コンピュータやインターネット、そしてAIのある環境が人間にとって「自然」になりつつあります。この「自然環境」を客観的に観察し、人間全体とコンピュータ化を考えることが重要になります。現在は、コンピュータ化した環境を上手に使う知恵やスキルが求められています。この求めに、国家戦略として応じている国が現れています。アラブ首長国連邦(UAE) は、AIの活用に関する教育を幼稚園から始めると発表しました。幼稚園では、遊びなどを通じて子どもにデジタル技術を体験させる教育活動が中心となるようです。UAE政府は、高校までの公立学校のカリキュラムに教科として盛り込んでいます。初等教育の早い段階から盛り込むことで、子どもにA1に関する知識や関心を持たせることに狙いがあります。最終的には公立学校の卒業生全員がAIの基礎知識を習得し、日常生活で使える能力を養うことになります。カリキュラムではAIに関する基本的な概念に加え、倫理観や現実世界での応用を学ぶことになるようです。このカリキュラムは、8月に始まる新たな学年度から導入します。UAEは、国家戦略としてAI分野に注力しています。このような国は、これからも数多く出てくることが予想されます。
米資産運用大手ブラックロックや米マイクロソフトが、AIインフラのファンド立ち上げました。マイクロソフトなどが立ち上げた300億ドル規模のAIインフラのファンドに、MGXが参画した。2024年にはAI投資を専門にするテクノロジー投資社(MGX)を設立しました。このMGXは、アラブ首長国連邦(UAE)の投資会社になります。MGXは、300億ドル(約4兆3000億円)規模のAIインフラのファンド参画しています。AI投資には、隣国のサウジアラビアも積極的です。UAEやサウジは、AI技術を持つ外国企業に投資して技術を取り込む先行の利を狙っています。自国が持つオイルマネーを、世界的に投資が旺盛なAIにつぎ込み、経済の多角化や成長につなげる経済政策になります。自車産業などの製造業を成長させるには、技術や工業力の積み重ねが欠かせません。製造業の基盤のないこれらの国は、別の産業に標準を合わせることになります。AI技術には、製造業のような時間をかけずにこの分野で世界に先行できる可能性があります。技術開発や投資競争で優位立つことを狙って、巨額のオイルマネーを投資に向ける戦略のようです。
世界との競争に直面している生産現場では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められています。蛇足ですが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは、企業がデータやデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデル、組織、業務プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することになります。生産性向上には、産業のあらゆる分野でDXが不可欠になっています。たとえば、ダイキン工業は、成長著しい企業として知られています。このダイキン工業は、社内に「ダイキン情報技術大学」を設置し、DX人材を自前で育成を始めました。この企業が主力とする空調システムも、個別ニーズや環境に配慮した制御が求められています。顧客とデジタルでつながり、得たデータを製品やサースの向上に生かすDX社員が必要になっているのです。大学設置当時の2017年ごろ、情報系技術者は社員の1%にあたる93人しかいませんでした。1%にあたる93人しかいなかった情報技術者を、1500人まで育てたのです。素晴らしい点は、文系理系を問わず1500人を育てたことです。数学や統計学は、長い目でみれば経済成長の土台にもなります。数学が分かれば、今後現れる新技術にもついていけます。データを読み解き役立てるには、数学や統計学の知識が不可欠になる時代です。この理数系の能力を、高めることが求められている時代になっているのです。
日本人の理数系の能力は、どうなっているのでしょうか。PISAの数学の成績と国の経済成長や生産性は、正の相関性があるとされてきました。PISAは、OECD(経済協力開発機構)が実施する国際的な学習到達度調査になります。高校1年生まで日本の高校生は、数学リテラシーにおいてOECD加盟国でトップクラスにあります。この説から引き出される結論は、経済成長や生産性が高いと言うことになります。でも日本の場合、この関係が成り立たないのです。日本の1人当たりのGDPは、OECD加盟国38ヵ国中21位というものです。日本のPISA数学スコアと労働生産性成長率の関係は、正の相関関係から逸脱しているというわけです。その理由は、高校教育と大学の文学系優位という構造の中にあります。1つは、高校2~3年で数学の学習を辞める生徒が多いために、経済成長の正の関係が成り立たないということになるようです。高校2~3年で文系選択の生徒が数学の授業を減らすために、子ども達の数学リテラシーが衰退しているのです。応用数学やコンピユーターサイエンスに必要な数学Ⅲを履修している生徒の割合は、21.6%にすぎません。つまり、日本の子ども達は、高校の1年までは世界的な数学の頭脳を持っています。でも、生かし切れていないのです。この頭脳を生かせば、経済成長や生産性を高める可能性を持っているわけです。
