人生100年を通して、楽しさや幸福を上手に享受するためには、計画性が大切になります。人生の時間配分を、自分で決めることができれば幸福に近づきます。自分の楽しみや幸福を、吟味する精神的余裕を持つことが大切になります。仕事とか自己実現、価値の創造とかに余裕を持つことも一つの知恵になります。趣味の時間、食事、睡眠とかを楽しむ術を身につけておくと、ストレスをためずに、質の高い生活をすることができます。「体験の量を増やす」ことは、質を高める一つの手法のようです。どこかへ足を運ぶことも良いのですが、行った先で何を見つけて持ち帰ることも大事になります。旅に行くことも楽しいのですが、行ったら何か持って帰ることも、旅の楽しみになるということです。楽しむ術をいくつか持っていることは、ストレスを抑制し、仕事の達成度を高めることに繋がるようです。もう一つ最近の幸福論では、人や環境のために役立つことが重視されるようになってきました。そして、その幸福を求めるには、健康寿命と資産寿命が必要になるようです。今回は、シニアの立場から、健康寿命と資産寿命、そしてウェビーング(幸福)を考えてみました。
シニアは定年なり、そこで仕事人生が、終わるわけではありません。定年になってから、自分の得意なスキルを活かした第二の人生を始めるわけです。残念ながら、年金という制度は十分ではありません。でも、一定の生活が保障されています。十分でない生活を、切り詰めて生活をしていく生き方もあります。少しだけ働いて、年金プラス仕事の収入という選択もあります。考えて、行動して、反省するサイクルを繰り返せば、元気なシニアになれます。いわゆる「健康寿命」と「資産寿命」を、まとうできる人生を過ごせるわけです。全うできる人生を送るために、金融庁は資産形成や運用などの目助に取り組む必要性を国民に促しました。例の2000万円を持つことで、生涯の生活を豊かに暮らせるというものです。これは、ある意味で本当のことのようです。公的年金だけでは、十分な水準の生活ができなくなります。働いていた時の50%程度の収入で老後は推移していき、中長期的には実質的に低下していくことになります。これは、日本の人口構成や生産性を考慮すると、当たり前の予測になります。「人生100年」で生じる問題は、「健康寿命」と「資産寿命」をいかに延ばすかに集約されます。伸ばすだけでは、楽しくないので、伸ばす中にウェビーングを多く享受する仕組みを構築すれば、充実した老後を送れることになります。
シニアには、有利な状況が生まれています。よく知られているように、国の借金は、2024年12月末時点で、過去最大の約1300兆円に達しています。一方、2024年6月末時点で、の個人金融資産は、約2200兆円と過去最高を更新しているのです。個人の持つ資産は、これだけではありません。個人が保有する設備や土地などの非金融資産を加えると、その総額は2021年で3210兆円にもなります。シニアの有利な状況は、個人金融資産の63%も所有していることです。さらに、個人が保有する土地の60%を、60歳以上のシニアが保有しているのです。個人資産3210兆円のうち約6割、およそ2000兆円を高齢者が持っていることになります。日本の名目GDPは、600兆円前後になります。シニアだけで、名目GDPの3倍強に達する莫大な資産を保有していることになります。老後を、優雅に暮らせるシニアが、一定数以上いるということになります。人生100年を目指す優雅なシニアの中には、80歳までに2000万円から3000万円の金融資産を持つ人もいます。彼らは、80歳まで運用してきた資産をすべて売却し、残りの20年間は預金を取り崩しながら生活することも可能です。80歳の時点で2400万円の資産が残っていれば、100歳までの生活が保障されます。20年間の必要引き出し総額は、「10万円x12カ月x20年=2400万円」となるようです。
人生100年が現実味を増してきたのは、科学の進歩があります。今まで人々は、老化は誰にでもやってくる仕方のないものという認識でした。この認識に、変化が生じつつあります。老化は治すことのできない自然の流れという認識から、治すことが出来るというコペルニクス的転換が起きているのです。長寿遺伝子は、噛乳類など多くの動物に備わっていることが分かってきました。長寿遺伝子が、老化や寿命の制御に重要な役割を果たすことが分かってきたわけです。不老長寿への注目は、2000年にネイチャー誌に発表された「サーチュイン遺伝子」になります。それ以降、サーチュインを活性化することで、老化が抑制されるという研究が動物実験で多数報告されるようになりました。サーチュインの抑制効果を高めることが、人の臨床おいても多く進められているのです。古今東西から人類が望んできた「不老長寿」の研究は、この10年で一気に進んでいます。この不老長寿の分野の研究では、日本も大きな貢献をしています。オートファジーは、大隅良典博士がノーベル生理・医学賞を受賞したテーマになります。「オートファジー」は、細胞が自らの一部を分解する作用(自食作用)のことです。このオートファジーは、その細胞のリサイクル機能が、体全体の若返りに使えると期待を集めているわけです。
