緊張、失敗、そして成功への仕組み  アイデア広場 その1596

 仕事でもスポーツでも、緊張する場面はいくらでもあります。スポーツ選手などの中には、適度に緊張しているときに最大のパフォーマンスが発揮できると話す方もいます。選手は、競技の中で何度か緊張することを体験しています。彼らは、緊張することが当たり前だと理解しています。むしろ、緊張が必要なものと競技者は熟知しているわけです。緊張が高まれば高まるほど、「来た来た」とパフォーマンスが高まっていくことを実感できるようになります。緊張さえコントロールできれば、ここぞという場面で、普段以上の力を発揮できることを体験的に理解しているわけです。でも、選手のすべてが、いつも適度に緊張する場面を作り出すこができるわけではありません。プロ野球でも、競り合っている試合の終盤になるとヒットを打てる確率は低くなります。アメリカのレジェンドのマイケル・ジョーダン選手でも、シュートが入る確率が下がると言われていました。緊張するような状況では、思うように自分の力を発揮することができないこともあり、緊張が場合によっては失敗を導くこともあるわけです。そう理解すれば、人は大事な場面では緊張するものだと考えて、行動の選択をしたほうが良いことになります。

 行動の選択において、大切なことは失敗の後になります。いつでも大活躍できるプロの選手も企業のエリート社員もいません。であれば、いつでも成功できるわけではなく、失敗はするものだと考えるべきです。失敗や間違いを起こしてしまつたときには、普段考えている以上に慎重に歩を進めることです。失敗が起こった瞬間、動揺が生じ、視野が狭まってしまいます。失敗の多くは、最初の反応では解決できません。失敗の多くは、いったん落ち着いて受け止めてから対応しても間に合います。そんな場合、うまくいかなかった責任自分ではなく、その状況にあるのだと責任転嫁をしていくことも選択肢になります。責任転嫁をして、時間を稼ぐのです。稼いだ時間で、丁寧にその状況を見直してみるそうすれば、失敗の緊張感が薄れてくます。薄れる状況を作り、どのようにすれば上手に対処できるかを具体的に考えてみます。漠然と自分が良くなかったと考えて、自分を責めると、失敗をその後に生かせません。具体的に考えることで、失敗の経験を生かして次の機会に上手に対処できるようになります。少なくとも、失敗直後の動揺した状況における対処法よりは、時間をおいて具体的に対処したほうが良い結果を得ることができるようです。

 失敗の対処の上手な方とあまり上手でない方が、この世の中には存在します。その初期の姿は、小学校に入学する子ども達の中に見ることができます。この失敗に関するヒントが、生活派と学習派の比較にあります。小学校へ入学すると、生活派の子どもと学習派の子ども比較がされます。生活派は、家事の手伝いや遊びを夢中にやってきた子ども達です。学習派の子ども達は、小学校生活で遅れを取らないように読み書き、計算を就学前から完成しています。ある面で、万全の態勢で小学校に入学してきます。最初は、学習派の子ども達が優勢です。でも、この優勢はしばらく経つと並ばれ、いつしか学習においても優位性がなくなる現象が見られます。生活派の強みは、間違いや失敗を多く経験していることです。間違いや失敗から重要な教訓を学び、活動力を増幅させていきます。これらの子ども達が、才能を伸ばしていくようです。ここで大事なことは、子ども達の両親が、間違いや失敗を肯定的に見守る姿勢を持っているかどうかになります。生活派の子供たちには、親の見守りが欠かせないということでもあります。失敗の対処法の個人差が生まれる要因は、親の養育態度が深く関係していることも明らかになりつつあります。

 なぜ、失敗や悔しさが人間を成長させるのでしょうか。人間は大きな失敗により生じる悲しみや苦しみに耐えられない場合、押しつぶされてしまうことがあります。でも、人間の脳には、悲しみに打ちひしがれた心理状態が切れ目なしに続くことを防ぐ仕組みが備わっているのです。ある実験で、被験者の泣いた後の気分を調べ、「泣くことによって気分がさっぱりした」と8割の人々が答えています。苦しさで流す涙は、感情の高揚にともなって起こる体内のストレス状態を緩和する働きがあったのです。人の苦しみや悲しみのシステムは、人類の生存や繁殖に有利な結果を生み出していることがわかりました。遺伝子の設計によって生み出される苦しみや悲しみは、子孫を増やすことにプラスに働くということになっているわけです。人間には、苦しみや悲しみを発散させる仕組みがあり、それらが子孫を保護する機能も果たしているということになります。失敗や悔しさを経験することは、その人間を深化させ、成功へ導く近道になるという説も出てきています。

