AIと高いスキルもつ人間の共生社会に備える アイデア広場 その1569

 人間とAIの共生を楽観的に考えていた人々も、最近のAIの進歩には驚くことが多くなりました。今日のAIの進展は、19世紀の産業革命とは異なり、単純労働だけでなく知的労働にも及びつつあります。2020年には、すでに世界の労働の29%がAIとロボットに置き換わっており、2025年には、世界の労働の52%が機械化されるまでになってきたのです。この事態を12年前に予測した人物が、英国のオックスフオード大学のマイケル・オズボーン教授でした。彼の予測した論文では、12年前、今後10~20年で米国の雇用の47%がAIやロボットなどで自動化されると予測していました。現実も、ほぼオズボーン教授が予測し流れでアメリカ社会は展開しているようです。一方で2013年の論文では、医師や看護師、美容師、などの仕事は自動化される可能性が低いと予測していました。この医師や看護師などの予測は、当を得ており、今もいずれも低いままになっています。たとえば、看護師は高度な多くの手仕事が必要です。近い将来に、機械(ロボット)が採血を行う可能性は低いとされます。美容師も顧客との対話力や手仕事のレベルを考えれば、自動化できない分野になります。さらに当時の論文では、作家やアニメーター、そして弁護士も自動化の可能性を5%未満としていました。今回は、新しい分野に進出するAIやロボットと人間の共生について考えてみました。

 オズボーン教授論文は、AIやロボットなどで自動化されるとの予測が世界に衝撃を与えました。でも、人間の持つ社会的知性が、AIやロボットの暴走を抑止することも述べていました。12年前の論文には、「手先の器用さ」「創造性」「コミニニケーション力などの社会的知性を挙げてありました。現在においても、AIやロボットには「手先の器用さ」「創造性」「コミュニケーション力」などの社会的知性が十分でないことが分かっています。AIやロボット工学の進歩も、人間の指の熟練したレベルの器用さが機械では再現できない状況があります。12年前は、自動運転タクシーも広く普及すると予想されていましたが、思ったより進歩していません。建設現場では多くの作業を自動化できると予測しましたが、コストの壁に阻まれています。作業を自動化できるロポットは、現時点ではまだ非常に高価なものです。12年前は、技術の導入コストを考慮せずに予測した面があります。コストの壁により、今後10年は労働市場を大きく脅かさない可能性があります。機械学習やロボット技術がさらに発展しても、代替されにくいロウコストの「人間にしかできない仕事」が存在するようです。

 弁護士に最も重要な要素は、高いスキルと 信頼になります。この信頼を勝ち取っている弁護士は、高い報酬を得ることができます。これらの高度なスキルがある弁護士(働く人)は、安全な環境で生活できます。でも、弁護士の中位レベルまでの人はAIを使った仕事に追い抜かれるかもしれません。それでは、中位レベルの弁護士の方は、どのようにAIとの競争に立ち向かえば良いのでしょうか。そのヒントは、チェスにあります。1977年にチェスのゲームで、AI「ディープブルー」が世界チャンピオンのカスバロフに勝ったのは有名な話です。でも、彼は敗れても、次の一手を考えていました。ディープブルーに敗北したカスバロフは、「アドバンスト・チェス」を開発したのです。このアドバンスト・チェスは、人間とAIがペアとなって対戦するゲームです。2019年現在、アドバンスト・チェスでは、人間とAIがタッグを組んだチームの方がAI単独だけよりも強いことが実証されています。つまり、AIの利用は、人間とタッグを組んで活用したほうがより良い効果を産みだすという仮説が成り立ちます。この仮説を、実用的なものに高めていけば、中位レベルの弁護士にも、道が開けるかもしれません。

 将棋の藤井8冠の強さが、多くの人の話題になります。彼が強い理由はその才能にも有りますが、AIの使い方にもあると言われています。かつてのように、棋士とAIが強さを競い合う時代はすでに終わりました。多くの棋士は、AIを将棋の研究に使うようになりました。棋士の使うAIにも、長所と短所を持ち合わせたものあるようです。AI個々によって、得意分野があり局面の状態を数値化した評価値の判断もそれぞれで違のです。将棋AIには、NNUE系とディープラーニング系があります。NNUE系は、ニューラルネット評価関数を用いるという特徴があります。NNUE系は、将棋界に早くから取り入れられてきました。その特徴は、読みの速度に優れていることです。一方、ディープラーニング系は、将棋AIは盤面を画像で認識しそこから指し手を予測することに優れています。ディープラーニング系は、速度は遅いものの局面認識の精度が高いという特徴を持ちます。ここ最近ではディープラーニング系が勢力を伸ばしつつあるようです。2つのAIの特徴を勘案しながら、終盤の解析はNNUE系で行い、序盤は両方の評価値を見比べながら研究している棋士が多いようです。これまで棋士個人や棋士の仲間で行っていた研究を、AIにかけて解析することで、深い探索が可能になったのです。AIを使うことで、同じ時間で以前より広く深い探索が可能になりました。この活用で、得られる知識は、質と量ともに昔の比ではなくなり、これまでにない規模の研究が行えるようになったわけです。ここに、棋士仲間とAIのコラボが上手くいけば、より高みを目指すことができる可能性が出てきます。

