温暖化が、体だけでなく心の健康に影響するかもしれないという統計報告も次々に出てきています。中国の復旦大学の発表の論文が、注目されています。この論文は、熱帯や亜熱帯地域で年平均気温が1度上がると暴力が4.5%増えるとしているのです。この研究対象は、インドなどになります。2010~2018年に、インド、ネパール、パキスタンなどの約19万人について体や精神、性的な暴力の頻度を調べました。この地域で、年平均気温が1度上がると、妻などパートナーの女性への暴力が生5%ずつ増える状況が生まれたのです。21世紀末に世界の平均温が3.3~5.7度上がると,この地域での暴力は21%増えるというショッキングものでした。暑さが、攻撃性を増加させるということは、人間だけでなく動物にも見られるのです。暑いと凶暴になるという疫学調査は、動物にも見られています。米ハーバード大学の調査によると、気温が上昇すると人がイヌにかまれる頻度が増えたのです。米国8都市で、2009~2018年にイヌにかまれた約7万件の報告を分析しました。この7万件の報告を分析において、気温が高い日は、約4%も犬にかまれる頻度が高かったのです。さらに、米エモリー大学の研究によると、気温が上がるとヘビかまれる頻度が約6%高まると報告しています。この報告を裏付けるように、ハーバード大学のクラス・リンマン博士は暑さが短絡的な問題解決に走りやすくなると付け加えています。ストレスが高まると、視床下部、下垂体、性腺軸といったホルモンを作る組織の働きが高まります。これらのホルモンを作る組織の働きが高まると、攻撃などの短絡的な問題解決に走りやすくなるというのです。今回は、暑さ対策の中で、新しいビジネスチャンスを生み出すことを考えてみました。
人間が本来持っている暑さ対策には、発汗があります。風には対流と蒸発という2つの体温調節機能を働かせる役割があります。蒸発による気化熱は、発汗を活用しているため、気温が高くても十分効果を得られます。汗には、2つの流れがあるようです。蒸発してカラダを冷やす「有効発汗」と、蒸発できず流れ落ちてしまう「無効発汁」があります。たとえば、重労働である「木びき」を1時間行い続けた場合、産熱量が約480Kalになります。でも、この作業を行うときに汗が蒸発すると、気化熱によって約580Kalもの熱がカラダから奪われます。つまり、熱中症にはならないということです。良い汗が出れば、熱中症に。対する耐性が高まることになります。一方、ベタベタした無効発汗が増えると、汗が増えても蒸発できず体温も下がらず、熱中症のリスクが高くなるのです。こんな困った状況を防ぐ便利なツールが、発売されました。それは、ファン付き作業服です。ファン付き作業服とは、バッテリーで動く小型のファングが装着された作業服のことになります。この作業服はファンにより外から空気を取り込むことで、カラダを冷やす仕組みです。効率的に汗の蒸発を促し、気化熱によりカラダを冷やす仕組みです。ファン付き作業服の着用は全身の皮膚温を下げ、心拍数の上昇も抑えられるのです。作業中は、上半身、特に体幹部に多くの汗のあたりをいかに気化熱として生かすかが重要になります。これは、風を送り込み、背中が快適にするのです。ファンの音の大きさも、気にならないように改良されてようです。このバッテリーを1回充電して毎日着用しても、1カ月の電気代は50円程度とリーズナブルです。
近年は、暑さ対策にもスマートさが求められるようになりました。ファン付き作業服は、機能的です。でも、ファッション性がもう少しといういう欲張りな方も増えているようです。そんなスマートさを求める消費者のために、花王の「冷タオル」が開発されました。これは、肌にのせるだけで3度の冷却が1時間続くという優れものです。「冷タオル」(5枚入り580円前後)で、メントールを染み込ませた不織布製を使用しています。家族や友人とシェアしやすい点も、支持されています。「冷タオル」の出荷数は、前年比で約3倍に拡大し、2025年4月には累計出荷数が1000万個を超えました。2025年6月に、ドラッグストアで売れた花王冷タオルの個数は8298個でした。ちなみに、コーセーの極寒タオルが1886個で、ファイントゥデイの「アイスタオル」が1135個となっているようです。この8298個は、前年同期比で1.6倍に伸び、同種商品の中で最も売れていました。これは、SNSなどでスポーツ観戦や音楽フェスなど屋外イベントでの暑さ対策として紹介されたことが伏線にあるようです。街でも、この種の汗拭きシートを首に当てて、暑さをしのぐ人の姿が目立ち始めているようです。暑さの中で、活動(作業、スポーツ活動と観戦など)する人が増えれば、そこに商機が見出すことも可能です。たとえば、スポーツ観戦者の先客100名様に、自社名の入った冷タオルの配布なども考えられます。
