2023年10月7日のイスラム組織織ハマスによるイエル攻撃の後、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃から2年近くなりました。初期には、イスラエルに同情的だった世界の人々も、ガザの子ども達の顔を見て、同情を憎しみに変えつつあります。ナチの強制収容所から解放された直後のユダヤ人のように、骨と皮になっているガザの子ども達に、食べ物を与えない戦術に嫌気と嫌悪を抱くまでになっています。このような嫌悪感は、イスラム教徒の人々が強く持っています。さらに、イスラエルの政策を支持するトランプ大統領を要する米国にも、その矛先が向けられるようになりました。反イスラエルを巡る不買運動が広がっており、そのあおりで米国系ブランドが打撃を受けています。特に、イスラム教徒が多いインネシアとマレーシアで、反イスラエルを巡る不買運動が広がっています。その対象は、スターバックスやケンタッフライドチキン、ピザハットなどの店になっています。スターバックス・マレーシアは、ガザ攻撃まで、順調に業績を伸ばしてきました。このスターバックスは、国内で320店超を運営するまでになっていました。でも、不買運動の影響で2026年までに300店を割る可能性が指摘されています。イスラム教の信者数が最大のインドネシアでも、不買運動の影響が広がっています。ガザの人々に対する救済や支援に進展がない限り、ボイコットは続く可能性があるようです。
イスラム教の国々からの離反だけでなく、近隣の国からも米国離反の動きが起きています。トランプ大統領は、自由貿易協定を結ぶカナダに「違法薬物対策が不十分だ」として高関税を掛けました。トランプ政権が次々に突きつけた高関税や礼を欠く言動も、カナダ人の神経を逆なでしています。カナダ国内では、米国製品の不買運動も起きています。カナダのあるツワー会社は、カナダのトロントから米国へ向かうバスツアーを企画と運行を行っています。この運行を、3月から、ニューヨーク行きプランの本数を月2回に減らしました。3月までは、週2回の運行でした。2024年は1台のバスに平均40~45人は確保できていました。それが、夏休みだというのに最近は25~30人に減ってしまったのです。このツワー会社は、今まで行っていたボストン、シカゴ、首都ワシントン行きの運行を取りやめていいます。米国に入国するカナダ人の減少は、際立つようになってきました。
カナダ人は、米国へやってくる海外からの旅行者の約3割を占めていました。旅行客が減少して困るのは、カナダのツワー会社だけではありません。ツワー客をお客とする米国のガイドさんの収入にも影響を与え始めてきました。あるガイドさんは、2024年はカナダ人向けツアーで約3万5000ドルの収入がありました。それが、2025年はこれまでで7分の1の5000ドルにすぎないと嘆いています。このガイドが、3月に請け負ったツアー数は77件で、1年前から3割近く減ってしまったのです。ニューヨーク行きが月2回に減り、バス乗客が25~30人に減り、今まで行っていたボストン、シカゴ、首都ワシントン行きなくなれば、ガイドの仕事も減り、収入も減ります。さらに、カナダの観光客が地元で消費するお金も減少するという悪循環が起きています。観光では、もう一つのマイナス要因が生まれています。カナダには、定年退職後に暖かい地域で過ごす高齢者がいます。彼らにとって、避暑地の多い米南部フロリダ州やジョージア州に別宅を持つのがステータスシンボルとされてきました。その彼らに、異変が起きています。旅行会社や不動産企業に、「米国以外のところをお願い」という相談が相次いでいるのです。「今年は、メキシコに行きたいので、その手配をお願いする」という相談です。「米国は、大好きだがあの大統領は嫌い」という感情があるようです。米国の強権の代償を支払うのは、これからになるようです。
