地方の路線バスが、窮地に陥っています。ドライバー不足は常態化していますが、それに加え燃料費の高騰や備品の高騰など、バス事業者を悩ませる状況が生まれています。バ路線については、地方だけでなく、都市部でも経営悪化の波が押し寄せています。主要都市の路線バスでも、地方のバス路線同様に公費依存が強まっているのです。日経新聞は都市部の路線の収益票化を明らかにするため、自治体の補助金を調査しました。調査対象は、政令指定都市、中核市、施行時特例市の自治体になります。この調査では、5割超の自治体が運行収支の赤字部分を全額負担する系統を抱えていました。2024年度に市の財源で補助金を拠出していると答えたのは、全体の76%にあたる80都市になりました。全体の76%にあたる80都市で、2015年度から14%も増えているのです。一般的にバス補助金は、運賃収入で運行費用をまかなえない赤字路線に支給されます。主要自治体がバス事業者に拠出する補助金が、10年間で2倍の220億円超に増えていました。2024年度の補助金額は合計221億円で、2015年度の113億円から倍増したわけです。バスは庶民の足になりますが、その路線の維持が難しくなっている状況が生まれています。
赤字と共に、公共交通空白地の拡大懸念が都市部にも波及しています。政令市で最も赤字の増加率が高かったのは、札幌市の2.6倍です。、名古屋市も、2.2倍となっています。公費依存に拍車をかけた背景には、新型コロナウイルス禍による業績悪化があります。外出を控えるピーアールが、バスの利用者を減少させました。札幌市は、2021年度に補助要件を緩和したために、補助系統がほぼ倍増しました。ジェイ・アール北海道バス(札幌市)は、2024年度に48系統の補助を受けています。結果として、2025年3月期の営業損益が1億4496万円の赤字になっています。赤字の理由には、「軽油高騰で燃料費が2割ほど高騰し、修繕費も1割上がっていることがあります。さらに、人件費の負担が重く、補助金だけでは交通網を維持することに限界に来ているようです。ジェイ・アール北海道バスだけでなく、他のバス会社も同様な業績悪化が見られるのです。路線バスに代わる代替サービスなど、新しい対策が求められる状況が生まれています。
より人口密度の高い自治体でも、赤字補填の問題が起きています。神戸市は7割増加し、大阪市も約5割増える状況です。たとえば、神姫バスは、兵庫県南部を中心に運行する会社になります。この神姫バスは、神戸市から補助を受ける路線数が2024年度に12系統と2019年の7系統 から倍増しています。補助を受ける路線の対象には、市街地中心部を通る路線も含まれています。バス事業者は、路線バスの赤字を高速バスなどで内部補填してきた経緯があります。神姫バスは、収益源の高速バスの利用者が減少しました。2024年度の利用者は、2019年度比1~2割減になりました。利用者が減る一方で、燃料費や人件費が上昇して、経営を圧迫しているのです。高速バスの輸送人員は、2023年度に6851万人と2019年度の7割にとどまりました。日本全体では、大手バス事業者の7割が赤字ということになっています。
バス路線の縮小とともに、問題になっていることが運転免許返納になります。高齢者の車の運転免許返納が、社会的な問題になっています。高齢になり、それでも運転をしなければならない状況がありました。免許を返した後は、バスで移動と考え高齢者が多いのです。そこで、高齢者の移動手段を調べてみました。2004年ごろ、75歳のシニアは、「自分で運転する」方が35%、「クルマでの送迎」が14%、「原付、二輪」が4%、「自転車」16%、「徒歩」25%という状況でした。それが、時代が進んだ2016年になると、同じ75歳が「自分で運転する」が58%、「クルマでの送迎」が12%、「原付、二輪」が2%、「自転車」9%、「徒歩」16%という変化を見せます。2004年から2016年の12年間の変遷の中で、75歳以上シニアの方は、徒歩、自転車、原付が45%から27%と激減しているのです。増えたのは、シニア自身が運転するクルマが23%も増えているわけです。この10年間でシニアの移動が急激にクルマにシフトしていることがわかります。一方、高齢者による車の事故は、増えています。移動手段が、車にシフトする中で、事故が増えています。それを象徴するように、路線バスの廃止路線は、2023年度に10年前比2.2倍の2500キロメートルと増加しています。今までの路線バスによる移動も、不便になっているのです。もちろん、この不条理の解決に挑戦する自治体も現れています。
