美味しい培養肉が健康に貢献する未来  アイデア広場 その 1568

 最近のファミリーレストランでは、大豆を肉に加工した植物肉が出るようになりました。健康志向の方には、人気があるようです。一方で、植物肉にはコクがないと言う食通の方もいます。人工肉については、その技術の進歩が急速に進んでいるようです。それは、培養肉の開発です。培養肉を作る場合、まず生きた鶏などから細胞を採取します。これを、アミノ酸やビタミンなどの栄養素を含む培養液で育てるのです。鶏だけでなく、和牛の細胞を使う培養肉の開発も、行われるようになっています。鶏や牛などの動物は、口から栄養を補給して育ちます。一定の動きを伴いますので、消費エネルギーも多くなります。つまり、餌を多く食べることになるわけです。培養液で細胞を育てる場合、運動をする必要がありません。培養液の中で育つために、2~3週間でナゲット用の肉にすることが可能です。このナゲットを使って、ミシュランレベルの料理を提供する和食店出てくるようになったと言われるようになりました。この方式は、従来の畜産業と比べて、土地や水の使用量を、9割以上も節約できるのです。ある意味で、環境に優しいのです。これが、これからの世界の豊かさを作り上げる技術になるかもしれません。今回は、培養肉について考えてみました。

 世界共通の味覚としては、甘、塩、酸、苦味、そして「うま昧」を加えた5つがあります。さらに、食べ物には香り、硬さや粘度、温度、色、形といった情報が含まれています。「植物性代替肉」は、大豆やエンドウ豆、しいたけ、米の成分を抽出して、ひき肉が状に固めたものになります。植物肉は、現在世界各地の料理に受け入れられています。培養肉の場合、この食べ物の特徴が出せるかという課題があるようです。鶏の培養肉は、元々が、鶏の肉ということで何とか鶏のメニューはクリアーできるようです。世界で初めての培養肉を提供するレストランが、中東・イスラエルはテルアビブにオープンしています。培養肉を使用するレストランへの卸売りを始めました。食の文化が習慣に基づいて味付けをしていけば、培養肉の普及は可能になるようです。その先進的な培養肉の技術を持った企業が、日本に進出することになりました。イスラエル新興のフオーシーフーズ(Forsea Foods)は、培養ウナギの製造拠点を京都に設置する計画です。このフオーシーフーズは、「オルガノイド」(ミニ臓器)技術と呼ぶ培養方法を使うことが特徴になります。現在主流の細胞性食品の生産手法は、細胞を保持する土台となる足場を使うことが一般的です。細胞性食品の生産手法では、肉の形になるように、細胞を保持する土台となる足場を使うわけです。オルガノイドは、細胞自体が自然な肉の3次元構造を形成する技術を開発しました。この方式は、生産工程の簡素化もできることからコストダウンを見込めるのです。フオーシーフーズは、日本に製造拠点を設けることで「日本ブランド」としての輸出を狙っているようです。

 この種の研究では、日本の企業も負けてはいないようです。日清食品や東京大学などが牛の細胞を基にした「培養ステーキ肉」の作製に成功しています。この培養ステーキ肉厚さは、約1.5cmと従来の1.5倍にし、食べ応えを感じられるようにしました。ここに至るまでには、いくつかの段階があったようです。この共同研究は2017年度に始まり、2019年には約1cm角のサイコロ状の培養肉を作製することに成功しています。さらに、2022年には厚さ約1cmのしゃぶしゃぶ肉のような形で食べられる培養肉の作製に成功しました。そして、2024年に成功した培養ステーキ肉は、奥行き5.5cm、幅4cm.厚さ1.5cmとなったわけです。この種の細胞性食品は、動物から採取した細胞を培養液が入った容器で増殖させることから始めます。牛の細胞を立体的に培養して、線維の向きがそろった筋組織をまず作ります。そろった筋組織を元に、その後、筋線維と脂肪組織をシート状に積層していきます。その成果として、「培養ステーキ肉」が完成したわけです。日清食品は今後、実用化に向け、低コストで大量生産できるよう研究を進める方針のようです。