 人類には、学習能力も知恵もあります。失敗や間違いから、学ぶ姿勢もあります。成功する人たちは、失敗や間違いを経験として蓄積できます。そして、この蓄積されたものを糧に、立ち直ることも容易ということになります。たくさんのミスや失敗をしていながら、評価が高い人がいます。うらやましいこのような人は、ミスや失敗から、自然に成功する仕組みを作っているケースが多いのです。評価の高い人は、「次に同じミスをしようとしても、もうできない」という仕組みを常に考えるのです。ミスや失敗を生かせることが、成功する個人や組織の共通項になりつつあります。これらを蓄積して次に生かそうという工夫が、個人だけでなく、業界でも取り入れられるようになってきています。強い組織や企業は、ミスや失敗を当然のこととして取り込み、成長の糧にしているようです。もちろん、失敗を称賛することには、いくつかの縛りがあります。たとえば、失敗する子どもを褒めれば、子どもはポジティブになって右肩上がりに成長するという考えは間違いです。褒めることだけが良いとされた場合、失敗は挑戦として許容されます。でも、何でも褒められる場合、失敗の問題点を分析できない子どもになります。失敗しても褒められるから、問題点を分析できないので、解決も改善もされなくなります。親や教師、そして上司は、「やった」行動や挑戦した気持ちを褒めて、必要に応じて助言することが求められます。このような助言を受けて成長した子どもは、失敗を力に変えたり、反省を力に変えたり、悔しさをばねできるようになります。日頃から失敗と成功の両方を経験している子どもは、どんなことも自分で考えて行動ができるようになります。失敗や反省、そして悔しさの数を多く経験していれば、逆境をどう乗り越えるか分かる子どもになります。彼らは、ポジティブを感情とネガティブな感情との間を、大きく行き来きしながら成功にたどり着くという経過をたくさん経験しているとも言えます。

 余談になりますが、企業や組織における間違いや失敗に対する柔軟な対応力の向上は、社員だけでできるものではありません。ある意味で、間違いや失敗を安心してできる環境を、企業が用意しておくことが必要なのです。興味や関心を持った瞬間に、挑戦できる機会とその後の支援が整っている環境が大切になります。これは、成長する企業にも言えることです。ある企業はルーティンの中に、リスクの低い挑戦や実験を行う時間や場を設けています。受注の改善や資料の減量、そして会議時間の短縮などの多様な選択肢の中から、改善をするための挑戦や実験を定例化していくわけです。失敗することもありますが、成功した場合はモチベーションが高まります。応用の利く場で、次のスモールステップに挑戦しながら、適応力をつけるという過程を歩むわけです。こんな挑戦や実験を2カ月に1回、できれば毎月、時間と場を設けて、ミスや失敗に対する耐性や改善する能力が付いていくことになります。失敗や間違いを大事にする企業は、社員が働きやすい職場になります。失敗や間違いを責める行為は、ある面で必要なことになります。でも、あらゆる仕事を中断して、責めることや批判にのみ専念すれば、消耗だけが表面化します。批判を常に心の片隅に起きながら、改善し生産性を上げていくことが求められるようです。

 最後になりますが、人類は失敗や間違いを人類はチャンスに変えてきました。起こってしまったミスや失敗は、その扱い方次第で身を滅ぼすものにもなります。一方、起こってしまったミスや失敗は、その扱い方次第で反対に飛躍のきっかけにもなります。この劇薬をどう使いこなすかによって、個人や組織の成長に大きな影響を与えます。人類はこの劇薬に接しながら、試行錯誤を重ねて柔軟性や適応性を獲得してきました。失敗や間違いが、ブレイクスルーを引き起こすような視点や発想も生み出してきたともいえます。失敗や間違いを犯しては挑戦をし、再度失敗をして、立て直し、再挑戦を繰り返すことで、人類は進歩と成功を収めてきたともいえます。このような耐性のある人材を、これからも育てていかなければなりません。子どもが生まれれば、家庭での失敗と成功の体験を積ませることが求められます。学校でも、失敗と成功の体験を評価する仕組みを作っていくことになります。もちろん企業においても、この仕組みを向上させることになれば、ハッピーです。

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