観光における米国の評判は、日に日に悪化しています。海外から訪れた観光客が入国の際に、移民・税関捜査局(ICE)に拘束されるケースが多発しているのです。強権的な取り締まりの様子は、SNSでも拡散し、米国に対する負のイメージを植えつけつつあります。日本をはじめ他国が、旅行客を歓迎するー方で、米国政府だけが閉鎖の看板を掲げているようです。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、米国を訪れた訪問者の支出が2025年は1687億ドルと予想されています。2024年が1812億ドルでしたから、急降下しつつあるのです。WTTCは、海外旅行者の米国での支出が125億ドル減少すると試算しています。この予想では、米国経済が海外旅行者の支出による収入として2025年の1年間で125億ドルを失うということになります。特に、打撃の受ける都市は、ニューヨークになります。ニューヨークは、国内と国外の観光客から最も人気が高い都市になります。ニューヨークでは、2025年の訪問者数予想を6410万人(従来は6720万人)に下方修正しました。この人気のある都市は、海外からの訪問者は総訪問者の20%を占め、訪問者支出の約50%を占める観光都市でもあります。観光産業は多くの雇用を吸収し、観光客の落とすお金がこの地域の経済を潤してきました。そのニューヨークが、不動の人気旅行先から外れ、観光客数の減少卜レンドに入り始めています。この減少トレンドは、米国全土に及んでいるのです。
移民・税関捜査局(ICE)や国境取締局(CBP)に拘束されるケースは、観光客よりも農業分野や建築分野で多くなります。質より量の摘発を続けるトランプ政権は、農場で働く移民に対してもさらに圧力を強めています。1日3000人の摘発ノルマは、当局にとっても困難な数字のようです。困ったことがあれば、どんな人間でも工夫をします。ICEやCBPは、移民側の事情を逆手にとり、摘発の数を積み上げています。ジョージア州南部や隣接するフロリダ州北部の農場では、働く移民にある習慣があります。この広大な農地が広がる田園地帯には、公共交通手段がありません。ビザを持つ正規労働者は黄色いスクールバスで、不法滞在者は白いバンで集団通勤する習慣があるのです。農業用就労ビザで入国した人を送迎するためには、スクールバスを使い回しています。そこで、ICEは白いバンばかりを狙って摘発し、摘発の数字を挙げているのです。免許も取得できない不法滞在の労働者は、農場経営者が提供するバンに頼らざるを得ない事情があります。摘発され、拘束されるのは、不法滞在者だけではないのです。バーモント州の酪農農場で働く男性は(37)は4月、CBPに拘束されました。彼は検査官に難民申請中の正式な書類を見せても、「確認する必要がある」と言われ、この理由なき拘留は30日近くに及びました。彼は、1カ月ほど拘留された後も酪農農場での労働に戻りました。農場で働く人々には、理不尽な取り扱いが続いています。
最後になりますが、強権派と言われる政治勢力と戦いうためには、相手について理解する必要があります。現在、強権派と言われる人たちは、プーチンやエルドアン、そしてトランプなどが、ポピュリスト指導者の代表になります。これらの強権的指導者は、「まったく同じではありませんが、4つの類似点があるといわれています。この4つの特徴は、個人崇拝、法の支配の軽視、ポピュリズム、恐怖とナショナリズムになります。ポピュリズムは、「シンプリズム」と呼ばれる政治の手法と密接な関係があります。シンプリズムは、複雑な問題には単純な解決策があると主張することに特徴があります。この単純な解決策は、「壁を作れ(Build the Wall)」の他に、EU離脱に使われた(Get Brexit Done)などの標語がります。3単語の標語で、複雑な問題が単純明快に解決すると主張します。でも、解決しない障壁にぶつかります。その時ポピュリストは、単純な解決策があるにもかかわらず、悪意ある勢力によって妨げられていると主張するのです。悪意ある勢力は、エリートや複雑な既存の法体系にあるとします。単純な解決策が困難に陥ると、強権的指導者は、法的な障害を突き崩すと約束するようになります。彼らは、自分が真の大衆を代表している反エリートであるという主張に傾きます。この堅調な事例が、イギリスのE U離脱の国民投票に現れました。イギリスでは、何の資格もなく学校を卒業した人の73%がE U離脱に投票しました。そして、修士以上の学位を持つ人の75%がEU残留に投票したのです。強権派の指導者は、情動的共感を利用することに長けているようです。結果として、イギリスは国威を低下させました。現在、EUへの復帰を望むまでになっています。トランプ大統領の「Build the Wall」は、失敗しました。今は、ICEなどを使っての強制送還に手法を変えつつあるようです。この手法も、米国の経済的損失を招き、国威を低下させる状況を生みだしています。