挑戦する一つのモデルが、「デマンド交通」になります。地方では、事前に予約して乗り合う「デマンド交通」が普及しつつあります。地方だけでなく、都市部でも、デマンド交通のような代替サービスが出現し始めました。東京都足立区が、デマンド交通を今年4月から一部地域で本格導入する姿勢を示しています。さらに茨城県境町は、人口2万4000人の町になりますが、ユニークな実験を試みています。この地方都市が、ソフトバンクと自動運転バスの定常運行を開始したのです。これは、警察庁が定めた「実証実験」の枠組みを使った取り組みになります。この境町には鉄道の駅がなく、バスは住民の足として欠かせないものです。3台の自動運転バスを購入と5年間の運行や維持の費用として、5億万円の予算を確保しています。フランスのナビヤ製の自動運転バスの価格は、1台当たり5000万円になります。3台分の車両代は、1億5000万円程度と予算の3分の1以下です。自動運転の運行には、意外と人件費がかかるのです。自動運転だから、人はいらないと思うのは間違いのようです。自動運転車を3台運行すると、少なくとも7人の要員が必要になります。この7人の5年間の人件費だけで3億円以上になるようです。警察庁が定めた「実証実験」の枠組みは、自動運転でも運転手を配置することになっています。日本の場合、法的制約が交通法規に限らず、農業などあらゆる分野に及んでいます。安全の錦の御旗の元、現在では不合理極まりない法的制約が幅を利かせています。いわゆる既得権勢力によるものです。
余談ですが、既得権の横暴を克服するツールは、自動運転になります。各自治体が、自動運転バスの実用化を急いでいます。背景には、路線バスなど地方の公共交通の衰退があります。地方では、交通や流通に関する問題をいくつか抱えています。一つには、高齢化の進行でバスの運転手が不足していることがあります。これを補うために、自動運転を導入する機運が高まっています。国土交通省によると、バスの運行費用のうち人件費は6割を占めていることになります。さらに、ローカル鉄道の廃線が、現実味を帯びてきています。地方の鉄路の代替交通として、受けざるを得ない状況が差し迫っているともいえます。BRTは、バス・ラピッド・トランジットの略で、バスを基盤とした大量輸送システムになります。BRTは、幹線道路は隊列走行で走り、支線は隊列を解除して個別車両で走ることが可能です。バスの隊列走行は、輸送量に合わせ柔軟に運用できるというメリットがあります。自動運転は、測位衛星システム(GNSS)を使う方法が一般的です。また、自動運転には、専用道に磁気マーカーを設置してその上を走る方法もあります。山間部など通信環境が悪い場所では、マーカーに切り替えるなど複数の方法を組み合わせることが可能です。BRTが実現すれば、少ない運転手で、適切な乗客と荷物を運ぶことができます。これは、乗客だけでなく、物流にも大きな期待が持てる仕組みになります。JR西日本では、滋賀県内のテストロース内で低速度のBRTの運行に成功しています。2023年度内にも、東広島市に設ける専用レーンで実際にバスを試験的に走らせる計画にです。JR西条駅(東広島市)と広島大学の東広島キャンパス間の往復、12kmのルートを想定しています。ローカル線の今後の輸送のあり方として、BRTも選択肢の1つになります。
最後になりますが、発想を電気自動車と自動運転、そしてマッチングアプリを組み合わせた移動サービスも面白いものがあります。電気自動車プラス自動運転になれば、室内の構造は現在の自動車とは異なるデザインができます。この空間を、レベル4の自動運転で送迎する中でいろいろなサービスを提供できます。たとえば、通学の子ども達には、今日の学校で勉強する範囲やそのポイントなどを、人工知能(AI)が教えてくれるサービスを付け加えることもできます。さらに、車に乗っている間に体温や血圧、そして脈拍など体調チェックなどのサービスを行うことで付加価値を付けることもできるでしょう。動く診療所の役割を担うかもしれません。人々の移動は、いろいろな欲求のもとずくものになっています。日本の人口構成に占める高齢者の割合は、増えています。高齢者の欲求も、多様になっているのです。この欲求(移動の場所)を、大型のバスだけでは満たすことができない状況があります。スーパーに買い物へ、それから持病のお医者さんへ、そして趣味のサークルへというシニアも現れます。そこで、困るのは、体力の衰えと移動手段になります。そんなニーズを満たす移動手段が、「高性能電動車イス」という形で各自動車会社から発売されています。現代の技術は、この「高性能電動車イス」を自動運転の機能を付け加えることは可能です。さらにマッチングアプリで、人々の移動ニーズを把握し、「高性能電動車イス」の配車サービスを行うことも可能になります。半径5km程度の範囲で、このようなサービスが実現すれば、楽しい生活を過ごせるシニアも増えるかもしれません。