「冷タオル」の開発のきっかけは2018年、新型コロナウイルス禍前の夏にまでさかのぼるようです。当時一部に、「首元を冷やしたい」という生活者の隠れたニーズがありました。花王はその小さなニーズを見逃さず、冷却に特化した商品として「冷タオル」の開発に取り組んだそうです。開発で大切にしたのは、「肌に負担をかけずしっかり冷せること」、「冷たさが長続きすること」、「外でも手軽に使えること」の3つになります。開発の背景には、花王が培ってきたスキンケアの知見や生活者に寄り添った観察眼がありました。「冷タオル」では、メントールを染み込ませた不織布製の使い捨てタイプで首にかけて使います。心地よい香りなどのは、培ったスキルを利用すれば、容易に実現できたことでしょう。さらに、刺激をおさえたメントールの配合バランスなど、細部までこだわった商品に成長しました。もちろん、材料にもこだわったようです。この冷タオルは、冷却水の保持やその放出性に優れた不織布を使用しています。さらに、製造のしやすさにも配慮した上で、タオルの長さは46センチ日本人の首にちょうどよくフィトするサイズにしてあります。おそらく花王のことですから、この「冷たさ」に加えて、紫外線の防止機能までくわえるかもしれません。暖かくなると人間は、開放的になります。浮き浮きする気分になるわけです。その一方で、春は紫外線が強くなり、お肌が荒れる季節でもあります。未来の皮膚を考えると、あまり当たりたくない光線でもあります。紫外線には、細胞の蛋白質を変性させる作用があります。人間の皮膚は、タンパク質でできています。強い紫外線は、皮膚に対して有害な作用をもたらすわけです。皮膚を守ることが、必要になります。そんな機能が、「冷タオル」に加われば面白い商品になるかもしれません。
余談ですが、地上への適応した生物にとって、紫外線との闘いはサバイバルの歴史ともいえます。5億年ほど前、動物は爆発的な進化をとげ、さまざまな姿の生きものが誕生しました。でも、それまでは、海の中だけの生存だったのです。太陽の強い紫外線に耐える生き物は、地上にはいませんでした。でも、約4億年前頃に、生きものたちは陸上に進出を始めたのです。まず植物がコケ類として進出しました。コケ類がしだいに多様化、大型化しながら内陸へと広がり、やがて陸地をおおいつくすようになります。動物は、植物に約1億年遅れて地上に進出してきます。紫外線に対する適応を持って、地上に進出してきたわけです。紫外線を防ぐ仕組みは、生物が地上に進出した4億年前からの適応戦略ともいえるものでした。現在地上に生息している多くの生物は、この適応戦略に成功して生き残っているわけです。「冷タオル」に、紫外線を防ぐ機能があれば、地上の動物への福音になります。
「冷タオル」は、使い心地や冷たさの持続性で優位性持っています。「冷タオル」の仕組みは、肌の熱を水分やエタノールが逃がし、メントールが心地よいひんやり感を持続させることです。このタオルは、花王はスキンケアで培った皮膚研究や浸透と蒸発の技術を生かしています。でも、これは子どもには使いにくい商品になります。アルコールを使用しているからです。花王は、この壁も乗り越えています。花王は、2025年5月にはアルコール不使用の子ども用の冷タオルも発売しました。ファミリーレストランが、子どもをターゲットにすることはよく知られています。ファミリーレストランなどでは、お子さまをお待たせしないことがとても大事なことになります。お金を支払う大人を大切にすることが、当たり前のように思ってしまいます。でも、お子さまが笑っていれば、大人たちも食事を楽しむことができるのです。食事は、栄養を取るだけの場ではありません。話し合い、笑顔で交流することが、家族の活力を高めます。幸福にまつわる調査では、収入の増加ではなく、心の健康やパートナーとの良好な関係が幸福を高めることが分かっています。ビジネスの分野では、ランチェスターの法則が有名です。この法則は、もともとは軍事戦略の中で研究されてきたものです。敵をすべてまとめて狙うのではなく、うまく部分に分割し、一つの部分だけ狙う戦略です。ランチェスターの法則は、一つの部分を集中して狙う方が、有利に戦えるというものです。この理論を、家族連れのお客様に利用するお店もあるわけです。家族連れの場合、お子さんに狙いを絞ったほうが、お客様の満足度が上がり、お店の評価も高くなるというわけです。その延長線上に、お子さんの暑さ対策と紫外線対策への満足が、家族全体の満足になるかもしれません。