸が吸収できる状態にするわけです。ビフィズス菌やブラウテイア菌などがつくり出す酪酸や酢酸は、腸内環境を整える役割を持っています。酢酸や乳酸をつくり出すことで腸内を弱酸性に保ち、腸に有害菌が侵入するのを防ぐ働きをしています。食物繊維の分解過程で腸内細菌がつくり出す化合物には、健康に欠かせないものが多いというわけです。

 繰り返しになりますが、短鎖脂肪酸は、腸内細菌が「難消化性炭水化物」の一部を分解する際に産生される成分になります。この難消化性炭水化物には、少し説明が必要です。炭水化物は、糖質(単糖類や多糖類)と食物繊維からできています。糖質の単糖グループに入る多糖類は、「α結合多糖類」といいます。デンプンなどのα型多糖類は人間の消化能力だけで栄養にできます。「α結合多糖類」は、人間が持つ消化酵素で単糖に分解できる多糖類になります。この多糖類には、もう一つの種類があります。これは、β型多糖類と呼ばれています。このβ型と結合した多糖を分解する酵素を、人間は持っていません。せっかく、β型多糖類を摂取したとしても、人間は、この多糖類をそのままエネルギーとして使うことはできないのです。人間は、このβ型多糖類を単糖に分解する必要があります。β型多糖類は、腸内細菌の力を借りなければ消化できないのです。でも、この分解が難しいβ型多糖類を分解しエネルギーに変える過程で、短鎖脂肪酸が作られるわけです。蛇足ですが、β型多糖類の分解には時間がかかるので、血糖値の上昇が緩やかになる利点が生まれます。ある意味、食欲が抑制されるという利点も生まれるわけです。肥満抑制の味方にもなるわけです。

 さらに、肥満の味方について話を深めていきます。私たちの体は、短鎖脂肪酸の欠乏に対して非常に敏感になります。短鎖脂肪酸が減ると、脳は緊急事態と判断して、食欲を増すようにホルモン分泌を調整するのです。短鎖脂肪酸が減ると、食欲抑制ホルモンのレプチン分泌量を減らす指令がでます。レプチン分泌量を減らすと、全身の細胞も、栄養欠乏と判断して脂肪をため込む流れが加速します。この流れが、肥満の進行を助長していくわけです。この意味で、短鎖脂肪酸は肥満や生活習慣病を予防する重要な健康因子になります。さらに、短鎖脂肪酸は内臓脂肪をたまりにくくし、インスリン抵抗性を改善します。ビフィズス菌などが多い腸内環境では、短鎖脂肪酸が常時作り出されます。肥満や生活習慣病の予防には欠かせない健康因子になるわけです。さらに。ビフィズス菌が多いことで、大腸菌などの日和見感染菌の数を抑制します。ビフィズス菌が作り出す短鎖脂肪酸は、腸内を弱酸性に保ち、有害菌を抑制する働きをすることになります。

 私たちの体には、膨大な数の細菌が棲んでいます。腸内だけでも、数百から~三千種類、その数100兆から1000兆個にもおよぶ細菌が共生しています。人体に常在している細菌叢を、マイクロバイオータ(microbiota)」といいます。国ごとに、このマイクロバイオータには違いがあるのです。日本人の腸内環境は、ビフィズ菌とブラウティア菌が多いことが分かっています。日本人の腸内環境の特徴は、炭水化物(食物繊維)代謝の比率が高いことです。また、日本人の腸内環境の特徴は、DNA修復遺伝子が少ないことです。少なければ、不安になります。でも、逆に考えると、DNA損傷が少ないからDNA修復遺伝子が少なくとも言えるようです。その上、日本人の腸内環境の特徴は、水素産生量が多いことです。水素が多いことは、抗酸化力が高いことを示唆します。水素が多いと抗酸化作用により細胞が老化しにくいということになります。腸内細菌も、水素をエネルギーとして利用します。必要な水素を作る仕組みも、健全な腸内環境を整えているようです。水素には、体内で生じた悪玉の活性酸素を取り除く働き抗酸化作用があります。日本人は水素代謝においても、腸内環境が整っていることが特徴になるようです。