 オズボーン教授は、教育者でもあります。彼の大事な仕事は、学生が本当に授業を理解しているかを把握することです。わかっているフリをして、本当はわかっていないのかなどを、読み取ることも彼の仕事になります。学生が理解しているかどうかを把握する根拠は、学生の発言や身ぶり手ぶりなど、それぞれの非常に微妙なシグナルが重要になります。コミュニケーションは、話し手と聞き手の二者間でのやりとりが基本になります。人は会話しているときには、目の動きや表情しぐさなどで、言語外のメッセージを伝えることがあります。言語外のメッセージを、ノンバーバル(非言語)なメッセージといいます。人は、声の抑揚や姿勢、その場の雰囲気など、言語外の情報を重視することあります。相手のノンバーバルなメジセージを読み取ることで、誤解を少なくすることができます。ノンバーバルなメッセージを読み取ることは、言葉によるコミュニケーションのみにおける誤解を少なくすることが可能になります。多くの仕事には、こうした社会的知性に頼る場面があります。この社会的知性に頼る能力は、簡単に機械に置き換えできないと現在の時点で考えられています。弁護士への信頼には、豊かな社会的知性の介在があるということになります。

 余談ですが、人類の遺伝子の中にある好奇心は、拡散型好奇心と追求型好奇心があるとされています。好奇心は、人類の発展を支えてきた要素になります。でも、拡散型好奇心だけを伸ばしていくと、問題点を分析することもできず、解決策も見いだせないままに流れていきます。そこで、追求型好奇心を使いながら。問題点を分析し、一定の解決方法を見出す作業も必要になります。日頃から拡散型好奇心と追求型好奇心を経験している子どもは、課題に真摯に向き合い、解決の糸口を見出していくようです。拡散型好奇心と追求型好奇心の両方の好奇心がバランスよく発揮される状態が望ましいことが分かります。それでは、この好奇心の能力をどのように育てていけば良いのかという課題にぶつかります。この課題の先には、AIと人間の共生に関する可能性が、見えるようになるかもしれません。AIの能力を発揮させるためには、人間側がAIの持っていない能力を小さいうちから鍛えておくことが求められます。たとえば、1,知らないことに敏感、困難な課題について解決法を考えていると夜中に目が冴えてしまう。2,探究を楽しむ、知らない分野を学ぶのが楽しい。3,他者を知りたい、他の人の習慣について学ぶのが楽しい。4,スリルを求める、

新しいことをするとき、不安はあるが、どこか心地よくイキイキしてしまう。子どもが持つこれらの好奇心を、状況に応じて、支援し育てていくことも、これからの教育の役割になるようです。

 最後になりますが、音楽生成AIで作った楽曲は悪くはないが、繰り返し聞きたくなる質ではないという意見があります。ある人に言わせると、機械には繰り返し聞きたくなる質を拾い上げることがまだできないと言います。この理由は、機械は私たちがつくれる最も優れた部分を大量のデータの中から拾い上げられないためということです。これは、大量のデータの中から拾いあげても、平均の質に向かってしまうことを意味します。定型的な文書のような低コストのアニメーションの作成などでは、生成AIが力を発揮します。人々が「ぜひ聞きたい」「ぜひ見たい」と思うような最高の音楽やアニメを生み出すには、まだまだ時期尚早のようです。現在12歳の子どもが、22歳で就く仕事の65%は、10年後に存在しない仕事になり、新しい仕事や作業に生まれ変わると予想されています。労働の大半は、現存する仕事よりも知的に高度な労働になると予測されています。そして、AIとの共生が求められる社会状況になります。10年後には、65%の仕事は現在において、存在しない仕事になり、現在よりも知的に高度な仕事になるわけです。その仕事に対応できる子ども達の教育や訓練が、これからの学校や社会では求められているようです。

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