 世界の人口は2050年に、100億人に迫るとみられています。残念ながら、今の地球に100億人の人々に十分な肉を提供する能力はありません。このまま進めば、世界では畜肉などの争奪戦になる懸念も出てきています。もちろん、人類も対策を進めています。大豆などの穀物を肉のような食感や味わいに加工した「植物性代替肉」の開発も進めています。一方で、植物性代替肉の弱さを指摘する声もあります。東京大学大学院で培養肉を研究する岡田健成氏は、少しでも動物細胞を含むことで植物性代替肉には出せないコクが出ると話しています。昧の再現性は、植物性より細胞性食品の方が高いというわけです。消費者に受け入れてもらうには、植物性代替肉でも培養肉でも、昧を本物のスーキ肉の風味に近づける必要あります。そのため、培養肉に一日の長があるということです。培養肉の2029年の世界市場を2024年の2.2倍の200億4000万ドル(2兆9000億)と予想されています。大きな市場を目指して、培養肉の研究と実用化が進められている状況があります。

 培養技術などのフードテックは、人々の食生活を豊かにするという面だけでなく、食料安全保障上からも見直されています。世界各地で、ビジネスや食料安全保障上の観点から、培養肉の販売が承認されるようになっています。2020年にシンガポール、2023年に米国、2024年にイスラエルなどで培養肉の販売が承認されています。現在はコスト面から、食肉の風味付けのように細胞を使っている商品が多い状況です。ウマミバイオワークスは、2020年創業でシンガポールに拠点を置く企業になります。この企業は、ウナギのほか、細胞培養キャビアなどを開発中です。細胞性食品は、細胞を培養液が入った容器で増殖させ、増やした細胞を原料に作ります。培養肉と培養液は、切っても切れない関係にあります。培養液の改良が、培養肉のコスト削減や味の改良に繋がります。ウマミバイオワークスは、2021年に細胞を培叢する際に必要な培地を藻類や植物性エキス由来のものに置き換えました。この置き換えで、コストを95%削減したのです。さらに、AIを使って過去の培養実験などのデータを機械学習させることで生産を効率化しています。培養の過程でビタミンなどの抗酸化物質の比率を高め、機能性の高さを付加価値として付け加えることも行っています。このウマミバイオは、2027年中に魚介類の細胞培養食品のテト販売を目指しています。この企業は外部の食品企業に提供し、製品を共同開発する法人向けのBtoBビジネスを基本としています。その一例として、ウマミバイオは、日本企業ではマルハニチロと協業しています。

 余談ですが、肉と健康の視点から、培養肉を考えてみました。現在、肉に含まれる脂肪(コレステロール)の摂り過ぎが、問題になっています。この問題を解決する肉が、カラスの胸肉になります。カラスの胸肉のタンパク質は20%、脂質が3%で、典型的な高タンパク質低脂肪の肉になります。鶏の胸肉はタンパク質が24%、脂質が2%で、カラスの胸肉は鶏に近いと言えるものです。付け加えると、牛の肩ロースは、タンパク質17%、脂質が26%になります。さらに注目すべき点は、コレステロール値になります。カラスのコレステロールの含有量は100g中16 mgで非常に低いのです。牛の肩ロースは73mg、鶏の胸肉も同じく73mgでカラス肉の低さが際立っています。カラスの胸肉には、100g中に9.2mgの鉄分が含まれています。牛のレバーは4.0 mgで、カラスの胸肉には牛のレバーの2倍以上の鉄分が含まれています。鶏の胸肉には、鉄分が0.3mgしかありません。カラスの肉は、貧血などの人には、理想的な肉ということができます。これは、低コレステロールの肉であり、いくつかの利用価値があることが分かります。このカラスの肉を培養して、健康志向の食肉として開発できれば、楽しいビズネスチャンスになるかもしれません。

 最後になりますが、地球環境に配慮した食品やその企業を支持する「エシカル消費」が広がっています。肉の生産量は、穀物の生産を増やさなければ増えません。穀物をバランスよく配れば、飢える人たちもいなくなることは知られています。肉の消費量の増加が、穀物を過剰に消費し、貧しい人たちへの飢えを増加させていると考える人たちもいるのです。牛などのゲップから出るメタンガスは、二酸化炭素の25倍も温暖化効果があります。さらに、家畜の糞尿の処理などに問題も出てきます。メタンガスだけではなく、食肉を供給する畜産業は、化石燃料を大量に使用し、温暖化ガスの排出量が多いという事実があります。そんな中で、環境意識が一段と高まり、ブランド牛肉より環境負荷が軽い食料として植物肉などの人工肉が注目される現象が出てきています。このような中で、培養肉も徐々に発売されるようになりつつあります。2つの肉の生産が増えれば、人々の食料は確保され、地球にやさしい環境が整うようになるかもしれません。

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