世界では、SNSの偽情報への懸念が強まっています。懸念の一つに、偽情報による民主主義国の選挙への介入があります。また、軍事力の均衡を崩すようなSNS投稿も増えています。フィンランドは、ロシアのウクライナ侵攻を機にNATOに加盟しました。その2023年のNATO加盟前に、フィンランド人を装ったSNSアカウントの投稿が相次いだのです。このSNSアカウントの狙いは、世論をNATO加盟へ反対に導く投稿でした。その内容は、「北大西洋条約機構(NATO)はフィンランドを救えない」など、ロシアの関与が疑われるものでした。ロシア派とみられる組織が、「ボット」と呼ぶ自動投稿で偽情報を流したのです。「ボット」で、実在する当局やメディを装って偽情報を流し、フィンランドの世論の分断を図っていたわけです。ロシアの脅威を感じている欧州連合(EU)は、偽情報の拡散を防ぐ法規制を進めています。AIの進化に伴い偽情報の特定は、困難さを増しています。偽情報は、民主主義の脅威となっていると危惧しています。ロシアの関与が疑われる投稿は、ウクライナ領クリミアを併合した2014年頃から目立つようになりました。今年の2月のドイツ総選挙では、親ロシア派とみられる偽情報を流していたことが判明しています。
ヨーロッパでは、ロシア軍の侵略に対して、危機感を持っています。その発端は、2014年のロシアによる東部ウクライナ侵攻でした。この侵攻は、NATOに「加盟国の領土と国民の防衛」と言う冷戦時代の政策を回帰させることになりました。多くの国民は国の防衛が、具体的な脅威に直面してから、慌てて準備していては間に合わないことを実感したのです。ロシアの侵攻を見て、スウヱーデンは、2010年に廃止した徴兵制を復活しました。2018年と2019年に4000人を徴兵し、9~12ケ月の訓練を義務づけています。フランスは、2018年16歳以上の男女全員を対象に軍や警察、そして奉仕活動の義務化を公表しています。ウクライナ侵攻は、NATO諸国に冷戦時代の原点に回帰する流れを作っています。特に、東ヨーロッパにとって、ロシアに対する安全保障は、依然として差し迫った課題になっています。ロシアの飛び地と国境を接するリトアニアは、侵略者に対して戦う意思を示しています。この国の国民は、全体で抵抗すればNATOは我々を支援すると考えています。リトアニアは、時間を稼ぎ、スイスのように抵抗運動を国全体で組織する体制を作りました。リトアニアが防御能力を高めれば、ロシアは攻める能力を示してきます。NATOのドイツ軍がリトアニアに駐留すると、ロシアメディアがハイブリット的な戦争を仕掛けてきます。「ドイツ兵がリトアニアの少女を強姦した」とロシアが、偽情報を流すのです。ロシアの強姦報道は、定石通りのハイブリッド戦争の手法になります。ロシアの使う陰険で巧妙な宣伝が、リトアニア国民とドイツ軍の分離を図る疑惑を植え付けようとします。でも、ドイツのNATO軍がリトアニア駐留を開始したことは、この国にとって大きな保障になっているのです。
世界では、SNSの偽情報への懸念が強まる中、その対策も徐々に行われつつあります。フィンランドは、国民のメディアリテラシーが世界一高いと評されています。現在、フィンランドの教育に注目が集まっています。ちなみに、メディアリテラシーでは、日本は47カ国中22位になっています。メディアリテラシーは、報道の信ぴょう性を見極めたり、情報を適切に活用する能力を指します。フィンランドのメディアリテラシー教育は、1970年代から国の教育課程に組み込まれました。この国のメディアテラシー教育は、近年、幼児政育にも取り入れられたのです。小中学校では情報源の有用性を確認したり、メディアが与える影響を分析する授業を行っています。フィンランドのメディアリテラシー教育は、「だまされない力」を養う教育に力点を置いています。具体的には、「どこに掲載された記事?」、「記事で強調、省略されている視点は?」、「情報の拡散で利益を得るのは誰?」などを深く掘り下げています。このリテラシー教育の背景のひとつには、ロシアのプロパガンダや偽情報と戦ってきた歴史があります。1300キロあまり国境を接するロシアのプロパガンダや偽情報と戦ってきた歴史があるのです。