長寿に関するヒントは、アメリカのバッファローフィッシュの見られます。アメリカのアパッチ湖で釣り上げたスモールマウス・バッファローフィッシュ、ビッグマウス・バッファローフィッシュ、ブラック・バッファローフィッシュの3種いずれも、100歳以上の個体が確認されました。アパッチ湖のバッファローフィッシュの90%以上が80歳を超えていることが判明したのです。バッファローフィッシュの若さの源泉は、いったい何なのでしょうか。もし、これが解明されれば、人類の福音になるかもしれません。この福音を導く不思議なヒントも少しずつ分かってきています。ある研究では、高齢のビッグマウス・バッファローは若い個体より免疫系が強いのです。この高齢の魚は、若い個体よりストレス反応や免疫機能が優れていることが分かりました。なぜ高齢のバッファローフィッシュは、若い個体よりスレスが少ないのでしょうか。高齢のビッグマウス・バッファローフィッシュの個体は、血液中の好中球とリンパ球の比率が低いのです。リンパ球の比率が低かったことは、ストレスレベルが低いことを示唆しています。高齢のビッグマウス・バッファローフィッシュは、若い個体よりうまく細菌を撃退していたのです。このような知見が蓄積されていけば、人間の高齢者が、若者にも負けない免疫力を持つ仕組みを見つけことが可能になるかもしれません。高齢のシニアがストレスレベルの低い生活パターンを確立すれば、長寿の環境が整うことになるようです。
科学の進歩は、健康寿命を伸ばすことを明らかにしています。健康寿命を伸ばせるならば、あとは豊富な資産の存在で、健康の維持や増進は可能になります。そこで、健康寿命の伸ばし方と資産寿命について考えてみました。歩ける方は、健康と言っても良いでしょう。1日に8千歩以上を歩くと、死亡率が下がることはこれまでの研究で分かっていました。でも、週にどれくらいの頻度で歩けば、効果があるかよく分かっていなかった面があったのです。そこで、京都大の井上浩輔助教らのチームが、その効果について調べました。研究費が十分でなかったようで、米国で2005~06年に実施された3千人余りを対象にした健康調査の歩行データを分析したのです。このチームによると、1日当たりの平均歩数は男性が約6700歩、女性が約5800歩になったそうです。分析の結果は、1日8千歩以上を週1~2日歩く人と週3~7日歩く人と同程度死亡リスクが減少するというものでした。運動する時間が毎日取れなくても、週の中で2~5日だけでも八千歩の運動で健康が維持できるというわけです。歩くことに関しては、国土交通省も面白いデータを出しています。国土交通省のスマートシティ構想によると、1000歩の歩行が60円の医療費抑制につながるといいます。6000人の人口の町全体で、1日、6000人の方が1000歩ウオーキングすると、36万円の医療費を抑制していることになります。町民の皆さんは歩いて健康になり、健康になれば医療費が抑制され、町の医療予算は節約されるという好循環が生まれます。歩くことには、シニア自身の健康の他にも、地域に貢献する働きがあることが分かります。
最後は、ニュージーランドのお話です。この国のご婦人が、乳がんの手術をしました。これは、大変な手術だったのですが、2日で退院させられたのです。お医者さんから、退院後10日間、通院するように言われました。ご婦人は、車椅子に乗るのも大変な症状でした。その体では、運転もできないし、通院なんかできませんと訴えたのです。お医者さんからは簡単に、「それは大丈夫、福祉協会の人に言ってあるから」という答えが返ってきました。次の日から、毎日9時半の通院に間に合う時刻に、誰かが車で迎えに来てくれたのです。治療が終わると、また誰かが来て自宅まで送ってくれることが10日間続き、無事治療が終了したということです。病院の送り迎えは、ボランティアの方たちが行っていたのです。病院の送迎が、情報のマッチングの力で人の善意をうまく使っていたことになります。もちろん、善意のある方の存在があってのマッチングです。毎日暇な人はいなくても、一年中、365日忙しい人もいません。善意のある人たちが、事前に「私の住所はどこです」とか「空いている日時はいつです」などと、事前に登録しておきます。この情報のデータベースができていて、送迎できる登録者の名簿ができていたわけです。福祉協会の方が、大勢のボランティアの名簿の中から、条件に合いそうな人を派遣する仕組みを作っていたのです。この仕組みの構築には、ユーザーとボランティア側のマッチングが不可欠になります。このマッチングを支えていたのは、シニアの人達ということです。支え合いは、資産も時間も、そして善意もあるシニアが、老後に行う一つの活躍場所になるかもしれません。