高校と大学の橋渡しに課題があれば、それを克服する組織が現れるものです。理数に関しては、その救世主が現れました。山形大学は、全国の高校生が受けられる科目「サイエンス・セミナー」を2025年度から新設しました。これは、数学や理科を深く学びたい意欲的な生徒にー歩進んだ機会を提供するセミナーになります。このセミナーでは、山形大学の理学部1年生向けの授業を高校生が受講できるのです。数学やデータサイエンス、物理、化学、生物、地球科学をテーマに、計12回の授業を実施しています。これを行う教授は、「高校生も身近に感じられるように、テーマ構成を工夫した」と話しています。8回以上、セミナーを受けて翌週までに課題を提出し、平均で60点以上の成績をおさめれば合格となります。平均で60点以上の成績をおさめれば、合格となります。これに合格すれば、山形大学では1単位を獲得できます。もちろん、山形大学の理学部に進めば、ここで取得した単位は卒業に必要な単位として認定されることになります。このセミナーは、高校と大学の連携が成立しているのです。理学部の教室でも、オンラインでも受講でき、希望する生徒は所属する高校を通じて申し込むことになります。理数系は、才能が早熟に開花します。才能が開花すれば、質の高い研究に従事することが可能になります。また、起業する能力も、起業する分野にも広がりが出てくる可能性が出てきます。
余談になりますが、これから必要になるのは、量子コンピュータやAIを使いこなす能力になります。一般に、AIの技術者には、3つのレベルが必要とされています。AIエンジニアには、レベル1からレベル3が必要になります。レベル1は、AIの可能性と限界、AIの得意や不得意、そして実際のAIの使い方になります。レベル2がAIアルゴリズムの使い方で、レベル3がAIアルゴリズムの作り方になります。レベル1を利用する人は、AIの仕組みであるAIアルゴリズムを理解する必要はありません。これは、自動車免許証を取りに行く人にたとえると分かりやすいようです。教習所に通う人の目的は、自動車がどのようなメカニズムで動くのかではなく、車を運転できるようになることです。また、パソコンの内部を理解することではなく、マイクロソフトのワード、エクセルを使いこなせば良いわけです。量子コンピュータやAIを課題に応じて、使いこなすスキルが求められるわけです。レベル1の場合、幼稚園からでも習うことは可能です。でも、レベル2やレベル3になると、難易度が高くなります。このレベルの人材を養成することが、これからの課題になるようです。
最後は、レベル1のお話しが2つです。あるレベル1をマスターした人が、サンフランシスコでランチボックスのデリバリーサービスをやり始めました。普通は、弁当といえば数パターンの中から選んでもらうものが一般的です。彼のランチボックスの中には、ひとつひとつみんな違う具材、各自の好みに合った具材が入っていました。ひとつひとつ違う弁当を作っていたら、コストがかかりすぎて採算がとれないのが普通です。これを可能にしたのは、AIとクラウドソーシングの利用でした。この利用が、ひとつひとつ違う弁当を可能にしたのです。顧客に関するデータを集め、集めたビッグデータを分析すると、多種多様なランチボックスを無駄なく作る食材が分かります。無駄なく作る食材が分かるために、何をどれぐらい仕入れればよいのか計算できます。彼はこれを実践し、一つのビジネスを完成させました。
さらに、AIの利用は、高度化します。将棋の藤井8冠の強さが、多くの人の話題になります。彼が強い理由はその才能にも有りますが、AIの使い方にもあると言われています。かつてのように、棋士とAIが強さを競い合う時代はすでに終わりました。多くの棋士は、AIを将棋の研究に使うようになりました。棋士の使うAIにも、長所と短所を持ち合わせたものあるようです。AI個々によって、得意分野があり、局面の状態を数値化した評価値の判断もそれぞれで違のです。将棋AIには、NNUE系とディープラーニング系があります。NNUE系は、ニューラルネット評価関数を用いるという特徴があります。NNUE系は、将棋界に早くから取り入れられてきました。その特徴は、読みの速度に優れていることです。一方、ディープラーニング系のAIは、盤面を画像で認識しそこから指し手を予測することに優れています。ディープラーニング系は、速度は遅いものの局面認識の精度が高いという特徴を持ちます。ここ最近ではディープラーニング系が勢力を伸ばしつつあるようです。2つのAIの特徴を勘案しながら、終盤の解析はNNUE系で行い、序盤は両方の評価値を見比べながら研究している棋士が多いようです。これまで棋士個人や棋士の仲間で行っていた研究を、AIにかけて解析することで、深い探索が可能になったのです。AIを使うことで、同じ時間で以前より広く深い探索が可能になりました。この活用で、得られる知識は、質と量ともに昔の比ではなくなり、これまでにない規模の研究が行えるようになったわけです。AIの使い方にも、1つを極めるやり方もあれば、複数のAIを駆使して成果を上げるやり方もあるようです。これからの広がりが楽しみです。