 健康な方の食事を見ると、多種多様な野菜を多く摂っています。この方たちは、腸内細菌を意識した食事をしているようです。腸内細菌がつくり出す物には、人間の健康に欠かせないものがたくさんあります。色々な野菜を食べている人は、腸内細菌の種類が多く便通の良いことが分かっています。食物繊維は腸内細菌のエサとなり、腸内環境を整える働きもします。腸内だけでも数百から三千種類、100兆~1000兆個にもおよぶ細菌が共生しています。彼らは、不溶性食物繊維の多い小麦と水溶性食物繊維の食材をうまく絡み合った料理を求めているようです。多種多様な野菜を取っていれば、自然とこれらの条件を満たしていることになります。短鎖脂肪酸は、海藻、キノコ、野菜、豆類、こんにゃく、雑穀、玄米などと腸内細菌のコラボで作られます。健康な方だけでなく、肥満が心配な方たちも、この腸内細菌と短鎖脂肪酸、そして海藻、キノコ、野菜などの知見を深めているようです。肥満が原因で糖尿病になる人とその予備群の人を合わせると、約2000万人になります。この2000万人の人達は、普通の人に比べ、病気になる割合が高いことが知られています。もっとも、これらの人達は、適度な運動をすれば、病気が少なくなり、死亡率も低下することが分かっています。でも、いくつかの条件もあります。運動は必要ですが、運動だけでは、十分ではないのです。運動の効用、そして規則正しい食事と睡眠が求められるということです。ビフィズス菌などの善玉菌と大腸菌やブドウ球菌といった悪玉菌などが、腸内で「細菌叢」(腸内フローラ)と呼ばれる集団を形成しています。悪玉菌が、時に悪さをすることも経験的に分かっていました。食事や睡眠、そして運動をバランスよくすることで、善玉菌を増やし、悪玉菌を減らす生活習慣も望まれるところです。

 余談になりますが、食物繊維の関連で海藻が注目を浴びています。海藻を大きく分けると、紅藻、褐藻、緑藻の3グループになります。具体的には、紅藻(海苔、天草など)、褐藻(コンプ、ワカメなど)、緑藻(アオサ、海ブドウなど) となるわけです。この中で緑藻に分類されるヒトエグサが、注目を浴びています。ヒトエグサには、「便秘解消」「血中コレステロール上昇を防ぐ」「動脈硬化、心疾患」などの予防など食べるだけでも様々な効果があります。このヒトエグサの真価は、その水溶性食物繊維のラムナン硫酸にあります。ラムナン硫酸とは、ヒトエグサの細胞壁を充填する食物繊維(細胞間粘質多糖)です。この多糖類を、例の腸内細菌が分解し、短鎖脂肪酸を作り出すことになります。有機物と結合した硫酸は無毒となり、この状態を「硫酸基」といいます。硫酸基には保水力があり、海藻独特のヌルヌルとした滑りをつくりだしています。硫酸基の滑りは人間の胃粘膜の粘質成分と同質のもので消化管の粘膜にもよくなじみます。ヒトエグサは、食物繊維、カロテン、ビタミンA、カルシウム、マグネシウムなどが豊富で、栄養バランスの優れた食品になります。

 乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌などが、腸内フローラと呼ばれる集団を形成していることは以前から知られていました。これらが、腸内細菌は免疫にも強く関係しており、この力を使って難病を治療する手法が開発されています。細菌の性質も様々で、炎症を悪化させる細菌もあり、がん細胞を活性化させる細菌のあることも分かってきました。世界のスタートアップが、この腸内細菌のビジネス化に挑んでいます。これらのスタートアップを中心に、腸内細菌を活用した治療法開発の治験が700件以上にも及んでいます。優れた競技者の腸内細菌は、種類が多いことも分かっています。金メダルを取る選手は一般の人に比べ、1.5倍ほど多種類の菌を持っています。その腸内菌の多さが、身体に良い働きをもたらしています。選手は、練習と規則正しい食事、そして睡眠をベースに鍛え抜かれています。最近の研究で、優れたスポーツ選手には特殊な菌があることが分かりました。腸内細菌叢は生活リズムや食生活、遺伝が複雑に絡み合うために、人によって状態は異なるということです。個々人によって違う腸内フローラを把握し、個々人に適した食材、各種の運動、睡眠時間とその質などを把握すれば、新しい局面が生まれるかもしれません。腸内フローラを元気にするには、食物繊維が必要です。ビフィズス菌だけを腸内に入れても、食物繊維が足りなければ、短鎖脂肪酸を生み出す能力が落ちます。であれば、ビフィズス菌と食物繊維を一緒にした丸薬を作ります。この丸薬を食事の時に摂取すれば、短鎖脂肪酸を作り出す能力が確保されます。もしこんな仕組みが可能になれば、肥満や生活習慣病の心配が軽減されます。さらに、免疫力の向上にもつながり、人々の健康が向上するかもしれません。

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