フィンランドはメディアリテラシーを、民主主義に欠かせない国家基盤と捉えています。この国では、メディアリテラシーを「市民としての重要な能力」と位置づけています。フィンランドの教育現場では、リテラシー向上を目的としたポスターが活用されています。教育現場では、偽情報の特徴などを記したポスターが活用されています。ここには、信頼できる情報を見分けるポイントなどリテラシー向上を目的としています。教育文化省の担当者は、「このスキルが日常生活の多くの場面で不可欠なスキル」と説明しています。さらに学校だけでなく、市民が誰でもメディアリテラシーを学べるメルッキメディア博物館・アーカイブもあります。この博物館は、非営利の財団が運営しています。ここでは、実際に出回るフェイクニューなどを展示しています。より具体的に分かりやすく、生成人工知能を使って作成する「ディ・プフェイク」」の偽動画を展示しているのです。学校も地域も、メディアリテラシーの向上に努めています。偽情報の防止策を行っているフィンランドでも、体系的なメディアリテラシー教育の構築には至っていないようです。
フィンランドのメディアリテラシー教育は、必ずしも特定の国を対象にしたものではありません。フィンランドの教育システムは、人生で必要な幅広いスキルを身につけることに主眼があります。この教育は、包括的な安全保障概念のー部といえるものです。「メディアリテラシー」は、誰もがもつべき市民スキルのひとつだということです。批判的思考を強めて偽情報識別能力を養うことは、これまで以上に重要になっています。接する情報に対して、分析的環境で安全に活動できる能力は市民の重要なスキルのひとつになります。現在は、新たなSNSプラットフオームの登場で課題が生じるようになりました。SNSの全てをコントロールできると考えるべきではなく、常に警戒しなければならない状況が生まれています。政府と高度な教育を受けた教師は、メディアリテラシーのスキルを社会全体に広めています。この種の脅威は、世界中に広がりつつあるわけです。その防波堤としてのスキルを、市民に叡知として育てることが教育や地域に求められているようです。
余談になりますが、コミュニケーションは、話し手と聞き手の間でのやり取りが基本になります。AさんとBさんの会話で、お互い意思疎通がうまくいき、お互いが納得すれば、ハッピーになります。でも、AさんとBさんの会話で、Aさんの話す内容をBさんが間違って理解すると問題が起きます。分かりやすい事例では、先生が子どもに算数の問題を出して子どもが間違った場合、先生は子どもに間違いを指摘することになります。職場では、間違いを起きないような仕組みがあります。それでも、ミスが起きます。3番目は、現在SNSで問題になっているように、意図的なウソが入る場合です。Aさんが詐欺師で、Bさんを言葉巧みに騙します。Bさんは、Aさんの言葉をそのまま素直に信じてしまう場合になります。ここに、最近はやりのオレオレ詐欺が発生します。4番目は、「本音」と「建て前」を前提に話し合いをするケースです。Aさんは、本音と違うメッセージをBさんに発信します。Bさんも心得ていますとAさんの本音を見抜いて、笑顔で応対しているケースです。いわゆる、「狐と狸の化かし合い」を見抜いた応対になります。言葉のやり取りの中には、いくつかの理解するレベルがあります。レベルに応じた対応が、コミュニケーション能力ということになるのかもしれません。
最後になりますが、リスクが常時襲ってくるかもしれないと身構えている国が、永世中立国のスイスです。スイス国民は、戦争に巻き込まれれば、国土の大部分は初日から戦場になるだろうと想定しています。今日では、大規模な空挺作戦が可能なので、国土は瞬時にして戦場となり得ると備えているわけです。開戦当初の空襲で、多く被害がでると想定しています。でも、被害者を救助することは、困難だと割り切っています。この被害を最小にするために、個々の家々では、防空壕を備えているのです。もちろん、食料の備蓄もしています。戦争被害は、同情だけでは問題が解決しないとしているのです。素朴な人道主義や偽物の寛容は、悲劇的な結末を招くと認識しています。スイスが外国の占領下におかれた場合、外国の軍隊から住民にたいして暴力的な懲罰が多く起きることを覚悟しています。国土を占領した敵国の軍隊に抵抗することは、厳しい努力が必要になります。ただ、占領されて地下闘争を行う場合、無益な血を流さないように戦わなければならないのです。国の独立を維持するためには、多くの一般市民が生命を犠牲にする決意を見て取れます。この決意を、敵国の組織が巧みに偽装して、社会進歩とか平和などを主張し、国の内部を崩壊させるプロパガンダ(偽情報)が横行することは当然行われます。スイスには、死刑制度がありません。でも戦時において、国民の生命を危うくする者は全て死刑になる規定があります。スイス軍は、国民の不屈の決意を感じたとき、初めてその任務を完全に遂行できるとしています。残念なことですが、非軍事手段も組み合わせた,ハイブリッド攻撃を防ぐには限界があるようです。防御が進めば、攻撃も進化します。及ばずながら、縦と矛の流れを把握し、この情報戦に冷静に立ち向かいたいものです。